ようこそ実力至上主義の教室へ 7

〇非常識

 冬休みが目前に迫ったある日。

 Dクラスに大きな台風が上陸しようとしていた。

 それはちやばしら先生がホームルーム終了の合図を行った直後のことだった。

 教室の扉が開け放たれ、りゆうえんたちCクラスの生徒がDクラスへと姿を見せたのだ。

 思わぬ生徒たちの来訪に、教室の中は一気にざわつく。

 茶柱先生は一瞬龍園たちの方に視線を向けたがすぐに教室を後にした。即座に大乱闘でも起きれば別だが、他クラスの生徒が訪ねてくることには何の問題もない。

 これまで遠まわしにDクラスを観察していた龍園たちは、探し求める答えを得ることのないまま、ついに正面から乗り込んできた。

 あるいはオレの想像も及ばない戦略が裏で動いているのか。

 どちらにせよ強攻策を打ち出してきたことに変わりはない。

 帰り支度をしていたほりきたも手を止めCクラスの生徒たちを見つめる。

 現れたのは龍園の他にいしざきやまアルベルト。そしてみやこんどうだ。

 武闘派の連中がここまで集まってくればクラスの空気が重くなるのも当然だ。

「なんだオイ。ここはDクラスだぞ」

 真っ先に龍園に反応したのはどうだった。元々けんぱやいところも多少影響しているだろうが、以前のように振り回されまいとする純粋な防衛反応だったかも知れない。

 何より堀北を守らなければ。そんな思いが先行したんじゃないだろうか。

 即座に立ち上がり龍園に詰め寄っていく須藤。

 それを見たひらが、ぼうりよくを恐れてか慌ててその間に入った。

「うちのクラスに何か用かな? 龍園くん」

 事態を理解できない平田が聞き返すと、龍園は身振り手振りも大げさに話しだした。

「同級生のクラスを訪ねちゃいけない理由があるのか? どこの学校でもあることだろ。友人を訪ねて自分のクラス以外に出向くことは。何をそんなにビビッてやがる」

 開口一番、挑発するような発言とこわもての面々を連れ回した明らかな高圧的態度にも平田は冷静に切り返す。

「確かに普通はそうだね。だけどこの学校では少し事情も変わってくるんじゃないかな。少なくとも今まで、君たちがこうやってDクラスを訪れたことはなかったはずだよ」

 あくまでも今回の件は非常時の扱いだと、平田が極力丸く治めようとする。

「今までがえん過ぎただけだ。これからはもう少し積極性を見せようと思ったのさ」

 手近な女子の机に手の平を置き、龍園が白い歯を見せる。

「ペーパーシャッフルの試験じゃく立ち回ったな。お陰で俺たちCクラスは敗北した。まだ結果こそ出ちゃいないが、3学期からお前らはCクラスに上がるかも知れない。大したもんだぜ」

「へっ。おまえが顔だけデカイ無能なボス猿だからだろ。Dクラスに落ちやがれ」

 よこやりを入れるどうに、ひらは若干慌てながら手で制する。

「地道に努力を積み重ねたからね」

「努力か。その努力とは無縁そうな須藤もいまだに生き残ってやがるから分からないもんだ。真っ先に退学すると思ったんだがな」

「やっと名前覚えたかよ」

 視線がこうさくし、バチバチとやりあう二人。

 帰ろうとしていた数人のクラスメイトも、まさかの事態に硬直したまま立ち尽くす。

「本当の用件を聞かせてもらえるかな」

 一刻も早く事態の収拾を図りたい平田にしてみれば、りゆうえんにだらだらと話され続けることだけは避けたいようだ。ただ、そういった態度は見透かされていると思った方がいい。

