ようこそ実力至上主義の教室へ 7.5

〇波乱のWデート



 クリスマス、25日の朝がやってきた。

 今までのオレにとっては何でもない一日だったが、今日はそうじゃない。

 人生で初めて、異性と過ごすクリスマス。

 とうにとっては、どんな一日に映っているのだろうか。

 オレたちは互いに互いのことを良く知らない。

 そういう意味で、今日が良い日になればいいが。

「……何となく、不思議な感覚だ」

 これまで、正式に1対1のデートと言える行為をしたことがない。

 だから地に足がついていないというか、勝手の分からない部分がある。

 そんな自分だからこそ、今日のデートには大きな意味があると言えるだろう。

 ただし成功するか失敗するか、それは今現在不透明だ。

るように成る、か」

 どうせ考えたって答えが出るわけでもない。

 部屋を出てりようのロビーへとエレベーターで降りる。

 確か今日から公開の映画をるんだったよな……。

 天気はあいにくくもり空で、終日厚い雲におおわれることになりそうだった。

 約束の時間は11時30分だが、少し早めに着くように行動しよう。


    1


 待ち合わせ場所に着き、時刻を確認する。

 あと10分ほどで約束の時間か。

 そう思い顔を上げると、こちらに向かって歩いてくるとうがいた。オレを探しているのか、どこか落ち着かない様子で辺りを見渡している。

 程なくしてオレと目が合うと、佐藤はうれしそうに目を細めた。

「おはよーあやの小路こうじくん!」

 そう言って小走りに距離を詰めて来る。

 立ち止まると、それと共に佐藤から程よくこうをくすぐる香りが飛んできた。

「早かったな」

「綾小路くんだって……。もしかして、結構待たせちゃった系?」

「ついさっきついたところだ」

 べたなセリフだが事実なのでそのまま伝える。

「ほんと?」

 食い気味に詰めてくる佐藤に少しされながらもうなずく。

 予定の時刻までは数分あったが、早めに行動する分には問題ないだろう。

 すぐに移動するかと思ったが、か佐藤は再び辺りを見回し始めた。

 動き出す様子がないので声をかける。

「行かないのか?」

「そ、そうね。あ、ちょっと待って」

 手にしていたかばんの中に手を入れ、何かを探し始める。

「もしかして忘れちゃったかな……」

 オレに聞こえるくらいの声のボリュームで、そんなことをつぶやく。

「忘れ物か?」

「あぁううん、携帯どうしたかな、って思って」

 揺れる鞄に視線をやると、中からは包装紙に包まれた細長い箱が少し顔をのぞかせていたが、ジロジロ見ているのは悪いと思い視線を外した。

「携帯鳴らしてもいいからな」

「うんありがとう。優しいね綾小路くん」

 携帯を探す手伝い、ましてコールすることくらい優しいうちには入らない。

 きっと他の誰であっても同じように協力を申し出ただろう。

「確か朝───」

 なんてどこかぎこちないセリフを口にしていたが、

「あ、あったあった」

 程なくして佐藤からの明るい朗報が聞こえてきた。

 振り返ると携帯を手にしてとうが笑う。

「お待たせ、いこっか」

 携帯をポケットにいなおした佐藤だったが───。

「おはようあやの小路こうじくん」

 直後、オレは背後から声をかけられた。

 振り返った先にいたのはひらようすけだった。あいも変わらずさわやかな好青年だ。

 おはよう、とこちらも軽く手をげて答える。

 ちなみに、平田の隣には恋人であるかるざわけいの姿もある。

 どうやらクリスマスのこの日、2人もデートに出かける予定だったらしい。2人の関係がフェイクなことは知っているが、周囲に本当だと認知させるための行動だろうか。だとすれば効果はてきめんだろう。

「おはよう軽井沢さんっ」

 佐藤が声をかけ、軽井沢に駆け寄っていく。

「おはよ」

 そんな佐藤に対して軽井沢も、自然に笑みをこぼし会話を始めた。

「ちょっと珍しい組み合わせだね」

 オレと佐藤を見て、平田がそんなことを言うのも無理はない。

「そっちはデートか?」

 一応形だけでも、そう聞いておいたほうが良いだろう。

「うん。僕は『もしも』の時のためにクリスマス期間は特に予定も入れていなかったからね。幸い、他の人にも声はかけられなかったし」

 万全を期すため、偽の恋人である軽井沢のために空けていたようだ。

 平田は自分のことなど二の次で、常に周囲の人間のための行動を心がけている。

 見習おうと思っても、そうそう出来ることじゃない。

「友達連中には声をかけられてそうなもんだけどな。音沙汰なしか?」

 同級生だけじゃなく、サッカー部等の先輩から声がかかってもおかしくない。

「どうだろう。多分遠慮してくれたんじゃないかなぁ」

 そう答えて平田が暖かいまなしで軽井沢のほうを見た。

 なるほど。ひらかるざわは周囲からは理想のカップルの一組として見られている。彼女持ちに対して、クリスマス前後に声をかけるなことはしないってことだろう。

 平田と軽井沢がカップルとしてキチンと周知されている証拠か。

 しかし、偽のカップルが成立している間は、他の女の子とは親しくなることが難しい。異性と気軽に距離を詰められないのは少し可哀想だな。もし気になる存在ができても、平田のことだ、軽井沢からの頼みを打ち切るようなはしないだろう。

 そういう信頼ができるからこそ、軽井沢も平田を宿やどりに選びやすかったはずだ。

「軽井沢さんは元々、クラスの女子とは打ち解けてる方だけど、とうさんとここまで仲が良いのは知らなかったなぁ」

 妹や娘をおもう家族のような目で2人を見ながら、平田がつぶやく。

「休みなんかも、よく遊んでそうなイメージがあるけどな。そうじゃないのか?」

「少なくとも休日に遊んだりするほど、では無かったと思うよ」

「そうなのか」

「どうして珍しくないと思ったのかな?」

「いや、何となくな」

 ともかくこれ以上平田と軽井沢の邪魔をしても仕方がない。

 オレは携帯で時刻を確認する。

 既に時刻は11時40分、上映時間が近づきつつあった。

 そろそろ佐藤を連れて映画館に向かおう。

 そう思ったのだが、佐藤と軽井沢はずいぶんと楽しげに話しこんでいるようだ。

 2人の会話は小声だったため、オレにはその内容までは聞き取れなかったが。

 このまま待っていても話が終わる気配は一向に訪れそうにないな。

 どうしようか迷っていると、平田と目が合う。

 それだけでこちらの思っていることをってくれたようだ。

 長居することが邪魔につながると判断した平田が軽井沢に声をかける。

「これ以上は邪魔しちゃ悪いんじゃないかな。軽井沢さん、そろそろ行こうか」

 いつもの優しげな口調で、2人の会話を打ち切らせるようにく割り込んだ。

 現実に引き戻されるように軽井沢と佐藤がこちらに近づいてくる。

「ところでさ。2人っていつから付き合ってるの?」

 そんな質問が突如、軽井沢から飛んできた。

 いや、ある意味最初に出てもおかしくない自然な質問だったかもしれない。

「ええっ。べ、別に私たち付き合ってなんてないよ!? ね、ねえあやの小路こうじくんっ」

 慌てる佐藤の視線に、オレも小さくうなずいて答える。

 しかし、軽井沢が露骨に怪しむような目を向けた。

「えー? だってクリスマスにデートしようとしてるんだし、どうみても付き合ってるでしょ。ひらくんもそう思うよね?」

「そう……だね。2人が否定するなら違うんだろうけど、他の人からは付き合ってるように見えているかも知れないね」

「それは、その……私があやの小路こうじくんを遊びに誘っただけでさ……」

 とうがもじもじとしながら、再びこちらに視線をむけてくる。

「あ、綾小路くん、良かったの? クリスマスに私なんかと遊んで」

「嫌なら断ってる」

「……へへへ」

 テレ臭そうに佐藤がほおく。

「へー……満更でもないってところなんだ。ってことは、綾小路くんは佐藤さんのことが気になってるってこと?」

「やっ、やめてよかるざわさ~ん」

 顔を真っ赤にしながら佐藤はパタパタと手であおぐように自分の顔に風を送った。

 だが軽井沢はそのまま続ける。

「だったら、いっそ今付き合っちゃえば? そしたら恋人同士のデートになるし」

「軽井沢さん。流石さすがにそれは僕たちが言うことじゃないと思うよ」

 困っているこちらを見て、平田がやんわりと軽井沢を止める。

「ごめんごめん、ちょっとお節介過ぎたかも。ごめんね佐藤さん」

「ううん、全然気にしてないからっ」

「ねえようすけくん。2人のことも気になるし、いっそWデートなんて面白そうじゃない?」

 か軽井沢はそんなことを言い出した。

「Wデート?」

 オレと平田は思いがけない提案に顔を一度見合わせる。

「そそ。あたしと平田くん。そして佐藤さんと綾小路くんでデートするわけ。面白そうじゃない? たまには4人デートってのも悪くないかなって思ってさ」

 前々から打ち合わせていたならともかく、当日の、しかもこの段階でWデートを提案されれば当然困惑する。立てていた一日のプランだって大きく変更、崩れてしまう。それらをすり合わせていくのは簡単じゃない。

 平田の表情からも、オレと同じねんが浮かんでいることが容易に読み取れた。

 一方の佐藤は、そんな突然の提案にも驚いた顔ひとつ見せなかった。

「それは難しいんじゃないかな? 2人にも別の予定があると思うし」

 やんわりと平田はその事実を分からせるよう伝えるが、軽井沢には響かない。

「佐藤さんも面白そうだって言ってくれたんだよねー」

「うんっ。面白そうっ」

 どうやら先ほど2人は長々と、Wデートに関して話し合っていたらしい。

 しかしどちらが言い出した提案にしろ、やや強引な話だ。

「また今度にしたらどうかな。今日は別々に過ごすべきだと思う。Wデートをするなら、それなりの計画を立ててからの方が、問題も起きないはずだよ」

 当然のはいりよ、というよりゆうりよひらから入れられる。

「そうかも知れないけどさ、何が起こるかわからない面白さもあるじゃない?」

 かるざわは既にWデートに乗り気のようで、テンション高く答える。

 計画性のなさを不安視するオレたちと違い、軽井沢は先の見えない展開に楽しみをいだしているようだった。平田とのデートが形式的なものだからこそ、刺激を求めたってことだろうか? これがオレとは無関係なところで起こった出来事なら素直にそう受け取ったと思うが、果たしてどうだろうか。軽井沢の全てを知るオレが行動を共にして、この先行き不透明な状況をエンジョイできるかどうかは、はなはだ疑問が残る。

 とは言え、それ以外にWデートを提案する理由も見当たらない。

「一応クリスマス、だしね」

 こちらの邪魔になると見ている平田は、困った顔を浮かべる。

 その顔を見た軽井沢は、イエスかノーかをストレートに聞いてきた。

「平田くんは反対ってこと?」

「僕自身は大丈夫、だけどね。とうさんとあやの小路こうじくん次第じゃないかな」

 こちらの意見が分からない平田には、そう答えるしかないよな。

 平田の許可を取った軽井沢が、ひょっとして迷惑だった? と佐藤の方に視線を送る。

 肝心の佐藤は、このWデートのことをどうとらえているだろうか。

「ちょっと急な話ではあるけど、私はしてみたいかなあ……なんて」

 本当にずいぶんと急な展開だ。しかし佐藤はこの状況を受け入れ、きよだくの返事をした。Dクラスにおけるスクールカースト、その最上位に位置する軽井沢からの提案に佐藤が反論できないのか、とも思ったがそういうわけではなさそうだ。

