ようこそ実力至上主義の教室へ 7

〇再会と別れの知らせ(1)

「あーくそ。なんなんだよあいつらはよぉ」

 登校してきたどういらちを口にしながら自分の席を通り過ぎてほりきたの下へと近づいてきた。その表情はけわしく怒りをはらんでいるのが見て取れる。

「ちょっと聞いてくれよすず

「どうしたの」

 目の前に来られては無視するわけにもいかないと、堀北が話に付き合う。

「Cクラスの連中、つかりゆうえんのヤツだよ。朝から俺にイチャモンつけてきやがった。廊下で歩くのを邪魔してきやがって。マジムカついたぜ」

「暴言を吐いたり手を出したりしていないでしょうね?」

 軽くにらむ堀北に、須藤が即座に反論する。

「してねーよ。ガン無視して来たっつの」

「そう。私の言いつけ通りくやり過ごしたようね」

 ひとまず問題を起こしていないようで何よりだ。

「ところで、なんだ言いつけって」

 オレは須藤に聞いてみる。

「鈴音に言われてたんだよ。上手い対処が出来ない時はとにかく無視しろってな」

 それは的確なアドバイスだな。下手に須藤に反論させると火に油をそそぐことになる。

 それなら須藤にストレスをめさせてでも、我慢させるのが一番だろう。

「まあ、強引に通る際に肩はちょっとぶつかったけどよ。他クラスの連中も俺がからまれてるのは分かってただろうから大丈夫だよな?」

「そうね。流石さすがにそれにつけ込んで来ることはしないでしょうね」

 向こうも一度学校や生徒会を巻き込んで騒動を起こしているからな。

 殴られたりしたならともかく、強引に突破したくらいなら大丈夫だろう。

「それで何を言われたの?」

「猿だのバカだの、ガキみたいなことだよ。けん売りまくってきたぜ」

 パン、と自らのこぶしを手のひらに打ちつけ、怒りを発散させる。

 昨日弓道部に顔を見せたことの延長戦だろうか。

あきの……部活中の三宅みやけの方にもCクラスの連中が張り付いてたらしい」

「三宅くんにも? 最近、ずいぶんと活発に行動しているみたいね」

「何がねらいなんだよ。また俺をハメた時のように事件を起こすつもりか?」

「さぁ。今はなんとも言えないわね。だけど対策を考えておくわ。また同じように絡まれても絶対に手を出したりしないで」

「わかってんよ。俺はおまえとの約束は破らねえ。仮に殴られても大人しくしとくぜ」

 以前Cクラスとめた時に比べれば、どうの言葉には相応の重みがついていた。

 それをれたからこそ、ほりきたも素直に受け入れたようだ。

 報告を済ませた須藤は、それだけで満足したのか自分の席に戻りいけたちとの何気ない会話を始めた。それを見届けながら堀北が言う。

「須藤くん自身は、やっと人並みになったかしら」

「そうだな。言葉遣いは多少荒いが、それは許容範囲とするべきだろうな」

「彼も、そろそろ次のステップに進んでいく必要がありそうね」

 そう言い、かノートを取り出した堀北はサッとペンを走らせる。

「なんだよ、次のステップって」

 のぞもうとすると、ノートをパタッと閉じる堀北。

「それはまた追い追い話すわ。やるべきことは須藤くんの問題だけじゃないもの」

 彼だけに構っていられないと、そう小さく付け加えた。

 何を考えているのかは知らないが、こちらとしてはどうでもいいことか。

 最近は堀北自身で物事を考え行動することが多くなった。

 須藤やひらたちと少しずつコミュニケーションを取れるようになってきたからだろう。

「それにしてもずいぶんと活発ねりゆうえんくん。ペーパーシャッフルの直後だし、もう少し大人しくしていると思っていたけれど。早速新しい何かを仕掛けてきたということかしら」

「でも変じゃないか? 今は何か特別な試験が行われているわけでもない」

「元々を思い返せば、彼は試験だけにしばられた戦い方をしていないもの。須藤くんに対して暴行を働いたこともそうだし、いちさんたちBクラスも、試験外で何かを仕掛けられていたようだし。ポイントのうばい合いにならない場外戦が好きなようね」

 そんなこと、いちいち聞かないでもわかっているんじゃないの? とこちらを確かめるような目で見てくる。もちろん気づかないフリをして流しておく。

「だけど今度のねらいは何なんだろうな」

「あなた本当に気づいていないの? それともフェイク?」

「どういうことだ? オレは何も分かってない」

「彼はDクラスを影で動かす人物を探し出そうとしている。そのためになりふり構わず動き始めたということよ」

「つまりおまえか」

 そういうと、強烈ににらみつけられた。

「もう私のかくみのは、龍園くんには全く通じていない」

 こちらのうそを相手にせず、堀北は真面目まじめに続けた。

「なんでそう言い切れる」

「もし他の生徒のようにまだ私がすべてを動かしていると思っているなら、当然私に対して接触して来なければおかしい。だけど今回私は何もされていない」

 これまでしつようほりきたしつしていたりゆうえんが、そうじゃなくなったと言いたいらしい。

「それは考え方次第じゃないのか。ペーパーシャッフルの時に見せたおまえの作戦が思いのほか効いてるってことじゃないか? 下手に仕掛けるのを躊躇ためらってるってことも考えられるだろ。外堀から埋めていくねらいかも」