「俺は今、おまえらDクラスに対して丁寧に警告をしてやってるのさ」

「警告? どういう意味かな」

「理解してないヤツに説明するつもりはない。それとも理解してないフリか?」

 それは一見平田への挑発にも見えたが、実際はそうではなかった。

 龍園は平田にほとんど目を向けることもなく、ぐるっと教室内を見渡した。

 ねらいが平田でないとしたら、オレやけいせい、あるいはあきたちだろうか。

 だが、実際にはそのすべてを軽く見るだけでスルーする。

 最終的に龍園が視線の先がとらえたのは、意外な人物だった。

 その人物は自らが視線を向けられているなどとは思わず、いや、気にすることもなく帰り支度を済ませ立ち上がると、教室を出て行こうとする。

 誰一人龍園の登場に動けない中、まるでいつもと変わらない様子だった。

 薄く笑った龍園は少し後ろにひかえる仲間に目で合図を送り教室をすぐに出て行く。

 どうやら目的の人物は、あの生徒らしい。

 龍園たちが去り扉が閉められると、一気に重苦しい空気から解放されクラスの面々が騒ぎ出す。

「なぁなぁ、なんか龍園のヤツすげぇことやりそうなんだけど! ついていかね!?」

「ってか、あいつらこうえんに何するつもりなんだろうな!?」

 そう。龍園の求めていた相手はDクラスの異端児、高円寺ろくすけだった。

 いけやまうちが中心となって、あれこれ勝手に妄想話を始めた。

 しかしここ最近、本当にくしが大人しい。

 ほりきたとの勝負に負けたことが原因なのは分かっているが、あまり前に出なくなった。

 もちろん、ただ静かになったわけじゃない。今も他の女子とりゆうえんたちのことで会話をしているが、一切からんで行こうとはしていなかった。

 堀北は堀北で、くしについて何かをオレに言うこともない。

「さすがにまずいんじゃない? 今の」

 龍園とは関係のないことを考えていたオレに堀北が声をかけてくる。

 出来る限りCクラスとかかわりあいを持ちたくない堀北としても、ほうっておけない案件のようだ。

「かもな」

 龍園はこうえんに用件がある様子だったが、それも少し引っかかる。

 高円寺は確かになぞ多き生徒に見える。

 しかし、高円寺がDクラスに何かしている可能性は外から見ても低いはず。大勢を監視しておきながら、今、露骨に高円寺に接触を図ろうとしているのには理由があるんだろう。

きよたか、ちょっと様子を見に行ってみないか?」

 そう声をかけてきたのはあきだった。

いくらなんでも人数が多い。もしかしたら何かするつもりかも知れない」

「そうだな……監視の目が多いと言っても絶対じゃないしな」

 万が一にも高円寺が暴行でも受ければ、それを防ぎえたDクラスには重く責任がのしかかる可能性がある。何も学校からペナルティを受けることだけが問題じゃない。助けに行っておけば良かった、と後悔の念で埋め尽くされてしまうだろう。

 明人と廊下に出ると、けいせいもついてきた。

「俺もいく。少人数だと危険だからな」

 少し遅れて堀北が一人で、それを追う形でどうも出て来る。

 更にひらも心配そうな表情で教室から出てきた。

 どうやら、今日は荒れる日になりそうだな。

 啓誠と明人に少しだけ待つよう頼み、オレは平田に声をかける。

「平田。おまえは教室に残った方がいいんじゃないか? もしかしたら他にもついてくる生徒がいるかもしれない。いけやまうちたちといったにぎやかしの生徒たちまで来ると、騒ぎも大きくなりやすいんじゃないかと思う」