「綾小路くんは、どうかなぁ?」

 平田から軽井沢、軽井沢から佐藤。そして佐藤からオレへと渡ってきたバトン。

 かつには落とせない。慎重に受け取る必要がある。

「そうだな……」

 即答はせず、考える。

 女子と2人きりで遊びに行くだけでも色々と手一杯だったところに、Wデートとは。

 とてもじゃないがこういった状況に不慣れな初心者には荷が重い追加イベントだ。

 しかし、Wデートは嫌だからめてくれ、と言うのも中々にハードルが高い。

 周囲が同調している流れの中で、一人反対の意を唱えるのはなんわざだ。

 今日の主役でもあるとうが快く受けたのなら、こっちから否定することはないだろう。

 かるざわの言う『何が起こるかわからない面白さ』に乗っかってみるのもいい。

 ただ、それでも少し引っかかる部分はある。

 そもそもこれから映画をにいくのに、いきなりWデートなんて可能なのだろうか。

 そんな当たり前の疑問だ。

 きゆうきよ席を確保するにしても、並びあって観ることはほぼほぼ不可能だ。

 あるいはそれすらも『面白さ』のひとつなんだろうか。

 本来の『デート』の目的からは遠ざかってしまう印象は否めないが、別の側面から見るとWデートは悪いことばかりではないか。佐藤と2人きりだと会話に詰まったり、気まずい雰囲気が流れる瞬間もあることが予想される。だがひらと軽井沢がいればく話題をつなげてくれる。それにあいを連れてそうぐうしないよう立ち回ってくれる話になっているが、それでも不測の事態は起こりうる。

 その時に佐藤と2人で遊んでいるところを見られるよりも4人で行動している方が自然に映るんじゃないだろうか。どうせ断れない空気なら、そんな風に考えておくべきだな。

「3人がそれでいいなら、特に異論はないかな」

 待たせるわけにもいかず『イエス』の答えを出すと、軽井沢は即行動を始めた。

「じゃあ決まりね。2人はこれからどこに行く予定だったわけ?」

 あっさりとWデートが確定し、軽井沢がぐいぐいと引っ張るように進行し始める。

 そんな様子に佐藤はどこかホッとするような、落ち着いた雰囲気を見せていた。

 もしかしたら佐藤も緊張していて、2人きりは不安だったのかも知れない。

 この突如湧いて出たイベントが功をそうすることを期待しよう。

「えっとね、あやの小路こうじくんとこれから映画を観にいく予定だったの」

 佐藤がこちらのデート内容を携帯を使いながら伝え、軽井沢と打ち合わせる。

「今日から公開の映画? それならめっちゃラッキーかも。あたしたちも観にいく予定だったんだよね。うわ、しかも上映時間まで一緒だし。すごい凄い!」

 ひょんな偶然に盛り上がりを見せる2人。

 やや佐藤の表情が固いというか、ぎこちないのが気になるな。

「偶然だね、綾小路くん」

「みたいだな」

 同じ映画を同じ時間に観にいくことは平田にとっても驚きだったようだ。

 いくら上映初日だからって、ここまで見事に重なるとは本当にラッキーな話だ。

「一緒に行くにしても映画だと、席はどうなるんだ? 変更はきかないよな?」

 オレは2人に対して席がどこなのかを聞いてみた。

 偶然に偶然が重なっていくのかどうか。

「そうね。えっと……」

 かるざわが携帯を操作し、確認する。

「どうなの? 軽井沢さん」

 軽井沢の携帯をとうのぞき込み、自分たちの席位置を確認しあっていた。

「席は……バラバラか。まぁそれは仕方ないかー」

 軽井沢はひらに席を見せてくる。互いの位置は全く異なっていた。

 どうやら偶然はそう続かないようだ。

「じゃあ、そろそろ行こうよあやの小路こうじくんっ!」

 会った時はしおらしい、緊張した面持ちの佐藤だったが、軽井沢たちが合流したことでいつもの調子を取り戻したのか、オレにべったりと並んで歩き出す。

「……近い」

 誰にも聞かれないような小声で、オレは思わずつぶやいた。

 Wデートになったオレたちは4人で映画館に向けて歩き出す。

 4人が横並びになる形で、一同モール内を歩いていく。端からオレ、佐藤、その隣に軽井沢、そして一番遠くに平田だ。

「へえ……なんか2人結構サマになってない?」

 密接して歩くオレたちを見て軽井沢が呟く。

「そ、そう?」

「どこからどう見ても、クリスマスを仲むつまじく過ごすカップルって感じ?」

「へへへ。なんか恥ずかしいね綾小路くん。私たちカップルみたいだってさ」

「……そうだな」

 そう見えるような状況なのは否定できないか。

 まあクリスマスにデートしている以上多少の言われようは仕方ない。

「でも2人ってマジで付き合ってないの? 実は付き合ってたりして~」

「ちち、違うよ。全然っ。私たちまだそんな関係じゃなくって!」

「ほんとにぃ? 隠してるなら今のうちに話してよね」

 興味本位というよりは明らかにこちらをちやしに来ている。

 ただ佐藤が心底嫌がったり困ってる様子は見受けられない。

 どちらかと言えばそんな軽井沢からの茶化しを喜んでいるように見えた。

 その様子が不思議というか、やや理解が及ばず混乱してしまう。

 しかし、すぐに自分に置き換えることで一定の理解に気づく。

 例えば学校のアイドル的な女子とオレが何かの間違いでデートをしていたとして、その様子を目撃した友人に彼女か? なんて茶化されると気恥ずかしさを覚えると同時に、勘違いながらも優越感のようなものを得る気がしたからだ。

 ただ、この場合は『学校のアイドル』という明らかなステータスが自慢なわけであり、とうがオレにそんなものを感じているかどうかは強い疑問が残る。

「確か佐藤さんって、まだ彼氏いないんだったよね?」

「う、うん」

 かるざわからのしつような攻めは終わらず、次々と話が振られてくる。

 オレは半分ほど話を聞き流し、予定外のWデートをどうやって無難にしのぐか考えることにした。

 それからしばらくは軽井沢からの質問に答えつつも、受け流す時間が続いたが……。

「あたしたちはあたしたちで楽しんでるから、2人は気にしないでね」

 やがて、そう言って軽井沢はひらの方へと顔を向けた。

 好き放題話した後は放任か。

 軽井沢の狙いは何となく予測がつくが、それでも分からない部分は多い。

 ともかくここからのWデートは、要はグループとして行動はするが、基本的には2人で会話をしろってことらしい。

 オレはそのルールというか線引きが良く分からなかったが、気にしないことにしよう。

 問題はここからだ。佐藤と何を話すのが正解か分からない。

 オレはクラスメイトとしての佐藤のことを、ほとんど知らないのだ。

 時間の無い中で情報を得ようと動いたりもしたが、殆ど手がかりは得られなかった。

 屋上での一件に冬休みと、佐藤とは接触できるような機会もなかった。

 もしデートまでゆうがあれば、もう少しマシな状態に持っていけただろう。

 しかし、手探り状態は佐藤も同じはず。緊張もするだろう。

 もちろん前日までに多少なり質問は考えてみた。

 好きな食べ物とか、趣味を聞くだとか、そういうベタなことだ。

 しかしいざとなってみると中々聞きにくいな。

 うわ、コイツネットに書いてあるようなマニュアル通りだ、と思われたくないからかもしれない。

 話題に悩んでいると、こちらの沈黙に気づいたのか軽井沢が一瞬こっちを向いた。

 そして視線が1秒にも満たない間だけまじわりあう。

ずいぶん大人しいじゃない。大人しい役を演じるのも大変そうじゃない』

『別に演じてるわけじゃない。単純に話題の持って行き方が分からないだけだ』

 そんなやり取りが目だけで交わされる。

 もちろん、軽井沢の言葉はオレの勝手な想像だ。

 いつまでもこちらから切り出さないでいると……。

とうさん。あやの小路こうじくん何話していいかわかんないんじゃない?」

 沈黙を破るかのように、かるざわから放たれた一矢が飛んできた。

 どうやらオレの想像はほぼ全て当たっていたらしい。

 それを機に佐藤はハッとした表情を浮かべ会話を始める。

「あのさ、綾小路くんってアイドルとか好き?」

 佐藤も色々と話題を考えてくれていたのか、そう聞いてきてくれた。投げられる、高めのボール。キャッチしやすい位置にふわりと飛んでくる。

「アイドル、は正直詳しくないな……好き嫌いは特にない。佐藤は好きなのか?」

「私は結構好きなんだよね、カッコいいアイドルも好きだけど今のブームは女の子のアイドルグループかな。ほら聞いたことない? 50人くらいいる───」

「ああ、連日テレビで見かけるな。奇抜な歌のダンスしたりするグループのことだろ?」

「そうそう。私それがすごく好きでさ。歌も良いのが多いんだよね」

「へえ……」

 ぐいぐいと攻めてくる佐藤に気おされながらも、うなずく。

「特にデビュー曲はオススメできるから聞いてみてよ。今度CD貸してあげるから」

「ありがとう」

 そう返事したところで、自分が会話のやり取りを間違えていたことに気づく。

 自然と空いてしまう会話の間。

 あいづちを打ったり返事をするだけでは、一方的にボールを投げさせていることになる。

 こっちが受け取ったボール、当然投げ返すのはオレでなければならない。

「どんな曲とか聴いたりするの?」

 すると、そんなオレの苦悩を知ってか知らずか佐藤が再び投球してくれた。

 再び投げてくれた話題という名のボールを、今度はしっかりと返球できるようにしよう。

 どんな曲を聴くのか。意外とシンプルで答えやすい話題だ。

 そう思ったが、オレは喉元まで出かかった曲を引っ込める。

 もし素直にオレの趣味をていしたならば、どうなるだろうか。

 ここでベートーヴェンやモーツァルトを引っ張り出せば確実に外す。かといって、ヒーリングミュージック、なかでも雨音や鳥のさえずり、と答えるのもミスだ。

 つまりオレの趣味がどうであるか、はこの問い的には無視するべきだ。

 求められている回答は有名なミュージシャンやアイドル系の、言わば今時の曲だろう。佐藤の期待するまなしになんとか答えなければ。

「……今年、った映画があったよな? アニメの」

「あぁうんうん。あの恋愛映画よね、超感動したよねー」

「あれの主題歌を歌ってるグループとか、その辺かな、最近聞くのは」

 オレはグループ名を覚えていなかったが曲は何度か耳にしていた。それを手がかりに話を進める。

「あー! わかる! すごいわかる! 私も超好きなの!」

 どうやらく返球できたようで、とうは万歳するようにボールをキャッチしていた。

 ただこの話題が深くなると途端にボロが出てしまう。

 そこは上手く切り抜けないとな。

「色々と詳しいんだな」

「そう? 私は多分普通くらいだと思うけど」

 どうやら女子という生き物は、想像以上にこの手の事情に詳しいらしい。原始時代からの男女の役割分担が現代にまで強くしんとうしていると聞いたことがあるが、まさにそれかも知れない。女性はコミュニケーション能力が特にみがかれたらしいからな。

「今って部活とかしてないよね? 前って陸上部だったりする?」

 話題が部活に変わった。そんな話になったのかは分かりやすい。体育祭でのオレのリレーに関係しているんだろう。

「いや、オレは部活はしたことないんだ」

「そうなんだ!? それなのにあんなに足が速いなんて凄くない!? だってあの生徒会長よりも速かったんだよ!」

 万年帰宅部だったことを伝えると、佐藤は何故か感激したように興奮した。そんな佐藤のはしゃぎぶりが目立ったのか、かるざわが横目に一言だけ突っ込んできた。

「生徒会長が遅かっただけってことはないわけ? 勝手に足が速いと思い込んでただけで、実は足が遅い者同士の戦いだったりして」

流石さすがにそれはないよ軽井沢さん。2人とも凄く速かったよ」

「ふーん。にわかには信じられないけどね。けんとかも弱そうだしさ。それにあやの小路こうじくんって意外とドライそうって言うか、大切な人が風邪で寝込んだりしてもお見舞いにすら来ないようなタイプだったりして~」