「そうかしら。私にはそんな風に思えないわね。私に興味を失った、というか」

「龍園に興味をもたれて満更じゃなかったってことか」

「そういう意味じゃないわ。られたいの?」

「蹴られたくはない」

 コイツは本気で蹴ってくるからきちんと拒否しておく。

「このクラスの影の立役者は、間抜けにも彼に目を付けられたんじゃない? ……はぐらかすのも結構だけど、こんな場所でこれ以上口にさせるつもり?」

 くし含め、多くのクラスメイトが席についたホームルーム前、オレたちの会話に耳を傾ける者はいないとはいえ、確かにここでするような話ではないな。

「それにしても、ずいぶんと龍園のことを理解するようになったな。あぁいや、さっきみたいにちやす意味じゃなくてだ」

 再びにらまれそうになったので、慌てて言葉尻を足しておく。

「彼のやり方は基本的に同じだもの。成功しても失敗しても似た戦い方をしてくる。何度も仕掛けられたら嫌でも学習するわ。だから彼女を───櫛田さんをペーパーシャッフルの時に利用してくることは読めていた。もっとも、そうならないことが理想だったことは言うまでもないけれど……」

 誰だってクラス内から裏切り者は出て欲しくない。櫛田がDクラスを裏切らなければ今までの試験でもここまで苦戦することはなかっただろう。

 と、堀北はそう考えている。

 だがモノは考えようだ。櫛田という内側の敵を利用できるからこそ、龍園は安心しきっていた部分がある。もし他に使えるコマがなかったなら、恐らく別の手を考えたはずだ。

 結果的に櫛田の存在は、良くも悪くも敵の攻撃パターンを狭めてくれたことにもなる。

「唯一の誤算じゃないけれど、ペーパーシャッフルで私は龍園くんの裏をいたつもりだった」

「実際にそうだろ」

「ええ。だから試験勉強をおろそかにしてCクラスの誰かが退学になるかも知れない。そう思っていたけれど、流石さすがに甘い考えだったようね」

 かんぺきな問題と回答を入手できれば勉強する必要はない。だから油断していたCクラスには退学者が出てもおかしくなかった、ということだろう。

 けいせいたちもそうだった。やはり考えることは皆同じだな。

「Cクラスにも頭の良いやつはいるだろうからな。りゆうえんとは違うサポートをしてたと考えるのが適当だろう」

「そうね。見えないところで努力していたのならめるべきかしら」

 なんにせよ龍園は、ほりきたの背後にひそむ存在にたどり着きたくて仕方がないらしい。

 そのためになら学校に目を付けられることもいとわない。

 そんな覚悟のようなものが見て取れる行動に感じられた。

「これから先、彼のしつような仕掛けは激化していくでしょうね」

「オレには関係のない話だ。おもてに立つのはおまえの役目だからな」

「それは分かっているわ。あなたに強引に引きずり出されたのも運命みたいなものだし」

「意外と受け入れたんだな」

「受け入れるしか選択肢がないからよ。今更引っ込めないでしょう?」

 前向きになったのは良いことだ。元々堀北の持っているポテンシャルは悪くない。ひらのように他人とコミュニケーションをうまく取れる能力さえ身に付ければ、今の地位に見合った存在となるだろう。

「それで───手は考えてあるの?」

「なにが」

「龍園くんの探りに対する作戦はあるのかを聞いているの。今のうちに手を打っておかないと取り返しのつかないことになるわよ」

 どうやら堀北なりに、オレの正体がバレることを心配してくれているらしい。

 しかしそれは不要なことだ。

「何も考えてないさ」

「またあなたはそうやって……」

 何も教えてくれないのね、と深いため息といらちを露骨に見せつけてきた。

「じゃあ少し話を変えるわ。あなたはまだ、向こうの集まりに参加するのかしら?」

「向こうって、啓誠たちのことか? 何か問題があるのか?」

「あまり益のあるグループとは思えないけれど。元々さんと三宅みやけくんの不得意な教科がかたよったことから発足した勉強会グループでしょう? 試験の行われていない今は必要ないんじゃないかしら」