「……確かにそうだね。でも、高円寺くん大丈夫かな……」

「堀北も向かったし、啓誠や明人もいる。最悪ぼうりよくになりそうなら連絡する」

「啓誠くん? うん、分かった。くれぐれもちやはしないようにね」

 啓誠の名前に引っかかりを覚えた平田だったが深く突っ込んでくることはなかった。

 平田はすぐに落ち着きの無いDクラスの教室へと引き返した。

「正しい判断だなきよたか。これ以上人数が増えるのは手間が増えるだけだ。それにひらの場合はクラス内を落ち着かせてもらう方が適任だろう」

 けいせいも大勢で行くことには否定的なのか、判断に納得した様子でうなずく。

 次の問題はこうえんたちがどこに向かったかだ。

 校内ではりゆうえんたちも不用意なことは出来ない。もし仕掛けるとすれば外ということになるが、高円寺がどこに向かうかなんて想像もつかないな。

「高円寺っていつも、放課後はどうしてるんだ?」

「……さぁ」

「俺も分からないな」

 あきも啓誠も全く心当たりがないのか首をかしげる。

「高円寺の行動パターンを知ってるヤツなんていないんじゃないか?」

 クラスメイトのほとんどが満足に会話したこともないしな。

「彼はぐ寮に帰ることが多いわ」

「なんでそんなこと分かるんだよ」

「よく帰っているところを見かけるもの。ともかく校舎の外に出たら色々大変よ。まずは玄関に向かうべきね」

 そう言い、オレたちを抜かし玄関へ向かっていく。

 靴が残っていれば校内にいることが確認できるし、その場合は大事になるまで時間も稼げるってことだろう。

 オレたちも遅れないように歩調を合わせる。

「マジで戦争みたいなことが始まるかもな」

 こぶしを握り締めたどうが鼻息を荒くしながらほりきたに言う。

「冗談はよして。DクラスとCクラスの集団暴力事件なんて笑えないわ。というかなんであなたまでついてくるの」

「そりゃすずが心配だからに決まってるだろ。龍園は女にも手を出すってうわさだからな」

「あなたに守られるほどやわな鍛え方はしていないわ」

「そう言うなって」

 自分の身は自分で守れると、堀北は強気な姿勢を変えない。

 なまじ武道経験があると男泣かせだな。須藤の男気もむなしく空回り。

 しかし須藤は須藤で、堀北が強いとはじんも思っていないだろうからいいか。

「それと、余計なお世話だけれどもう一つ。部活動の心配もしたらどう?」

「大丈夫だって。練習までは少し時間もあるしな。さっさと高円寺を探そうぜ」

 追い返そうとするも、須藤は堀北について離れないようだった。

「全く……トラブルの種を抱えて動くのは嫌なものね」

 そう小さく毒づいた。

 単身乗り込んだことでほりきたが傷つけば、どうは間違いなくキレる。

 そうなれば前回とは比べ物にならない大きな騒動に発展するだろう。

 似たようなメンバーで二度目の騒動ともなれば、学校側や生徒会もようしやしない。

 そういう意味じゃ須藤の同行は最善と見るべきだ。


    1


 学校を出て、寮への帰り道にある並木道へと差し掛かる。

 まだ放課後を迎えたばかりのそこに、生徒はほとんど姿を見せていない。

 しかし、その帰り道の途中に目的の男子、Cクラスの生徒たちがいた。

 教室では見かけなかったが、Cクラスのぶきも合流しているようだった。

 更にその前には一人寮を目指すこうえんの後姿も見える。

 本気で高円寺たちに仕掛けるつもりらしいな。

 距離を詰めていたりゆうえんは、いしざきに指示を飛ばし高円寺の前に石崎を向かわせる。

すずの読み通りこっちだったな。すぐに止めようぜ」

 その光景を見つけた須藤が堀北に指示を求める。

「少しだけ様子を見ましょう。まだ龍園くんのねらいも分からないわ」

 龍園自身が言っていたことだが、他クラスの生徒に声をかけることは当たり前のことであり違反はどこにもない。

 この段階で不用意に飛び込んで行っても得られる成果はないだろう。

 龍園たちに近づきながら様子をうかがう。

「おい待て高円寺。ちょっと顔貸せよ」

「なんだい君たちは。私は呼び止められるようなことをした覚えはないがね」

 石崎に進路を妨害された高円寺の顔は見えないが、口調はいつもと変わらない。

「それを判断するのはおまえじゃない」

「ふむ。確かに君ではないのだろうね」

 高円寺はぐるりと龍園たちCクラスのメンツを見る。

 その目に焦りや不安は全く見られなかった。

「俺のことは覚えてるな?」

 両ポケットに手を入れたまま、龍園が高円寺と相対する。

「もちろん覚えているよ。Cクラスのヤンチャくんだろう?」

「この間は見逃したが今日は付き合ってもらうぜ変人」

「すまなかったね。あの日はぼうだったのだよ」

 髪をかきあげるように謝罪する。とても謝罪には見えない。

「しかし一つ聞き捨てならないねえ。変人、とは私のことかな?」

「おまえ以外にいないだろ」

「理解に苦しむ発言だがこの場では聞き流そうじゃないか。私はかんだいだからね。しかしこれからデートの約束があるんだ、手短に済ませてもらえるかな?」

「悪いがその用事は後にしてもらおうか」

「帰さないつもりかい?」

「だとしたらどうする」

 少しだけ考えるように腕を組んだこうえんだが、すぐに組まれた腕は解かれた。

「あっちで用件を伺おうかな」

 寮への帰り道をふさいでいては他の邪魔になる、という考えなのか、あるいは逃げ切れないと判断したのか、高円寺は少し先にある休憩スペースを指差した。

「俺としちゃどこでもいいぜ」

「ではついてきたまえ」

 先頭の高円寺は誘導するように、少し道から外れ休憩スペースへと移動した。

 往来ならともかく、人目から離れるとなれば静観するにも限界がある。

「私たちも行った方がよさそうね」