 全く関係のない流れで喧嘩のくだりを持ち出してくる辺り、いやがこもっている。

 そして今日の攻撃の要因がそこにあったことを知る。

 屋上でりゆうえんによって繰り返し身体からだを冷やされ、体調を崩した可能性のある軽井沢を気にかけなかったことをうらんでいるようだ。もしかするとWデートの提案は、オレの行動を妨害してらしをしようとしているのかも知れない。

「私はそんな風に見えないけどな。綾小路くんって絶対優しいと思う」

「えー? そうー?」

「僕も綾小路くんは、優しい人だと思うよ」

「うわ、なんかあたしだけ悪者みたいじゃない」

 不満そうにそう言いながらも、かるざわは会話の中心人物として常に目立っていた。

 オレ個人をいじりながらとうにそれをフォローさせているのが伝わってくる。

 そしてその流れが、佐藤とオレをカップルにするための狙いであることも分かる。

「あ、あのね? あの、その……」

 ふと、気がつけば笑顔がなくなっている佐藤。

 オレからの話題が無いことに嫌気が差したかと思ったが、違うようだ。

 何かを言い出したいのに口に出来ない、そんな風に見えた。

 しばらく黙って佐藤の出方をうかがっていたが、言葉が続くことは無かった。

「あ、あのさ。なにか私に聞きたいこととかない?」

 そう言って会話の主導権をオレへと譲ってきた。

 確かに先ほどから話題の中心はオレのことばかりだ。

 ここはこちらからも佐藤に対して何か話をするべきだろう。

「この学校に入ると、外部と連絡が取れないだろ? それで困ったこととかないか?」

 そんな変わった質問をしてみると、佐藤は真面目に考え込んだ。

「そう、だなぁ……色々ある気がするけど……」

 考えた末、中でもこれは、と思われるものを佐藤が口にする。

「私、中学の時は猫を飼っててさ。今はお母さんが面倒を見てくれてると思うんだけど、猫に会えないのが一番つらいかも」

 家族との距離が開く、というのは確かに一般的な回答かも知れない。

 可愛かわいがっていたペットと会えないのは、我が子と会うことを許されない親のような心境だろうしな。

「3年間会えないのは確かにつらそうだな」

あやの小路こうじくんはペットとか飼ってなかったの?」

「ああ。犬が飼いたくて興味はあったけど両親が許してくれなかったんだ」

 興味があったことは事実なので、そんな風に答えておいた。

「そうなんだ。犬と言えばさ、私この間、敷地内で子犬見かけたんだよね」

 そんなことを佐藤が言う。

「え、そうなの?」

 自分からこっちはこっちで楽しんでいるから気にするなと言った軽井沢が、か再び佐藤の会話に合流する。しっかりと話は聞いていたらしい。

「うん。しかも飼い犬っぽかったんだよね。可愛かったなー」

「学生は飼えないはずだから、大人の誰かだろうね。従業員や先生とか」

 敷地内に迷い込むとは思えないため、ひらが言う。

 確かに考えられるとしたらその線が濃いな。

「いいなーペット。りようでも飼えたら最高なのに」

「あたしも賛成。ペットショップとかあったらいいよねー」

「ていうかなんで飼えないのかな」

「確かに確かにー。色々売ってるのにペットがないのは、なんか納得いかないよね」

 女子2人はペットについて盛り上がりを見せたが、男2人は置いてけぼりだ。

 確かにペットはいやされると思うが、寮で飼えるようになると様々な問題が出てくる。1人1匹飼える前提なら、数百匹の動物が飼われる可能性がある。それを学校のある半日の間、全ての部屋に放置すればたちまち問題が発生するからだ。

 必然的に飼えないことは納得できそうなものだが、その考えにはいたらないらしい。

 ちゃんとした理由など、カケラも考えてはいないだろう。

 可愛かわいい可愛くない、飼いたい飼いたくないだけで話を完結させている。

「……くだらない考えだな」

 オレは物すごく面白くないことを考えている。自分でもそれがハッキリと分かった。

 この場に必要なのは、そんな現実的な話じゃない。

 ペットを飼うようにはなれない。ベラベラそんなことをしやべってもこの場をしらけさせるだけだ。

「僕はウサギが飼いたいな。飼育も比較的しやすいし、大人しいからね」

 素直に女子の会話の流れに乗ってひらが言うと、女子の2人も笑顔で賛同する。

 きっとこういう会話の出来る男がモテるのだろう。

 気がつけばペットの話題も終了し、次の話題を模索する時間になっていた。

 どうしたものかあれこれ考えていると、とうと目が合う。

「ね、ねえあやの小路こうじくん。あのえっと……」

 さっきまで調子を取り戻していた佐藤だが、また急に言葉に詰まりだす。

 どうやら佐藤は本当に聞き出したいことがある時、極度に緊張するらしい。それが異性がらみの時だけなのか、普段でもそうなのかは不明だ。

 しかし意を決したように言葉を吐きだそう……としてまた閉じる。

 さっきのことよりも聞きづらいことなんだろうか。

「綾小路くんの好みの女子ってどんなの?」

 佐藤の言葉が出てくる前に、その隣のかるざわが質問してきた。

「わ、私も聞きたいかなっ」

 便乗するように佐藤も同意する。

 自分の質問がさえぎられたことに不満を示さない佐藤。

 もしかすると同じ質問をぶつけたかったのだろうか。

 もしそうだとすると、どうやらこのWデートは、単なる偶然ではなさそうだ。

 最初から薄々感じてはいたが、どうやら仕組まれていたものとるべきだろう。

 ともかく、今は質問に答えなければならない。好みの女子か。

「……なんか答えにくいな」

 キラキラとした目で見てくるとうに、ジッとにらむような目つきのかるざわ。なんだか楽しそうにこちらを見ているひらと、三者三様のまなしだ。

「元気系……とか?」

 けんめいしぼした言葉だったが、それが自分の好みかと聞かれると怪しい。

 単に女子は元気な子が多いため場を荒さない一言を狙ったつもりだったが、オレの思った通りにはならなかった。

「意外。なんかあやの小路こうじくんってそういう子が好きだと思わなかった」

 もしかして佐藤や軽井沢たちは、元気系、に属する女子ではないのか?

 ほりきたのようなタイプこそ違うと言い切れるが、くしも、いちも元気系……だよな?

「もしかして綾小路くんって、元気系かそうじゃない大人しい系の2種類しか女子にはいないとか思ってるんじゃないの?」

 そんな、妙に鋭い突っ込みが軽井沢から入る。

「そうなの?」

「そうじゃない。オレが比較的静かなタイプってこともあるから、逆にけんいんしてくれるような子が良いなと思っただけだ。言葉の表現を間違ったのなら訂正する」

 そう答えたが、あまり佐藤たちには伝わらなかった気がする。

「じゃあさ。堀北さんとはどんな感じなわけ?」

 また急に、そんな話を軽井沢から振られた。

 全く関係ないだろう、そう言いたかったが明らかに佐藤の顔つきが変わる。

 これも、佐藤がしたいと思っていた質問だろう。

 聞きづらい佐藤の代わりに、軽井沢が聞いてきたと見るべきだ。

 オレと堀北の関係性を正しくクラスで理解している人間は限られているが、その理解している少ない生徒が軽井沢だ。

 こんな質問が飛んでくることそのものが不自然。確実に佐藤のためだろう。

 佐藤が本気でオレに対して異性としての好意を抱いてくれているのなら、そのことを軽井沢に打ち明けWデートへと持ち込んだ道筋が見えてくる。

 つまりそのためのえんしやげきのようなものを軽井沢に頼んだのだろう。色々と探りを入れて外堀を埋めていこうってことだろうか。

 見えない軽井沢がどこかでオレを狙っている、そんな感覚だ。

 今回のWデートを持ちかけたのがどちらかは分からないが、細かな作戦を決めているのは軽井沢であると推測される。

ほりきたとは別に何も。事実、こうしてクリスマスだって別だ」

 論より証拠。今ここに堀北がいないことが、何よりの証明だとアピールして見せた。

「でも、だからって何もないとは言い切れないんじゃないの?」

 これで十分なはずなのに、かるざわが食い下がってきた。

あやの小路こうじくんは堀北さんが気になってるけど、相手にしてもらえなかったパターンもあるし、誘いたいけど誘う勇気がなかったってこともあるでしょ?」

「……確かにな」

 真面目に考察すれば、その線はありうる話だ。

「ど、どうなの? 誘って迷惑だった?」

 不安そうにとうが、のぞき込むようにこちらを見てきた。

「さっきも言ったが、もし迷惑だと思ってたなら事前に断ってる」

「そっかぁ。よかった……!」

「けどいるのよねー。自分が好きな相手に振り向いてもらえないからって、保険をかけておく男子って。本命と付き合えなかったらキープしてる女子と、なんてことも」

 軽井沢は意地の悪い質問をぶつけてくる。

 ここで、そんな器用なことが出来る人間に見えるか? と問い返しても、見えると答えられてしまったら詰む。佐藤のためと、そんな風に軽井沢が追い詰めてくるかもな。

 うじゃうじゃワニが泳いでいるナイル川に飛び込むようなものだ。

「オレがそんな器用なことが出来る人間に見えるか?」

「見えるけど?」

「……おい」

 分かっていて飛び込んでみたら、見事にかれた。

「本命はほりきたさんだけど、キープとしてとうさんと遊んでる可能性もあるじゃない」

 佐藤を持ち上げたいんじゃなく、オレを落としたいようだなかるざわは。

 もしかしたら佐藤とく行くように仕向けようとしているのではなく、オレのような人間では佐藤に釣り合わないと佐藤に教えているのかも知れない。

あやの小路こうじくんは、そういうことする人じゃないと思うけど」

 厳しい軽井沢からの突っ込みに、佐藤が反論する。

「ね? 綾小路くん」

「そこまで器用じゃないからな」

 軽井沢からの猛攻を逃げ切った。

 そう思った矢先、第三の攻撃がやってきた。

「でもさ、綾小路くんってくしさんともちょっと仲良かったりしない?」

「え、そうなの!?」

 気づかなかった、と佐藤が飛び跳ねるように驚く。

「櫛田の場合は誰とでも仲が良いと思うんだが……」

 もはやワニが噛み付いたどころじゃない。水中から飛び出して空を飛んだ。

「男子の大半は櫛田さんと付き合いたいとか思ってるんじゃないの?」

「そう思うか? ひら

 オレはワニから逃れるため、平田にアドバイスを求めることにした。

 こっちが困っていると分かっていれば、上手く対応してくれるはずだ。

「確かに櫛田さんは人気だと思うけど、皆が皆そうじゃないと僕は思うな。それに綾小路くんはまだ、特定の誰かを、って気持ちは持ってないんじゃないかな」

 正解だ平田。おまえはオレの願う方向性100%のことを答えてくれた。

 櫛田に対する誤解を解くと同時に、それ以外の問題も解決する。

ようすけくんが言うなら、きっとそうなんだろうけどね」

 不服そうながらも、軽井沢がうなずく。平田の言葉には不思議な重みがあり、簡単にはくつがえせない。佐藤ならもっと感じているだろう。

 ナイス平田。すごいぞ平田。イケイケ平田っ。

「なあそこの4人、ちょっといいか?」

 4人で映画館のそばまで来た時、背後から声をかけられた。それぞれが振り返る。

「おまえあやの小路こうじ、だよな?」

「……そうですけど」

 どちら様ですか、という言葉は喉の奥にすぐさま引っ込んだ。鋭い眼光と、さわやかさを兼ね備えた男にはいくか見覚えがあったからだ。

 この学校で知らない生徒はいないであろう、2年Aクラスぐもみやび

 そしてその友人であろう生徒たち男女数人が南雲の周りに集まっていた。メンバーの中には生徒会の生徒たちもそろっている。

 書記のみぞわき殿とのかわ、そして副会長のきりやま。それに女子の生徒会メンバーも。

 そして唯一、1年で生徒会に名をつらねることになった少女の姿もあった。

 1年Bクラスいちなみだ。だがこの面子メンツの中ではやみに前に出てこず、軽く視線を合わせると微笑ほほえむ程度の反応を示すだけだった。

 一之瀬以外の生徒会メンバーはオレに見向きもせず、雑談を続けている。

 しかし、そうそうたる上級生たちの登場。この場の空気が重くなる。

「1年よね? 雅の友達?」

 ほとんどの上級生がこちらを認識しない中、一人の女子が視線を向けてきた。

 以前、道ですれ違った時にお守りを落としていった上級生だ。

 とは言え、向こうはこちらのことなど知るはずも無いが。

「話したことはない。覚えがないか? 体育祭のリレーでほりきた先輩と勝負してた生徒だ」

「あー。なんか見覚えがあると思ったら……あの時の」

「ちょっと話しようか。時間あるだろ?」

 そう南雲に声をかけられてしまう。今4人で遊んでいたことは誰の目にも明らかだ。しかし上級生でもあり新任生徒会長からの誘い、には断れない。思わぬ事態にとうしゆくし、かるざわにも軽い動揺が見られた。

