〇矢の行方
クリスマスのこの日、部活する生徒も既に学校にはおらず帰路に就いている。
もし誰か通るとしても教師くらいなものだろう。
いや、それもほぼないと見るべきか。学校には明かりらしい明かりはついていない。
「寒い。まだ来ないの?」
「予定の時刻にはなってるんだがな」
既に約束してから20分は過ぎた。
周囲にはまだ人の気配は無い。
「呼び出しておいて遅刻? なかなかやるじゃん」
「大方、近くでこっちの様子を
「なにそれ。ずるくない?
「そうしたいところだろうが、無理だろうな」
ほぼ間違いなく接触してくるとは思っている。
だが、その『ほぼ』を確実にするにはスパイスが欲しいところだった。
それが隣にいる軽井沢の存在だ。
もしこの人気のない場所に単独で現れたら、オレが協力者だと確信する。
しかし、今日はクリスマス。2人きりになる場所を求めてここに
仮に身を潜めながら非通知で電話を鳴らして反応をみたいと思っても、オレの携帯の電源は落としてある。つまり確かめるには直接声をかける以外にない。
オレと
その生徒には見覚えがあった。
目と目があった瞬間、電話の相手がそうであることを理解する。
ただ意外……というべきなのか。そういう相手だった。
まだ声をかけられたわけじゃない。たまたまここに来ている可能性もあるからな。
もちろんその限りなく低い可能性はすぐに否定されることになる。
「待たせたな」
「今着いたばかりですよ。
オレが名前を呼ぶと一瞬驚いたが、すぐに真顔に戻る。
まずは向こうの出方を
「生徒会の情報はある程度集めているようだな。名前は確か……
今日の
「南雲生徒会長に牙を
「その話の前に聞きたい」
こちらの言葉を手で
「そっちの生徒は? 話には聞いていない」
「信頼できるパートナーです」
軽井沢は少し動揺したがすぐに表情を引き締める。
「信頼か……1年を信じるしかない状況が
イレギュラーな軽井沢を見ても、桐山は隠れずに姿を見せた。
それだけ南雲政権に不満を持っている証拠なのか、あるいは
「なら本題に入らせてもらってもいいな? 長話は出来るだけ避けたい」
「こっちもですよ。いい加減風邪を引きそうなんで」
「俺は元々南雲とは
桐山は南雲に敗れBクラスへと落ちたという事実。生徒会に入っていたのも堀北兄の影響と考えれば、今副会長の座に残っていることにも不自然さはない。
逆に、南雲がそんな敵対しあっていた桐山を副会長に
「
「南雲生徒会長が2年生全員を味方に引き込んだという話は、どこまで本当なんですか」
「ほぼ全て本当だ。もちろん内心では気に食わないと思っている生徒も少なからずいるだろうが、反対の一票を投じられるほどではない。付き従うしかないと
「ねえ
「それは
「……南雲は改革を約束している。クラスの
少し首を
「分かりやすく言えば、
「なるほどねー」
自分だけならAクラスに上がれるのに、そう思っている生徒なら他クラスでも味方に引き入れられる。
「でも、それだけじゃ不十分ですよね。実力の無い下位クラスの生徒も大勢いますし」
「南雲の言葉を信じるのなら、全ての生徒にチャンスを与える、ということのようだ。具体的な部分は俺にも分からない」
「なんか怪しくない?」
「怪しくても、それにすがるしかない。Bクラス以下は既に
南雲が2年全体を味方につけた、というのは何となくだが理解できた。
しかしそうなると、桐山の存在が不可解になってくる。
「だったら桐山副会長も、その『チャンス』に
「本当にチャンスがあるのなら、それも選択肢になったかも知れない。だが、俺は南雲がそんなチャンスを全員に与えるとは到底思えない。出来るはずがない。Aクラスでの卒業が決まったところでちゃぶ台をひっくり返されたら、取り返しがつかないだろう」
それが南雲に立ち向かう理由、ということか。
「南雲が生徒会長に就任した時点で、生徒会をやめる考えはなかったんですか? 普通敵対する人間の下で働きたいとは思いませんよね?」
「やめてどうなる。やめればその分、南雲が調子に乗るだけだ。それならば、せめてヤツの
「このままでは学校の伝統が失われると知りつつ、
桐山も、分かってもらえるとは最初から思っていないだろう。
「分かるはずもないか……おまえたち1年の中には、
こちらが聞いてもいないのに、桐山は次々と話を続ける。
「だがけして無関係な話じゃない。今はまだ、南雲は
「そうは言っても、あたしたちと上級生が
ターゲットにされる理由も分からない、と
「付き従わない生徒には
「どういうこと?」