 それを聞いてどうが小走りに駆け出そうとするが、ほりきたが一度止める。

「不用意な暴言、行動は避けること。分かっているわね?」

「お、おう」

 改めて注意を受けた須藤と堀北が先陣を切ってりゆうえんたちの下へ向かう。

 そして少し遅れてオレたちも追いついた。

 すぐさま堀北は龍園に対して声をかける。

「龍園くん。ここで何をするつもりかしら。安易に手を出せばすぐ大問題になるわ」

「クク。釣られてノコノコやって来たか」

 最初から誰かしらついてくると分かっていたように、龍園が振り返る。

 そしてこちら側のメンツをじっくりと観察していく。

 こうえんねらいだったことは一つの事実だろうが、恐らくは探し求めている相手をしぼり込むためのわなでもあるのだろう。

 そうでなければ、わざわざ武闘派を連れてDクラスに乗り込んだりはしない。

 煙であぶすように、狙いを定めていく。

あやの小路こうじ三宅みやけ、そしてゆきむらか。まぁ無難なところだな」

「俺もいるぜ龍園」

 こぶしと拳を重ね合わせる須藤を龍園は流すように無視する。

ひらはどうした」

「さあ、知らないわ。興味ないんじゃないかしら」

「抜かせよ。正義感の強いあいつならこの場にいてもおかしくはないはずだがな」

すべてがあなたの思惑通りに物事は進まない、と言うことよ」

「まぁいいさ。今日のところはな」

 龍園はあごで指示し、いしざきたちに高円寺を取り囲ませる。

 その様子を見ていたあきが嫌悪感を隠そうともせずつぶやいた。

「まるで王様気取りだな。クラスメイトを顎で使うなんて」

「悪いな三宅。俺の育ちの悪さは昔からだ」

 両ポケットに手を突っ込んだまま、龍園は高円寺に詰め寄っていく。

「待ちなさい」

「待つ? 何を待つってんだ? ご覧の通り俺たちは何もしちゃいないぜ」

 今のところ、誰一人高円寺には指一本触れていない。

たわむれるのは構わないが、それなら私は不要じゃないかな?」

 呼びつけておいて他人と話をする龍園に対し高円寺が指摘する。

 堀北の忠告を聞くはずもなく、龍園は高円寺と向き合う。

「そうだったな。今日の主役はおまえだ高円寺。おまえにはひとつ借りもあったからな」

「借り? あいにくと覚えは無いのだがねえ」

試験じゃ、おまえがクリアしたせいでポイントを取り損ねたんだよ」

 よく知ってるな。どこでそのうわさを聞きつけたんだか。

「ああ。あのうそつきゲームか。君の邪魔をしたのならそれは悪かったねぇ」

 謝罪しつつも、悪いとはじんも思っていないこうえん

 堂々としたたたずまいでふところから手鏡を取り出す。

 Cクラスの連中にはイマイチ理解できない行動だっただろう。

 怪しむような目を向けるCクラスに対し懇切丁寧に高円寺は答えた。

「今日は少し風が強い。私のナイスでクールなセットが崩れていないかの確認だよ」

 何度か顔を左右に動かしながら、自分の状態をチェックする。

「ふむ……やや乱れ気味で美しさに欠ける。悪いが少し鏡を持っていてくれるかい?」

 そう言って、高円寺は手鏡を目の前にいたりゆうえんに差し出した。

 龍園は笑みを浮かべながら手鏡を受け取る。

「こちらに向けておいてくれたまえ」

 そう言い、高円寺はかばんからコンパクトサイズのハードワックスを取り出すと、指先にそれをつけ両手で髪のセットを始めた。

 あつに取られたCクラスは、その異常な光景に突っ込めないでいた。

 しかし次の瞬間、強烈な音が響き渡る。

 龍園が高円寺から受け取っていた手鏡を強く投げ付けたのだ。地面にたたきつける様に。

 いつもの笑みを浮かべながら、龍園は高円寺の腕をつかんだ。

「その変人面、いつまでそのままにしていられるかな?」

 高円寺は両手で髪を整える体勢のまま、静かに息を吐いた。

「ヤンチャをするねえ。その手鏡は結構値が張る物なのだよ?」

「悪いな、手がすべったんだ」

「フッフ。それなら仕方がないか。では私の腕を掴む手を放してもらおうか。くセットが出来ない。もっとも、髪が乱れたままでも良い男だがねえ」

 ピリピリとした空気の中、龍園がゆっくりと高円寺を掴む手を放した。

 この場で派手な行動を起こすには、リスクが高すぎる。

 だが極限まで相手を攻めて行く龍園のスタイルにブレは見られない。

「いい加減にして龍園くん」

「黙ってろよすず。今は高円寺と遊んでるんだ」

「あなたが一方的に仕掛けているだけでしょう? 彼はそれを望んでいない」

 割れた手鏡の破片を慎重に回収しながら、ほりきたは龍園をにらみ付ける。

「俺がやる。手ぇするかも知れないだろ」

「私は別に構わないわ。部活をしているあなたがをするほうが問題よ」

 そう言ってほりきたどうの申し出を断る。

「バカ言ってんじゃねえよ。女に怪我させるようなこと出来るか」

 強引に堀北を押しのけるように須藤が破片を拾い始めた。

「怪我をしても治療しないわよ」

 突き放すように堀北が言うも、須藤は気にせず拾い始めた。

「何事かと思えば、ずいぶんと面白そうな組み合わせの集まりですね」

 そしてこの騒動は、DクラスとCクラスの枠だけに収まらなかった。

 騒動のうわさを聞きつけたようで、Aクラスのさかやなぎたちが姿を見せた。

 その中にはむろすみの姿もあったが、残る2人の男子生徒は顔しか覚えていない。

「坂柳か……まるで計ったようなタイミングだな」

 立ち止まると、カツン、と少女は手にしたつえをコンクリートに軽く打ちつける。

 何とも、大所帯な集まりになってしまったな。

 オレたちDクラスがこうえんを含め6人。Cクラスが5人。Aクラスが4人。

 合計15人の集まりが出来上がる。

「私がここに来たのは偶然ですよ」

「笑わせんな」

