ようこそ実力至上主義の教室へ 5

〇私に、俺に足りないもの



 チャイムが鳴り、体育祭後半戦が開始。すいせん競技の時間を迎えた。

 残された4つの競技はクラス内から選ばれた精鋭たちが出場することが予想される。

「そういえばあやの小路こうじくん借り物競争に出るんだよね」

「出来れば参加したくなかったんだけどな……」

 じゃんけんで勝ってしまったのだから仕方ない。借り物競争に出場するのは各クラス6人ずつ。クラス1人ずつが走ることになっており4人一組で1レースとなる少数競技だ。

 その分得点は個人競技よりも高く設定されている。

「問題は不在のどうくんだね……」

 推薦競技すべてに参加することが決まっていた須藤が居ないため、このままでは欠場あつかいになる。代わりを立てるかどうか。そこが問われてくる。

「もし良ければ君の意見を聞かせてもらえないかな、綾小路くん。ほりきたさんに意見を伺いたいところだけど、そうもいかないみたいだからね」

 そう。堀北も陣営には戻ってきていない。午後の部が始まるまでには最悪一人ででも戻ってくると思っていたのだが予想外だ。良い方向に進んでいる可能性が残った。

「オレに頼らなくてもひらなら正しいジャッジが下せるんじゃないか?」

「……どうかな。でも、僕個人の意見としては代役は必要だと思ってる。個人競技の部じゃクラスは多分最下位。総合点で勝ち上がるにはここで勝ちを拾わないといけないから」

「なら、誰を代役に立てるかだな」

「代役には10万ポイントが必要だからね。ポイントの方は僕で何とかする。立てる代役はいけくんかやまうちくんがいいかなと思ってるんだ」

「もし1位を取った時、テストの点数を得られるから、だな?」

「うん。そのメリットを生かす方が得策だと思うんだ」

 運が大きく左右する借り物競争ならそれが得策と言えそうだ。結果池と山内は一騎打ちでじゃんけんをし、勝った池が意気揚々と参加グループに合流してきた。

「っしゃ! 須藤の分も俺が頑張るぜ!」

 気合いだけは須藤に負けず十分あるようだ。競技前審判たちから説明が入る。

「借り物競争では高い難易度のものも設定されている。その場合は引き直しを希望することも出来るが、次に引き直すまでに30秒の待機を要求する。希望するものは競技中クジを引く地点にいる審判に申し出ること。また3名がゴールした時点で競技は終了とする。以上だ」

 そんな補足説明を受けた後、借り物競争2レース目に出場するオレは準備に入る。

「よう」

 隣に立った男から声をかけられた。視線を合わせるまでもない、Cクラスのりゆうえんだ。

「あの筋肉バカは借り物競争には出なかったのか? てっきり出ると思ってたぜ。それにすずも姿がないが、まさか体育祭の裏でハメてんじゃねえだろうな?」

「さあ。オレには関係ないからな……。クラスの内情もよく分かってないんだ」

くそらしい回答だな」

 すぐオレに興味をなくしたのか、龍園は距離を取るように離れた。とはいっても同じ2レースを走るらしい。程なくして1レース目が始まる。他クラスは運動神経の良い生徒を順当に持って来ているようでいけがスタートで出し抜かれる。

 とはいえ肝心なのは借り物の中身だ。最下位で箱まで辿たどりついた池がクジを引いて中身を確かめる。上位陣は既に右往左往しながらグラウンドを離れ指定された借り物を探しに動く。

「うおおおおおおおおおおお!」

 高らかにガッツポーズした池が、突如スタート地点に逆走してきた。

あやの小路こうじ! 左足貸してくれ左足!」

「左足?」

「靴だよ靴! 俺の借り物!」

 そう言って見せてきた紙には『クラスメイトの左足(シューズ)』と書かれていたのだ。

「いや、オレが貸したら走れなくなるだろ……」

「げっ!?」

 近いから逆走してきたようだが、この後借り物競争で走る連中から靴は借りられない。

 池は凡ミスに慌てて陣営へと駆けて行った。しかし他の生徒たちは借り物に苦戦しているのかまだゴールに向かうものは見えない。結果、借り物競走はクジ運で勝機をいだした池が1位を飾る波乱の幕開けを飾った。

「バカに出来ないもんだな……」

 それから数十秒送れてAクラス、その後にBクラスが続きCクラスが最下位となる。

 終わるなり2コースのオレたちのスタート合図が鳴る。

 飛び出す足の速い連中のやや少し後ろについてオレもクジ引きの場へ。

「さて、何が書かれてあるんだか……」

 置かれた箱に手をいれる。中にはそれなりの数の紙が入っているようだった。間違えて複数引かないように気をつけながら取り出す。四つ折にされた紙を開いた。

『友達10人を連れてくること』

「……うそだろ?」

 オレはその紙に目を通した瞬間、目の前が真っ暗になるのを感じた。

 友達ってだけでもそれなりにハードルが高いのに、10人? ふざけてるのか?