「1年生でも南雲に牙を
「最悪な生徒会長じゃん」
だが、従いさえすれば
2年間南雲をライバルとしてきた生徒たちが従っているからには、それなりの実力と説得力があるということなんだろう。
「牙を剥くも何も、生徒会長と絡むことなんて普通なくない?」
「それは2学期までの話だ。ここから先は上級生と接触する機会が格段に増える。通年、3学期の初めに1年から3年が一緒になった特別試験が行われるからだ。それを皮切りに似たようなことが繰り返されていく。去年の俺たちがそうだったようにな。要は1年生と2年生、場合によっては3年生と戦う場にもなるわけだ」
つまり予定通りに行けば1月には
体育祭で1度学年を飛び越す交流があったが、直接接する機会は殆どなかった。
「恐らくはそのタイミングで、南雲は1年生の中における要注意人物を絞り込むだろう」
要注意人物、
だったらその場では、目を付けられないようにやり過ごしたいものだ。
それが既に
「去年の試験内容は?」
「恐らく今年の特別試験とは十中八九関係がないだろう。特別試験の大半は、毎年大きく異なったものを実施することになっている。参考になることはない」
「それでも聞いておいたほうが、有利に運ぶこともありますよ」
「そうかも知れないな。だが、悪いがそれには答えられない。お前が
学校の作り上げたルールを重んじる堀北派であるなら、
「面倒な先輩が上にいたもんですね」
素直な気持ちを口にする。
「ともかく、
正味な話、南雲
本来は、2年生の中から
まあ、それが出来なくなったから1年にまで厄介ごとが回ってきたわけだが。
「退学にさせようとしたり引き摺り下ろしたり、物騒な話ばかりですね」
「厄介な敵を前にしても、おまえはそんな手段を使わないと?」
「考えたこともありませんね」
隣の軽井沢が一瞬、疑うような
「なら正攻法でやってみせてくれるのか? 南雲が自ら生徒会長をやめるよう誘導できるならそれ以上のことはないが、言うまでもなくもっとも難しい」
この桐山という生徒、どこまで信用していいか分からないな。一定の負の感情、憎悪を南雲に対して抱いているのは態度から見ても間違いないが、発言に都合の良い部分が見て取れる。これが意図されたものかそうでないかでも変わってくるが、現状では判断しきる材料はない。
軽井沢というカードを見せた以上のことは何も提供するべきじゃないだろう。
「あんたの希望を述べるのは自由だが、どうするかを決めるのはこっちだ」
「簡単には信用できないということか」
こちらの不信感に当然桐山も気づいてくる。
「俺自身、過ぎた
後輩のためを思う、か。
止められなかった責任を感じている。
そう言ったかと思えば、今度は後輩のため、か。
これならまだ、南雲を
まぁ、
「何を感じ取るかはおまえの自由だが、ひとつ覚えておいてくれ。南雲を敵に回した生徒は必ず退学に追い込まれる」
「だったら、オレは生徒会長を敵に回さないのが一番な気がするんですけどね」
これまで退学させられた中には、堂々と南雲を降ろそうと
「……協力はしないと?」
「協力はしますよ。こっちも引き下がれない事情はあるんで」
「いいだろう。どの道おまえは南雲に目を付けられ始めている。それに、近いうちヤツがどんな人間かを嫌でも知る羽目になるからな。俺は今後おまえに南雲の行動や情報を流す。もちろんルールに抵触しない範囲でな。その先は勝手に判断すればいい」
その材料を生かすも殺すも、オレ次第ということか。
桐山もこっちが想像以上に乗り気じゃなかったことを感じ、半ば
「正直なところ、おまえの印象は無いに等しい。体育祭で
それが、唯一桐山を動かした『真実』ということだろうな。
オレも南雲とのことを事前に知っていれば、リレーで目立つ
あの選択で、今こうして桐山と向かい合う羽目になっている。
「情報を提供するに値しないと思えば、すぐに手を引く」
「そうしなきゃ、桐山先輩が危ないってこと?」
不服なんだろうが、それが現状の南雲と桐山のパワーバランスなのだろう。
「それと今後は一切おまえと直接会うことはない。適当なメールアカウントを作って連絡を取り合うことにしよう」
それはこっちとしてもありがたい。
フリーメールでのやりとりが一番だ。
「それと……万が一おまえの不手際で俺の内通が
直接口にはしなかったが、道連れにするってことだろう。
南雲降ろしに
言いたいことをひとしきり話し終えた
「なーんか終始感じ悪くなかった?」
「そうだな」
それだけ桐山にも余裕がないってことなのかも知れないが。
1