 どこからどうみても偶然でないことはりゆうえんにも一見して見て取れる。

「それにしてもCクラスの主要なメンバーに、Dクラスの生徒。これからクリスマスパーティーに関してのご相談でもなさるおつもりですか?」

「引っ込んでろよ、まだおまえに用はない」

「そうおつしやらなくてもいいじゃありませんか。パーティーなら大人数の方が面白いですよ? 私もお仲間に加えていただけません?」

 坂柳からの挑発にも似た誘いを、龍園は全く相手にする様子は無かった。

「ここにとどまるつもりなら邪魔すんじゃねえぞ」

「もちろんです。パーティの主催者の顔に泥を塗るようなは致しません」

 少しだけ距離を置いた坂柳は、休憩スペースのベンチに腰を下ろした。

 その前にAクラスの生徒3名がちんする。まるで坂柳を守るように。

 ま、この空気じゃ暴力事件が起こってもおかしくなさそうではあるが……。

 休憩スペース付近に監視カメラはない。

 とは言え、少し視線を移せば帰路に就く生徒たち。

 いつ誰が何人ここにやって来るかもわからない。

 殴りあいが起こるとは、考えにくい。

 ここまで不敵な笑みを浮かべていた集まりの中心人物、高円寺ろくすけが口を開いた。

「ギャラリーが増えるのは構わないが、そろそろ話を進めてもらえるかな? そうでないなら帰らせてもらうよ」

「待てよこうえん。今回は逃がさないってりゆうえんさんが言ってんだよ」

「悪いな。色々邪魔が入って話が遅れた。そろそろ本題に入ろうか」

 高円寺はうっすらと笑った。

「状況から察するに───恐らく君は、Cクラスの邪魔をする者、あるいは他クラスをまとめる人間を倒すことに夢中になっているように見えるが、違うかな?」

「そうだな。ざわりな人間はすべて敵だ。つぶす」

「そして今、Dクラス内から君の邪魔をする存在が現れた。君はその邪魔者が誰なのかを探している」

 龍園が話すまでもなく、高円寺は理解しているようだ。

 普段自分の興味の対象以外には関心を示さない男にしては珍しい。

「そういうことだ」

「なら私は君のお眼鏡にはかなわない。なら私はDクラスの行く末にも、他のクラスの行く末にも全く興味がないんだよ。これまでの試験でも特に何かを成してきたつもりはないしねえ。そしてこれからもそのつもりはない。そんな人間を相手にして面白いのかな?」

「それはおかしな話だ。試験はどう説明する。ネタは上がってんだよ」

「おやおや。ずいぶんと物知りなようだねえ」

 干支試験。猿グループに配属された高円寺は優待者を見事に見抜いた。

 結果からDクラスが勝ったことはつかめても生徒の特定は難しいはず。

 それをよく調べ上げたもんだ。

 あるいは高円寺が猿グループに配属されていることからの推測か。

 否定しなかった高円寺の発言で、確信を得た可能性もある。

「アレは単なる暇つぶしだよ。面倒な集まりに何度も参加する気にはなれなかったからね。終わらせることが自由への近道と判断したに過ぎないのさ」

 携帯を取り出した高円寺は、カメラモードに切り替え自分の顔を映し出す。

 どうやら即席の手鏡に利用するつもりらしい。

「だったら、干支試験以外にも参加していた可能性は排除できないってことだ。つまりおまえがDクラスを支配していない、という保証はどこにもない。だろ?」

「確かにそうだねぇ。けど、もし君がそう結論付ける人間であれば、それは君がその程度の頭脳しか持っていない間抜け、ということにもなるねえ」

 いしざきが暴言に突っかかろうとするが、龍園は笑ってそれを制止する。

 しかし見事な言葉の返しだと感心した。

 無関係な人間を黒幕と位置づけるなら、それは確かに間抜け以外の何者でもないからだ。

「クク、確かにな。真実を語っているのなら、おまえは人畜無害な存在ということか」

「イエス。物分りが良くて嫌いじゃないよドラゴンボーイ」

 ドラゴンボーイが引っかかったのか、さかやなぎが笑った。

 だが、りゆうえんはそれを無視し違うベクトルへと話を移行させた。

「俺がここでコイツらにおまえを突然リンチさせたらどうする? 試験の件をさかうらみして、なんの利もなく、無意味に暴力で支配しようとしたら?」

 不穏な空気にほりきたが反応しそうになるが、その前にこうえんが笑った。

「それこそナンセンスな質問だね。君はこの場ではその選択を選ばない。ギャラリーも多い中での暴力とは。あまりにメリットがないだろう?」

あいにくと、俺はそんな不都合な場所でも暴れられるんだよ。利は度外視だ」

「なるほど。ではお答えしよう。仮に君がその選択を選ぶのだとしたら、私は私自身とプライドを守るため、向かってくる者全員をノックアウトするだろうねえ」

「おまえ一人にやれると?」

「やれない理由を考える方が難しいねえ」

 面白いやり取りを聞かされ、遠巻きに坂柳が微笑ほほえむ。

「どうやら推理を張り巡らせるまでもなく、高円寺はXじゃないみたいだな。コイツは俺とは違う方向に狂った人間。ただそれだけのようだ」

「誤解が解けたようで何より」

「だがひとつ聞かせろ高円寺。Dクラスが着実にクラスポイントを増やしている。その役目をになっている頭のキレるヤツが必ずいるはずだ。それがおまえじゃないのなら誰だ? 間抜け面してここについて来たこの中にいるのか?」

 高円寺はここで初めて、Dクラスのオレたちに一度だけ目を向けた。

 しかし鼻で笑うと肩をすくめ、すぐに興味を失ってしまう。

「その質問に答えてあげてもいいが───」

「少しよろしいですか?」

 高円寺の言葉をさえぎるように、ベンチに腰掛けていた坂柳が口を開いた。

「面白いお話をされていますね。Dクラスの中にCクラスの邪魔をする生徒がいるとか。ドラゴンボーイさんが探しているといううわさは聞き及んでいましたが、本当のことなのですか?」