 頭の中で考えても10人なんて浮かばない。

「何ボケッとしてんだよ! 早くしろよあやの小路こうじ!」

 1位を取って調子に乗ったいけからそう叫ばれるが、オレにはどうしようもない。

 クラス内で頼れる友人枠の内2人(ほりきたどう)が不在の時点で詰んでいる。

 いちかんざきは敵である以上頼ることも出来ないしな……。

「チェンジでお願いします……」

 ルールに従い借り物の変更を申し出る。

 既に他の生徒たちは借り物目掛けて走り出していた。30秒待機し、2枚目へ。

『好きな人』

「いやいやいや……いやいやいやいや」

 なんだこの借り物の内容は。ふざけているとしか思えない。

「チェ、チェンジで」

 見ているDクラスの生徒たちから困惑している気配が漂ってきたが、どうにもならない問題はどうにもならない。他の連中はこんなのを引いたらマジでどうするのだろうか。

 異性に紙を見せたらそれはもう告白と同義だ。仮にうそでお願いするとしても相当恥ずかしい。借り物を決める前に1分のハンディを背負ってしまった。

『置き時計』

 3つ目の紙でようやく実現可能なものを選択できた。

 しかし置き時計となると校内にまで行かなければならないか……?

 一応教師たちのテントに向かって時計を探してみるが、置き時計は見当たらない。

 そうこうしている間に3名が借り物をてゴールしてしまう。

「……ダメだこりゃ」

 運に見放された結果、オレは成果を得ることが出来ず最下位で終わってしまう。

 手を抜くとか抜かないとか、こればかりはどうにもならない競技だな。


    1


 グラウンドでは午後の競技が始まろうとしている頃かしら。

 私はついに、寮のロビーでソファーに座る赤い髪の生徒を発見していた。

「須藤くん」

 驚かせないようにゆっくりと穏やかな口調で話しかける。

 須藤くんは少し間をけたあと首だけで振り向き私を見てきた。

「……堀北」

 私の姿に驚いていたのは、単純にここに現れると思っていなかったからだろう。

「おまえ何しにきたんだよ。……まさか俺を説得にでも来たのか?」

「私が説得に来るようなタイプに見える?」

「それは……見えねえけど。じゃあなんだよ、俺をしかりにでも来たのか?」

「さあ、どうかしら。私自身明確な言葉を出せと言われたら少し言葉に詰まるわ」

「あ?」

 よく分からないとどうくんが首をかしげる。

 だろう。探していた須藤くんを見つけた途端なんとも言えない気持ちになっていた。

 私は何故こうまでして彼を探し出そうとしたんだろうと、改めて振り返る。

「あなたが抜けてしまったら、Dクラスに勝ち目はなくなるわ」

「だろうな。現にヤバイんじゃねえの?」

「ええ。現時点で最下位であることは推測できるし、ここから逆転するとなるとすいせん競技で1位を取り続ける必要がある。それでもトップに立つことはほぼ不可能よ」

 私のクラスでは須藤くんのように突出した運動神経の持ち主はいるけれど、総合的に見た時におとりすることが証明されてしまった体育祭だ。

「俺が引っ張ってやってたのによ、クソが。ひらの野郎……」

「あなたの暴走を止めた彼は悪くないわ。むしろ感謝すべきことよ。万が一にでもりゆうえんくんに手を上げていればあなたは体育祭そのものを失格になっていたかも」

「やられっぱなしってのが我慢ならねーんだよ。あいつがやったことは反則なんだよ」

「あなたは言動こそ問題だけれど、体育祭に対しては真剣に取り組んでいたものね」

 今回、彼は彼らしくない行動を見せていた。それはある種奇跡だ。クラスメイトのために不慣れなリーダーとして仲間を引っ張って体育祭に挑んだ。けんぱやいところはいつも通りだけど、その根底には勝つというおもいがあったからだ。不参加になった200メートル走を除いてすべて1位だったことは見ていて分かったし、団体戦でも一人圧倒的な力を見せていたことは遠目にも分かった。その点は須藤くんを認め評価しなければならない。

「けれど反省すべき点も多いわ。今のあなたが一人でいることが何よりの証拠よ」

「んだよそれ」

「もしあなたが誰からも頼られ信頼される存在だったなら、きっとここには私じゃなくクラスメイトたちが大勢いたはず。説得して戻ってもらうためにね」

 須藤くんはそれで再びいらったのか、軽くテーブルの足をった。

「そういう態度が問題なのよ。Dクラスはいつもあなたに振り回されている。中間試験、Cクラスとのごと。そして今回の逆切れからの暴力。そんなことを繰り返しているから誰もあなたにはついてこない」