 そんな2人の様子を見てすぐにひらが前に出る。

 この中で唯一、南雲に対して面と向かっていける生徒だろう。

 とは言え、遊んでるので時間はありません、また今度にしてください、なんてことは言えないだろう。どう対処するつもりだろうか。

「おはようございます南雲先輩」

「よう平田。サッカーのほう、調子はどうだ?」

 南雲は生徒会長に就任する前はサッカー部に所属していた。その部分を生かして会話を切り出すことにしたようだ。

「皆けんめいに頑張ってます。また今度、練習に付き合ってください。あの先輩、綾小路くんが何かしたんですか?」

 少し不安そうに切り出してみせる平田。

「え? あぁいや、そういうわけじゃない。俺が後輩をいじめるわけないだろ? ちょっとした興味本位だ」

 ぐもは笑って見せたが目は全く笑っていない。

 オレが切り出さないことには、この場の流れは変わらないだろう。

「何か用でしょうか」

 オレはややきゆうくつに答えた。

「そう警戒するなよ。って言っても無理な話か、ちょっと先に行っててくれ」

 人数が多いとあつしてしまうと思ったのか、南雲は仲間にそう声をかけた。

「早くきてよ~?」

「分かってる」

 オレたちを解放する気はないのか、南雲は取り巻き連中を先にどこかへと向かわせた。

 その背中を何となく見ていると察知したかのように付け足す。

「カラオケだよ。この後おまえも来るか?」

「いえ……」

「冗談だ。友人でもないおまえが参加したら、場がしらける」

 今度は冷笑を浴びせる。

ほりきた先輩が気にかけてる生徒……そんなうわさに踊らされただけさ」

「先輩、それってリレーの時のことですか?」

 オレをフォローするようにひらく会話に入ってくる。

「ああ。おまえも見てただろ?」

「はい、あやの小路こうじくんの足が速いことは知っていましたので」

 それは平田のうそだったが、真実を確かめるすべは南雲にはない。

「でもそれ以外で、先輩たちの目にまるようなことは綾小路くんにはないかと」

「確かに普通の生徒に見える。おまえの言った足の速さ以外は……な」

 南雲が険しい顔でオレの腕を強く握り締めてきた。

 その異常な光景に、当然他の3人は驚いたことだろう。

 一触即発、けんが始まるように見えたんじゃないだろうか。南雲と親しい平田ですら、一瞬動きが固まるほどのはく

「南雲会長っ、ちょっと顔怖いですよー」

 これ以上の事態には進ませまいと、かるざわが笑って南雲に近づいてきた。

「怖がらせたかな? 悪い悪い、そんなつもりは最初から無いんだ」

 南雲は穏やかな表情を軽井沢に向けるが、オレの手を放そうとはしなかった。

 こちらに視線を戻してくる。

「だが───俺はあいにくと堀北先輩のことは買ってる。あの人がお前に何かを見たというなら、それに間違いはないはずだ」

ずいぶんと買ってるんですね。生徒会長を」

「元生徒会長、をな。これからが楽しみだなあやの小路こうじ。あの人が卒業して去ったら、一年間は退屈な時間が流れる。俺の欲求を満たす遊び相手になってくれよ?」

 ほりきた兄とぐもとの間には色々と因縁めいたことがあったとは知っていたが、その当人を飛び越して、オレにまで飛び火するほどしゆうちやくしていたとはな。少し想定外だった。

 南雲は自身や周囲が楽しければそれでいい、というようなタイプと読んでいたからだ。

 ところがこの態度を見るに、そういうわけじゃないらしい。

 己の強さ、己のすごさを周知させることにこそ、重きを置いているようだ。

「ひとつだけ聞いてもいいですか」

 これまで受身いつぺんとうだったオレがそう聞くと、南雲は初めて少しだけ笑顔を見せた。

「以前生徒会長に就任された時、これから学校を面白く、実力で決めていくと言ってましたけど、具体的にはどんなことをするつもりですか?」

 ここまでくればひとつくらい話を振っておいても損はない。

 そう思い聞いてみる。

「1年がどんな試験をやってきたのかは知らないが、つまらない堅苦しいものばかりだったはずだ。俺はそんな試験にへきえきしてるのさ。そうだな、流行のバーチャルオンラインゲームによる特別試験、なんてのは面白そうだと思わないか?」

「バーチャルオンライン、ゲーム……?」

 オレは一瞬携帯などによるアプリを連想したが、すぐに南雲は笑ってこう言った。

「本気にするなよ」

 ずっとつかんでいたオレの手を南雲は放すと、もう一度笑った。目は笑っていないが。

「デートの邪魔をして悪かったな。またな」

 そう言って、南雲は仲間を追ってカラオケ屋の方へと歩いていった。

 程なくして訪れるせいじやく

「ふー。ちょっとしたハプニングだったね」

 何事もなかったことに胸をでおろすひら

 それに対して、今までしゆくして黙り込んでいたとうはじけた。

「す、すごぉ、綾小路くん! せ、生徒会長に一目置かれてるなんて!」

「いや別に凄くはない」

 テンションの高い佐藤に押されながらも、そう答えた。

「なんか納得いかないんだけど。綾小路くんなんて足が速かったってだけよね? ようすけくんの方が100倍凄いし。足だってマッハだし。勉強だって出来るし。注目されるなら洋介くんじゃないとおかしくないー?」

 ねえ? とかるざわひらに笑顔で話しかける。

「平田くんは確かにすごいけど……。でもでもあやの小路こうじくんも私負けてないと思う!」

 鼻息荒く、そうフォローしてくれるのはうれしい気もするが、そこまでは求めていない。

 可も無く不可も無くくらいで評価してくれればそれが一番いいのだ。

 何よりそんな風に言えば、軽井沢に付けこまれる。

「負けてないって、平田くんに比べて全然勉強できなくない?」

「そ、それは……でも私より頭いいし!」

 確かに、そこは否定しないがそれでいいのかとう

「よかったじゃない綾小路くん。佐藤さんがこんなに評価してくれるなんて、たまたま足が速くて得したって感じ?」

「そうかもな」

 やけに圧の強い軽井沢のめ……ではない言葉を受け止める。

 とにかく今日一日、軽井沢はオレを下げ続ける方針でいることだけはわかった。


    2


 ケヤキモールの映画館は先日よりも混雑していた。新しく公開された映画の影響と、機材トラブルも関係しているかも知れない。

 さすがにぶきの姿はなさそうだ。

 海外の大手映像制作会社が製作した3Dアニメには興味がないのか、あるいはこの混雑を予見して避けたか。……多分後日に来るんだろうな。

 全員であらかじめ予約しておいたチケットを発券し、半券を渡して中へ。

「そ、そうだかるざわさん。お手洗いに付き合ってほしいんだけどっ」

「そうね。上映も近いし」

 そう言ってとうは軽井沢をやや強引に連れトイレへと向かった。

 オレとひらの2人が残される。

「……なんていうか、ご苦労様」

 最初に出てきたのは、そんな素直な言葉だった。平田は偽りのカップルである軽井沢に貴重なクリスマスをつぶして付き合っている。素直に尊敬するところだ。

 それとも本当は軽井沢に対して気がある、ということもあるか?

「軽井沢さんは、僕が最初に救わなきゃならないと思ったクラスメイトだからね」

 その目は軽井沢を恋愛対象で見ている、という感じではなかった。

 日々クラスメイトのためにほんそうする男、平田ようすけの目だった。

あやの小路こうじくんには本当に感謝してるんだ。軽井沢さんの件のこと」

「感謝されるようなことをした覚えは無いけどな」

「船上試験で君と軽井沢さんが同じグループになったことは、本当に良かった。もう彼女は、僕という存在を抜きにして歩き出すことが出来る」

 ひとつの荷物をゆっくりと下ろすように、平田はあんしたため息をついた。

「それはまだなんじゃないのか?」

「僕が彼女の彼氏、という役目をしているから?」

「ああ」

 精神的に軽井沢は強くなった。成長した。それを平田も肌で感じている。

 しかし本当の意味での成長はそこにあるはずだ。

「それは時間の問題、だと僕は思ってる。最近は連絡も最低限しか取り合っていないしね。今日みたいなちょっと例外のパターンは別として、僕はもう必要ないはずだよ」

 確かに平田が感じているように、軽井沢は既に一人で歩き出しているようだ。

 オレが認めるんじゃなく、第三者がそう感じているのなら間違いない。

なことを聞くけどクリスマスは良かったのか」

「うん。僕は軽井沢さんの彼氏だからね。少なくとも今日まで、他の女の子と何かが、なんてことは無いよ。それに多分これからも」

「これからも?」

 分かりもしない先のことを、ひらは予言するように言った。

「僕はねあやの小路こうじくん。周囲の人たちが仲良くしてくれていたら、それで満足なんだ」

「だから恋愛は必要ないと?」

「そう、だね。少なくとも今はそう感じてる」

 これだけ恵まれた容姿、性格、能力を持っているのにもつたいないことだな。

「綾小路くんはどうなの? とうさんとは付き合うつもりなのかな?」

「いや……」

 そんなつもりはない、と否定するとこのデートの行為そのものを否定することになってしまうので言葉に詰まった。

「どうだろうな。今は何とも言えない」

 そう答えることしか出来なかった。

「恋愛をしないって言った僕が言うことじゃないかも知れないけど、綾小路くんは一度誰かと付き合ってみるのも良いかも知れないね」

「今まで彼女が出来たことないんだろ? という突っ込みか?」

「ははは、違うよ。確かに恋愛はしてなさそうだなと思ったけど。でもそれは綾小路くんがモテないからじゃないよね? 恋愛対象になる子がいなかっただけなんじゃない?」

「正直に言えばどっちもだ。モテることもなかったし、その対象もいなかった」

 そんなわけで恋愛に発展するわけもない。

 ホワイトルームにはアイドルたちのような恋愛禁止の決まりはなかったが、恋愛が成立するようなことは絶対になかったからな。

 遊ぶ時間、休日、そんなものはなかったし、トイレと風呂以外は常に監視されていた。恋愛関係に発展するはずもない。

「その生き方は疲れないのか? 自分のことを二の次にして、クラスのためだけに学校生活を送るなんて」

 そんな当たり前のように浮かぶ疑問をぶつけてみた。

「疲れる? そんなことはないよ。むしろ僕にとっては、まとまりの欠けるクラスの方がつらいからね。入学当初に感じていた不安は、正直だいぶ薄らいできたよ」

 平田はこの学校に来て早々に、クラスをまとめるために動いていたからな。無人島では結束が大きく崩れ、一時的に平田の精神状態に陰りが見えたこともあった。しかし、最近はオレでも分かるくらいにDクラスはまとまりを見せ始めている。

