〇動き出すCクラス
同日、同時刻の放課後、ある教室の空気は異常なほどに凍り付いていた。
その原因は
「これまでの試験を振り返れば、
思い返すように話し出した男の名前は
「だが、こうなってくると偶然じゃ済まされない」
それは一見独り言のようで、誰かに聞かせているような
「無人島にしろ体育祭にしろ、Dクラスには俺に似た考えの人間が潜んでいる」
「龍園さんに似た、ですか。Dクラスにそんなヤツがいるとは思えませんけど……」
石崎が思わず発言する。龍園のようなタイプが他にいるはずもない、と。龍園は尊敬と
「俺もそう思ってたんだけどな。どうにもソレが現実味を帯びだした」
「それが無人島と体育祭の結果に
「そういうことだ。だが安心しろ。相手のやり方には大体見当がついてる。いいかお前ら。今後は徹底的にDクラスを狙って
「龍園さん……本当にDクラスに裏で動いているヤツが存在するんですか。
「そうだ。そしてその正体を
視線を
「何が言いたいの龍園」
重苦しい空気の中、教室の隅に立つ
「クク。伊吹、おまえは黙って聞いてることも出来ないのか?」
「私はそんなに暇じゃない。それにクラスメイトを
「権限の無いヤツがほざくなよ。おまえは失態を犯しただろ?」
「それは……」
その言葉に伊吹は言葉を引っ込めるしかなかった。特に体育祭での敗北が大きい。龍園が堀北
しかし伊吹にも反論の道筋は残っている。組んでいた腕を下ろし龍園を
「あんたも似たようなもんでしょ。結局体育祭じゃ堀北を潰しきれなかったし、回収するはずだったプライベートポイントも取り損ねたんでしょ? 一緒じゃない」
「一緒だと? 笑わせんな。体育祭で俺が立てた作戦は
「だったらあの結果は何? 説明もしないで、今になってあんたと同じ思考のヤツがいただなんて? それで納得しろっての?」
伊吹の一連の発言に、クラスの生徒たちは戦々恐々としていた。龍園の
「どんなに完璧な作戦でもそれが筒抜けじゃ意味が無いと思わないか?」
「……筒抜け?」
「Dクラスの中で
その発言で教室内は小さな混乱に見舞われた。伊吹も目を見開き驚く。
「あんた、それ本気で言ってんの……?」
「事実だからな。俺の求心、いや支配力が足らなかったらしい。非常に残念だぜ」
スパイが
これから帰宅する者、部活に精を出そうとしていた者に等しく降りかかる厄災。
今この場にいる全員が、一秒でも早くこの時間が終わることを祈っていた。
「だが、そのふざけたスパイ活動もこの瞬間で終わりだ」
龍園は
「まずは素直に聞いてやる。俺を裏切った人間は手を挙げろ」
迷わずストレートにそう告げる。当然のようにクラスメイトから手は挙がらない。視線を
「だよな。簡単に名乗り出るならそもそも裏切ったりはしないだろうさ」
Cクラスを揺るがすかも知れないスパイの存在。だが、龍園は心を
「隠し通すつもりなのだけはよく分かった。なら名乗り出る必要はない。いや、名乗り出るな。意地でも隠し通せ」
本来すぐにでも見つけたいスパイに対して、龍園はにわかには考えられない発言をする。
「どういうつもり。まさか裏切り者を容認するわけ?」
「うるせぇな
笑っていた龍園が一瞬表情を引き締め、伊吹を
それは冗談のようで本気の言葉。龍園は男だから女だからとかいう性別の差で、不平等な扱いはしない。敵と判断し邪魔だと思えば、どんな手を使ってでも退場させてくるだろう。
「俺はこれまで、極力事を荒立てずにやって来たつもりだ。他の連中が聞けば
バン、バンともう2回教壇を叩く。
「が───それが悪かったのかもな。だから裏切り者なんてものが出てきた」
更に鳴り響く、バン、という音。その
「今からちょっとしたゲームをする。何、大したことじゃない。隠れ
龍園は、スパイ張本人以外には関係のない話だから楽にしていろと言う。
それほど単純な話でないのは、恐怖という空気が充満した、この空間が物語っている。唯一龍園に対して
