ようこそ実力至上主義の教室へ 7

〇再会と別れの知らせ(2)

    5


 翌日の放課後。変に凝った肩をほぐしながら誰にも悟られないようため息をついた。

 肩が凝った原因は、クラスのある人物の行動が不可解だったからだ。

 そんなこちらの気苦労など知るよしもなく、思わぬ来客がオレに近づいてきた。

 ひらりとスカートが風に揺れ、目の前で歩みを止める。

「ねえ綾小路くん。今日って暇?」

 そう声をかけてきたのは、Dクラスの女子とうだ。

「もし良かったら、一緒にお茶でもして帰らない?」

 左手の人差し指でくるくると髪の毛をパスタのように巻きつけながら言う。

 何というか、大胆……積極性のある生徒だと言わざるを得ない。

 このとうという生徒は、以前オレに告白?のようなことをしてきている。

 つまりデートの誘いのようなものだろう。

 隣の住人ほりきたは気にした様子もなく帰り支度を済ませ教室を出て行くが、あやの小路こうじグループのメンバーからは何となく様子をうかがっているような気配を感じる。

 どうしてイケイケ女子の佐藤が、綾小路と話しているんだ? と。

 特に辺りは他の女子の例に漏れず興味津々なんじゃないだろうか。

「あー……」

 今日は特に予定が入っているわけじゃない。グループの集まりも強制参加じゃないため気にしないで良い。メンバーからの視線も気になるが、それはさいなことだ。

「都合悪かった?」

 良い返事がすぐに返ってこなかったことに、佐藤が少し不安げに聞き返してきた。

「悪いな佐藤。今日はちょっと」

 少し悩んだが、結局断ることにした。

 その理由は、肩が凝ることになった原因にある。

 今日の朝から放課後にいたるまで、時折向けられていた視線が不快だったのだ。

 佐藤と話しているこの瞬間も視線は常にオレへと向けられていた。

 放課後になった教室に残り続けるちやばしら先生。

 本人はたんたんと残った事務処理をしている風だったが、フェイクを入れつつもオレを見ていることは明らかだった。

 何かしらこちらに接触したいような意図を感じさせる。

「そ、そっか。またね綾小路くん」

 らくたんさせてしまった佐藤には悪いが、運が無かった。

 佐藤に送り出される形で、オレは帰るため廊下へと出た。

 これで問題は解決される……どころかすぐさま危険は目前へと迫ってきた。

 ほぼ同じタイミングで教室を出た茶柱先生が後を追ってきたからだ。

 やはりオレに用事があったか。

 佐藤の誘いを断って正解だったようだ。

 あえて目立つ教室の廊下を避け、玄関に向かう一つ遠回りの階段へと向かった。

「……綾小路」

 人気が少なくなったところで茶柱先生は距離を詰め声をかけてきた。

「オレに何か用ですか」

「ああ。私についてこい。話がある」

「それは難しい相談ですね。今からほりきたと約束があるんですよ」

 適当なうそをついて逃れようとする。

「私も教師として不用意なことはしたくないが、そうはいかない事情もある」

 いつも感情を見せようとしないちやばしら先生が、珍しく弱気な表情を見せていた。

「良い予感はしませんね」

「残念だが断る権利はない。非常に大事な話だ」

 ついていきたくはないが、教師の指示じゃ従わないわけにはいかないか。

 多少の抵抗もむなしく、茶柱先生の後を追うことにした。

 生徒たちのいるエリアを離れ、やって来た場所。

「応接室? わざわざこんなところで話ですか。進路相談には早いでしょう」

「すぐに分かることだ」

 ちやしを交えてみたが、たかだか生徒の質問には答えてくれないらしい。

 しかし気にかかるのは扉の向こう側よりも、まずは茶柱先生のほうだ。

 落ち着きがなくどこか焦っているというべきか。

 扉の向こうにいる相手がオレの想像通りの人物だったとしても、ここまで露骨に態度がおかしくなるのは変だ。普段から冷静さを欠く教師ならともかく、茶柱先生はそのカテゴリには当てはまらない。

 こちらの疑問に気づくこともなく、茶柱先生は室の扉をノックした。

「校長先生。あやの小路こうじきよたかくんをお連れしました」

 校長、か。オレのような生徒には入学から卒業まで無関係そうなもんだが。

「入ってください」

 やわらかくも、年齢のかんろくを感じさせる声が聞こえ、茶柱先生が応接室の扉を開いた。

 60前後の男性がソファーに腰掛け座っていた。入学式や終業式で何度か見たことがある、間違いなくこの学校の校長だ。だがその表情に余裕はなく、額に汗を浮かべていた。そしてその向かいにももう一人。オレは確信する。