「マジ説教かよ。今は勘弁してくんねーかなほりきた。すげぇムカついてんだわ」

 ここまでジャージがこすれる音が聞こえるほど、激しく貧乏揺すりして必死にいらちを発散しているどうくん。

「悪ぃとは思うけどよ、自分でも衝動を抑えらんねーんだから仕方ねーだろ」

「それでよく皆を引っ張ろうと思ったものね」

「元々は俺が言い出したんじゃねえ。他のヤツが頼んできたんだろ」

「だとしても引き受けた以上一定の責任が生じるものよ」

「っせぇ。知るかそんなもん」

「あなたはいつまでも子供のままね。それは社会では許されないことじゃないかしら」

「っせぇよ!」

 叫ぶ。私に強烈なにらみを向け黙るよう目であつしてきた。でも私は動じない。

「ち……何なんだよ」

 他の人なら動じたでしょうけど。微動だにしない私に須藤くんは根負けし視線をらす。

「あなたは欠点が露出していて分かりやすいわね。勉強しなければどうなるのか。暴力を振るえばどうなるのか。その先の想像力に欠けている」

「あーもうわーったっつーの! いい加減にしてくれよ! がでんだよ説教は!」

 須藤くんはこの学校に残りたい、くやって行きたいとは思っている。

 それでも暴力事件を起こしたりしてしまうのには何か背景があるのだろう。

 ルーツ、ルーチンを知らなければ須藤くんはいつまでも何度でもそれを繰り返す。

 私が──いつまでも一人でいることを望んでいたように。

 だから私は彼に嫌われようとも言葉を止めない。今この場で彼のすべてを見通す。

「気に入らなければ私をなぐってもいいわ」

「はあ? んなこと……出来るわきゃねーだろ……」

「女だから? 言っておくけれど私は強いわよ。あなたのこぶしが届く前に張り倒すわ」

「反撃する気満々かよ……。ったくすげー変わった女だなおまえは。言われたように他の連中なんざ俺を追ってこない。でもおまえだけは追って来た訳だしな」

 それはあやの小路こうじくんに諭されたからでもあるわけだけれど。

 ただ、私自身が今は納得してここに立っているからそれを伝える必要はない。でも少しだけ気が抜けたのか須藤くんは怒りを収めるようにしてポツりと言葉をらした。

「俺がリーダーを引き受けた理由はよ、運動が出来りゃそれで体育祭は楽勝だと思ったからだ。事実俺は他のクラスの連中にも負けてなかった。改めて個人戦なら誰にも負けねえ自信がついたぜ。でもな、足を引っ張るヤツがいるとどうにもなんねえのが団体戦だ。棒倒しも騎馬戦も、使えねー連中のせいで負けた。それが我慢なんねーのさ」

 りたくなる状況だったのは分かる。須藤くんは確かに学年でもずば抜けた運動神経をしている。でも周囲はその須藤くんに合わせられるほどの実力者ではない。

「あなたが得意分野で負けず嫌いなことは見ていれば分かるわ。でもそれだけ?」

 運動で誰にも負けたくないだけなら、リーダーを引き受ける必要はなかった。団体戦で苦戦することもどうくんには見えていたはず。つまり別の理由も必ずひそんでいる。

 少しだけ考えるように首をひねった須藤くんだったけれど、すぐに答えが返って来る。

「……注目を浴びて尊敬っつーの? そんなものを集めてみたかったって気持ちがあったかもな。今まで俺をバカにしてた連中を見返したかったし……ダセェな」

 冷静になったことで自分の欲望と、そしてそれを遂行できず投げ出してしまった現実に気がつきに染まる髪の毛を強くむしった。

「これで俺も完全に孤立か。まぁいいさ、どうせ中学と同じとこに戻るだけだしな」

「…………」

 そんな須藤くんの言葉を聞いて、私は一度黙り込んだ。

 果たして私の説教じみた言葉など彼の心に届くのだろうかと。

 あやの小路こうじくんに論破され、りゆうえんくんに負け、兄さんにも見放されている。

 そんな私に彼をしかり諭す資格なんてないように思えた。

 ずっと低レベルだと思っていた相手が、そうではなかったと感じ始めたからだ。

 確かに須藤くんは稚拙で後先考えず行動するタイプ。手に負えない性格をしている。

 だけど──見方を変えれば孤独と向き合い戦い続けてきた人でもあると分かってきた。

 孤独に立ち向かう勇気を持った彼は、私よりもずっと偉かったのかも知れない。

 私は言葉が届かない不安を抱えながらも、懸命に言葉を搾り出す。苦手な対話を続ける。

「……不思議なものね。私とあなたが抱く感情は基本的に同じなのだから」

「あ? なんだよそれ」

「誰かに尊敬されたいと思う気持ち。一人で戦い続けることを望む気持ち。私にもある」

 ある種の矛盾を抱えながら、それでも孤独と戦い続けてきた彼と私は似ている。

「思い返せば兆候はあった。中間試験のとき私はあなたを含め勉強のできない人に対していらちを覚えた。当たり前のことも出来ない人たちに腹が立ったわ。サラサラ協力する気にはなれなかった。体育祭のあなたの方が立派なくらいよ。少なくとも運動の出来ない子たちを引っ張ってきたのだから」