「さて、手始めにまずは今すぐ全員携帯を机の上に出せ。直々にチェックしてやる。この場に携帯を持ってないバカはいないだろ? いたら今すぐ名乗り出ろ、そいつが犯人だ」
龍園のセリフを受け、生徒たちは疑われるのはごめんだと即座に机の上に携帯を置く。
「聞き分けが良くて助かるぜ」
置かれた携帯を、教室を回る
「
「ご苦労。それじゃ、一台ずつ徹底的に調べていくとするか」
「けど、どこを見ればいいですかね……着信履歴ですか?」
「正体を隠してるヤツが正体のバレやすい電話なんてするかよ。メールの履歴を見ろ。もちろんチャットもだ。誰と会話しているモノであっても全てに目を通すぞ。適当にでっち上げた名前でやりとりしている可能性も排除できないからな」
「ちょ、ちょっと待ってよ。プライベートなこともいっぱい書いてあるんだけど!」
女子の一人が叫ぶ。そう叫ばずにはいられなかった。
疑われるリスクよりも、個人的な情報の流出を嫌っての発言だった。
「
「当たり前でしょ! いくら龍園くんだからって、それは嫌!」
「ふざけてんのか西野。船の上じゃ大人しく龍園さんに携帯を預けただろ。何を今更──」
「あ、あの時とは違うし。アレは、学校から来たメールをチェックするだけだった!」
龍園は驚くこともなく、
「もちろん疑われるのを知ってのことだよな、西野」
「わ、私は基本的には龍園くんに従う、だけど納得できないことだってある!」
普段は強くモノを言わない西野だが、この場では引こうとはしなかった。
暗に見られたくないモノがあると伝えているようなものだ。
「もしかして西野、おまえか?」
クラスの中では西野を疑い始める生徒が出てくる。
その内の一人
「違う、私はスパイなんてしてない!」
「けど隠したがるなんて怪しいだろ……」
「私はプライバシーを守りたいだけ!」
そんなクラス内の会話に龍園は一切興味を示すことなく、集めた携帯に手を伸ばした。
「お前の携帯はこれだな
「ちょっと!」
中を見られると思った西野が慌てる。しかし───。
「西野に戻してやれ」
「い、いいんですか? 中身をチェックしてませんけど」
「俺が戻せと言ったんだ」
石崎は小さく龍園に謝罪すると、携帯を持ち主である西野へと戻した。
その一連の流れに、プライバシーを言い出した西野も、そしてそれ以外の生徒も動揺する。
「別に不思議な話じゃない。おまえが白だと判断したから戻した。それだけだ。当然だろ、犯人じゃないヤツの携帯なんて、見るだけ手間と時間の無駄だ」
「納得のいかないヤツは西野のように挙手しろ。ただし、西野以上に疑われることを覚悟してな」
西野は携帯の中を見られることもなく『白』の扱いを受けたが、二番手三番手はそうはいかない。そんな含みを持たせた物言いだった。龍園に疑われることを取るか、プライバシーを取るか。
その2択に対して、女子4人男子2人が恐れながらも手を挙げた。
「龍園さんにたてつくヤツが6人も……この中にスパイがいますよ、絶対! 最後に挙げた
声を荒らげる石崎に、龍園は薄気味悪く笑みを浮かべた。
「ち、ちがっ。僕はそんなことしないっ!」
疑われるのを恐れ野村が否定する。
「用意しろ」
「はいっ」
6人の携帯を石崎が集めると、すぐに龍園の手に渡した。
「おまえらは疑われても良いからこの中を見せたくない、そう言うんだな?」
それぞれが、言い方は異なるがそうだと答える。
「野村。おまえは挙手に時間がかかったが、まさかタイミングを計ってたのか?」
「え───いや、そのっ」
「
「っ!?」
元々気弱な性格の野村は、今にも
そんな様子を見て心底楽しそうに笑うと、
「石崎。こいつらも全員『白』だ。携帯を戻してやれ」
そう命じる。二度目の衝撃。中身を確認することもなく龍園は申し出た生徒たちの携帯を全て返却した。龍園以外の全ての生徒がその行動を理解できていなかった。