 ここへと呼ばれたのかを。

「では、後はお二人でお話していただく、ということで……構いませんか」

「無論です」

「私は席を外しておきますので、どうぞごゆっくりと。失礼致します」

 校長の向かいに座る男は40代。明らかに二回り近く年齢が低いにもかかわらず、校長はてつとうてつ物腰低く接し、逃げるようにして自らのテリトリーを後にした。

「では私もこれで失礼致します……」

 茶柱先生も、男に一礼し校長と共に部屋を後にしていく。

 最後にこちらを見た視線が泳いでいたことを、オレは見逃さなかった。

 扉を閉じると、暖房の動く音だけが小さく耳に響く。

 こちらが一言も発さず動かないでいると、男は静かに言葉を吐いた。

「まずは座ったらどうだ。わざわざ俺から出向いてやったんだぞ」

 1年、いや……1年半ぶりに聞く男の声。

 その口調もトーンも、以前と何も変わらない。

 こちらも何かが変わることを望んじゃいなかったが。

「座るほど長話する予定はないんだけどな。この後友人と約束があるんだ」

「友人だと? 笑わせるな。おまえにそんな存在が出来るはずが無いだろう」

 オレの生活を見ていたわけでもないのに、決め付けてくる。

 自分が絶対正義だと確信しているこの男らしい。

「ここでオレとあんたが会話するかしないかなんて、この先に何も影響しない」

「なら俺の望む答えが返ってくると思っていいのか? それならば話し合う必要はない。こちらも忙しい合間を縫って来ている」

 こちらに目を向けることもなく、男はそう結論を導こうとして来た。

「あんたの望む答えなんて知らないな」

「既に退学届は用意させてある。校長とも先ほど話がついた。後はおまえがイエスと言えばそれで終わりだ」

 こちらがそうとしていると、男はすぐに本題を切り出した。

「退学する理由はどこにもない」

「おまえにはそうかも知れん。だが俺にとってはそうではない」

 ここで男は、初めてオレの方へと視線を向けた。

 その鋭い眼光はおとろえるどころか、年々鋭さを増しているようだった。

 まされたやいばのようなひとみに、心の奥まで見抜かれそうな感覚に襲われた者は少なくないだろう。それをこちらは真っ向から受け止める。

「子供の希望を、仮にも親の一方的な都合でげるのか?」

「親だと? おまえが一度でも俺に対し親だという認識を持ったことはあるのか」

「確かにないな」

 そもそもの問題として、この男もオレを息子と思ったことがあるかどうか怪しい。

 恐らく互いに書類上だけの親子、ということでしか記憶していない。

 血がつながっているかいないかなどどうでもいいことだ。

「大前提として、おまえは勝手な行動を起こした。俺は待機だと命じたはずだ」

 もはや座れとうながすこともなく男はそう切り出した。そして続ける。

「その命令を破りこの学校に入学した。即座に退学を命じるのは当然だ」

「あんたの命令が絶対だったのはホワイトルームの中での話だろ。そこを出た今、命令を聞く必要もない」

 簡単なロジックの説明。しかし男は当然納得しない。

「少し見ない間に、ずいぶんじようぜつになったものだ。やはりくだらない学校の影響か」

 ほおづえをついたまま、男は汚物を見るような目でオレを見た。

「それより、さっきの質問に答えてもらおうか」

「命令を聞く必要がない、という無駄な質問のことか? おまえは俺の所有物だ。所有者がすべての権利を持っていることは言うまでもない。生かすも殺すもこちらが決める」

 この法治国家において、男は本気でそう言っているのだからが悪い。

「どれだけねばるつもりか知らないが、オレは退学するつもりはない」

 めろ辞めないで言い合いをしてもずっと平行線なのはわかりきっている。

 無駄話を嫌う男が、それを分かっていないはずがない。

 ならどうするか。当然次の手を打ってくる。

「この学校の存在をおまえに教え、入学するよう入れ知恵をしたまつがどうしているか気にならないか?」

「別に」

 聞き覚えのある名前だ、すぐに顔も思い出す。

「ヤツは1年、おまえの管理を任せたしつだったが、最後の最後雇用主の私に逆らった」

 一気に内容を話さずあえて区切りをつけて話す。

 そうすることで相手に深く内容を刻み付けると共に、重要性の高い会話が始まるという意識を植えつける。

 重い口調、重い視線を混ぜることで、話を聞かされる側は、何のことかと勝手にマイナス方向に考える。どんなひどいことをしたのだろうと。

「私の管理下から逃げ出す方法として、この学校の存在をおまえに教え、そして実の父親の意向を一切無視して入学の手続きを勝手に進めた。実におろかなことだ」

 学校側に出されたお茶の入った湯飲みを手に取り、一口含む。

「言語道断、許されざる行為だ。当然むくいを受けなければならない」

 おどし、というわけではなく、ありのままに起こったであろう事実について、感情を交えず話している様子だ。

「既に想像はついているだろうが、ヤツは俺の手でちようかいかいされている」

「雇用主に逆らったならとうな判断だな」

 オレの執事をしていたまつという男は、60歳近くの人物だった。

 非常に面倒見がよく、愛想が良い。どんな子供にも好かれるような男だった。

 松雄は若くして結婚したが中々子供を授かることが出来ず、40歳を過ぎて初めての子供を授かった。だがその代償として不幸にも妻を失った。男手一つで育てた子供の年齢はオレと同い年で、誰よりも自慢の息子だということを繰り返し口にしていたことを覚えている。