 勉強と運動。対照となる関係であっても、基本的には同じことなのかも知れない。

 私が当時須藤くんたちに感じたことを、須藤くんは今強く実感している。

「だったら気持ちがわかんだろ。今は一人になりてぇんだよ」

「そうしてあげたいのは山々よ。でも今あなたの存在を欠けばDクラスの敗北は決まる」

 須藤くん個人の問題だけじゃない。クラスの勝敗に大きくかかわってくる。

「おまえだって最初同じようにクラスを見捨てたんだろ。諭す資格なんかねえぜ」

 そう短く突っぱね、須藤くんはゆっくりとソファーから立ち上がった。

「……そうね」

 そう、だから私の言葉には重みがない。直前の直前までどうくんと同じ考えだったから。

「がっかりしたろ。けど慣れっこさ。俺はクズの両親から生まれた、だからクズってことなんだよ。絶対にしたくねえと思ってきたのに段々自分が親に似てきやがる……」

 部屋に戻るつもりなのか、須藤くんはすべてをほうした目で私を一度見た。

 その様子を見て私はどんな言葉をかけるのだろうか。もう自分自身にも分からなかった。

「クズから生まれた人間がクズだとする考えは間違いよ。その人がどうなるかは人のせいにしていいことじゃない。自分自身が決めるもの。あなたのその考え方は認めないわ」

 そう強く否定した。理解しながらも否定しなければいけないと感じた。

「天才の人の妹が天才であったなら、どれだけ苦労しないか……」

「どういう意味だよ」

「……あなたはまだ何者でもない。その何者になるかは自分次第よ。少なくともスポーツの分野であなたはひいでた才能を持っている。口調は確かに乱暴だったけれど練習でも多くの生徒にアドバイスしていた。その姿を見ていたからこそ、あなたがダメな人間じゃないことは知っている。でも今のあなたは最低よ。現実から目を背けて逃げ出そうとしている。もしこのまま逃避行を続けるのだとしたら、私はあなたに本当にクズのらくいんを押すわ」

「だったら勝手にクズの烙印を押してくれ。俺はもうどうでもよくなったんだよ」

「思い通りにならなかったからと言ってさじを投げるのね」

 どれだけ強い言葉を投げかけても、彼からは生きた言葉が返ってこない。

 心を閉ざしてしまっているのか、その門を開くことが『私には』出来ない。

 昼休み終了を告げるチャイムが鳴ってしまう。午後の競技の始まりの合図。

 これで須藤くんが借り物競争には間に合わないことが確定する。

「戻れよほりきた

「いいえ。あなたを連れて帰るまで私は戻れない」

「だったら好きにしろよ」

 止めていた足を動かし、エレベーターに乗り込む須藤くん。

「あなたが戻ってきてくれるのをここで待つわ。いつまでも」

「……勝手にしろ」

 閉まるエレベーターの扉。私は最後まで彼の姿から目を離さなかった。


    2


「ふーっ……惜しかったね。もう少しでBクラスに勝てそうだったのに……」

「だな」

 どうを欠いたまま四方綱引きを終えたオレたちは代役を立てるも見事に玉砕した。わずかな勝利の可能性を信じてのチャレンジだったが敗北。突きつけられた最下位という結果。

 クラスとしても総合評価を決定付ける流れとなったが、何よりも手痛いダメージを受けているのはひらだ。借り物競争同様に代役のポイントを負担したため巨額のポイントを失った。どの競技も、絶対的エースの須藤を欠いて挑まなければならないのは非常に苦しい。

「まだ須藤くんは戻ってこないみたいだね」

「平田、次の競技でもポイントを肩代わりするつもりか?」

「そうする必要があるからね。仕方のない支出だよ」

 そうは言っても平田はこれまでに都合3回分支払いをしている。借り物競争と四方綱引きに参加予定だった須藤の2回。四方綱引きに参加予定だったほりきたの1回と安くはない。次もとなれば合計50万ポイント。いくらプライベートポイントを多く所持しているとは言っても身銭を切りすぎだ。

