ようこそ実力至上主義の教室へ【48時間限定公開】

　俺が自分自身を異常者だと気づいたのは、小学校に上がった直後のことだ。

　遠足の休憩地で見つけた一匹の大きな蛇（へび）。

　クラスが大騒ぎになったのを覚えている。

　遠巻きに歓（かん）喜（き）するヤツ、怯（おび）えるヤツ、あるいは興味のないヤツ。

　反応は様々だったが、一貫して同じだったことがある。

　それは誰も蛇を排除しようとはしなかったことだ。

　大人ですら冷静さを欠き、誰に助けを呼ぶだのと連絡を取り合うだけ。

　その蛇の頭に、俺は手近にあった大きな石を振り下ろした。

　噛（か）まれるかも知れない、という恐怖はなかった。

　飛（と）び交（か）う悲鳴、慌てふためく教師。

　そんなものはどうでも良かった。

　全員が恐れる蛇を駆（く）逐（ちく）しヒーローになりたかったわけでもない。

　ただ、何（な）故（ぜ）こんなにも恐れる必要があるのかと疑問に思っただけだった。

　自分自身の中にある未知なる存在とのファーストコンタクト。

　そして同時に知った。

　相手が屈する瞬間、脳内を満たす大量のアドレナリンが分（ぶん）泌（ぴつ）されることに。

　これが、俺にとって初めての明確な勝利だった。

『恐怖』と『愉（ゆ）悦（えつ）』は表裏一体。

　紙一重の世界にありやがる。

　この世界は『暴力』によって支配されている。

　この世界の『実力』は『暴力』の強さで決まっている。

　力尽き、ぐちゃぐちゃに肉片を撒（ま）き散（ち）らした死（し）骸（がい）を見て、俺は愉悦を感じた。

　だが異質な存在は、多数から敵意を向けられる。

　その時以来、内にも外にも敵が大勢出来た。

　時には大勢に囲まれ、ひたすら暴力を受け続けたこともあった。

　抗（あらが）えない力の前に崩れ落ちたことも一度や二度じゃない。

　それでもオレは恐怖しなかった。

　どうやって復（ふく）讐（しゆう）し、逆転するかだけを考えた。

　そして最終的には───全（すべ）てが俺の前にひれ伏した。

　本当の実力者とは、比（ひ）類（るい）なき暴力を持つ人間のこと。

　そして『恐怖』を克服した人間のことだ。

　だがここで一つの問題が起きる。

　それは俺が実力者になるに従って芽を出してきた。

　日々愉（ゆ）悦（えつ）を得ることが難しくなると同時に、退屈を覚えたのだ。

　結局、俺に敵（かな）うヤツなど存在しない、という退屈。

　俺のこの悟りを覆すような、そんな存在。

　もしもあるとしたら───それは『死』だけだろう。