 その息子に直接会ったことはないが、偉くなって父親に恩を返すのだと、日々勉強にはげんでいると松雄が言っていた。あの時の笑顔は今でも記憶に焼きついている。

「おまえも知っているだろう。松雄自慢の息子の存在を」

 こちらが勝手に先まで思いを巡らせていると、見抜いたようにそこを突いてきた。

「おまえがこの学校に入学が決まったように、松雄の息子も難関の試験をクリアして見事に有名私立高校に入学した。一人でよく努力したものだ」

 一言間を置き、こう続ける。

「が、今は退学している」

 その言葉が意味することは単純だ。

 直接の表現は避けたが、罰として息子の入学を取り消したということだ。

 この男にはそれだけの力がある。

「それで? あんたほどの男がそれだけで済ませたのか。ずいぶんと優しいもんだな」

「松雄の息子はしんの強い子供だった。念願だった進学校を退学になっても、性根が腐ることはなかった。すぐに別の高校へ入学することで再起を図ったようだ。だから同様に私も手を尽くすことにした。息子の行く先々の進学先を徹底的につぶし、進学をあきらめさせた。まつ自身も同様だ。ヤツの悪評をれ流し再雇用を徹底して封じた。結果的に息子は行き場を失い無職となった」

 オレが勝手なことをしたせいで、松雄とその息子が路頭に迷った、という話だ。

 作り話ではなくすべて事実だろう。

 だがそんなつまらないことを報告するだけなら実に拍子抜けだ。

「ここまでならおまえもそれほど驚きはしないだろう。雇用主に逆らったのだからある程度の償いは必然だ。だが松雄は想像以上に思い詰めたようだ。元々責任感のある優しい男。妻を若くして亡くし、男手ひとつで息子を育ててきたヤツは、自分の軽率な行動が息子の将来までもをうばってしまったことに苦悩したんだろう。息子を救うため一つの結論を導き出した。償いとして、これ以上息子には手を出さないでくれと私にこんがんした末に、先月焼身自殺している」

 それが長々と語った男の言いたかったことのようだ。

 オレの勝手な行動が、他人の命を奪う悲劇につながった、と。

「今息子は、明日の保証すらないバイト先で日々を生きるためだけの賃金を稼いでいる。夢も希望もなくな」

「あんたのせいで一家はさんな目にったわけだ。息子はさぞうらんでることだろうな」

「死んで許される問題でもない」

 それで? とオレが次の言葉を待っていると、男はわずかにだが口角を上げた。

「おまえを世話し、助けてくれた男が死んだというのに、まるで興味がないようだな。自らの進退を懸けて尽くしたお前の、その態度を見れば松雄も後悔することだろう」

 ネタか何かだろうか。

 松雄とその息子が路頭に迷ったのも、死を選んだのもこの男に原因がある。

 そもそも死んだ人間に後悔も何もない。

 だが男のねらいはオレの罪悪感を駆り立てることではなかった。

 そして、同情を引きたいわけではなかった。

 ただ示したかったのだろう。

 自分を怒らせるとようしやしない。そのことを伝えたいだけに過ぎなかったのだ。

「まず大前提として、あんたの話が本当だという証拠はない」

「既に松雄の死亡届書は受理されている。必要なら住民票を取り寄せよう」

 いつでも言ってくれ、と強気だ。

「もし本当に死んだのだとしたら、なおさら学校を去るわけにはいかないな。あんたに罰を与えられると分かっていてオレをここに入学させた松雄の遺思をぐ」

 ふざけた内容にはふざけて返す。

ずいぶんと変わったものだなきよたか

 そう男が言いたくなる気持ちも分からなくはない。

 この男の指示……正確にはホワイトルームの指示には常に従ってきた。

 そうすることがオレにとって世界のすべてだったからだ。

 だが、男の唯一の失敗は1年間の空白が出来てしまったことだろう。

「空白の1年の間に何があった。おまえの何がこの学校に入る決意をさせた」

 それに男も気づいているからこそ、追求してくる。

「あんたは確かに最高の教育をほどこして来たのかもしれない。それが世間に顔向けできないようなやり方であったとしても、オレはホワイトルームそのものを否定はしない。だから他人に対して過去の話をするつもりもないし、おとしいれるもしない。ただ、あんたは理想を追い求めすぎた。その結果が今のオレの姿ってことだ」

 オレは高校1年生。年齢にして16歳。だが知識という面においてオレの学習量は、人の一生をかけて習得していく量をはるかに超えてしまっている。だからこそ気づいてしまったこと、気づけたことがある。人の探究心は無限にて来るものなのだ。