 クラス内での陰湿ないじめも見当たらない。Cクラスなどの外的要因は別として、だが。

 平田ようすけはDクラスにとって非常に大切な中核だ。

 もし平田がいなければ、間違いなくDクラスは今も最下位を独走していた。

 だが、平田はどこかもろい……危うい一面も持つ。

 無人島の時は事なきを得たが、あの時以上のクラス崩壊が起きた時、ひらがどうなってしまうのかは予測が付かない。

 こんなことを考えさせられるのは、くしの存在が頭にあるからだ。

 中学時代、櫛田はクラスを崩壊させた経緯を持つ。そして今も、ほりきたに対してそれをちらつかせるようなことをしている。

 つまり必要に駆られればクラスへ爆弾を投下することもある、ということだ。そうなれば平田にかかる心の負荷は相当なものになるだろう。

 中核が機能を止めれば、まとまりかけているDクラスもどうなるか分からない。

 オレはまだ2人が戻ってこないことを確認して、少し違う話をすることにした。

ぐも生徒会長について、平田はどれだけ知ってるんだ?」

 同じ部活仲間だったのなら、1年生の中でも南雲のことを知っている方のはずだ。

 このタイミングなら聞きやすいと判断した。

「どうかな。部活の先輩としてしか、普段は会うことがなかったからね。それも生徒会長に就任してからは挨拶する程度だし」

「なら印象みたいなものでもいい」

 そう少しだけ方向性を変えて聞き直してみた。

「僕の最初の印象としては、面白い先輩、かな。サッカーの練習ひとつとっても、今までにない奇抜なアイデアを積極的に取り入れる人だった。もちろん、全てが全てく行くわけじゃないけど、最終的に面白かった、と思えたりしたんだ。練習って過酷で大変なもののはずなのにね」

 その練習風景を思い出すかのように平田が笑った。

「それに最後には結果を出すって言うか、スキルアップしてるんだよ。僕らが入学する前から、南雲先輩は大会でも結果を出し続けてきたみたいだ」

「なるほど。完璧な先輩だったってことか」

「それは、また少しだけ違う話になるかな」

 肯定すると思っていたが、平田は首を左右に振った。

「栄光の陰には、苦難がつきもの。部をやめて行った人たちは多いみたいだね」

「けど悪いうわさは聞かないんじゃないのか?」

「もう学校に残ってないからじゃないかな。2年の先輩は南雲先輩と衝突して部をやめた後学校もやめちゃったみたいだからね」

「部活だけじゃなくて、学校をやめたのか」

「詳しい理由は、僕にも分からない。どこまで南雲先輩が関与しているかもね」

 あくまでも一連の流れから南雲がからんでいる可能性があるだけ。

 生徒が個人的な理由で学校をやめた可能性は大いにある。

 しかし、引っ掛かりを覚えるのもまた事実だ。

 似たようなことをほりきた兄も言っていたからだ。

 ぐもにとって邪魔な存在は徹底してはいじよしていると。その結果2年は一枚岩になった。

 南雲が光だとするなら、それを憎むべき相手は影。

 徹底的にやみつぶしてきたのだろうが、世界はそう単純には出来ていない。

 光の先には必ず影がある。どれだけ排除しても、新たな影は生まれてくる。

あやの小路こうじくん、もしかして生徒会に入るつもりなのかな」

 これまでの話の流れから、ひらがそう推理するのも無理のない話だ。

「いや、そのつもりは全くない」

 その点はきっぱりと言っておく。もし堀北が生徒会入りをこばむ結果に終わったとしても、オレが生徒会に入ることは絶対にないだろう。

 だが対策を考える必要は出てくる。ちょっとした仕事を頼むのとは違い、生徒会入りすることは日常生活にも大きな影響を与えることになる。かるざわなら指示には従うだろうが、得意不得意で考えれば向いていないのは明白。

 オレの指示に従い、なおつそれなりに優秀で生徒会入りしてもおかしくない人物。

 3つのハードルを越えられる存在など、ほぼほぼいないからな。

「そうなんだ。綾小路くんならくやれそうな気がするんだけどな」

「それはこっちのセリフだ平田。おまえこそ生徒会っぽい人間だぞ」

「僕は似合わないよ。それに部活をやめたくはないしね」

 どうやら平田は卒業までの間、サッカーをやめるつもりはないらしい。

 平田が生徒会に入るなら、オレの手札が一枚増える可能性はあったんだがな。

 ここではそのことを深くは追求しない。

 オレはあくまでも外野である立場から変わるつもりがないからだ。

「生徒会の件はともかく、僕たちも来月からは大変な立場に変わるだろうね」

「それは、Cクラスに上がるからか?」

「うん。上からは警戒され、下からは追い上げられる。ましてクラスポイントの差は肉迫しているからね。下手すれば2月の頭にはDクラスに逆戻りかも知れない」

 そうするのも当然だ。

 クラスポイントは毎月のように変動する。

 何かさいなミスがあれば、平田が予想するような展開にも容易になるだろう。

「そうなった時に、努力出来るかどうかが問題だな」

「全員Aクラスに上がりたいって気持ちは持ってると思うんだけどね」

「多大なる努力と運が必要だとしても、その気持ちは変わらないと思うか?」

「問題はそこだよね。結局上を目指すにはクラスに大きな負担をいることになる」

 好きに選べるのなら全員Aクラスを選ぶだろう。それこそクラス争いに全く興味を示さないこうえんであってもだ。だが、Aクラスとそれ以外とでは要求される条件が異なる。

「僕は───」

 ひらが続けようとしたところで、声が遠くからかかる。

「お待たせあやの小路こうじくん!」

 話の途中ではあったが、とうかるざわが戻ってきた。

 映画の上映も近いため話は一度打ち切りとなり4人で劇場内へ向かった。


    3


 3Dアニメ映画は普段ないのだが、予想を裏切る形で面白かった。

 動物たちの様々な表情や動きをく再現し、そして熱く感動できるストーリーだったと言える。王道ながら、その王道を追求していくとこうなるんだろう、という出来だ。

 館内に持ち込んでいたジュースを両手に持ち佐藤とシアターを出る。

「面白かったね!」

 そう興奮気味に話す佐藤には同意しか出てこない。

 ちょうどおなかいてきた頃合だ。

 少し遅れて平田と軽井沢もシアターから戻ってきた。

 あらかじめ予約しているというランチを食べに4人で移動する。その最中、再び佐藤と2人の会話が始まった。

「あのさ、綾小路くん……。ちょっとなことを聞いてもいいかな?」

 映画を一緒に観て距離が少し近づいたのか、佐藤は先ほどよりも近かった。

 物理的な近さというよりは、心と心が半歩だけ近づいたという方が正しいだろう。

「聞きたいことがあるなら聞いてくれ」

 何でも答えるわけじゃないが、答えられることには答えるつもりだった。

「あーあたしも聞きたーい」

 別々に話をしようと言い出しておきながら、またも軽井沢が乱入してきた。

 その状況を見ていた平田から、ちょっとした意見が上がってくる。

「いい機会だし、みんながお互いに聞きたいと思ってたことを聞きあうっていうのはどうかな?」

 その提案は悪いものではない気がした。

 オレもこの際、平田に聞きたくても聞けなかったことを聞いてみようか。

「賛成~。じゃああたしからね」

 賛成を表明するなり、軽井沢はすぐにオレに視線を向けてきた。

あやの小路こうじくんって誰かと付き合ったこととかあるわけ?」

 その質問はさっきひらに受けた。いや、正確には受けるまでもなく見抜かれていたわけだが。一日に2回似たような話をされるとは思ってもいなかった。

 基本的に彼女がいない=情けない、が通説の男子としては悲しい限りだ。あまり気持ちよく答えられるものじゃないが、かるざわとうの視線が熱くそそがれる。

 佐藤はともかく軽井沢は完全に遊んでいるとしか思えないような態度だ。

「今はいない」

 オレは正直に話しつつも含みを持たせてみた。

 こう表現すれば、過去にはいた、という風に受け取らせることも出来る。

「はい。年齢イコール彼女なしのげん頂きましたっ」

 曖昧にして答えたつもりだったが、軽井沢は決め付けるようにそういいきった。

「綾小路くんさー。それってモテない男の逃げ口上だから覚えておくといいんじゃない? 『今は』なんてつけるほうが怪しいから」

「そうか? 過去に彼女がいても今いなければ『今は』いないになると思うが」

「じゃあ過去にはいたわけ?」

「いや……いない」

「ほらやっぱり!」

 うれしそうに軽井沢がはしゃぐ。何となく佐藤も嬉しそうだ。

 軽井沢の理論には説得力が欠ける気がしたが否定する材料も見当たらない。

「私は、彼女がいないって全然気にすることじゃないと思うな。ほら、やまうちくんとかおにづかくんみたいに露骨にモテない場合はマイナスだけどさ。付き合いたい相手を見極めてるって言うか焦ってないだけだよね綾小路くんは」