「黙ってろと言っただろ坂柳。それとおまえが次にその呼び方をしたら殺すぜ?」

「ふふっ。気に入りませんでしたか? 素敵なネーミングだと思いますけど。すみません。どうにも私の理解が及ばないことが起こっているようでしたので。つい」

 小さく笑い、坂柳は気にすることもなく続ける。

「あなたは自分のプランがDクラスの何者かに見抜かれ敗れてしまった。それだけのことではありませんか。この学校はクラス同士の戦いが基本です。他クラスの邪魔をするのは不思議なことではありませんよね? 事実私もあなたも、そうやっていくか戦ってきています。どなたかは存じ上げませんが、正体を隠して戦略を練るのも立派な戦い方です。それをわざわざ、こうして関係のない生徒を問い詰めて聞き出すようなことをするべきなのでしょうか。正直見苦しい行為にしか見えないのです」

「俺の計画がXのせいで狂ったことは認める。だが問題はそこじゃない。裏でコソコソ動いているヤツを表に引きずり出すためにやっていることだ。そういうゲームなのさ」

「なるほど。こうしてきようかつまがいの行動をするのも、あなたのプランの内だと?」

「そうだ。必要なら暴力もさない。俺は俺のやり方で楽しんでんだよ」

「だとすれば、見苦しい上に無能であることをさらしてしまうだけですよ? すみさんやはしもとくんから色々聞き及んでいます。無人島であなたが仕掛けた作戦、そしてどのようにして敗れたのか。きちんと分析すれば彼が無関係であることは明白なはずでは? そもそも無人島でご活躍されたのは、そこにいらっしゃるほりきたすずさんだとか。あなたの探している正体不明の人物は、本当に実在する人なのでしょうか?」

 鋭いさかやなぎひとみと言葉がりゆうえんを攻撃する。

「……計画が狂った言い訳、ではないのか……?」

 坂柳に歩調を合わせるように、Aクラスの生徒の一人が低い声でつぶやく。

「それは言いすぎとう。龍園もそんな間抜けじゃないでしょ」

 橋本、だったか。がそう言って龍園をフォローする。

 だが龍園は坂柳たちの挑発に一切のひるみや動揺を見せない。

『そんなことは』最初から龍園が一番分かっているからだ。

「おまえこそ間抜けだろ坂柳。俺にかつらを利用され契約を結ばされたんだからな」

 龍園はあえてその部分での反論をせず、別の論点へと話をすり替えた。

 今度はこっちから仕掛けてやる、という意図が見え隠れしている。

「契約ですか。確か『Aクラスは無人島でCクラスからの援助を受ける代わりに対価としてプライベートポイントを支払う』というものでしたか。具体的には『卒業までの間、毎月一人につき2万ポイントをお支払いする』という内容でしたね」

 それに対し、坂柳もおくすることなく応戦する。

「はあ? なんだよそれ、おまえら裏で何やってんだよ! いいのかよ!」

 どうが不平不満をえる。

「ルール上は問題ありません。お互いのクラスが納得した上で契約したことですし。Cクラスが得るはずだったクラスポイントを我々がもらい、それによって得る対価……つまりプライベートポイントをCクラスにお支払いするだけのことです」

 無人島の試験でAクラスとCクラスが組んでいたことは分かっていたが、その見返りまでは不明だった。これなら確かに、成立しうる取引だな。すべてのポイントを使ってAクラスに無人島で使える270ポイント(さかやなぎの欠席によるマイナス30ポイントを差し引く)を残させる代わりに2万プライベートポイントを要求した。一見するとCクラスが得なようにも見えるが、試験終了後クラスポイントでリードできる面は大きい。クラスの順位を決定するのはクラスポイントだからだ。プライベートポイントは付随で支給されるポイントに過ぎないとも言える。結果的にかつらはポイントを失ってしまったが、そうならなければ対等以上の成果がAクラスには出た可能性があったということだ。クラスポイントのリードはそれだけ大きい要素だ。もし普通に無人島生活を送っていたならば、クラスポイントはほぼ残らず、今よりBクラスとの差は縮まっていた。

 しかし、このタイミングで明かされていなかったことまで話したのか。

 それは恐らくりゆうえんに対する坂柳からのいじり、みたいなもののように取れた。

 龍園が坂柳を馬鹿にし、坂柳もまた同様に龍園にやり返した、というところか。

「内情をバラされて困るのは俺じゃなくお前らだ。毎月延々と2万ポイントを取られ続けるのが他クラスに知れ渡ったんだぜ?」

「あなたが口にしようと思えば、すぐに広まることです。気にしても仕方ありません。そもそも契約を結ぶ考えを示したのは葛城くんですし」

 自分は無関係だと言い切る。無人島に不在だった坂柳には防ぎようの無い話だ。

 いや、あらかじめ余計なことをしないようクラスに指示できた可能性はあるが、対立する二人のことを考えればあえて泳がせていたのだろうか。

 事実今や葛城派は鳴りをひそめ、坂柳がクラスを支配しているように見える。

「クソ。Cクラスは毎月の小遣いが保証されてんのかよ」

「惑わされないことねどうくん。本来Cクラスが得られる可能性のあったクラスポイントを完全ほうしているのよ。必ずしも得しているわけじゃないわ」

「本当にそうかすず。俺たちはあの無人島で、実質クラスポイントを200ポイント得たも同然なんだぜ? しかもそのポイント収入はAクラスが完全に失脚しない限りは永続的に続く」