「有益かどうかでは判断してない。気楽でいいんだよ、あいつらといると」

 堀北といると、どうしてもAクラスを目指す方向の話にしかならないからな。

 もともとそこに興味がない以上、あまり堀北と接点を持っても仕方ない。

 もしほりきたが、そういったクラスの争いごとを抜きにしてオレに話しかけてくるなら、それこそけいせいたちと変わらない対応が出来るんだけどな。

「……あなたは私に協力してくれるのよね?」

「してるさ。出来る限りはな」

 とても納得がいっている表情ではなかった。


    1


 午前最後の授業が終わり、昼休みになる。あきや啓誠を昼食にでも誘おうかと考えていると、隣人がジッとこちらを見ていた。

「なんだよ。まさか朝の続きをしようってんじゃないだろうな?」

「違うわ。あなたにお願いがあるの」

「面倒なことならパスだ」

「面倒なことであるのは否定しないわ。でも時間はそれほどかからないことよ」

 そう言い、堀北はかばんから一冊の本を取り出した。

「あなた先週、私が読んでいたこれを読みたいと言ってなかった?」

 図書館の印が押された本を机の上に置く。

「『さらばいとしきひとよ』か」

 レイモンド・チャンドラーの書いた名作だ。

 以前から興味があって何度か図書館に足を運んでいたが、妙にこの学校では人気があるのかいつも借りられていた。いい加減購入するしかないかなとあきらめかけていたところだ。

「よく借りられたよな。もしかして貸してくれるのか」

 返却されたらすぐに別の人間が借りていくことは予想がつく。

 確実に借りるには、多少ズルだが前の借り手から直接受け取るのが一番だ。

「あなたが望むならそのつもりよ。ちなみに今日が返却日なの。だから一度図書館で手続きを行って、その上であなたが借り直してもらえないかしら」

「返すのが面倒だから、その手続きをオレに引き受けろと?」

「わざわざ私が返しても、あなたが図書館に行かなければならないことに変わりはないでしょう? むしろ効率性だけを考えれば正しい判断だと思うけれど」

 確かにな。堀北が返却する、という手間だけははぶける。

 本を借りる時には学生証が必要になるし、オレ名義で借り直してもらうのは無理だ。

 逆に返却だけなら提示するものは何も必要ない。

「もちろん、断られたなら私はそのまま図書館に出向き自分で返却するだけ。人気かつ品薄のこの本が次にあなたの手元に来るのがいつかはわからないけれど。しげもなく時間をろうして図書館に通うならそれでもいいわ」

 どう考えても非効率でしょう? というプレッシャーをようしやなくかけてくる。

 読みたいと思っていたオレへの、ほりきたなりの優しさなんだろうか。

「……わかった。ありがたく引き受ける」

「よろしく」

 そう言って、堀北は本をオレに手渡してきた。

「今日中なら昼休みでも放課後でも、好きなタイミングで構わないから。でも、必ず処理はして。えんたい扱いを受けたら責任を取ってもらうわよ」

「わかってる」

 図書館で本を借りたことはないが、仕組みはあくしている。

 借りること自体は無料だが、延滞時にはプライベートポイントが差し引かれる仕組みだったはずだ。

「善は急げだ。今から行って来る」

 その方が堀北も安心するだろうし、面倒ごとを後に引きずらないでいい。


    2


 昼休みになったばかりの図書館は意外な穴場だったりする。

 館内での食事を禁止されているため、昼食場所としては利用できないからだ。今は数名の利用者しかいないようで、返却手続きはスムーズに出来そうだった。

「どうせなら、何か他の本も借りていくか……」

 1冊借りるのも2冊借りるのも、返却にかかる手間は変わらない。

 返却手続きをする前に、読みたい本を一緒に借りさせてもらおう。

『さらばいとしきひとよ』を片手にミステリーコーナーを巡っていく。

 どうせなら、もう1、2冊探偵物で固めよう。レイモンド・チャンドラーで固められればなおよしだ。

 ミステリーコーナーにたどり着くと、一人の女子生徒を見かけた。

 けんめいに腕を伸ばし、自分の背より高い本棚にある本を取ろうとしている。

 本の位置が絶妙で、届きそうで届かないようだ。

 あとわずかで届きそうだからこそステップ台を使うことに抵抗している。

 男でも女でも起こる、あるあるだな。

 つかもうとしている本は、エミリー・ブロンテの『あらしが丘』だった。

 文学史でも名高いブロンテ3姉妹の次女が書いた作品だ。

 いや、確かにあらすじ的にはミステリーっぽいが、ジャンルは恋愛になるんじゃないか?

 オレは横入りし、女子生徒が手を伸ばしている『あらしが丘』の本を手に取った。

「余計なことかも知れないけど」

 その瞬間、見知らぬ女子生徒だと思っていた人物に見覚えがあったことを知る。

「確かCクラスの……」

 しいひより。

 少し前にりゆうえんと共にオレたちの前に姿を見せた生徒だ。

 向こうは静かにこちらの顔を見つめた後、同じようにオレのことを思い出したのだろう。

「確か……あやの小路こうじくん、でしたか」

 相手もこちらの名前を覚えていたらしい。

 妙な接触の仕方だったことも踏まえれば、必然とも言えるが。

「ああ。とりあえずこれ」

 本を手渡す。

「ありがとうございます」

「好きなのか? ブロンテ」

「個人的には好きでも嫌いでもありません。ただジャンルの違う本が置かれていたので正しい位置に戻そうと思ったんです」

「なるほど……」

 どうやら同じ感想を抱いていたらしい。

「ところで、その手にしているのは……『さらばいとしきひとよ』、ですね。名作ですよね」

 しいの目に輝きのようなものが宿った気がした。

「今日友人から借りることに成功した」

「それはラッキーでしたね。どうも2年生の間でレイモンド・チャンドラーのブームがあったらしく、ずっと争奪戦が続いているみたいです。私も読み返したいと思ってたんですけど、今日も見つけられなくて……」