「あんたは様々なことをオレたちに教えた。純粋な学問学術は言うに及ばず、武術や護身術、処世術とまいきよにいとまがない。だからこそ、オレはあんたがくだらないと切り捨てた『俗世間』ってヤツを学びたくなった」

「その末、導き出した結論が家を飛び出したことにつながると?」

「ホワイトルームの中に居続けることでこの学校と同じことが学べたか? 自由とは何か、しばられないことの意味とは何か。あの場所でそれが学べるはずもない」

 この部分だけは、この男にも否定できないものだ。

 ホワイトルームは世界の中でも、最も効率よく人間を育成する施設の一つかも知れないが、この世の全てを学べるわけじゃない。不必要とされているものを極限まで切り捨てた施設だ。

まつはオレに言った。日本で唯一、この学校ならあんたの手から逃れられると」

 もしこの学校を選ばず指示通り待機、あるいは別の選択を選んでいれば、オレは再びホワイトルームに戻されただろう。強く退学を拒否する。

「理解しがたいことだが、状況を受け入れざるを得ないようだな。やはり計画が完了する前に施設を一時中断したことは失敗だった。わずか1年で16年越しの計画がとんしそうになるとはな。そして忌々しいことに、この学校に逃げ込み俺の手から逃れるとは」

 男としても、ホワイトルームの一時中断が断腸の思いだったことは知っている。

 だからこそこうして、強くオレを引き戻そうとしているのだ。しかし、半年以上もって接触してきたのには何か裏がありそうだ。大物がこの学校のバックにでもいるのか。

「おまえがここに来た理由は理解した。しかしそれで解決したと思っているのなら甘い話だ。まつの息子のように、力ずくでこの学校をめさせることも出来るのだぞ」

「政府の息がかかったこの学校に、今のあんたが介入できるとは思えないな」

そう言い切れる。根拠のない発言だな」

「まず第一に、あんたが常に連れ歩く複数のボディーガードの姿がない。あちこちからうらみを買ってるからこそ、あんたはその存在を手放せないはずだ。だがこの部屋にも廊下にも見える範囲にやつらはいなかった」

 再び男は湯飲みを手に取り、既にぬるくなったであろう残りのお茶を飲み干した。

「たかだか高校を訪ねるのにボディーガードも何もない」

「トイレにまで護衛を連れ歩く男がそんなたいなことをするはずがない。連れて来ようにも連れて来られなかったと見るべきだ。この学校の権力者が許可しなかった、ということだ」

 そしてそれに従わなければ、男はここに入ることを認められなかったのだろう。

「根拠には欠けるな」

「次に、もし力ずくで辞めさせられるなら四の五の言わずに実行しているはずだ。なのにそれをせず、わざわざ対話でオレを退学させようとしている。おかしな話だろ」

 松雄の息子には、直接会うこともなくてつついを下しているはずだ。

「そしてもう一つ。少なからず敵地だと予想できるこの学校で、あんたが強引に動いたと世間に知られれば、あんたの野望……カムバックも永久に消えるんじゃないか?」

「……それも松雄の入れ知恵か。死んでもなお私にまとわりつくか」

「松雄の口ぶりじゃ、それだけでもないようだったけどな」

 もっとも、松雄からこれ以上詳しく聞かされたわけじゃないが、勝手に推察することは出来る。

 生半可なことではこの男は止められないことを、松雄も分かっていたはずだ。

「施設中断の影響もそうだが、もうひとつおまえの問題を見つけた。どんなにかんぺきしつけたつもりでも反抗期と呼ぶに相応ふさわしいものが人間には起こるものなのだとな」

 たかだか15年弱の教育じゃ、太古から刻まれてきたDNAにはあらがえない。

「おまえほどの個体が何故道に外れたことをする。不要なものを学ぶことに意味などないと最初から分かっているはずだ」

「飽くなき探究心、そして自分の道は自分で決める。そう思ったからに過ぎない」

「くだらん。私が用意した道以上のものなどこの世には存在しない。おまえはいずれこの私を超え日本を動かしていく存在となるべきだ。何故それが分からない」

「それはあんたの中での話だろ」

「やはり話にならないようだな」

「ああ。同じ意見だ」

 どこまで行っても平行線なのだ。納得の行く落としどころなど存在しない。

「既にホワイトルームは再稼動している。今度は邪魔の入らないかんぺきな計画だ。遅れを取り戻せるだけの準備もしている」

「なら既にあんたの意思を受けぐ者たちは大勢いるってことだろ。なんでオレにこだわる」

「確かに計画は再開し順調だ。だがおまえほどのいつざいはまだ現れていない」

うそでも親子だから、という言葉は出ないみたいだな」

「そんなつまらん嘘を言ったところで、おまえの心に響くわけもないだろう」

 そりゃそうだ。

「最後の言葉だきよたか。熟考した上で答えるといい。自分からの意志でこの学校を去るのと、親の手で強制的に去る。どちらが希望だ?」

 どうやら、この男は本当にオレを手元に引き戻したくて仕方がないらしい。

 どんな手を使ってくるつもりかは知らないが聞き入れる気にはなれないな。

「……戻るつもりはないか」

 沈黙をつらぬくと、男は早々に結論に達した。

「あんたに救いがあるかは知らないが、オレは学ぶことをほうしたつもりはない。方針は違えど、この学校だって人材の育成をしていることに変わりはない。そこに期待するんだな」