桐山との密談を終え、オレたちはやっと帰路に就く。
その帰り道、後ろを歩く
「なんかあたしの想像以上の展開になってるみたいね」
「おまえはどう思った。さっきの桐山副会長の話」
「そんなのあたしに分かるわけないじゃん。なんでそこまで南雲生徒会長を嫌ってるのかイマイチ分からないからだと思う」
その軽井沢の感想は、オレが抱いたものと酷似している。
君子危うきに近寄らず……かも知れないな。
ただ悲しいことに、オレは堀北兄と体育祭で興じたリレーのせいで、南雲に一定の興味を持たれてしまっている。
もちろん、それが南雲の思い過ごしであることを認知させれば、オレのことなどすぐに忘れてくれると思うが、場合によっては
周囲の言葉通りに受け取るなら、南雲は自分の敵になる存在を容認しない。
「ところでさ。さっきの何よ……パートナーって」
「気に入らなかったか?」
「勝手にパートナーにされたら、気に入らないって思っても仕方ないでしょ」
「なら解消か」
「……正式なパートナーになって欲しいなら、それなりの態度と誠意ってものがあるんじゃない?」
「その態度と誠意ってのを具体的に教えてもらえるか?」
「お金?」
「おい」
「冗談だって。
そこには期待してない、と
確かに今は、優待者の件もあり軽井沢の方がプライベートポイントを所有している。
「てか
「あいつはただの隣人だ。それ以上でもそれ以下でもない」
もはや誰に何度言ったかも分からないことを繰り返す。
「あたしだけが認められたってわけ?」
「おまえに能力があるのは事実だ」
「……ま、まぁね」
もちろん、堀北に能力がないわけじゃない。
あいつの場合は別の方面、リーダーとしての素質を開花させてもらいたいものだ。そしていずれは
やがてDクラスは強いと思える布陣になっていく、とオレは勝手に想像している。
そうなるかどうかは、結局堀北の手腕にかかっていると言えるだろう。
「仕方ないからパートナーになってあげるわよ」
これまでもそれ相応の仕事はしてもらっていたが、ここで改めて
「あんたについていけば、
「それは……期待しないほうがいいと思うが」
どちらかというと、損することになるかも知れない。
「オレと一緒におまえも敵として認定されるかもな」
「それって、生徒会長に?」
「本命枠としてはそうだな」
「まあ
「肉体的な強さや学力の
「
ニヤッと笑う軽井沢。
「だが、この学校のルールに当てはめた戦いになると、絶対はない。
「自爆作戦?」
「まぁ
それに単なる暴力事件から更に上の段階に持って行かせれば、退学もあっただろう。
「うんよくわかんない。あの事件、全然興味なかったし」
「……そうか。じゃあ気にするな。とにかく望む望まないに
もちろんそのために払う犠牲やリスクを
「なりふり構わずきたら
一応正解には
「そういうことだ」
どれだけセキュリティを厚くしても必ず突破口があるように、100%確実に相手の攻撃を防ぎきることは出来ない。
その攻撃を1手でも多く防ぐために必要なのが知恵であり、協力者だ。
「もしもの時はあたしが助けてあげるわよ」
「心強いパートナーだな」
「それ本心で言ってる?」
「ああ」
「そ、そう。てか清隆はさ、どんな中学生だったわけ? 絶対普通じゃないでしょ」
「ごくごく普通の中学生かも知れないだろ」
「ないない。あんたみたいなのが普通だったら、もう世の中の普通がひっくり返るって」
「頭良いし
「じゃあおまえから見て、オレはどんな中学生だったと思う?」
「それがわかんないから聞いてるんでしょ」
ぶー
「推測でもいいぞ」
何となく聞いてみたくなったので、そう問い返してみた。
「うぅ~ん……」
すぐに思いつく回答がないのか、軽井沢は腕を組んで首を
「これが漫画とかだったら、幼少期から厳しい機関で育てられたエージェント、とかなんとか答えるんだけどねー。もうなんか、それくらいしか思いつかないし」
「あーもうわかんない、ギブ。正解は?」
「秘密だ」
「うわー。人に聞くだけ聞いといて、教えてくれないとか」
「そもそも答えるなんて言ってない」
「いつか絶対に聞かせてもらうからね」
「面白い話は出てこないから期待するなよ」
「あ、雪降ってきた」
「…………」
パラパラとだが雪が降り始める。
夜中から朝にかけて、また雪が積もりそうだ。
空を見上げ、視線を軽井沢に戻すと、軽井沢はジッとオレの方を見ていた。
「……そういえば、
「さあ」
「
オレと過ごす時間が長くなったことで必要以上に信頼を勝ち得ているようだな。
佐藤との待ち合わせのとき、