「それは悪いことをしたな。又貸しのして」

「構いません。以前読んでますし、それにその本を探していて、また別の本にも巡り合えていますから。この学校の図書館の蔵書量は相当な規模です。読みふけっていたら、きっとあっという間に卒業ですね」

 そう言って、ブロンテの本を手にとって小さく微笑ほほえんだ。

「……そうか。そういうものかもな」

 ここには確かに、相当量の本が置かれてある。

 特定の本が読めずとも時間はいくらでもつぶせる、か。

「邪魔したな」

 貴重な昼休みだ。昼食よりも優先してこの場所に来ているくらいだ、他クラスの生徒との雑談で時間を取られるのは不本意だろう。立ち去ることを決める。

「あの。何か他にも借りる本を探しに来たんじゃないのですか? 返却と貸し出しの手続きだけなら受付で済むことですし。ついでに別の本も借りていこうとされたんですよね?」

 きびすを返そうとしたオレを椎名が呼び止める。

「また今度にしようかと───って、何してるんだ?」

 話しかけてきた椎名はこちらから視線を外し、ミステリーコーナーに目を向けていた。

「ドロシー・L・セイヤーズのシリーズはもう読まれましたか?」

「いや。クリスティは読んだんだが、ドロシーは手をつけてないな」

「であれば───そうですね、是非『誰の死体?』をオススメします。ピーターきようシリーズの一作目で、一度読めばシリーズを読みたくなること必至です」

 そう言って本棚から該当する本を抜き出し、差し出してきた。

「えっと……」

 なぞの展開に困惑したオレは、どう答えたものかと悩んでしまう。

「勝手に話を進めようとしたりして、迷惑だったでしょうか?」

 特に興味が強かったわけじゃないが、ここで断るほどの度胸みたいなものもない。

 とりあえず借りること自体はタダだし、流されておくか。

「いや。ちょっと戸惑ったのは事実だけど。せつかくだから借りてみる」

「それがよろしいかと」

 どういうつもりか、しいすごうれしそうな顔をしてから目を細めた。

「恐らく昼食はまだですよね? もしよろしければご一緒しませんか?」

「……え」

 本をすすめられた時よりも、更に理解できない展開だ。

 偶然の遭遇にしろ、りゆうえんからの指示が飛んでいると見た方が良いかも知れない。

 だが、ここでしようだくしようと断ろうと、椎名が抱く結果に違いはない。

 どちらを選んでもグレーと判断されてしまうのがオチだ。

「Cクラスの中には小説を好む人がいなくて、話し相手がいないんです」

 こちらの返答がなかったことに耐え切れなかったのか、椎名はそう言う。

「色々問題じゃないか? 今CクラスはやつになってDクラスの誰かを探しているんじゃなかったか? オレも含めて容疑者みたいな扱いだったと思うんだが」

 この椎名は、恐らくオレやけいせいほりきたの裏にひそんでいる人物の候補者であると聞かされ、そして探りを入れるよう依頼されているはずだ。

 そうでなければ、あの場で突如現れ接触などしてこない。

 ここでも深く立ち入ってくるのは、それが関係している可能性が高い。

 ある意味龍園よりも不気味な存在だ。椎名ひよりに関しては完全な未知数。

 これまでの試験では存在すら認知していなかった。

 かるざわを使えばある程度の情報収集は可能だろうが、龍園に目をつけられている今は下手に動かすことも出来ない。こちらの手持ちカードのメンバーは全員が小さなコミュニティーしか持っていないため椎名の詳細を探りようが無いのだ。

 啓誠や、もちろん堀北も他クラスの情報収集を苦手としている。

 ひらを使うことも出来るが、あいつは基本的に中立であるし、そしてオレのことをどう感じ、どう思っているかまだ読みきれないため不用意には頼りたくはない。

 少なくとも、今このタイミングでは。

「ご心配なく。あれは龍園くんのために形式上動いただけです。私は元々、争いごとのようなものに興味はありません。それとも私と話すことが問題になってしまいますか?」

「いや別に。そっちが問題ないなら特に言うことはないけどな」

「良かったです。そのようなつまらないことで、無意味にクラス同士にれつが入るのは嬉しくありません。皆さん仲良くするのが一番いいことなんですから」

 亀裂ね。元々競い合う学校の仕組み上、避けられないことだとは思うが。

 それでも大多数の生徒は当たり前のように普通に接している者が大半か。平田やくしへだてなく人気があるように、本来『友達』というものに壁など出来ることはない。

「それじゃあ参りましょう。時間は刻一刻と過ぎていっているようですし」

 図書館に設置された時計に目を向けた。

「受付で手続きだけさせてくれ」

 たまたま訪れた図書館で、こんな展開になると誰が予想できただろうか。


    3


 二人で学食に移動する。既に昼休み開始から20分以上っているため、大勢の生徒でにぎわっていた。しかし生徒のほとんどは食べている途中や食べ終わったばかりのようで、券売機に並ぶ生徒はほぼいない。適当に日替わりを選んだのだが、ここからが長かった。