「どういうことか説明してよ」
「後でしてやる」
「残った連中の携帯は隅々まで調べさせてもらう。まずは伊吹、おまえからだ」
「……勝手にして」
1
全ての携帯を龍園1人が確認して行き、今、最後の1台の確認が終わった。
その時間は20分ほどで、1台に割いた時間は1分もない。とても全てを確認できたとは思えなかった。大半の生徒が疑問に感じたが誰も言葉にはしない。
しかしスパイにとっては、自らの携帯を見られる数十秒はとても長く強烈に緊張したことだろう。
「なるほど。携帯の中にそれらしい記録はなし、か」
「やっぱり白だと思った
「それはないな」
そう言いきる龍園だが、伊吹の
「でも事実、スパイは見つからなかったでしょ。どういうことかちゃんと説明して。そもそも本当にスパイは存在するわけ?」
伊吹の中に、スパイがいるというのは龍園が自らの失態を隠すためについた
龍園は無人島の結果を受けた時から
事実、他クラスは皆、堀北
「論より証拠、ならこれを聞かせてやるよ。おまえらも良く知ってるよな?」
龍園は以前Xから送られてきた音声ファイルを再生する。それはこのクラスであれば、誰もが聞いたことのある声。龍園がCクラスの仲間に作戦を語ったときの音声だった。
「鈴音を追い込んで、あと一歩のところでこれが送られてきた。お陰でポイントを得るどころか土下座を見ることも出来なかったぜ。これで理解できたか?」
「ちょっと待って。その音声ファイルがあんたの録音したものじゃなくてスパイから漏れたものだと仮定しても、おかしな疑問が残るわ。
「それは偶然だ。単純に確率の問題に過ぎないんだよ。体育祭が終わった直後の放課後だ、
「どういうこと───?」
龍園は送られてきた文章の無いメールを見ながら考察する。
「この音声ファイルを持っていたDクラスの黒幕Xは、俺の考えた作戦がどんな内容かを
「龍園氏の作戦を実行させることで、音声ファイルに
メガネをかけたマッシュ頭の生徒、
「
「凶悪ですね、そのXの思考は。仲間が傷つくことがわかっているのに平気で見過ごす」
「そうだ。そんなヤツが鈴音の土下座ひとつにこだわるはずもない。それがこの何も書かれていないメールの理由だ。差出人にしてみれば鈴音のプライドが傷つき無くなることなんて
「理解できない。同じクラスの堀北が傷つかないよう手を打っておく方が得でしょ……?」
他の生徒も
「音声ファイルを学校側に提出するところまで、Xには考えが回らなかったのではないですか?」
事前に作戦の詳細を知ったなら、普通の思考ならクラスメイトを救うために利用する。しかし何もせずにあえてスルーした理由があるとすれば、それはCクラスに多大なダメージを与えるため。作戦決行の後、その音声ファイルを学校側に提供するのが一番Cクラスの被害を広げられるからだ。意図的に
しかし10月も半ばを過ぎその可能性はほぼ消滅した。仮に今から過去を掘り返すとなると調査自体に手間もかかる上に、証拠の隠滅や逃げ道も出来始める。ならば、Xは
「偶然に助けられた詰めの甘い戦い方です。材料を活かしきれていないと言いますか。先に情報を手に入れておきながら後手後手に動いているように見えますよ。もし堀北氏が龍園氏にプライベートポイントを払い終えていたら勝つどころかXの敗北でしたね」
Xが体育祭前に作戦の音声データを手に入れていたのなら、体育祭で完勝できたはずなのだ。
「それは違うな。Xは音声データの有用な使い方が思いつかなかったんじゃない。意図的に使わなかったんだよ。もし
「
「そうだ。そしてヤツは俺が鈴音に土下座させようとしていることも黙認した。土下座はポイントと違って、何か数字的な価値があるものじゃない。あくまでも形式上のものだ。後で取り消したり取り返したりなんてことは出来やしないよな?」
つまりこのことが意味するもの。
このXが狙っていた唯一のもの。