「バカバカしい。この学校がどんな場所なのかおまえは全く理解していない。ここはごうの衆の小屋に過ぎない。おまえのクラスにもいるはずだ、救いようのない底辺共が」

「底辺? そうでもないさ。人間が平等であるかいなかを問うひとつの答えが見つかるかもしれない場所だ。なかなか面白い方針だと思う」

「無能が天才と同じ土俵に立つことが出来るようになる、とでも?」

「そうあってほしい」

「どこまでも俺の方針に逆らいたいようだな」

「もう話は終わりでいいだろ。この話はいつまでも平行線を辿たどると気づいているはずだ」

 そろそろ切り上げたいと意志を示したタイミングで、応接室にノックが響き渡った。

「失礼します」

 そう声が聞こえ、ゆっくりと扉が開いて40代と見られる男が姿を現した。

 予期せぬ来客を前に、男の表情がわずかにけわしくなった。

「お久しぶりです。あやの小路こうじ先生」

 そう言うと現れた男は深々と頭を下げた。その様子はさながら部下と上司だ。

「……さかやなぎずいぶんと懐かしい顔だな。7、8年ぶりか」

「父から理事長の座を引き継いで、もうそれくらいになりますか。早いものです」

 さかやなぎ? 目の前にいる理事長と名乗った男の名字にひとつの違和感を覚える。

 Aクラスに在籍している坂柳ありと結び付けてしまうのは無理のないことだろう。

「君があやの小路こうじ先生の……確かきよたかくん、だったね。初めまして」

 こちらに声をかけたところで、立っていたオレに少し首をかしげた理事長。

「どうも。こちらの話は終わったんでオレは戻ります」

「あぁ少し待ってもらえるかな。綾小路先生と君を交えて少し話がしたくてね」

 第三者に、ましてこの学校の理事長にそう言われてしまっては断ることも出来ない。

「さ、座って」

 そう言ってソファーへと座らされる。オレの隣には理事長が腰を下ろした。

「校長から話は伺いました。彼を退学させたいとの意向でしたね」

 もし理事長が権力に屈する存在であれば、オレはきゆうに追い込まれるかも知れない。

「そうだ。親がそれを希望している以上、学校側は直ちに遂行する必要がある」

 男の言葉を受け、坂柳理事長はどう返すだろうか。

 そんな心配をに、男の目をとらえ坂柳理事長は言いきった。

「それは違います。確かに生徒のご両親には大きな発言力があります。両親が退学を切望された場合、お子さんの意見が尊重されないこともあるでしょう。しかし、それは様々な理由を考慮しての話です。例として言えば、極端にひどいいじめを受けている、などの事実があれば話も違うでしょう。そういった事実はありますか、清隆くん」

「一切ありません」

「茶番だ。こちらが問題にしているのは別のものだ。親の許可なく入学した高校をめさせると言っているだけだ」

「高校は義務教育ではありません。お子さんがどの学校に進学するかは自由です。無論、進学にともなう教育費等を親が払う必要があるのであれば、それも通りませんが。少なくともこの学校では政府が全額を負担しているので金額による不安材料はありません。あくまでも生徒の自主性が最優先されます」

 当たり前のことのようだがありがたい言葉だった。

 と同時に一つの合点がいく。まつが言っていた『この学校ならホワイトルームから逃れられる』という発言はこの男の存在が関係しているんだろうと。父親に対してものじせず思ったことを口にしている。そして効力を発揮している。

 権力の前に屈していた校長とはまるで違う頼もしさがあった。

「変わったなおまえも。以前俺に賛同していた時のおまえはどこに行った」

「今でも綾小路先生を僕は尊敬していますよ。ただ、僕は、僕の父が作ったこの学校の考えに賛同したからこそ、あといだつもりです。それは綾小路先生が一番分かっているのでは? 父の時から方針は何も変わっていません」

「俺はおまえのやり方を否定するつもりはない。父親の意志をぐのもいい。だが、そうであるならばきよたかをこの学校に入学させた」

 男には疑問があるらしく、さかやなぎ理事長を追及し始めた。

「何故、ですか。面接と試験の結果、合格に値すると判断したからですよ」

「はぐらかすな。この学校は一般のそれと違うことは聞き及んでいる。本来清隆は合格対象にはなりえなかったはずだ。面接や試験が飾りであることは知っている」

 その言葉に、今までさわやかな笑みを浮かべていた坂柳理事長の表情が変わった。

「……一線を退しりぞいたとは言えさすがあやの小路こうじ先生。よくごぞんですね」

「秘密裏にこの学校への推薦がなされる決まりのはず。そしてその時点で確実に合格することが決まっている。裏を返せば、推薦がなされていない生徒はなる存在であろうともすべて不合格にならなければおかしい。違うか?」