 しいは選びきれないのか、ボタンを押す指を上下左右させて迷っていた。

「ちょっと待ってくださいね……」

 そう言われ大人しく待つこと2分ほど。やっと決心したのかオレと同じものを選んだ。

「少し迷ってしまいました」

「いいさ。後ろが並んでたわけでもない」

 それからすぐ、カウンターから定食二つが用意され出てきた。

 椎名は食事の乗ったトレーを持つのが難しそうだ。

 図書館に持ち込んでいた学校のかばんを、椎名は食堂にまで持ち歩いていたからだ。

「鞄邪魔だろ。オレが持つ」

「いえ、そのような大変なことをお願いするわけには……」

「大丈夫だ。トレー持ったまま転ばれる方が大変だしな」

「すみません……」

 申し訳なさそうに差し出してきた鞄を受け取ると、ずいぶんと重たかった。

 教科書でも持ち運んでいるのか?

「重たいですよね。ありがとうございます」

 極力密集地を避け、いている席に向かい合わせで座った。

 それから二人でゆっくりと遅めの昼食を始める。

「普段から学食を使うのか?」

「いえ。基本的には朝コンビニで昼食を買って、それを教室で食べることが多いです。あやの小路こうじくんはよく学食を利用されるんですか?」

「コンビニは味気ないし、やっぱり出来たてがいいからな」

 手間もコストパフォーマンスも悪くない。

 椎名ははしを手に取り、行儀よくオカズを口元に運んだ。

 その動作を見ていて感心する。箸の持ち方が非常にれいだ。

「ん、なるほど……学食、確かにしいですね。しっかり覚えておきます」

「もしかしてここで初めて食べたのか?」

「バレましたか」

「券売機の前でも悩んでたし、もしかしてと思ったんだけどな……」

 2学期ももう終わりで、学食を使ったことがない生徒は珍しいな。

「前々から興味はあったんですが、最初に行くキッカケを失うと足が遠のいてしまうものですね。せつかくと思って勇気を出してみたんです」

 そういう気持ちは、何となく分かるかもしれない。普段顔を見せない施設にいきなり行くのはちょっとした勇気がいる。その場の勝手が分からないから戸惑う。常連たちに対して何も知らない自分を見せたくないという自尊心が心にストップをかける。

 オレも最初は、コンビニでドリップのコーヒーを買うにも抵抗があった。

 氷だけが入ったコップからスムーズにコーヒーを作れる自信がなかったからだ。

 しかし、ふたを開けてみると案外大したことないケースがほとんどだ。

「じゃあこれをキッカケに来れるようになるかもな」

「はい」

 それからオレたちは会話もそこそこに、学食での食事を終える。

 後発組だったため、食事を食べ終わる頃には学食の生徒はほとんどが立ち去った後だった。一部雑談に華を咲かせていたり、ゆっくり食べる生徒たちもポツポツとは残っているが。

「先ほどの図書館での話に戻るんですが、良かったらこちらを読んでみませんか?」

 そう言いかばんを持ったしいが、それをテーブルに置く。

 ドン、と見た目からは想像できないような重低音が響く。

あやの小路こうじくんは、この中のどれか読んだことありますでしょうか?」

 鞄から4冊の本を取り出した。道理で鞄が重たいわけだ。

 ウィリアム・アイリッシュにエラリー・クイーン、ローレンス・ブロックにアイザック・アシモフとは。

「中々良いチョイスだな……」

 どれもが、往年の名作ミステリー小説だ。

「分かります?」

「オレもミステリーは結構好きなんだ」

「そうなんですかっ」

 うれしそうに手のひらを合わせ、椎名が笑う。

 そこでふと、本に違和感を覚える。

「これ、図書館の本じゃないな」

「全部私物です。いつか似た趣味で話し合える人が現れたときに貸そうと思って持ち歩いてるんです。最初は一冊だったんですが、貸す相手が見つかる前にどんどん増えてしまって」