十中八九オレに用意されていたモノだとは、感じていた。
恐らく告白が成功したら、その時には渡すつもりだったんじゃないだろうか。
「
意地悪そうに聞いてくるが、別にショックのようなものはない。
「あんたのことだから、きっと誰にもプレゼント貰えてないんでしょ?」
そう言って軽井沢は目を合わせることもなく、小さな袋をオレの前に差し出した。
これは何だ? と聞き返すのは
「あたしからのクリスマスプレゼント。ありがたく受け取りなさいよね」
「いいのか? 貰っても」
「カップル不成立の
「……
受け取るだけで損失が確定する。
「オレのために買ってたのか?」
「そんなわけないでしょ。一応形式上、
「抜かりないんだな」
誰がどう見ても、2人の関係性を疑う余地はない。
「平田に渡しておけば完璧だったんじゃないのか?」
「……そうね。普通ならね」
歯切れ悪く、
「ねえ
「ん?」
「もしあたしがさ……洋介くんと別れたら……あたしの利用価値はなくなる?」
そんなことを切り出した。
「それが平田にプレゼントを渡さなかった理由か?」
「そういう、こと。
軽井沢が恐れているのは、オレが軽井沢よりも佐藤に価値を
平田と別れることによるリスクは、全くないとはお世辞にも言えない。
軽井沢
だが、もはやそれは以前までの話だ。価値が落ちるとはいっても、誤差の範囲。
「おまえはもう昔の軽井沢じゃない。平田という存在がなくなったとしても、今の地位から変わることはなにもないはずだ。それで何かが変わることはない」
「でも───あたしが洋介くんと別れることなんて、考えてなかったんじゃないの?」
軽井沢の抱く不安は、けして小さなものではない。
そんな彼女に対して、オレは言葉を続ける。
「平田との関係を続けることが軽井沢の価値なんだとしたら、オレはとっくに平田と別れることはこの先もやめてくれと伝えてる。そうしなかったことが答えだ」
他でもない軽井沢になら、この表現が一番説得力を持たせるはずだ。
オレの考えを身近で見ているからこそ、
ただ、厳密には真実ではない。
軽井沢が平田と別れたがることは想定していた、というよりそう仕向けていたからだ。
平田を失くしても自立出来るよう
「そ、そっか……。実は、洋介くんともちょっと話しててさ。あたしたちって見せかけだけの関係だから、これ以上引っ張っても良くないよね、なんてなってて。迷ってた」
そう言ってさらに続ける。
「それに、洋介くんの彼女役は権力が約束されるようなものだけど、その分プレッシャーって言うか、そういうのも強かったからさ」
環境が整った今、その荷を降ろしたい。
その
オレには
もしオレが軽井沢の立場なら、念のために保険を残しておく。オレが使えなくなった時のことを考えて
そんなことは軽井沢も分かっている。その上で保険を否定するのなら、それもまたいい。
小さな
身の丈にあった戦略で自分を構築していけばいい。
「3学期になったらクラスの皆、驚くだろうな」
「それはそうだろ」
平田と軽井沢のビッグカップルはクラスを超えて有名な存在だ。
特に平田に関して言えば、その日のうちにでも次の彼女候補が現れるだろう。
「あいつ、他の誰かと付き合うと思うか?」
「あたしに聞かれてもわかんない。洋……ううん、平田くんのことは詳しいわけじゃないし。でもどっか
「平田の呼び方は戻すのに、オレはそのままなのか?」
「あ……そう、か。戻したほうがいい?」
ちょっと不服そうに見上げる軽井沢。
「そういうわけじゃない。どんな風に呼んでも自由だけどな」
今のグループでも呼び捨てではないが、下の名前で呼び合ったりしている。
「いい機会かもな」
オレは立ち止まり、少しだけ後ろを歩く軽井沢を振り返った。
「オレも普通に『
「たうわ!?」
「……たうわ?」
「な、ななな、なんでもない! なんで清隆もあたしを名前で呼ぶわけ!?」
「片方だけが
互いの距離感を
恵が下の名前で呼ぶことを希望するなら、そちらに合わせるのは自然なことだ。
とは言え、周囲に対してはこれからも
それは普遍的で変わることの無いものだ。
「ところで……一応答え合わせしておきたいんだが。あのWデートを仕組んだ発案者はおまえじゃなくて
「な、何よ仕組んだって」
そう言って
「おまえは結構
「あー……やっぱ気づいてた? あたしも佐藤さんは怪しいと思ってたのよね」
ポケットの中に手を入れる。
オレはそこで、小さな紙袋を入れたままにしていたことを思い出した。
「そうだ。オレもおまえにクリスマスプレゼントがある」
「え?