「まあ……須藤はともかく堀北は後で自分で払うだろうけどな」

 不在とはいえ、平田に出させたままにするような人間でないことだけは言い切れる。幸いにもあいつは平田同様に前回の試験で高額ポイントを獲得しているしな。

「いい加減負担させるべきじゃないか。参加する人間に」

「そうかも知れないけど10万ポイントは大きな額だしめるのは簡単じゃないからね。勝手に代役を立てているのは僕の方だし、ポイントを要求するは出来ないよ」

「勝手に棄権してる方が悪いって考えにはならないのか」

 しかも平田は須藤になぐられている。だがそんなことを平田は全く考えないらしい。

「クラスの勝利もそうだけど、上位入賞で今後のテストが有利になる。参加しておくに越したことはないよね。自腹となれば見送る生徒も多いだろうから」

 確かにテストの点数が必要な生徒は大体金欠でも悩んでいる。もちろん点数は欲しいだろうが、下位に沈めば逆にテストが不利になることもありちゆうちよするだろう。金も失い点数も失うことになれば目も当てられないからだ。

 残された競技は男女二人三脚とラストの1200メートルリレーだ。

 平田は参加希望者が居ないか声をかけようとする。その前にくしが駆けて来た。

「あの平田くん。私にも協力させてもらえないかな? 二人三脚に参加したいんだ。もちろんポイントは私が出すから……ダメかな?」

「え?」

 自ら名乗りを挙げてきたのは意外にも櫛田だった。

「平田くんだけに負担かけられないよ。それに堀北さんと須藤くんのためにも頑張ってこうけんしたいって言うか……」

「それはもちろん、櫛田さんなら運動神経もいいし歓迎だよ」

「ありがとうっ。ちやばしら先生にほりきたさんの代役として出ることを伝えてくるねっ」

 そう言って駆け出していく。

「じゃあ後は男子だね。声をかけてくるよ」

「なあひら。この競技、オレがどうの代わりに出てもいいか? ポイントも払う。勝ってクラスにこうけんできる保証はないんだがそれでもよければ」

「それは──うん。もちろん構わないけれど……だけどいいの?」

「おまえだけに負担させるのは気が引けるし。それに次のテストは少し不安なんだ。1点くらいは確保しておきたいってやましい気持ちもあるからな」

 許可を取った上で、オレはすぐにくしの後を追った。既に茶柱先生と話を進めていたところに割り込む。

「須藤の代役はおまえかあやの小路こうじ

「はい」

ぼうかんしているのが好きな割りには珍しいことをするものだな」

「須藤くんの代わりに参加するのって綾小路くんなんだ。よろしくねっ」

「よろしくな。あまり足は速くないがその辺は許してくれ」

「二人三脚は単純な足の速さよりも息のあったプレーだと思うよっ」

 そんな話をしながら、オレたちはすぐ競技の準備に移る。

「やっほー綾小路くん。それにきようちゃんも。私たち一緒の組みたいだねー」

 そう言ってやって来たのはいち。そしてしばの二人だった。

「わー強敵だね。二人が一緒に組むなんて……」

「柴田くんはそうだけど、私は別に大したことないよ? まだ1位1つも取ってないし」

「そうなの? 意外だねっ」

「2位が1つと、あとは4位と5位ばっかりでさ。ほんとは別の子が出る予定だったんだけど、実はお昼前の200メートル走で足をくじいちゃったみたいで。今年は結構人が多いみたいだね」