 そう言ってフォローのようなことを佐藤がしてくれる。

「佐藤さんって綾小路くんのこと、結構理解してるんだ」

「理解……出来てるといいなあ。でも、まだ全然わかんないことだらけ。私からも質問させてね。綾小路くんは、さ。髪の長い子と短い子だったらどっちが好き?」

 またオレに質問が飛んでくる。今度ぶつけられる質問も、結構ストレートだ。

 好きなタイプに彼女の有無、今度は好きな髪形か。

 複数の質問を組み合わせると女性像が浮かびだしそうな感じだな。

「気にしたことないな……。その人に合ってれば長くても短くてもいいんじゃないか?」

「なんかはん的な回答よねー」

 まさに模範回答をしたせいで、軽井沢から指摘を受ける。

「僕も同じだよ。男子でも女子でも、その人に似合っている髪形なら問題ないと思う」

 絶妙なタイミングで平田からのアシストが入る。

 形勢不利と見るや否や、かるざわひらに対して満面の笑みを見せた。

「やっぱり? あたしも実はそれ派なんだよね。相手の好みに合わせて髪の長さ変えたりする子もいるけど、似合ってるかどうかを最優先に考えなきゃ意味ないって感じ?」

 当初から軽井沢は平田推し、平田イズムを人前では貫いてきているが、相変わらず見事だ。強気な性格と強引さが態度に見事に表れている。

 とうとオレをくっつけるのが軽井沢の目的だとするならば、オレの悪印象を植え付けるのは如何いかがなものかと思うが、時として予測は大きく外れるのかも知れない。

「髪形とか束縛してこないって、すごくいいと思う!」

 佐藤はオレに対してマイナスの印象を持つどころか、ちょっと目を輝かせている気がしたのだ。

 軽井沢もか、意外とやるわね佐藤さん、みたいな目で見ている。

 下げるようなオレへの発言を、佐藤が救い上げてくれていた。

「なあ平田、モテる自覚みたいなのって、あるのか?」

 ここはやはり天下の平田大先生に意見を伺おう。

 そう思ったが、何故か軽井沢ににらまれる。佐藤も同じような顔をしていた。

「ちょっとあやの小路こうじくん。ようすけくんに質問じゃなくて佐藤さんにするべきじゃないの?」

「そうだよ。これじゃ綾小路くんと平田くんがお見合いしてる感じ?」

「……そう言われてもな」

 佐藤の前ではオレと軽井沢には大して交流がないことになっているため、変に食い込んだ話題は振れない。かといってほぼ初対面の佐藤にも話題を振りづらい。

 となると、一番話しやすい平田に逃げたくなるのも無理のない話だ。

 こっちがどれだけ微妙な話題を振っても、平田はさばいてくれる。

 それに個人的に、平田に聞いてみたいことがあるんだから仕方ないだろう。

「何でも聞いてよ綾小路くんっ」

「……そうだな……」

 何とか脱出の糸口がないか探していると昼食場所のファミレスに辿たどいた。

 自然な流れで一度会話が中断する。

 佐藤は事前に予約しているらしく、スムーズに席へと案内される。

 案内された席では4人分のお手拭や割り箸などが用意されていた。

「4人分、なんだな」

 予約していたのは2人。

 席には、オレと佐藤の分しか並べられていないはずなんだが。

「あー、さっきお手洗いに行くときに佐藤さんたちからここのこと聞いてさ。追加で予約しておいたんだよね。ね、佐藤さん」

「う、うんっ」

「そうなのか。手際がいいな」

「まーね。こういうことならあたし、ひやくせんれんだから」

 胸を張って自慢するかるざわに、オレは視線を向ける。


うそつけ』


 と。すると軽井沢からも視線が戻ってくる。


『誰とも付き合ったことないきよたかには言われたくないしー』


 そんなところだろうか。

あやの小路こうじくんから、何かとうさんに聞きたいこととかないの?」

 視線を向けた代償だろうか、席についても似たような話題からは逃げられないようだ。

 軽井沢は再び同じ話に戻してきた。

「……休日とかいつも何してるんだ?」

 困った末に出した話題だったが、露骨に軽井沢が、うわー、な顔を見せる。

「なにそれ。それがしぼした質問?」

 先ほどから軽井沢は、ひらにも分からない範囲でいらちを覚えているだろう。

 、事前に仕入れた佐藤の情報を全く生かさないのか。疑問に思っているはずだ。

 だがオレは元々デートを成功させるためだけに情報を仕入れたわけじゃない。

 佐藤という人物について知りたいから情報を集めていた。その違いは大きい。

「いいよ軽井沢さん。私、綾小路くんから聞かれてうれしいし」

 笑顔でそう答えると、佐藤は少し考える仕草を見せた。

「んー。基本は友達と遊んでるかなー。一人だとつまんないしね」

 多分、佐藤が仲良くしている女子グループとだろう。何となく面子メンツが頭に浮かぶ。

「でもたまに一人で色々検索とかしてるかも。ファッションデザイン関係とか」

 ファッションデザイン。普段あまり聞かない言葉が佐藤から出てくる。

「私、ちょっとデザイナーもいいなーって思ってるからさ」

「へぇ~初耳。佐藤さんそっち系だったんだ」

 どっち系かは分からないが、女子には女子に通じる会話があるらしい。

 佐藤は二度三度うなずいて見せた。

「もしAクラスで卒業できたら、良いとこ入っちゃおうかな、なんて」

 そう言って佐藤は嬉しそうに妄想をふくらませる。

 Aクラス卒業のおんけいを期待するのは悪いことじゃないが、Bクラス以下で卒業した時にもくやれるよう考えておくとベストだ。

あやの小路こうじくんは、将来どうするとか考えてるの?」

 オレが投げたボールが、ゆるやかにとうから返球された。

「……進学、かな」

 まだ将来の職業なんてものを想定していなかったオレは、無難に答えた。

「うわ、私はやだな。高校卒業してからも勉強するなんて耐えられないし、絶対」

 進学と聞いて佐藤が拒絶反応を示す。

「中学が終わったら義務教育も終わりって言うけどさ、実質高校までが義務教育みたいなものじゃない? 中卒だと何かとバカにされちゃうわけだし」

 バカにされるかどうかはともかく、高校は出て当たり前、というふうちようはある。

 実質義務教育という表現もけして大げさではないかも知れないな。

「あたしは大学ありかも。サークルとかすごく楽しそうだしさ」

 一方、かるざわは意外にも進学には否定的じゃなく大学生活を想像して答えた。

 おのおのぼんやりとだが、将来のことは考えているんだろうな。

 そんなこんなで、いつものグループとは違った楽しさの一面を持った食事だった。

 ただ毎日だと物凄く疲れるだろうな、という疲労感もあった。


    4


 食事を終え、ケヤキモールを遊び歩き終わると時刻は5時前。

 5時間ほどにもなったWデートもそろそろ終わりが近づいてきた。

 過ぎ去ってみれば意外と面白かったと言える一日だったかも知れない。

 ただし、軽井沢を含めると色々大変なので次回は遠慮願いたいところだ。

「それでどうする?」

 解散になるのかどうか、その確認をオレからする。

 もしかしたら追加でどこかに行こう、そんな可能性も視野に入れていたが……。

「それじゃああたしたちは……帰ろうか、ようすけくん」

 先ほどまで楽しそうにオレを散々いじって来た軽井沢だったが、突如退散を宣言する。

 ここからは邪魔者だろうと、急なはいりよを見せたのだ。

 どうやらこの先、2人きりにするのが狙いの何かがあるのだろう。

 佐藤と軽井沢が目と目で合図を送っているのが見えた。

 勝手ながら想像をふくらませるのは難しくない。

 ともあれ、それに同意を示すようにひらうなずく。

「もう遅くなってきたしね。帰ろうかかるざわさん。今日は遊べて楽しかったよあやの小路こうじくん。またね。それととうさんも」

 一日ひらと過ごしたが、実に聖人君子にふさわしい男の動きをしていた。

 全ての人間に対して、上手に接することが出来る平田。Wデートなんて慣れないものに対するメリットはこの男を置いて他にないだろう。

「2人とも今日はありがとう」

 平田と軽井沢は寄り道せずにりように戻るようだ。2人で足早に歩き出す。

 佐藤がその背中を暖かく見守る。

「それでどうする?」

「えーっと、さ。ちょっとだけ遠回りして帰らない?」

 そんな佐藤の提案。特に断る理由は無いのでしようだくする。

「そうだな……じゃあ、あっちから帰ろうか」

 少しだけ、オレたちは遠回りすることを決め、遅れて帰路に就くことにする。

 先ほどまでマシンガンのようにトークしていた佐藤は、ずいぶんと静かになっていた。

「ごめんね、なんかWデートみたいなのになっちゃって」

「最初は驚いたけどな」

「やっぱりあの2人ってすごいよね。なんかカップルとしてのオーラが違うって言うか」

 常に軽井沢は、彼氏役である平田を目立たせるように動いている。

 それが佐藤にも当然伝わり、自然と軽井沢の存在も大きく見えているからな。

あこがれちゃうよね~」

「確かにな」

 オレたちは近い距離を歩きつつも、手と手が触れ合うことはない。

 軽井沢たちといる時に見せていた大胆さは、カケラも見られなかった。

 けして居心地が悪いわけではない、だけど普通ではない空気への変化。

「今日は誘ってくれてありがとう。楽しかった」

 沈黙を破るようにそう答えたが、か佐藤の顔は浮かなかった。

「ねえ綾小路くん……今日は楽しくなかったんじゃない?」

 そんなことを聞かれる。

「そんなことはない」

 素直に楽しめたからこそ否定したが、何故か佐藤には伝わらなかったようだ。

「けど……」

「なんでそんな風に思ったんだ?」

 理由が分からなかったため、問い返してみる。

「だって、今日一度も綾小路くん笑ってないし……」

「笑ってない、か」

 そのことについて説明する前に、とうが言葉を続ける。

「一度くらいは笑顔が見れるかなって思ってたんだけどね」

 どうやら佐藤は、オレと一緒にいてそんな部分を気にしていたらしい。

 Wデートの内容そのものに、不満は本当になかったんだが。

 それをどう伝えたものか考えていると、佐藤は重そうに口を開いた。

「やっぱり私が、前にほりきたさんをいじめようって言ったこと……関係してる?」

 不安げな瞳。泣き出しそうな顔をしていた。

「そういえばそんなこともあったか」

 入学して間もない頃、堀北は孤立してクラスメイトをバカにする傾向が強かった。

 その風当たりは当たり前のことで仕方のないものだったが、佐藤もまた、堀北に対して良い感情を抱いていなかったのも事実だろう。

 実際、一度グループチャットでは堀北を虐めないかという提案もあった。

 オレはそれをったが、今も本人はそれを覚えていたらしい。

「そのことは気にしてない。というか今の今まで忘れていたくらいだ」

「……本当に?」

「そもそもあの時点で堀北がうとまれるのは無理もないことだった。それに、本人のいないところでちょっと話題に出しただけで、実際に何か行動したわけでもない。そんな下らないことで相手の評価を決めたりはしない」

 陰口なんてものは、人間誰しも言葉にするものだ。

 それを当人の前で言ったり実際に実行しなければさしたる問題にはならない。

 ただし『自分も陰口を言われても文句は言えない』という部分さえ理解していればの話だが。

「ほんと?」

「ああ。本当だ」

「でも、楽しくなかったんじゃないの? 笑ってくれなかったし、さ」

「笑わないのは……なんていうか単純に笑うのが苦手なだけなんだ」

 さっき否定しそこねた部分をフォローしておく。

 それがどこまで佐藤に伝わったかは、正直分からない。恐らくはなぐさめ程度に言ったと受け止められただろう。正直に言えば、いくらでもフォローのしようはある。

 昼間かるざわからの質問等に関しても、もっと良い受け答えをする自信はあった。

 だが、オレは意図的にそうしなかった。


『そうするほどの相手ではない』というジャッジを下していたからだ。


 そういう意味では、とうの感じていた『面白くなかったんじゃないの?』という疑問もあながち間違ってはいなかったのかも知れない。

 オレは遊びとして楽しいとは感じていたが、佐藤の願う方向でないことだけは確かだからだ。これ以上好かれても困る、という判断を下していた。

「笑ってなかった理由、納得できないか?」

「ううん……そんなことはないけどさ」

 重たい沈黙が流れる。

 今日一日、自分で過信するわけではないが佐藤からは悪くない好意を向けられていた。

 だが、出来ればここでその好意が踏みとどまって欲しい。

 そのために会話もままならない男として、微妙な立ち振る舞いを続けたのだから。

 しかし、佐藤は一度背を向けるとかばんから何かを取り出し、自分の後ろに回した。

「あ、あのさ───」

 そして振り返る。何かを決心したかのような、佐藤の強い視線がオレをとらえた。


 どうやらオレの願いはかなわないらしい。


「あの……その……わ、私と付き合って! あやの小路こうじくん!!」


 びゅっと、一陣の風が吹いた。


 人生で初めて受ける正真正銘の告白。

 視線の先、しげみに隠れる存在はひとまず無視しておく。

 ここでのな長考は、単純に佐藤を苦しめるだけにしかつながらない。

 オレはすぐに言葉を選び決断を下す。

「悪いな佐藤。オレは、おまえの期待に答えてやることはできない」

「っ!」

 勇気を振り絞って告白してくれた佐藤に、オレは素直にそう答えた。

 いや、佐藤のことが嫌いなわけじゃない。性格や外見に問題があるわけでもない。

「そ、そっか。やっぱり、ダメ、か」

 苦笑いなのかなんなのか分からない表情を見せながらも、佐藤は必死に笑顔を崩さないように取り繕っていた。デートの最中、佐藤も薄々は感じていたはずだ。

 佐藤に対して強い興味を抱いていないように見える、ということに。

「よ、良かったらさ、今後の参考までに……理由を教えてもらえない、かな? やっぱり他に好きな人がいるから?」

「それはない。ただ、今の段階では付き合えない。純粋な気持ちの問題だ」

 相手を好きになっていない状況で、付き合う選択を選ぶことは失礼に当たる。

 これがオレの表の理由。

 とうに向けるべき真っ当な理由だった。

「佐藤だろうと、無関係だが話に出てきたほりきただろうとくしだろうと、答えは全部同じだ。相手を好きになってないのに付き合うことは出来ない」

 もちろん、内心おもってくれているであろうあいだったとしても同じ返事をした。

 彼女が直接想いをぶつけてきているかそうでないかの違いでしかない。

「情けない話とも言えるが、オレはまだ本気で異性を好きになれたことが一度もない。だから振ったとか振られたとかじゃなく、まだ恋愛を出来るほどオレが成長出来てないってことなんだ」