「Xは鈴音が俺に
スパイを利用して得た貴重な情報を、そのためだけに惜しげもなく使った。
「そんなことって……理解できないんだけど。よく分からないXにCクラスは救われたってわけね」
「クク……あくまでも表に出るつもりはないってことだよなぁ?」
龍園の下に送られてきた音声ファイルの出所を追及していけば、最終的にDクラスのXは強制的に正体を
もし龍園が追い込まれたなら、携帯を全て管理する学校側にメールと通話記録の開示まで要求し、徹底してXまでたどり着かせただろう。
それに、このXにはAクラスに上がる執着心のようなものが感じられない。プラスにもって行こうという意志が感じられない。それが
そして同時にもう一つの結論にたどり着く。
「さて、話は少し脱線したが元に戻そう。どんな方法を使ったかは分からないが『俺に似た思考のX』がこのクラスの誰かをスパイにしたてあげたってことは確定してる。そうじゃなきゃ音声ファイルを入手することは出来ないからな。しかしXはスパイに対しても正体は絶対に伏せているということが大前提だ。もし正体を知られていれば俺にスパイを見つけられた時点でゲームオーバーだからな。とすれば、スパイ活動をさせるためにはメール等のやり取りは必須だ。古風に手紙でやり取りも出来なくはないが、状況が限定され過ぎるうえに非効率だ」
「でもみんなの携帯には何も証拠が無かったわけよね。つか、詳しく見てないでしょあんた」
「当たり前だろ。携帯の中身を見るのは建前。うわべだけだったんだからな」
「はあ? あんたが携帯見ればスパイの正体分かるって言ったんでしょ」
「常識で考えろ。おまえがスパイなら、わざわざ怪しいメールを残したりするか?」
「それは───しない。だから私も内心チェックは無駄だと思ってたし」
「そうだ。俺が携帯を調べ上げることくらいはちょっと考えればわかる。証拠の隠滅は不思議でもない話だ。仮にスパイがそこまで頭が回らずとも、Xならそう指示する。つまり、携帯を見せることで白に
だからこそ、携帯を見せることを拒んだ
更に短時間しか携帯を見なかったことで、プライベートの細部までは確認していないとCクラスの生徒たちにアピール。この携帯を確認することで龍園が知りたかったのは、メールの有無ではない。正体の見えない相手に対してスパイがどれだけ支配されているのか、恐れを抱いているのかを計った。そこから見えてきたものは───。
「改めてこの中にいるスパイに問うぜ」
一人一人の目を、仕草を見ていく龍園。
「おまえが恐れているのは正体不明のXか? それとも俺か? どっちを敵に回すことが本当に恐ろしいか、それを
「は、はい……」
その言葉に
だが、地面に倒れたのはその二人だった。
「この世で最も強い力は振り切れた『暴力』だ。俺は権力には屈しない。たとえこの学校が俺を退学処分にしようとも、俺が本気を出せば学校から追い出される前に裏切り者を殺すことが出来る。言ってる意味は誰にでも分かるよな? 裏切りのせいで俺が退学になったなら、虫を踏み
体育館を支配した
有言実行する狂気の暴力を
「俺は今からでも裏切り者の自白を歓迎する。だがこれはラストチャンスだ。全員に宣言しておく。今ここで正直に認めれば、今回の裏切り行為を水に流すことを約束してやる。仲間からの責め立てもさせないと誓う。俺は最初に言ったはずだ、俺を信じてついてくるならこのクラスをAクラスに引き上げてやると。付き従う限りは守ってやると」
だがその言葉は相対する人物だけではなくクラス全体へと言い聞かせているようだ。
「分かるよな? 俺を怒らせることがどういうことか」
一人、また一人と目を合わせていく。龍園にとって裏切り者を探し出すのに最も手っ取り早い方法。
そしてついに、一人の女子生徒の前にまで龍園は歩みを進め、そして止まった。
そうではない。もとより本命。龍園は最初から目星をつけていた。