 どうやらBクラスからも欠場者が出てしまったらしい。二人は即席のタッグか。

「柴田くん、もう結んじゃってもいい?」

「オッケー」

 仲良くひもを結び始めたBクラスのペア。

「じゃあこっちも……。えーっと、紐を結ぶのは任せてもいいか? 男が勝手にやるのもちょっと抵抗あるしな」

「いいよっ。でも不思議だね、堀北さんと練習する時は綾小路くんから結んでたのに」

 いつも思うがよくクラスのことを観察しているな。

「あいつは……まぁ例外だ。他の子とはそうはいかない」

「特別な存在ってことかな」

 特別な存在というか特別な立ち位置であることは事実だが、何とも伝えづらい。

「それよりもほりきたさんがどうくんを探しに行ったなんて、信じられないな……。なんていうか、堀北さんって授業とか絶対にサボったりしないじゃない?」

「オレも意外だった」

「それにしては驚いてなかったように見えたけどな」

 くしはしゃがみ込みオレの足にひもを結びつけながら言った。

「元々顔には出づらいからな」

「ポーカーフェイスってヤツだねー」

「櫛田」

「もうちょっと待ってね。もうすぐ結び終わるから」

 そう言ってれいに結びながら櫛田は可愛かわいい声で返事をした。

 そんな櫛田に対してオレは不意に話を切り出すことにした。

「おまえだよな。Dクラスの参加表をCクラスにリークした裏切者は」

「……やだなあやの小路こうじくん。いきなりどうしたの? 冗談にしてもひどいよー」

「見たんだよ。おまえが黒板に書いた参加表の一覧を携帯で撮影するところを」

「あれは忘れないために記録しただけだよ。自分の順番を忘れたら大変だから」

「手書きで自分の番をメモするだけ。そう取り決めてただろ」

「そうだったっけ、ごめん忘れちゃってたな」

 ひもを結び終えたくしがゆっくりと立ち上がると、いつもと変わらぬ笑みを向けてくる。

「もしかしてそれで私を疑ってたり?」

「悪いが確信してる。そうでもなければここまで都合よくCクラスにやられたりしない」

 こうやって二人きりになれる時は限られている。話すにはある種絶好の機会だ。

「うーん、でもさ、仮にDクラスの参加表を誰かがらしたんだとしても、都合よくCクラスが勝てるとは限らないよね?」

「そうだな」

 もちろんCクラスがすべての競技で無双しているわけではないため真実は分かりづらい。Dクラスのオーダーを全て見抜いても、勝てるかどうかはAクラスとBクラスのメンバーにも左右されるからだ。それでもグッと勝率を上げられることも事実。

「ねえあやの小路こうじくん。仮にクラスの情報を漏らした犯人が私だったとして──携帯の撮影が決め手だったのなら参加表が漏れることは分かってたんだよね? じゃあどうして後で参加表を変えなかったの? 対策に後で新しい参加表を提出すればよかったんじゃないのかな? そうすれば私の撮影した参加表は古いものになるから、意味がなくなると思わない?」

「それは無意味だろ。裏切者がDクラスの生徒ならどうにでもなる」

「というと?」

「例えば櫛田の言うように期間内に参加表を書き換える。そして黙って新しい参加表を提出したとしても、Dクラスの生徒ならそれをいつでも確認、閲覧することが出来るはずだ。ちやばしら先生に参加表を見せて欲しいといえばクラスの権利として見られるはずだからな」

 いつでもリストの確認くらいは認められているはずだ。

 つまり裏で工作しても、結局繰り返し参加表を確認すればオーダーがわかる。

 櫛田……いや、りゆうえんなら必ずそうさせている。

「でも本当の参加表をギリギリまで隠してさ、それを提出していれば後からそれを見た人がいてもいじりようがないんじゃない? やっぱり未然に防げたと思うな」

「それなら参加表からのリークはないかもな。そこまでは頭が回らなかった」

「あ、でもそんなこと勝手にしたら後で他の人たちが混乱しちゃうかー……ダメだね」

 その考えは悪い線じゃない。この参加表を巡るスパイ活動を無効にするには、あらかじめ手を打っておく必要があった。確かに櫛田の言うように締め切り直前で参加表を提出すれば、情報を得ても締め切られた後のため効果は得られない。だがそれでは何も知らなかったクラスメイトは混乱をきたす。全員で決めたことを勝手に変えられた反感も買うだろう。だからこそ、そこまで読みきった上で、例えばリークされる可能性を最初から考慮し、クラスで複数の参加表パターンを作っておくことが理想的だった。そうすることでどれを提出しても戦えるようにしておく。これならばろうえい対策にもつながるしクラス内からも反発は起きず、かつ相手もランダムに出される参加表では手の打ちようがない。完全な漏洩つぶしが出来た。

「話の流れは分かったけど私は犯人じゃないよ? でもクラスメイトを疑いたくもないな」

「なら後でちやばしら先生に確認してみるか? 参加表を提出した後でわざわざリストを見に来た生徒がいなかったかどうか。もし存在していたのならそれが犯人濃厚だ」

 特に携帯で撮影したと自白したくしが見に来ていれば、より疑いは色濃くなる。

「…………」

 口を閉じた櫛田から初めてがおが消える。すなわち確認したと言うあんもくの答え。

 だがすぐに深い笑みがいてきた。

「──ふふっ。やっぱりただものじゃないんだ、あやの小路こうじくんって」

 櫛田が笑う。そこには以前見た、オレの知らない櫛田の顔があった。

「バレちゃったら仕方ないね。そうだよ、私が参加表の情報をらしたんだよ」

「認めたか」

「うん。茶柱先生に聞かれたら確かにバレちゃうし。時間の問題だからね。それに綾小路くんに真実を話したってバラされないって確信があるもん。忘れたわけじゃないよね? 綾小路くんが触れた私の制服のこと。もしあれが表に出れば大変なことになるよ?」

 櫛田が裏切り者だと誰かに話せば、指紋つきの制服を学校に提出するというおどしだ。

「確かにオレにはおまえが犯人だと突き出すことは出来ない。だがついでに教えてくれ。船上での試験。あれもおまえがりゆうえんを通じてすべての生徒に自分が優待者であることを教えたから導き出せた結果だよな? そして流出の見返りを龍園に求めた」