「嘘だ」
「はあ? あんたぶん殴られたいわけ?」
「正確には単なるプレゼントだな。おまえには不要の産物だと思うが」
オレはコートの中から紙袋を取り出し、それを恵へと渡す。
「……ちょっと、ドラッグストアの袋って何よそれ。バカにしてんの?」
そう言いながらも中身を確かめるため、セロハンテープを
中から出てくるのはお
「風邪薬2つとレシート……?」
「レシートの方は気にするな、捨てておいてくれ」
「ねえ、このレシート23日の午前10時55分って書いてるんだけど……」
気にするなと言ったのに、ちゃっかり目を通す
「それを買った帰りに、おまえと
「じゃあ……あんたがあたしを心配する連絡を
「マスクもしてなかったし、遠目にも元気なのは分かったからな」
「し、心配してくれてたんだったらさぁ……こんな遠回りなことしないで、もっと早くに訪ねてくるなり、電話一本かけるなりくらいしなさいよね。それで確認できたじゃない」
「目立つ
「っ。で、でも結果さ、風邪薬のお金無駄にしちゃってんじゃない」
「風邪薬代だけなら安いものだろう。また別の機会で使うことだって出来る」
「それは……そうかも知んないけど……全く心配してくれてないと思って
そう言ってうな
「屋上での一件はオレも大きく関与していた。それこそ殴られても文句の言えない非道なことをした。翌日とは言え不必要な連絡を入れれば、おまえの心身に負担をかけると思って避けたんだ。それも余計な
オレから接触するどころか、軽井沢から近づいてくるとは。
「おまえの心の強さをちゃんと読みきれてなかった」
「そ、そうよ。
「そんな強い心を持った軽井沢に、改めてひとつ確認させてくれ」
「何よ確認って」
「これから先、オレは目立ったことは極力避けるつもりだ。だが、場合によっては今までのように裏で立ち回らなきゃいけなくなることもあるかも知れない。その時におまえの力をこれまで通りオレに貸してくれ」
「それ、ちょっと遅くない? さっきのパートナーの話の時にしなさいよ」
「そうだな」
少しの沈黙の後、軽井沢があからさまなため息を一度ついた。
「いいわよ、手を貸してあげる。その代わり、あんたも全力であたしを守りなさいよね。
「ああ、約束しよう」
厚い雲に
2人で共に、その見えない太陽を見つめた。
「もうクリスマスも終わりね」
「確か……24日の夕方から25日の夕方までの1日がクリスマス、だったか」
だから恋人たちは、24日の夜から25日の夕方までを一緒に過ごすことが多いといわれている。25日になる瞬間を共に迎えることが恋人たちにとって一番の幸せと考えられているところがあるからだ。しかし、世界においてクリスマスはやや特殊な事情を抱えていると思われる。そもそも本来のクリスマスの
恋人たちはユダヤ教やキリストの誕生なんかを意識している人間は
今年のクリスマス、イヴも含めてだが
もうすぐ1年も終わる。
「そろそろ帰るか」
「そうね」
オレは歩き出す。
それから少し遅れて、
この一年間、思えば一番距離を縮めたのは後ろにいる恵かも知れない。
それは恵自身も感じていることだろう。
気が付けば必要不可欠な存在にまで昇華された。
これを友人関係と呼ぶのは、いささか恵にとっては失礼な話であるだろうが……。
ただ、今後オレがAクラスを目指したり生徒会との関係性を