「どうした。目を合わせられないのか?」
「っあ……ああ……わ……」
呼吸が乱れ、戸惑い、今にも泣き出しそうなほどに
「クク。おまえだよな
思いも寄らぬ生徒のスパイ疑惑に、クラスメイトの
「そう怯えるな真鍋。お前は確かに自分から名乗り出なかったが、俺は最初からお前がスパイだと分かっていた。終始顔色が悪かったぜ? 隠し事は出来ないもんだなぁ」
真鍋の耳にかかる髪を
「ご、ごめ、ごめんなさい、わ、私───」
「気にするな。許してやる、俺の寛大な
2
Cクラス全員に固い口止めをした後、龍園は人払いをさせた。
教室内に残ったのは龍園を始め
「質問だ。おまえらに指示を出したヤツの正体は分かってるのか?」
その問いかけに真鍋たちは首を左右に振って否定する。
「なら次だ。おまえらがCクラスを裏切った理由は? それを聞かせろ」
「それは───」
「今更隠してもどうにもならねえよ。このまま黙秘して明日を迎えれば、おまえら全員は、永久にクラスメイトとして扱われない、虫けらのような存在にしてやる」
もはやどうにもならない状況に、真鍋たちはなす
「D……Dクラスの、
「名前と顔くらいはな。
「あの子、その、今はあんな強気な態度だけど……昔
「ほう? それで?」
「リカが、軽井沢にひどい扱いを受けてたから、仕返ししようって……」
真鍋は
そしてスパイをすることになった原因は、そのネタを
事実が明るみになれば真鍋たちは停学以上の処分を受ける。当然、それで龍園にも
「なるほどな。そりゃまた
「ったくバカじゃないの。正体の分からないヤツに脅されたら、もっとひどい目に
「責めるんじゃねえよ伊吹。人間ってヤツは追い込まれると弱い生き物だ」
既に真鍋たちを許すと決めた龍園はこれ以上責め立てることはしなかった。
「肝心なのはここからだ。軽井沢を虐めてる現場を誰かに見られたのか?」
その問いかけに、真鍋たちはゆっくりと
「その時、見られたの……Dクラスの
浮上する二人の名前。
「後日写真が送られて来て。私たちが軽井沢に
「なるほどな。
「け、消したよ。もし見られたら、私たちっ……だから……」
「これで事態の
「
これまで一言も発さず状況を見守っていた
「待ってよ龍園。幸村ってヤツは良く分からないけど、綾小路が裏で糸を引いてるなんて思えないんだけど? 何回かあいつと
「そういう意味じゃ幸村が少し怪しいよな。勉強もかなりできるみたいだし」
付け足すように
「そうとは言い切れないのでは? 綾小路氏は
「私はその二人は無関係だと思う。綾小路はただ足が速いだけだし、幸村も勉強が出来るだけなんでしょ? 黒幕はもっと他にいるんじゃない?」
「他って誰だよ」
「Dクラスにもキレるヤツがいるでしょ。それこそ
「あいつが? 俺は平田とよく話すが、そんなヤツとは思えないけどな」
好き勝手話すクラスメイトたちを、龍園は薄ら笑いを浮かべてみていた。
だが次の瞬間、バン、と手のひらで腰掛ける
「少し黙れよ」
笑いを含んだ龍園の一言で、クラスは瞬く間に
「俺が一言でもおまえらの意見を求めたか? Dクラスを裏で操ってるヤツは俺が見つけ出す。おまえらはその
そこが面倒なところではある。2人のどちらか、あるいは両方がCクラスの弱みとなりうる写真を撮影し黒幕に意見を求めた、という筋書きは十分にあり得る。
「しかし龍園氏。特に綾小路氏は疑っておくべきでは?」
怒られることを覚悟し、金田はあえて進言する。そうするべきだと思ったからだ。
「そうだな」
綾小路に関しては堀北
だが、それゆえに生まれる疑念。
あまりに簡単に
もし最初から鈴音を利用しようとしていたのなら、絶対にやらない戦法だ。
「灯台下暗しを利用した? いや、それもどうにも
この絶望的なほどの気持ち悪さが不愉快だった。
「ヤツを利用させてもらうとするか」
ここまで状況が見えてきたのなら、後一押しであることは間違いない。