「その見返りって? クラスを裏切ってまで私が何をしようとしたか分かるの?」

「今回の体育祭、ここまでこつに動けば嫌でも見えてくる。おまえが以前オレにお願いをしようとしていたこともそれと同じなんだろ?」

「あはは……うん、なるほどね。ほんとに綾小路くんは分かっちゃったんだね」

「ああ。おまえがどうしてクラスを裏切るのか。その明確な理由が知りたかった」

「私が『ほりきたすず』を『退学』させたがってる。その理由だね」

しつように堀北をねらう理由だけは、どうしても分からないからな」

 体育祭の前に当人たち同士で解決してもらいたかったが、そう都合よくはいかなかった。

「悪いけど私は堀北さんを退学にさせる。これは何を言われても変わらない考えだから」

「つまりそのためなら、Dクラスを突き落としてもいいと?」

「そうだね。私はAクラスに上がれなくてもいい、堀北さんを退学させられればそれで満足なんだよ。だけど勘違いしないでね。ほりきたさんがいなくなったら、その時はクラスの皆と一丸になってAクラスを目指していくから。それは約束するよ」

 どうやらくしを止めることは不可能なようだ。それだけ強い意志を持ってこいつは裏切りこうを行っている。必要とあればかつらいちさかやなぎといった人物にも近づくだろう。

「あ、でも一つだけ考えが変わったことがあるんだ。それもたった今。それはあやの小路こうじくんも私が退学させたい人リストに入ったってこと。つまり二人を排除してからAクラスを目指すことにするよ」

 いつもの飽くなきがおでそう言った。まぶしいほどの表情だ。

りゆうえんがおまえのことを暴露する可能性は考えないのか?」

「私もバカじゃないから簡単に証拠を残すようなはしてないよ。龍園くんは平気で人をおとしいれるしうそもつくから。まぁ裏切られるかどうかはけではあるね」

 それでも、いくらでもし様はあると言いたげだ。

 櫛田は本気で堀北をつぶすつもりなんだな。

 この学校の仕組み上、味方に裏切者がいるだけで絶望的な戦いが繰り返されてしまう。

 参加表の順番も、戦略も、すべての情報は筒抜け。これで勝てというのがちやなもの。

 まあ……裏切者が居る前提で戦略を立てられないサイドにも問題はあるが。本当に優秀な人間なら裏切者を利用して勝つくらいの芸当をしてもらいたいものだ。

「体育祭で堀北さんボロボロだね。助けてあげられなくて残念じゃない?」

 さあどうだろうな。そう短く答えオレたちは敵対しあいながらも二人三脚に挑んだ。


    3


 どうくんが私の前から去って1時間ほどが経過した。プログラムが順調に消化されていれば、そろそろ最終競技が目前に迫っているはずだ。須藤くんの抜けた穴はけして小さくない。ひらくんたちが健闘している姿は想像できるけれど結果は期待できないわね。

 無力な私はただ、ぼうぜんと、漫然と立ち尽くすことしか出来なかった。

 ずっとエレベーターの前に立ち尽くしているしかなかった。

 陣営に戻ってリタイアすることを告げたところで私に代役に必要なポイントを支払う能力もない。手持ちのポイントの全ては龍園くんに後で没収されてしまう。つまり代理で参加する生徒の肩代わりも出来ない。戻ったところで無力な存在だからだ。

 けど、その場を離れない理由はそれだけじゃない。

 少しでもここから離れたタイミングで須藤くんが戻ってくればきっとがっかりする。

 それにDクラスの敗北がほぼ決まった中で、私に出来ることをしたいと思った。

 須藤くんが戻ってきてくれることを信じる。

 ただそれだけだ。

 そしてその思いは実る。

「おまえ……マジでずっと残ってたのかよ」

「やっと戻ってきたのねどうくん」

 冷静な素振りを見せたが、内心はうれしかった。

 エレベーターに乗り込む須藤くんの姿を見た時、思わず声が出たほど。エレベーター内を監視できるカメラがあって良かったと心底思う。落ち着く時間が得られたから。

「もう終わってんじゃねーの、体育祭」

「そうかも知れないわね。でも今から戻ればまだ何かの競技には間に合うかも知れない」

「そんなもんに出てどうすんだよ。もう負けは決まったも同然だろ」

「確かにこの体育祭、私たちDクラスは想像以上にボロボロの結果が待ってるでしょうね。私はをしてリタイアしているし、こうえんくんは最初から不参加。須藤くんも途中からリタイアした。クラスメイトたちも他クラスに比べれば勝率が悪い」

 逆転の望みを持って挑みたかったすいせん競技も、きっと壊滅的だろう。

「あなたがここに戻ってきたのは、競技に戻るためと思っていいのかしら」

「違ぇよ。もしかしたらおまえが残ってるかもって、その確認だ……」

「そう。私はこの1時間、あなたを待っている間に色々と頭の中を整理していたの。自分はどんな人間で、あなたはどんな人間なのか。それを改めて考えてた。やっぱり私とあなたは似ていると」