「違うわ。似て非なるものよ。あなたが得ているのはプライベートポイント。クラスポイントとは全くの無関係よ」

 確かにAクラスを目指すのなら、龍園は一切得をしていない。その点ではほりきたの主張の方が正しいと言えるだろう。

 だが一月に80万ほどのポイント、つまり金がAクラスからCクラスに流れているのは大きな事件だな。

 これから先Cクラスがクラスポイントを失い続け0になっても、最低限の収入は保証される。坂柳派に追い詰められていたとはいえ、葛城はく乗せられたな。

「話し合いは終わったかな? 君たちはじゃれ合いが好きなようだね。それを否定するつもりはないが、これ以上私の邪魔をすることだけはめてもらえないだろうか。無意味なごこうせつを聞いて時間を取られるのは不愉快なのでねえ」

「待てよこうえん。まだおまえの答えを聞いてないぜ」

 思い出したように、高円寺は少し空を見上げた。

「Dクラスの中で頭のキレる存在、だったねえ。正直考えたこともなかったが……どちらにせよ私は答えない方がいいんじゃないかな? リスクをおかしてでも、君はその答えを追い求めているのだろう? 楽しみをうばってしまう行為はできればしたくないんだ。私はこの学校で青春をおうしている。それだけなのだよ。この学校が私を高ぶらせてくれるのなら話は別だが、どうにもそれは期待できそうにない。であれば、美しき女性たちと様々な恋に落ち、互いを高めあう。そして己の美を追求し続ける。それだけさ」

「つまり、おまえはクラス同士の抗争には参加しないと?」

「これまでもこれからもね、そう最初に伝えたつもりだがね。CクラスもAクラスも私にしてみれば同じことさ。ここにいる君たちでは退屈なのだよ」

「なんだと!? りゆうえんさんコイツさっきから俺たちのことめてますよ! らしめてやりましょうよ!」

 馬鹿にされ、いしざきが高円寺にこぶしを向ける。

 だが、龍園よりも先に高円寺の言葉に感化された存在がいた。

 これまでにこやかに茶々だけ入れていたさかやなぎだが、高円寺のある一言には少し引っかかりを覚えたようだ。

「やや聞き捨てなりませんね。ドラゴンボーイさんはともかくとして───」

 そう発言しかけた直後、龍園は素早く坂柳へと距離を詰めた。

 そして遠慮なくりを繰り出す。

「っと───!?」

 慌てて坂柳と龍園の間に割り込んだはしもとが左腕でそれをガードする。

 だが強烈な一撃に橋本は横に吹き飛ばされ、コンクリートの地面へと倒れる。

 もし橋本が間に入らなければ、本気で坂柳の顔を蹴り飛ばしていた可能性が高い。

 龍園に対して、先ほど橋本にとうと呼ばれたAクラスの男子生徒が、白い手袋に手をかけながら戦闘態勢に入った。

「気にさわってしまいましたか」

「もう一度呼んだら殺すと言ったはずだぜ?」

「いい加減にしなさい。今のあなたの行動は大問題よ」

 暴行が行われた瞬間を目撃したほりきたが警告するが、それを止めたのは坂柳だった。

「今、何か問題行動がありましたか? 橋本くん」

「いえ。自分が一人で転んだだけです」

 服についた汚れを払い落としながら、はしもとがゆっくりと立ち上がった。

「だそうですよ、ほりきたさん」

「っ……。りゆうえんくんもあなたたちもどうかしてるわ」

 暴力行為に対して、さかやなぎ率いるAクラスは不平不満を漏らすことはなかった。

 それどころか、一戦交えても構わない空気さえ出している。

「ごめんなさい龍園くん。からかいが過ぎましたね」

 そう謝罪した上で視線をこうえんに向けた。

「話を戻しますが、私も含めて退屈、とはどういうことでしょう?」

 坂柳にとっては目の前の龍園よりも、高円寺の発言が気になっているようだ。

 龍園もしらけた様子で坂柳から離れる。

「全く、なんて人たちなの……」

 堀北が動揺し、あきれるのも無理はないな。

 ここに集まったメンバーは一癖も二癖もある連中ばかりだ。

「それほど私の一言が気に入らなかったかな? リトルガール」

 ベンチに腰掛ける坂柳に向かい、高円寺は手のひらを広げ指先を向けた。

「クク。リトルガールか。中々良いネーミングセンスじゃねえか」

 ドラゴンボーイのお返しとばかりに龍園が鼻で笑う。

「高円寺さん、でしたか。あなた英語の使い方を間違えていますよ? 私は幼女ではありません」

「ふっふっふ。それを決めるのは君ではなく私なのだよ。間違った用法ではないさ。君がガールと呼ぶに相応ふさわしい年齢と体型になれば、そう呼ばせてもらうだけだからねえ」