 本来、生徒であるオレが絶対に聞き及ぶことのない話をしていることだけは確かなようだ。

「清隆の存在は選定の中にあるはずもない。つまり不合格にならなければおかしい」

「ええ。そうです。元々彼の存在は入学予定のリストにはありませんでした。本来リストにない生徒からの予期せぬ願書があった場合は全て不合格にしています。そのためのカモフラージュとして、面接と試験を行っています。しかし彼だけは僕の独断で判断し入学を許可しました。彼を連れ帰りに来たのかも知れませんが、今はこちらで預かる大切な生徒です。私にはこの学校の生徒を守る義務がある。いくら先生の頼みとは言え聞けないことはあります。あくまで彼自身がめると口にしない限りは」

 ふざけたことを、と男は吐き捨て坂柳理事長からオレに視線を向けた。

 しかし坂柳理事長は言葉を続ける。

「ご両親の意見も無視することはしません。退学を望まれるのであれば、清隆くんと学校サイドを交え繰り返し三者面談を行い、納得がいくまで話し合いましょう」

 事実上の退学完全否定。

 これ以上、この場で男にどうにかするすべはなくなったと見ていいだろう。

「確かにおまえのフィールドで無理を押し通すことは出来ない。しかし、そういうことならこちらも考えを変えるだけだ」

「何をなさるおつもりです? あまり手荒なをされますと───」

「分かっている。何らかの圧力をかけるつもりは毛頭ない」

 その点に能力特化したこの男がそれをしないのは、それが出来ないことの表明でもあった。

「学校のルールを元に清隆が退学する分には問題が生まれるはずもない」

「ええ、それは約束します。先生の息子さんだからと特別扱いは致しません」

「なら話は終わったようだ。これで失礼する」

 男はソファーから立ち上がる。

「次はいつお会いできますか」

「少なくとも、二度とここで会うことはないだろう」

「見送らせます」

「不要だ」

 見送りを拒否する男に、オレは声をかける。

「親を語るなら、何度か学校に足を運ぼうとは思わないのか?」

「こんな場所は一度きりで十分だ」

 そういい残し、男は応接室から立ち去って行った。

「ふー。相変わらず先生がいると場がピリピリするね。君も苦労するんじゃないかな?」

「いえ別に」

 相変わらずだなという感想しか出てこない。

 二人きりになったところで、少し落ち着いたさかやなぎ理事長が暖かい目を向けてきた。

「僕はね、君のことを昔から知ってるんだよ。直接話したことはなかったけど、いつもガラス越しに観察させてもらってた。先生が君の事をよくめていたよ」

「そうですか。それでカラクリが解けました」

「カラクリ? ……どういう意味だい?」

「いえ。それよりも坂柳理事長。ひょっとしてAクラスに在籍しているのは───」

ありのことかな? 僕の娘だよ」

「やっぱりそうですか」

「あ、娘だからってAクラスにしたわけじゃないからね? 審査は公平にしているよ」

「そこは疑ってません。一応聞いてみただけです」

 これで、あいつがオレを知っている理由も少しなぞが解けた気がする。

 この男の娘なら不思議じゃない。

「答えられる範囲でいいんですが、先ほどあの男が───父親が言っていたことで気になったことがあります」

「ひょっとして、君が入学にいたった話のことかな?」

「そうです」

「うん。あやの小路こうじ先生の言う通りさ。この学校は全国の中学生に対して、こちらが事前調査をして『当校に所属するに値する』と判断した生徒にだけ入学を認める。毎年各中学校の管理者と連携して取り組んでいるんだ。そうした結果、集まってくるのが今の生徒たちなんだよ。面接や入学試験なんてものは、形式上だけのお飾りに過ぎない。面接でふざけようと、試験で0点を取ろうと生徒の入学は確定している。当然全国からは入学希望の生徒が入学願書を出してくるけれど、すべて振るい落とすための見せかけの試験なんだよ」

 そこで100点を取ろうと、面接をかんぺきにこなそうと落とされるわけか。

 落とされた生徒側に真実を確かめることは出来ないしな。

 これで納得がいく。どういけたちのような学力で劣る生徒や、かるざわひらのように過去に問題を抱えている生徒たちが入学できたのにも。

 一般常識や学力は、この学校にとって二の次の評価ってことだ。

「君の場合も僕が入学させると決めた時点で、何をしようと合格は確定していた。全ての筆記試験で50点を取ったことも合否には何ら影響はなかったんだ」

 非常に特異な学校だ。

 恐らく今まで、そんな学校は日本にひとつだって存在しなかっただろう。

「君やあやの小路こうじ先生は疑問に思っているだろうね。国主導で動くこの学校が、総合力の高さで判断していないのかを。だけど、それはこの先きっと分かってくる。僕らが目指す育成方針がどんなもので、どんな効果を生み出していくか」