 一人になって落ち着いて、やっとその答えが明確になった気がする。

「何も共通点なんてねーよ。おまえと俺じゃ違いすぎる」

「いいえ。あなたと私は良く似てる。考えれば考えるほどそう思うようになった」

 それはうそなんかじゃない、私の本心からの言葉。

「いつも一人。いつも孤独。でもやれると信じて行動してきた。私とあなたに違いがあるとすれば、認められたいと思う対象が一人か大勢かの違いだけ。生徒会長のことは前に伝えた通り知っているわね?」

「ああ。スカしたヤツだろ。すげえヤツみたいだな」

「あれは私の兄なの」

「……あ? ……そういや、ケンカしてるとか何とか……言ってたな」

 私は思い返すどうくんに、独り言のように兄さんとの事を話し始めた。

「私たち兄妹きようだいは仲の良い兄妹とは程遠い関係にあるの。その原因は私の能力不足のせい。優秀な兄さんは無能な私とかかわりあうことを嫌っている。だから私は、優秀になろうと懸命に努力した。勉強もスポーツも。今だってそう」

「ちょ、ちょっと待てよ。おまえは頭も良いしスポーツだって出来んだろ」

「一般的に見ればね。でも兄さんにしてみれば大したことはない出来て当たり前の領域」

 恐らく私のレベルに、兄さんは中学1、2年生で到達していただろう。あるいはもっと早く。

「兄さんに追いつくために私は周りに目も向けず走ってきた。その結果がいつも一人。振り向けば誰も私にはついて来てくれなかった。それで良いと思っていたのよ。自分さえ優秀ならいずれ兄さんに答えてもらえると信じていたから。この体育祭だって、私は打算的なことを考えていた。沢山の競技に出て活躍すれば、兄さんの目にも止まる。リレーでアンカーを走りたいって言ったのもそれだけの理由。そうすれば声をかけてくれたり応援してくれるんじゃないかと淡く期待した。クラスのためだとか、自分のためだとか、そんなことは本心では二の次だった」

 須藤くんの弱さと向き合うことで、私は自身の弱さと向き合うことに成功した。

「認めてもらえねーのか。そんだけ頑張ってきても」

「ええ。全くね。だけどやっと気がついた。私は優秀なんかじゃない。この体育祭でもりゆうえんくんに思うようにやられて、何ひとつ満足な結果を残せていない。そんな私を兄さんが認めてくれるわけがないわ。私がAクラスを目指すのは兄さんに認めてもらうため。それは変わらない。だけどそのための手段は間違っていることに気づいたの。一人じゃない。仲間を持つことで初めて、その頂に近づくことが出来るかもしれないと」

あきらめないのかよ」

「あなたと私に違う点があるとするならその部分ね。私は絶対に諦めない。兄さんに認めてもらうために、恥ずかしくない人間になるために努力する」

「苦しいぜ、その道ってヤツはよ……」

「そうね。世の中が自分ひとりだったら、きっと苦しむこともなく楽だったでしょうね。だけどそんなことを考えても仕方ない。この世は自分ひとりじゃない。世界には何十億って人が存在しているし、周囲にも無数の人が存在している。無視なんて出来ない」

 人は一人では生きていけない。必ず誰かと共に歩んでいかなければならない。

 この体育祭はDクラスにとっては試練であると同時にありがたいものになっている。

「私は言ったわ。あなたはまた暴力を繰り返すって。そして突き放した。でもそうじゃない。それは正解じゃなかった。もしもあなたがまた道を踏み外しそうになったなら、その時は私が連れ戻す。だから卒業するまでの間、あなたの力を私に貸して。私もあなたに全力で力を貸すことを約束するから」

 目を見つめた。らさないように見た。私の決意を受け止めてもらいたかったから。

「さっきまで、全然そうでもなかったはずなのによ……なんで今のお前の言葉はそんなに重いんだろうな」

「素直に認めたから、かもしれないわね。私は本当は……ダメな人間で、それから目を背けていただけだってことを」

 大手を振ってそんなことを人には言えない。だけど同じ存在なら話は違う。

「もう一度言うわ、どうけんくん。私にあなたの力を貸して」

ほりきた……」

 須藤くんは両手で力強く握りこぶしを作ると、二つのこぶしを一度自分の額にたたきつけた。

「あー……んだよこの感じ。よくわかんねぇけど、目が覚めた気がする……」

 そう言って、私に一歩詰め寄る。

「協力するぜ堀北。俺は……俺はバスケ以外で初めて自分の存在意義を認められた気がする。おまえのその気持ちに答えたい」

 その言葉に、私は自然と笑みがあふたのが分かった。初めて訪れる感情。

 この胸の高鳴りはなんだろう。友情とか恋とか、そういうたぐいじゃないことだけはわかる。

 そんなものとは別の……そう、恥ずかしい言葉で言うなら、仲間という存在が出来た。

 あやの小路こうじくんとも兄さんとも違う。私に足りなかったもの。

 きっと、それはまだまだ不足している。

 けど、小さい最初の一歩を踏み出せたんじゃないだろうか。

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