「……そっか」

 その事実を受け止めてもらうことしかオレには出来ない。

「私、急ぎすぎたのかも知れないね。そうだよね、1回のデートじゃ、相手のことなんてまだ全然わかんないもんね」

 まゆを寄せながらも、佐藤は自分に言い聞かせるように二度三度うなずいた。

 告白も、その返事も、お互いに物すごい勇気を必要とする。

「オレはチャンスを逃したのかも知れないな」

 けんめいに思いを伝えてくれた子の返事を断る。

 バカな選択だと自分でも感じる。

 彼女を作って人並みの学生生活を送りたい。

 そんな気持ちはしっかり持っている。とうが相手なら文句もない。

 今からでも、やっぱり付き合って欲しいと願い出るほうが正しいジャッジだ。

 だがそれでも、もうオレの口は閉ざされて開かない。

 ポケットの中の携帯が震える。

 誰からかは分からないが、電話の着信だった。

 もちろんこの状況で出るわけにもいかず無視をする。

 その間、佐藤は手にしていた包装された箱をかばんの中にいなおしていた。

 そして顔をあげてこう言った。

「今日はありがとう、あやの小路こうじくん」

 オレからの返事、その内容が変わらないことをさとった表情だった。

 佐藤が今この瞬間、オレを好きでいてくれたとしても、明日もそうである保証は無い。

 この先、オレを見続けてくれるのか新しい恋を見つけるのかも分からない。

 ただ佐藤が、初めてオレに告白をしてくれた相手だということだけはしようがい忘れないだろう。

「また……遊びに誘ってもいいかな?」

 恐らく佐藤がしぼした精一杯の手向けの言葉。

「もちろんだ。オレも佐藤と遊ぶのは楽しかったし、誘いたいと思ってる」

 それはまぎれもない本音だ。

「うんっ」

 返ってくる短いうなずき。

 どこまで佐藤に届いたかは分からないが、告白の時間は過ぎ去った。

 重苦しい空気が残りつつも、急速に戻ってきた日常。

 らしが吹き荒れ、冷える身体からだに突き刺さる。

「寒くなってきた。帰ろうか」

 望む望まないにかかわらず、時間は過ぎている。

 いつまでもここで、2人立ち尽くしているわけにはいかない。

 オレが歩き出そうとすると、佐藤は立ち止まったまま動かなかった。

「佐藤?」

 不思議に思い振り返ると、佐藤の目の端には大粒の涙がまっていた。

 それがこぼちる前に腕で涙をぬぐい、とうは一度笑う。

「ごめ。ちょっと、私走って帰る!」

 そう言って佐藤は雪を踏み鳴らし、オレを置いてりようへと駆け出した。

 その背中に声をかけることが出来ず、ただオレは静かに見送ることしかできなかった。

「考えるまでもない、か」

 オレのような人間に振られたからと言って気にすることはないが、当の本人にしてみれば精一杯の勇気を振り絞った上でのことだ。

 その気持ちが通じなかった以上、平然と隣を歩いてなんて帰れないか。

 あとで寮ではちわせないよう、その背中が見えなくなるまで見送る。

 もしも生徒会の件や父親の件がなければ、オレの答えは違っていただろうか。純粋な高校1年生の男子として、好意を向けてくれる女子の手を取っていただろうか。

 もし、なんて仮定で考える。体育祭のリレー前の告白だったなら、オレは佐藤を受け入れていた気がする。しかし皮肉なことに、佐藤がオレに好意を抱いたのはそのリレーだ。

 自分自身の思考回路が、普通とは違うことは客観的に理解している。

 降りかかる災難を防ぐことを優先し、行動している。

「さて……」

 帰る前に片付けておくべき問題を終わらせておくか。

 そう思いしげみに向かって声をかけようとした時だった。

 オレの下に再び一本の電話がかかってくる。

 携帯の画面には『非通知』の文字。

 一瞬無視しようかとも考えたが、単なる悪戯いたずら電話とは思えなかった。

 通話ボタンを押し、耳にあてる。

 性別すら分からない相手の出方をうかがったが、数秒待っても沈黙が続いた。

「もしもし」

 こちらから一度、そう声をかけてみる。

 だが返事が返ってこない。

 なのでオレはすぐに結論を出そうとした。

「切るぞ」


「信じていいのか?」


 破られた沈黙から返ってきた言葉。

 意味をしていない言葉。

「唐突だな。何を信じてもらうのかがさっぱり分からないんだが」

 説明を求めて聞き返す。

ほりきた先輩が言う、ぐも降ろしだ。おまえが協力者になると聞いた」

 どうやら堀北兄からオレのことが例の2年の生徒に伝わったようだ。

 非通知でわざわざかけてくるとは、慎重なことで。

 だが電話してきたということは、これから会うつもりがあるってことだろう。

 電話番号を伏せていても、声を聞かせているのだからそうでなければおかしい。

「念のために聞きたい。名前は?」

 堀北の兄貴はこちらの番号を伝えても、その正体は教えていないようだ。

 ま、声を聞かせているし番号も知られている。

 調べていけばオレまで辿たどくのは難しくないだろう。

「答える必要はないと思うんだが」

 そう分かっていつつも、一度断る。

「まぁいい。声には覚えがある。大体見当はついているからな」

 予測はついている、か。となるとこちらも大体の目星はつけられそうだ。

 2年でオレの声を知っている生徒はそう多くない。

「急な話だと思うだろうが、今から会いたい」

 やはりそう切り出してきたか。

 だが、こっちがその予測をしていたことは伝える必要はないか。

「それも唐突だな。もっと警戒しなくていいのか?」

 既に夕暮れ時、間もなくは沈んでいくだろう。

「こっちは問題ない。おまえにその意思があるならな。すぐ合流できるのか?」

 オレは一度しげみを見た。

「そうだな。あんたも運がいいな」

「運だと?」

「正直、今じゃなかったら断ってるところだ」

 電話の向こうで、相手は不可解さを感じているだろう。

 今なら応じてもいい、とオレが言ったことの意味を考えている。

 そんなものを考えても理解など出来るはずもない。

 オレは今自分がいる場所を口頭で伝える。

「近くの校舎のそばに人目につきにくい場所がある。そこで10分後に会いたい」

 そう短く返事が返ってくる。

「悪いがちょっと片付ける用件がある。20分後でもいいか?」

「……分かった」

 通話を終える。

 指定された場所までは5分もかからないが、あえてゆうを設けた。

 とりあえず、15分の間に片付けておくべきことをやっておくか。

 寒空の下でこごえて待っている相手がいる。

「そんなところにいつまでも隠れてると風邪引くぞ」

 オレは樹木としげみの陰に隠れる人物に声をかける。

 だが返事は返ってこない。

「これから予定が入った。置いていくけどいいのか?」

 もう一度声をかける。

 すると中途半端に観念したのか、姿を現さず声だけが届く。

「……いつから気づいてたわけ?」

「最初からだ。ここでとうが告白することも聞いてたんだな、かるざわ

「べ、別に。ちょっとね」

 微妙なし方をしながら、軽井沢が立ち上がる。

 茂みに身を寄せていたためか少しだけ肩に雪が乗っかっていた。

「さむっ」

ひらはどうしたんだ?」

「さあ。適当に帰ったんじゃない?」

 興味なさそうに答えてから、道路に出てくると身体からだの汚れと雪を払った。

 音を立てないためにずっと潜んでいたのか、鼻が赤くなっていた。

「寒かっただろ」

「ちょっとだけね」

 強がる必要の無いところで強がって見せる軽井沢。

 そんな軽井沢には、凍えていた自分のことよりも気になることがあるらしい。

「ってかさ、なんで佐藤さんからの告白断ったの」

「なんでって。おまえが言ってただろ。好きでも無いヤツと付き合うのは最低だって」

「それはそうだけど……ぜん食わねばたかようって言うでしょ」

 どんなだそれは。聞きかじった知識を使おうとして間違えている。

「据え膳食わぬは男の恥、だろ」

 据え膳とは、すぐに食べられる状態で用意された食事のこと。

 そしてそれに手を付けないのは男の恥だってことから、情事のことを言う。

 まぁ軽井沢の場合は性的な意味じゃなく、付き合える状況なんだから付き合わないのはおかしいと言いたいんだろうが。

「佐藤は良くも悪くも普通の女子だ。当たり前の恋愛をしたいと思ってる。けど、客観的に見てオレにその当たり前の恋愛が出来ると思うか?」

「それは……ちょっと想像しづらいかもね」

 オレのことを誰よりも知るかるざわだからこそ、その点を理解することが出来る。

 当たり前の恋愛にはオレだって人並みにあこがれる。可愛かわいい子に告白されて、甘酸っぱい学校生活を送ってみたいと考えたことも1度や2度じゃない。

 ただ、やっぱりとうの思い描く恋愛模様にはならないだろう。

 ここで強引に付き合っても、彼女の時間を無駄にろうさせるだけ。あとでげんめつしても失った学校生活は戻ってこないからな。

「あんたさ~。あたしが言うことじゃないけど、ちょっとくつすぎかもね」

「卑屈?」

「確かに、きよたかは普通の男子とは違う。それに普段みんなが見てる姿はうそなわけでしょ」

「嘘というか、全部を見せてないのは事実だな」

「だからその姿を見せた時に幻滅する女子がいるって考えるのは、正しい判断。だけどさ、好きになったらそんなこと関係なかったりするもんなのよね。あたしの勝手な予想だけど佐藤さんは清隆を受け入れたと思う」

「そういうもの、なのか?」

「そういうもんなの。ま、でも振っちゃった以上それも終わりだけどね。せつかくあたしがキューピッドの矢を放って上げたのに。はじかえしちゃうなんて」

「キューピッドの矢?」

「気にしないで。もう関係ないことだから」

 ニヤッと小悪魔みたいに笑ってきた。

「女子って切り替え早い子多いから。佐藤さん、他の男子を好きになるんじゃない?」

「それならそれで仕方ない。そういうものだろ」

「なーんかくやまぎれにも聞こえるけどね」

「ほっといてくれ。オレの選択だ」

 そう言ったが軽井沢には納得できない部分が残ったようだ。

「もう遅いけどさ、試しに付き合って見ることも出来たんじゃないの? 違う?」

 その指摘は正しい。

 最終的な着地点に問題はあったにしても、く行く可能性は十分あったからだ。

 今オレ自身が佐藤を異性として『好き』ではなくても、大切にしていけば、好きになっていたことだってある。

「それにさ、あんたなら佐藤さんの気持ちには気づいてたんじゃない? クリスマスにデート誘ってくるなんて普通の友達だったら絶対ないし。それをオッケーしたってことは、付き合うことだって頭に入れてたんじゃないの?」