 さかやなぎ理事長からは自信があふれていた。

「……ついしやべりすぎてしまったね。でもこれ以上は教えられない。君はこの学校に入学した生徒で、僕はそれを監督する身だから」

 それでも話して聞かせたのは、オレがあの男にねらわれている特殊な立場だからだろう。

「僕は学校の責任者としてルールの中で生徒を守る。言っている意味は分かるね?」

 ルールの中で守れなくなれば、助けられないということだ。

「もちろんです。これから先、あの男のやりそうなことは大体分かりますから」

 この学校からオレを追い出すには、取れる選択肢は非常に限られている。

「ではこれで失礼します」

「うん。頑張って」

 そうエールを送られ、オレは応接室をあとにした。

 応接室を出ると、そこから少し離れたところで話し合いが終わるのを待っていたちやばしら先生の姿が見えた。会釈して前を通り過ぎようとすると、歩調を合わせて歩き出した。

「父親との対面はどうだった」

「下手な探りを入れても無駄ですよ。もう全て理解しました」

「……理解した、とは?」

「茶柱先生。あなたがオレに言っていたことはほとんどがうそだった、ということですよ」

「何を言っている」

「動揺、隠してるつもりかも知れませんけど態度に表れてますよ」

 視線のブレや言葉の選び方が、わずかにだがいつもと違う。

 外見は極限まで感情を押し殺しているが、それでも動揺を隠しきれていない。

「あの男はちやばしら先生に接触などしていない。当然、退学にするよう迫ってもいない」

「いいや、おまえの父親は私に協力を求めてきた。事実、私がおまえに教えたように退学を迫ってきたはずだ」

 確かに父親はオレに退学を迫ってきた。だが、この学校に足を踏み入れたのが初めてだったことや、態度を見ていれば分かる。確証がなかったため反論できなかったが、一教師に接触するというのがおかしな話ではあるのだ。

「もう化かし合いはめましょう。さかやなぎ理事長はすべて話してくれましたよ。オレが入学してくることが決まった段階で、あなたに話を持っていっていたことを」

「……話したのか、理事長が」

 オレは薄く笑う。

 その瞬間茶柱先生は、不覚を取ったことを理解する。

あやの小路こうじ、カマをかけたな……?」

「ええ。理事長は茶柱先生に関しては何も言いませんでした。が、つながっているのは明白になりましたからね」

 全教科50点だったことを知っていた坂柳理事長を見て確信した。

「今からオレの推理を聞かせますよ。まずオレが入学希望をこの学校に出したことで、昔からオレのことを知る坂柳理事長が独自に動いた。そして入学を決定すると同時に、Dクラスへの配属を決めたんでしょう。他のどこでもなくDクラスに入れることを決めたのは、ちやばしら先生が表向きクラスの抗争に強い関心を示さない教師だったから。これまで見てきた各クラスの担任は、クラスを一つでも向上させる意欲を強く持っていましたからね」

 下手にオレが目立つクラスに配属されれば、それだけ注目を浴びる機会が増える。

「ところが、さかやなぎ理事長にはひとつだけ誤算があった。それはもっともクラスに対して愛情がなく無気力に見えるDクラスの担任が、実は人一倍Aクラスに上がりたいという欲望を胸に秘めていたことです」

「…………」

 茶柱先生は何も答えることが出来ず、黙って聞き入っている。

 不用意に反論したところで、論破されることが分かっていたからだろう。

 だからオレは遠慮せず言葉を乱暴にした。

 そこでもう一つ確かめるために。

「あんたはAクラスに上がることに対して異様にこだわっている。だが、これまでは生徒に恵まれずその機会を得ることが出来なかった。だからその感情を表に出すこともなくたんたんと日々を送ってきた。違うか?」

 茶柱先生は先ほどまでと違い目を合わそうともしなくなっていた。

「おまえのおくそくあやの小路こうじ

 否定する茶柱先生の言葉はがなく、弱々しい。

「偶然オレというイレギュラーが現れた今年は、例年と状況が違った。性格に難のある生徒は多いが粒がそろっていた。ほりきたこうえんひらくしく運べば上のクラスをねらえる生徒たちだ。期待もしたくなる。となれば、封印していた野心を再び燃えあがらせてもおかしくはないだろう。入学して間もない頃、あんたにからんで来たほしみやの発言を思い起こせば分かりやすい」

 昔なじみの星之宮にはAクラスに上がりたいという茶柱の本心が分かっていた。

こくじようを狙っているんじゃないの』という彼女の言葉がそれを物語っている。

「そして今、どんなにオレが無礼な言葉や態度を取ろうとも、あんたはこの場で飲み込み処理してしまうしかない。理事長にオレを見守るように言われていること、そしてAクラスに上がるための武器にしたい気持ちを思えば、ここでの暴言には目をつぶるしかない」