「そう、なのか」

 何とも少し抜けた子だ。

「遠慮せず、どれでも持っていってください」

「じゃあ……読んだことのないエラリー・クイーンを」

「どうぞどうぞ」

 これが演技なら大したもんだが、どうもそういう感じじゃないな。

 純粋に本が好きだからこその行動や仕草としか思えなかった。

 しかし妙なところで、妙な縁が出来てしまったものだ。

 もちろんCクラスサイドが仕組んだわなであれば警戒すべきところだが、今回の件は完全なる偶然といえるだろう。

 後日返すことを約束したところで、昼休みの終わりを告げるチャイムが響いた。


    4


 放課後になると、いつものように携帯のグループチャットに連絡が入った。

『ケヤキモールに来れるなら来て。いつもの場所』

 からの、そんな気楽なチャットだった。

 返事をするべく携帯を打とうとした瞬間、隣人から言葉のやいばが飛んできた。

「顔がニヤついていて気持ち悪いわよ」

「誰が」

「あなたよ。わざわざ言われなくても自覚くらいあるでしょう?」

「少なくともオレだけはニヤついてなかった自信がある」

 口角が上がった記憶がないからだ。

「私以上に真面目まじめなのか、逆にボケているのか……あなたの内面のことを言ってるの」

 どうやらほりきたは、オレが友人からのチャットを見て喜んでいると悟ったらしい。

「あなたもずいぶん溶け込んだものね」

 そんな台詞ぜりふを残し、堀北はかばんを手にして一人帰っていく。

「ニヤついている、ね」

 もちろん友人からの連絡に悪い気がしていなかったのは事実だが、オレの表情から勝手に推測した解釈が『にやけ』だとすれば、思いのほか堀北にとっては喜ばしいことではないらしい。

 そんなにボッチ同盟を築き続けたかったのか……。

 せっせと帰り支度を済ませ、教室を出る。

 普通のグループなら教室内で声を掛け合い目的地に向かうだろうが、強制力を持たないオレたちのグループではあまりそれをしない。

 あくまでも来たい人間だけが来たいタイミングで集まる。

 ケヤキモールのいつもの場所にたどり着くと、全員集合していた。

あき、部活は?」

「……今日はサボりだ」

「またCクラスのヤツらが弓道場に現れたらしい。見たところ殴ったり殴られたりはないようだが……」

 どうやら多少のごとは起こったようだ。

「ちょっと気が乗らないから休むって先輩に言っておいた。ウチは結構ゆるいからな」

 休むにしても正直すぎる申告だな。

 まあ、体調不良なんてうそをつけばこの場にはいられないか。

「マジでそろそろCクラスの暴挙を止めないとまずいかも知れないな。部活にも支障がでるぜ」

「一度先生に相談してみたら?」

 がそう助言するが、明人は首を左右に振った。

「Cクラスに見張られてます、なんて言ったところで何も出来ないだろ。立ち入り禁止の場所ならともかく、弓道部の見学に来るのは自由だしな」

 たとえそれがほとんど嘘だとしても、繰り返し見学することに問題性はない。

「そりゃそうか。Cクラス、ほんとうつとうしいことするよね。あ、Cクラスといえばさ。見たよ見たよー。よっ、憎いね大統領っ」

 いつの時代か分からないような言葉をかけ、オレのわきばらひじつつく波瑠加。

「見たって、何を」

「何って、きよぽんがCクラスのしいさんと二人で食べてるところよ」

 ……なるほど。学食で見られたか。

 広いとは言っても後半はほとんど人がはけていたからな。おかしなことじゃない。

あいがそのことをずっと気にしてて、ポロポロご飯こぼしてたんだから」

「わあ! それは言わない約束だったはずだよ、波瑠加ちゃん!」

「そうだっけ。じゃあ今のは無しで」

 無しで、と言われて忘れられるほど単純な脳のつくりはしていない。

 だがこれで一つ合点がいく。

 今日集合がかかったのは、この話がしたかったからに違いないと。

「まさかクリスマス目前で、駆け込み恋愛ってヤツ?」

「そうなのかきよたか。おまえはそういう俗世間的なことはしないと思っていたんだが」

 やや怒ったようにけいせいが言う。

「甘い、甘すぎるゆきむー。男女ってのは結局恋愛に行き着くわけ。っていうか俗世間的って発言がダサすぎる。今時の若者は思ってる以上に早いんだから」

「早いってなんだ早いって。俺たちは高校1年生だぞ」

「あのね、高校1年で初恋愛なんて遅すぎるくらいだって。私が小学生の時、同級生の中には中学生や高校生と付き合ってる子だっていたんだから」

 そんなの衝撃発言に啓誠が大きく口を開けてぜんとなる。

「き、聞いたこともないぞ」

「それはゆきむーが周りを見て無かっただけ。同級生の子供っぽい男の子には興味ないって女の子が多いからね」

 小学生に子供っぽいも何も無いと思うが、オレも啓誠同様世間を知らないだけかも知れないな。ただ訂正すべきところは訂正しなければならない。

「勝手に盛り上がってるところ悪いが、オレにそんな浮ついた話は全くないぞ」

「そうなの? 照れ隠ししてるわけじゃなくて?」

「ほ、ほらね。私はそう言ったんだけど波瑠加ちゃんは信じてくれなくてっ」

「昼休みに図書館に行く用事があった。そこでたまたましいに声をかけられたんだ。あきが部活でいしざきたちに目を付けられてたのと同じだと思う。オレも色々と聞かれた。変に断って余計に目をつけられるのも嫌だったからな……」