「デートしてみた結果、佐藤と馬が合わなかったから、とはとらえないのか?」

「それは……あるかも知れないけどさ。でも今日見てる限りじゃく行ってるように見えたし。あんただって結構楽しそうにしてたじゃん」

「正直に言えば、とうと付き合うことを全く考えなかったわけじゃない」

「ほ、ほらやっぱりね」

「佐藤と付き合うことで、多分色々経験出来ただろうしな」

 そんなオレの言葉に引っ掛かりを覚えたのか、やや怒ったような顔を見せる。

「何よ、その色々って」

「恋人同士の行き着く先、ってことだな」

 出来る限りマイルドにだが伝える。当然意味はかるざわにも分かっただろう。

「はあ!? あんた、そんな最低な理由で付き合うつもりだったわけ!?」

「おまえはしたいと思わないのか?」

「し、知らないし! あたしだって全く未知の世界なんだから!」

「なら、その未知の世界ってヤツに飛び込んでみたいとは考えないのか?」

「それは───それは、だって、結局のところ相手次第じゃないの?」

「……まぁ、誰でもとは思わないな」

 想像してみたが、もちろん出来る限り自分が良いと思える相手ではあってほしい。

「でしょ!」

「けど佐藤なら別に不満はなかった」

「む……じゃあ、じゃあなんで佐藤さんの告白断ったのよ。あんたの言う、その未知の世界ってヤツを経験できたんじゃないの!」

「そんなに怒って責め立てるな」

「怒ってないし!」

 100人が100人、今の軽井沢は怒っていると答えるだろう。

 もちろん、怒っているのかは考えるまでも無い。

「オレが佐藤と付き合う選択を選んでいたとして……おまえは今、オレの隣にいたか?」

「え?」

「それが、オレが佐藤を選ばなかった一番の理由でもある」

 理解の及ばなかった軽井沢が、言葉の意味を考える。

 あの告白で佐藤と付き合う選択をオレが選ぶことは、確かに学生生活の楽しみに大きくつながっただろう。恋人が出来て、楽しい時もつらい時も共にする。そしてより深い仲になる。世の学生の大半がそんな甘い未来を一度は想像したはずだ。しかしこれらは、佐藤と付き合うことが軽井沢のメンタルに全く影響を与えない場合に限っていた。

 特定の相手を選ぶということは、つまりは取捨選択でもある。

 ここで佐藤を選べば、今後軽井沢を有用に使いこなして行くのは難しくなっただろう。

 それは単なる予測ではなく、事実こうしてかるざわはオレに詰め寄ってきている。

 もしとうを選んでいたら、軽井沢はオレへの警戒心を強めたはずだ。

 屋上での一件は、確かに軽井沢にとって大きなターニングポイントだった。オレに対する軽井沢の信頼度は跳ね上がったし、今後裏切ることは無くなったと言っても過言じゃない。りゆうえんさかやなぎ、あるいはぐものような存在が近づいてきても、軽井沢は崩れない。

 しかし、唯一例外を生むとすれば今回のような件だろう。

『自分の代わり』という存在。自分が不要になってしまうんじゃないか、という不安は焦りを生む。結果出来ないことを出来ると言ったり、弱気になって出来ることが出来なくなってしまう恐れが生まれる。

 そうなった時、軽井沢の魅力は半減するといってもいい。それをした。

 もちろん、佐藤が本当に軽井沢に取って代わるほどのいつざいだったなら、話は違っただろう。佐藤をメインにえつつ、軽井沢をサブで利用する手もあった。

 だが今日の接触を踏まえて改めて確信する。

 佐藤では軽井沢の代わりは務まらない。

 根本的な考え方や、メンタル面などで、軽井沢には遠く及ばないと断言できる。

 しくも1回目のデートにして、その部分が強くていした。

 仕組まれていたWデートを偶然と装いきり、今も平然と隠し続けている軽井沢に対し、佐藤は明らかに何度か動揺していたり、逆に落ち着きすぎている部分があった。

 そして決定打となったのは南雲とオレがたいした時だ。軽井沢は迅速に行動を示したが、佐藤には割って入ることすら出来なかった。いざという時その部分は大きく差が出る。

 この先、オレには避けては通れないであろう問題が3つある。

 生徒会の問題は究極のところ無視も出来るが、坂柳とオレの父親はそうはいかない。

 連中が暴走してしまうと、それだけでオレの立場は平気で一転二転する。その危険性がはいじよされるまでの間、軽井沢には円滑に働いてもらわなければならないのだ。

 それにちやばしらや坂柳理事長の動向も気がかりだ。教師側が不用意なことをするとは思えないが、バックグラウンドが見えてきた今、それもまたオレの監視対象だ。

 そういう意味でも軽井沢けいの存在は、オレにとって欠かせないものだと言える。学生から見れば圧倒的立場とけんを持つ理事長ですら、軽井沢をハニートラップに使えば社会的に沈めることだって不可能ではないだろう。

 まぁ、向き不向きはあるが……。性的なものは軽井沢には対応出来ないだろうしな。

 軽井沢はとにかく汎用性が高い。

「薄々そうじゃないかとは思ってたけどさ。きよたかは相手を道具としてしか見てないよね」

「そんなつもりはない」

 そう答えたが、これまで何度も利用されてきた軽井沢に届くはずも無い。

「あのさー、素朴な疑問なんだけど、あんたって誰かを好きになったこととか、ない?」

「今のところはないな」

 好きになってみたい、と思ったことはある。

 その機会が、偶然訪れていないだけだ。


 ───あるいは。


 オレの心には『恋心』なんてものは、最初から存在しないのかも知れないが。

 男だとか女だとか、生物学的な違いは理解していても、その先が真っ暗だ。

 ホワイトルームにおいて、それが常識だったように。

「……結局……」

「なに?」

「いや、なんでもない」

 結局オレは、ホワイトルームを出てもなお、やはりホワイトルームの中にいるんだろう。

 常に自分を守るための下準備を欠かさない。

 本来の学生生活に、そんなものは不要なはずなのに。

 素直にデートを楽しみとうと付き合う。それが当たり前の未来でもあるはず。

 そんな未来を、キャンバスに描くことができない。

 様々な相手からの仕掛けに対して、万が一の保険をかけようと動いてしまっている。

 他人がどうなろうと、最後に自分が勝ってさえいればいい。

 ……この根本的な考え方は死ぬまで捨てられそうに無いな。

 オレが歩き出すと、かるざわは少し遅れて歩き出した。

 けして隣に並ぶことはなく、されど会話は出来る距離をキープする。

 もし誰かに見られても偶然を装える絶妙な距離だ。

「あーあ。佐藤さんのために一日頑張ってあげたのに、無駄骨だったなー」

 数日前、屋上でひどい目に遭わされたとは思えないような立ち振る舞いだ。

「ちょっと前にあんな出来事があった割りに、よく立ち直ったな、軽井沢」

「……に何年もいじめぬかれてないし」

「年季が違うってことか。確か小学生に上がった頃から、だったか」

 長きに渡る虐め、それがやっと解放されたんだ。

 これだけ身軽になって、高校生活を楽しめるのはてんの才とも言える。

 しかし軽井沢は少し不思議そうな顔をして今の話を聞いていた。

 だがすぐに理解できたのか、納得して口を開いた。

「あ……そっか。そういうことだよね。ごめんきよたか、その話ちょっとだけうそが入ってる」

 ふと、何かに納得したようにかるざわうなずいた。

うそ?」

「あたしが9年間いじめられてたってようすけくんが言ってた話。あれは嘘。ほら、中学時代だけ虐められてたって言うより小学生の頃から虐められてたって言った方が助けてもらいやすいと思ったのよね。環境が変わっても虐めが続いているって知ったら、高校でも同じことが起きかねないって考えてくれそうじゃない?」

 軽く笑って見せて、ちょろっと舌を出した。

 そういうことか。ひらを確実に利用するためについた嘘。相手を利用する時にそこまで考えていたのも、軽井沢のしたたかさをうかがわせていた。

「つか……なべたちをけしかけたこと、改めて謝罪とかないの?」

「言われてみればそうだな。デートのことですっかり失念していた」

「後あれ。もう連絡しないとか言ってたのにあっさり連絡して頼ってきたし。そういうとこ、ちょっとフォローが足りないって感じ」

「連絡しないと言った件はてつかいする。障害は取り除かれたしな。良かったら今度おびさせてくれ」

「全然心のこもってなさそうな話だけど。先には期待しないから今お詫びしてよ」

「今? どうやって」

「あたしも色々話したんだからさ、きよたかからも少し聞かせなさいよ」

「何を」

「今日の昼間、ぐも生徒会長に声かけられてたじゃない? あれどういう流れ?」

 軽井沢としてはとうの件と同じくらい気になっていたことなのかも知れない。

 お詫びに要求してきたのが生徒会の話とは。

「あんたも大変よね。どういう理由で体育祭のリレーを本気で走ったのか知らないけど、どんどん事実に気づく人が増えていってる感じでさ」

「それも打ち止めにするさ。幸いクラスは当初に比べて団結力が強まってきた。オレが何かしなくてももう問題ないだろ」

「そうだけど、その考えってらしくないじゃない。団結力だったらBクラスの方がずっとずっと上だし。その点で勝てるとは思えないけど?」

 そう言って軽井沢は続ける。

「団結力が強まったことにして、自分が抜け出したいだけでしょ?」

流石さすがだな。正解だ」

 まだDクラスは発展途上も発展途上。AクラスにもBクラスにも負けている。

 だが、勝てるようになるまで面倒を見るつもりは更々ない。

「けど体育祭でちょっと目立ったからってあそこまで注目される? 不自然じゃない?」

 足が速いくらいで、ぐもみやびに目を付けられるのはおかしいと言いたいようだ。

 今のかるざわになら説明しておいても問題ないだろう。

 いや、むしろ話しておくべきことだ。

 こちらから切り出そうと思っていた件だけに手間が省けた。

「ウチのクラスのほりきたと元生徒会長が兄妹きようだいだってことは?」

「なん、となくはあくしてるかな。そうじゃないかな? ってレベルだったけど。そういえばリレーの時、生徒会長……元って付けなきゃ分かりにくいか……の人と一緒にスタート切ったりしてたじゃない? きよたかは顔見知りなのよね?」

「ああ。妹の方とのつながりで。それで色々と兄貴側に目を付けられてる」

「あんたの隠れた仮面の下の素顔を知ってるってわけね」

「仮面の下、か。知られてるのは表面上だ。この学校でお前ほどオレを深く知ってる人間は他にいない」

「……ふうん。別にうれしくなんてないけどね」

 そう答える軽井沢ではあったが、満更でもないように見えた。

 他人の秘密を知ることは、当人にとって重たいケースも間々あるが、自分が特別だと思われていることに喜ぶケースも珍しくはない。軽井沢にしてみれば自分が握られている秘密と同様にオレの秘密を知っているという事実が心に刺さるだろう。

「元生徒会長って肩書きは色々と便利だからな。屋上の件でも少し世話になった」

 屋上から先に軽井沢を下ろしたとき、スタンバイしていた元生徒会長と顔合わせしたはずだ。

「そういえば……うん、あの時会った」

「それと似たような形で、向こうからも恩義を返せと迫られてるのさ」

「それが南雲生徒会長に目を付けられるのと関係あるわけ?」

「堀北の兄貴と南雲は対立関係にある。マイルドに言えばライバル関係だな。その堀北兄がオレと話していたことが南雲にとっては気に入らなかったんだろ。リレーでも戦いたがってる素振りだったしな」

「なーんか、ややこしいわね。2人の戦いに割って入ったってことかー」

 これで、南雲がオレに関与してくる理由は伝わっただろう。

 だが本題はここからだ。

「そのせいもあってか、堀北の兄貴からは手を貸すように頼まれてる。南雲を生徒会長の座から引きずり下ろしたいようだ」

「……もしかして、その役目を清隆に?」

たいだろ?」

「でも、すごそうな生徒会長をどうにかできるとしたらあんたくらいよね」

「オレに出来ると思ってるのかよ」

「あんたに出来なきゃ、他の誰にも止められないんじゃない?」

 気が付けばずいぶんとオレの株も上がったものだ。

 どれだけけんきよに言ってもかるざわは信じようとすらしない。

「ちなみに、話の流れだから言うが、今からある2年生と落ち合うことになってる」

「2年生と? 誰?」

「さあ。じようは不明だ。向こうもオレだとは確信できてない。ただ、2年の中で唯一ぐもに対して快く思っていない生徒ってことだけは判明している」

「へえ……あたし邪魔?」

「立ち会いたいなら、別にいてもいい。どうする?」

 ついてくることを確信しつつ確認だけはする。

「……いく」

 少しだけ悩んだ後、軽井沢はそう答えた。

 その言葉を聞き、オレは携帯の電源を落とす。

 それからオレたちは電話口で伝えられた校舎近くへと移動をする。

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