 事実、こうして聞き入ることしか茶柱先生には出来ない。

「Aクラスに上がりたいと願いながらも、万年Dクラスを担当するあんたにはこのチャンスは手放せない。父親に接触したといううそをついてまで、オレの存在を利用することを決めたんだからな。それがオレへの接触理由であり、堀北はそのために利用されたコマに過ぎなかった。ところが、物事はそう単純にはいかない」

 元々オレには向上心がなく、Aクラスを目指すつもりは最初からなかった。

 ほとんど行動を起こさないオレという存在を持て余したまま、無人島での最初の特別試験が幕を開けてしまったということだ。

「もし、特別試験が始まって以降も他クラスに水を開けられる事態が続けば、追い抜こうにも追い抜けなくなる。焦ったあんたは、理事長に秘密にしておくよう言われた話を持ち出した。苦肉の策ってヤツだ」

 そこからは、ある程度順調にDクラスは勝ちあがってきた。

 しかし誤算が起こる。オレの父親が学校に対してついに接触をしてきてしまった。

 そして今日のこの瞬間、すべての真実とうそていした。

「あんたはオレを抑え込んでいるつもりだろうが、もう逆に抑え込まれてるんだよ」

「……なるほど。理事長が特別視するはずだ。おまえの器は高校一年生のそれじゃない。発想が既に年齢の域をはるかに超えている、というわけか」

 一呼吸置き、うなずいて認めた。

「……認めよう。確かに私はおまえの父親との面識はない」

 ここまでけんめいに守り続けてきた姿勢を崩した。

「しかし私がその気になればおまえを退学に出来るという事実はどうする。重大なルール違反を犯したことにして、学校側に突き出すことも出来る。退学だけは絶対に避けたいのだろう?」

 ここに来て更におどしを強めてくるとは。

「過程はどうあれ、結果は変わらないと言いたいわけだ」

「そうだ」

「残念ですけど、オレは確信しましたよ。あんたはオレを退学に出来ない」

「……その結論にいたる理由を聞こうか」

 荒らげていた口調を、オレは落ち着かせ元に戻す。

 元々感情は一切揺れ動いていない。

 ちやばしら先生の真意を確かめるために荒らげて見せていたに過ぎないからだ。

「今の状況ですよ。恐らく今のDクラスは近年まれに見る好成績を維持しています。ほりきたや他の生徒も、少しずつですが力をつけ始めている。オレの協力がなくなったからと言って絶対にAクラスに上がれないわけじゃない」

 ここまでDクラスは上位クラスをもうついし、Cクラスを追い抜けるところまで来ている。

 いや、現時点では内部的に逆転している。

 だが退学者を出せば当然目標は遠のいてしまう。

 茶柱先生がどうしようと手出し出来ない状況になっている、ということだ。

「オレが舞台から降りても、茶柱先生は希望がある限り戦い続ける」

 自らの手で希望を捨てることなんて、人間には出来やしない。

「ということで、解放してもらいますよ」

すべてを知った今、おまえはAクラスを目指すことをほうすると?」

 当然放棄する。Aクラスに上がるためにオレを利用していたい先生が、学校をめさせたがっている父親と裏でつながることは今後も絶対にない。つまりおくする必要は皆無だ。

「少なくともオレの出番は終わりだと思ってますけどね」

 だが、あえて完全否定はしないでおいた。

 希望があれば人はついてくる。

 限りなく0に近いと分かっていながら、可能性を信じたくなってしまうものだ。

 ちやばしら先生が歩みを止める。

「とりあえず、今は大人しく見守って下さいよ。これ以上個人的な感情にもとづく理由でオレに接触されると学生の本分に差し支えますから」

 念を押してそう伝える。

「私がちやと知りつつも、おまえを解放しなければどうする」

「それは野望を抱いて死ぬ、という選択肢ですか。賢い選択じゃありませんよ」

「ならば問いかけを変えよう。私から希望がなくなったとき、おまえを道連れにしない保証はどこにもないと思わないか?」

「確かに、これから先クラスポイントを急激に落とす可能性はありますね。そうなれば希望はなくなる。だったら構いませんよ。仕掛けるならどうぞご勝手に」

 止めたって聞くものじゃないなら好きにすればいいことだ。

「ただし教師という立場が保証された絶対のものではない、ということを思い知ることになりますけどね」

 ただのおどしだが、少なくとも内情を知る茶柱先生には一定の効果をもたらすだろう。

 その場から去るオレに対して、投げかけてこられる言葉は何もないようだった。

 父親との再会に感動なんてものは無かったが、収穫の大きな一日だった。

 これ以上Aクラスに上がる手助けの必要性はなくなった、ということだ。

 この先りゆうえんが何をしようと、オレがDクラスに関与していく必要性はない。

 その上でかるざわがどうなったところで、こちらに不利益はなくなったと言うことだ。

 もちろん、軽井沢がろうらく、あるいは裏切ればオレの存在はていするが、それまで。

 龍園に追及されたとしても、以降オレがDクラスのために何もしなければ、際どいグレーの判定で終わっていくことだろう。

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