 ちょうど話の流れ的にも、そう言ったほうがしんじつが増す。

 それにあながち、うそではない。

 偶然の出会いではあったものの、探りを入れてきた可能性は大いにあるだろう。

「ついにあやの小路こうじもマークされたのか。Dクラスに抜かれそうなことがそんなに気に入らなかったのかよ、りゆうえんのヤツは」

 自分以外にも被害が広まっていることを改めて実感し、ふんがいする明人。

 だが啓誠は別方向で今回の尾行問題を考え始めていた。

「いや、そうじゃないかも知れない。最近、Dクラスにひそんだ策士がいるってうわさが広まっているだろ? 今まで気にもめていなかったんだが、龍園が俺たちを尾行する理由はそれかもな。綾小路、実際椎名にはどんなことを聞かれたんだ?」

「おまえの言う通りだよ啓誠。オレが一人でいたから話しかけやすいと思ったんだろうな。多少別の話を織り交ぜてはいたけど、策士がどうとか、そんなことをいくつか質問してきた」

「そ、そうだったんだ。デートとかじゃなかったんだねっ」

 全然関係ないことで、ホッと胸をろすあい

「けど思い当たる節もないし、何度聞かれても答えようがない。正直大変だったんだ」

「それにしては、結構楽しそうにしてた気がしたけど?」

「露骨に嫌な顔も出来ないだろ。同級生であることに変わりはないんだ」

 はまだ怪しんでいる様子だったが、けいせいはすぐに頭を切り替えたようだ。

「波瑠加の言う恋愛はさておき、確かにCクラスの言ってることは少し気がかりだな。盗み聞きしたことで悪いが、どうからまれたことをほりきたに相談していたようだし」

 どうやら今朝の須藤の会話を啓誠は聞いていたらしい。

「おまえは大丈夫なのか? 啓誠」

 心配するあきに対して、啓誠は考えるような仕草を見せた。

「今のところ直接は何も。ただ、気になることがなかったと言えばうそになるか」

 思い返すように、啓誠は気になることを口にした。

「最近Cクラスの生徒を見かける機会は多いかもしれない。気にしていなかったが、誰も彼もりゆうえんの取り巻き連中だ。もしかして俺もつけられてた、のか」

 そうである可能性は極めて高いだろう。

「そうなんだ……でも、私は何もされてないよ?」

 身に覚えがないとひかえめに手を挙げる。

「あたしも」

 波瑠加もあいに合わせるようにして手をあげた。

 普通は自分が誰かに尾行されているなんて考えもしない。

 まして全員身に覚えが無いのだから当然だ。

「啓誠みたいにまだ気がついてないだけで、誰かに見張られてるのかもな」

「えぇ~。それストーカー? 気持ち悪っ」

 もちろん、男子が女子を付けねらうのは色々問題も生じる。

 龍園が対策を万全にするなら女子を動かしているかもな。

「見張られてる、か。もしかしたらありえるかもな……」

 話を聞いていた明人が、手を口元に持っていき何か思い当たる節があると口にする。

「俺の部活が終わっておまえらと合流する時間は、大体遅いだろ?」

「そうね、6時過ぎとか7時過ぎとか?」

「やけにCクラスの生徒が多い気がしてたんだよな。先日ケヤキモールで合流した時も、みやがいたんだよな。そして今もな」

 グループの中でも明人は頭ひとつ抜けて、観察力が鋭いな。

 波瑠加が露骨に周りを見回そうとしたので、それを明人が止める。

「やめとけ。狙いも分からないし反応しない方がいいぞ」

 明人が止めなければオレが止めていた。

 余計な火種が増える行動は極力避けたほうがいいだろう。

「はー気持ち悪」

 隠すこともなく、見張っているであろうみやに向けてが毒づく。

「てかさ、本当なわけ? Dクラスに隠れた策士がいるって話」

 波瑠加も本気にしていなかったのか、いまだに半信半疑なようだ。

「気にするだけ無駄だ波瑠加。りゆうえんは平気でうそをつく。本当にそんなヤツがいるのかどうか分かったもんじゃないぜ」

 あきは、そう言って話の根本から否定する。

 しかしけいせいは違う形で物事を考えていたようだ。

「龍園だって考えてはいるはずだ。そんなヤツがいると思うからこそ、俺たちの後を追いかけてるはずだ。龍園の言うようにDクラスの策士が本当にいるとしたら、誰だろうな」

「なんだそんな人物がいると思ってるのか」

「そう考えなきゃ、今回の行動の意味が分からないだろ」

 明人はイマイチ納得いっていないようだった。

「龍園の考えることに意味があればいいけどな」

 これまで何度か因縁をつけられているからか、明人は疑っているようだ。

「きよぽんはどう思う?」

 飛んでくると思っていた質問が、やはり飛んできた。

「実際に探してる人物がいるかどうかは別としても、尾行する理由はそれだろうな」

 それぞれの意見を聞き終え、波瑠加が腕を組みながら話す。

ほりきたさんじゃなくて、これまでの試験で活躍した人ってことでしょ? ゆきむーとか? 頭良いしさ。実際テストなんかじゃいつも上位だし」