「それこそ誤りですよ。用法としてはリトルガールは小学生の女の子にしか使わない言葉ですから。この世界はあなたの好き勝手が許されるように出来ているわけではありません」

「常識にとらわれないのが私のりゆうさ」

 ふぁさっと髪をかきあげる。

「……いい加減にしろ、高円寺」

 とうが一歩歩みを進めた。

 改めて白い手袋のようなものを外そうとする。

 最初は寒さをしのぐために付けていると思っていたが、どうやら違うらしい。

「んだよアイツ。手袋外したら鬼でも出てくんのか?」

「なんだそれ」

 突然、どうから鬼なんて単語が出てきて思わず聞き返してしまう。

「しらねーのかよ。昔った漫画であんだよ。白い手袋を外すと鬼が出てきて悪魔と戦う漫画がよ」

 全く聞いたこともない話だが、そもそも漫画を読んだことがなかった。

「Aクラスに用はない。今はすっこんでろよ」

「彼の言動、その訂正くらいさせてもらえませんか」

「ふふふ、私を巡っての争いは悪いものではないがねえ。残念だが、男にしろ女にしろ、私は年上にしか興味がないのだよ」

 さかやなぎりゆうえんといったクラスを代表する生徒が、こうえん一人に振り回されている。

 常識が通用しないっていうのは、ある意味最強だよな。

 暴力とうそに並ぶ新たな強みは『非常識』だったりするのかも知れない。

「おまえは今日片付けておいてよかったようだ。もう行け」

 龍園ですら高円寺の相手は相当体力を使うんだろう。

 これ以上情報を引き出せないと分かったのか、高円寺に立ち去るよううながす。

「では遠慮なく。シーユー」

 台風だったのは龍園ではなく、高円寺の方だったかも知れない。

 騒動は途端にしゆうそくを見せせいじやくが訪れる。

「どうやら見物は終わりのようですね、戻りましょうか」

「3学期を楽しみにしとけよ坂柳」

「あなたがDクラスを倒したと確信したなら、いつでも相手になりますよ」

 そう言い残し、Aクラスの生徒たちも引き上げていく。

「俺たちも引き上げるか? ほりきた

「そうね……これ以上は付き合いきれないわ」

 ほとんどの破片をどうが拾い集め、ひとまず元に戻ったと言ってもいいだろう。

「でも、彼は思ったより高円寺くんに興味がなさそうだったわね……」

 堀北も龍園の行動に不可解さを感じたようだった。

 一方その疑念はCクラスにもでんしていた。

「……すんなり行かせて良かったんですか?」

「ヤツが俺の探してる相手なら、行かせたりしねえよ」

「私には怪しかったように見えるけどね。何考えてるかわかんないやつだし、言ってることが嘘だって可能性もあるんじゃないの」

「ヤツの考えと俺の考えはマッチしない。Xのヤツは俺と似た思考をしてやがるからな。高円寺が裏で糸を引いていたとは思えない。そもそも、ヤツが堀北と組んで行動を起こすように見えるか?」

「それは、確かに想像しづらいけど。だったらなんで高円寺をねらったの」

「よう。おまえらは高円寺をどう思う」

 こうえんの背中から視線を外したりゆうえんが、不気味な笑みを浮かべこちらを見た。

「さっきからおまえら何ごちゃごちゃ言ってんだ。意味不明なんだよ」

 龍園の行動を理解できないどうが、こぶしで挑発しながらにらみ付ける。

「バカは引っ込んでな」

「んだと!?」

 ほりきたが目と手で須藤を制止する。

「龍園くん。あなたの行動はじようを逸してる、理解に苦しむことは事実よ」

「だったら、俺の行動は正しいってことだな」

 責め立てられても、龍園は全く気にしない。

 それどころかどんどん状況を楽しんでいるように思えた。

「俺は今日でだいぶ候補をしぼり込んだぜすず。おまえの後ろにひそむ存在に」

「あなたが何を言っても聞く耳はないわね。付き合わされるだけ時間の無駄だもの。それよりも今後、クラスメイトに近づくのはやめてもらっていいかしら」

「近づくも近づかないもそれは俺の自由だ。違反はどこにもない」

 ルールをすぐに破る人間がルールをたてにする。

「だがもうすぐこの遊びも終わりだ。フィナーレを楽しみにしてな」

 そう締めくくり、龍園はさかやなぎたちを軽く見ただけで立ち去っていく。

「ようやく帰ったようね。私たちも戻りましょう。一応事の成り行きはひらくんの耳にも入れておくわ」

「けど、なんなんだよ龍園のヤツ。何がしたかったんだ?」

「さぁ。彼が何がしたかったのか分かっている人なんて、どこにもいないはずよ」

 どうやら龍園の中ですべての準備が整ったようだな。

 オレはそれを実感しつつ、龍園たちの背中を見送った。

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