「俺は何もしてない。無人島も試験も振り回されてばかりだった」

 情けない話だ、と反省しながら啓誠がため息をつく。

「だったらこうえんくんとか。性格はあんなだけど、頭脳めいせき運動神経ばつぐんだし」

「それこそないだろ。波瑠加の言うようにあの性格だぞ。クラスのために動くようなヤツに見えるか?」

 協調性のなさは堀北よりもはるかに上、雲を突き抜けるくらいだからな。

「でも、だからこそのフェイクだったりして」

てんこうな性格が、キャラ作りだと?」

「本当の姿は冷静沈着な策士。……ない?」

 全員が一斉に首を左右に振る。

「絶対ないな。あいつはガチの素だ」

 付き合いも長くなっているからこそ、高円寺という生徒はアレが素なのは間違いない。

「そもそも、性格を抜きにしてもこうえんが策士の可能性は極めて低い」

 根拠があるような含みで、けいせいが言う。

「あいつは無人島の試験を初日にリタイアした。つまり戦局は全く見えてなかったはず。もし無人島の時点でほりきた以外に策士がいたのなら、成り立たないことになるわけだ」

「おーなるほど。説得力あるねゆきむー」

「ただ、この話は完全なおくそくだ。りゆうえんの言うように策士が本当にいることが前提になっているからな。それにすべての試験にかかわってるならの話。仮に実在したとしても、無人島の試験ではからんでなかったのかも知れない。全部憶測の話だ」

「そっか。確かにそうよね」

「けど俺は何となく、その策士ってヤツはクラスにいると思うけどな」

「どうしてそう思う啓誠」

 疑い続けるあきに対して、啓誠が続ける。

「何となくだ。いて言うならここまでDクラスがやくしんしてきたから、ってところだな」

「でもさー。どうしてその策士が堀北さんじゃない、って龍園くんは言い切れるんだろ」

 誰にも分からないことのため、一瞬会話が止まる。

「もしかしてひらくんだったりしない? 確か無人島の時、堀北さんからアドバイスを受けたみたいなこと言ってなかったっけ」

「実は裏で平田が指示していたことだったと?」

「そんなことをするヤツには見えないけど、絶対にないとも言えないか」

 最終的に有力候補として周囲から出てきた人物は平田だった。

「でも間違いなく平田は龍園に目をつけられてるだろうな」

「大変そう……10人くらいにマークされてたりして」

 普通そんな大人数に監視されてたら気の休まる瞬間もないな。

 きっと明人がいしざきに付け回されているように、平田にも誰かが張り付いてマークしているだろうが、不干渉で済ますのが平田という生徒だ。

 倒さなければならない相手にも気を使っているであろう姿が目に浮かぶ。

 そんなオレは、最近平田とはほとんど接触していない。

 龍園たちが探りを入れている状況では動きが制限されるのも事実だ。

 無意味にえさを与えてやる必要はない。

「ね、ねえきよたかくん」

 みんなの話を聞いていたあいが、遠慮がちに口を開いた。

「ん?」

「気を悪くしないで聞いて欲しいんだけど……もしかしてその策士って、実は清隆くんのことなんじゃないかなあ?」

 そんな言葉に、残る3人も一斉にオレを見てきた。

「どうしてそう思ったんだ?」

「だ、だって、その……きよたかくんっていつも冷静だし、頭良いし……頼りがい、あるから……ほりきたさんに色々助言とかしてるのかな、って思ったんだけど……」

「きよぽんってテストの点数良かったっけ?」

「可も無く不可もなくと記憶している」

 クイッとメガネをあげるけいせい

 天然というか、クラス同士の裏事情まで知らないあいに悪気はない発言だろう。

「ご、ごめんね。何となく、そう思っただけなの……気づかないうちのアドバイスのせいで、りゆうえんくんにねらわれてるんだとしたら可哀かわいそうだなって……」

「残念だが、オレはいつも堀北からアドバイスを受ける側だ」

「まーきよぽんは、ちょっとミステリアスな要素もあるしね。堀北さんの近くにいたこととか踏まえると、状況が状況だけに疑われてもおかしくないか」

「そういうこと……なのかもな。しいに直接声をかけられたのも」

 これまで策士の存在そのものに否定的だったあきはひとつの結論に達する。

「確かにあやの小路こうじを疑っている節はあるっぽいしな。実際に策士がいないにしても、堀北のそばにいることで、いるはずのない策士がいると思いこんだ線はあるんじゃないか?」

「だとしたら災難だねきよぽん」

「……本当にな」

かんちがいした龍園からの徹底マークか。想像しただけでうつとうしいな。もし困ったことがあったら遠慮なく相談しろよ」

 明人がそう言って、オレの肩に手を置いた。

「ああ。そうする」

 しかし、いつまでもこのまま尾行され続けるだけ、というわけがない。

 必ず龍園は、好機と判断したタイミングで総攻撃を仕掛けてくる。

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