〇池寛治と山内春樹と須藤健の夏休み(番外編)
性差的な話になるが、男としての最終目標はどこにあるのだろうか? 全世界の男性に意見を求めれば、そこには男の人生の真の目的が浮かび上がって来ることだろう。つまり愛する人と結ばれ、子孫を残し次の世代へと
「……これより、オペレーションデルタについて作戦会議を行いたいと思う」
蒸れるほどの暑さが襲う中、Dクラスの池が似合わない正座をしたまま
「俺は今回のオペレーションデルタにこの夏の青春全てを
「同じ気持ちだぜ寛治。作戦が成功するなら俺は死んだっていいっ!」
自らの命を賭すことも
「正直に言やあ俺は反対だ。参加するかどうかは話を聞いてから決める」
三者三様に思うこと考えることは違うが目指す目的は同じ。前向きに考えているようだ。
全員が汗だくのせいか、室内の温度が更に蒸し暑くなるのを感じる。
「で、
「その前にエアコンのスイッチ入れてもいいか?」
これ以上人の
「……だな。暑い」
だったら最初からエアコンを入れさせてほしいものだ。雰囲気作りとかいう理由で冷房を入れることを拒否されていたのだが、部屋を提供したこちらが不快なだけだ。
「いつもいつも何でオレの部屋なんだ」
「前にも言わなかったか? お前の部屋が一番片付いてて
「須藤だって似たようなもんだろー? 服とか下着が散乱しまくってんじゃん」
誰の部屋が散らかっていてもいいから、だったら片付けようって考えを持ってほしい。
「いつまで
「あとは
「貴重なポイントを簡単には使えないからな」
適当にあしらうと須藤は
「無人島の試験は
「確かに確かに。つかさ、
5月の絶望的な状況から一転、オレたちは怒涛の勢いで上のクラスにポイントで詰め寄っている。
「ま、難しいことは二学期が始まってから考えようぜ。今はオペレーションデルタだ」
「本当にやる気なのか?」
「本当で本気さ。だって俺たちの青春はそこにあるんだぜ? それとも崇高な目的であるオペレーションデルタに不満があるのかよ!」
今3バカはオレの
それは前日の夜、携帯のチャットで話し合われたある計画に起因する。
「おまえがデルタとか作戦名を付けるのは勝手だが、つまるところ
そう。このデルタという作戦は名前こそ
「女の子の裸を覗く……それの何が悪い! それが青春だ!」
悪いも何も重罪だ、恐ろしいほどに。
なのにこの男は堂々と開き直った。青春という言葉を利用して。
もし覗きが見つかれば少年Aとして報道されたっておかしくない。
「女子にバレたらどうするつもりだ。怒られるだけじゃ済まないぞ」
覗く方法は不明だがリスクを伴うのは間違いないはずだ。
どうにかして思いとどまらせようとする。須藤もその点は引っかかるようで、無鉄砲に
「
「案ずるなって。このスーパーコンピュータと呼ばれた池
立ち上がると、池は鼻高々に自信となる根拠を話し始めた。
「どこでどう覗くか、おまえらはそれが気になってるんだろ? 大丈夫だちゃんと考えてある。だからまずは落ち着いて俺の話を聞いてくれ。第一にターゲットは厳選する。一度きりのチャンスなのに中途半端なブスを
「それは俺も賛成だけどさ、俺たちにムフフなフラグは立ってないぜ?」
「無ければ作ればいい。フラグは自分で立てなきゃダメなんだぜ」
人差し指を振りながら
「もう忘れたのか? 昨日からプール解放って大イベントが開催されてることを!」
「お、おぉ? 確かにそれなら覗ける! ……のか? 俺入ったことないしな、こっちのプール」
携帯の文字に目を通すと確かにプールの解放について書かれていた。夏休みのラスト3日間だけ水泳部が使う特別水泳施設が使用可能であると。3日間の間午前9時から午後5時まで開放されるらしい。確かにその場なら、男女問わず当然泳ぐ者は皆一度裸になるだろうが……。
「着替えさせるためにプールに誘ったのは分かるけど、だからって覗けるとは思えない」
オレは率直な意見を述べた。特別水泳施設に入ったことはないが監視カメラも当然設置されているはずだ。更衣室の中にまでカメラは当然ないだろうが、その手前の廊下になら設置されてあっても不思議じゃない。女子更衣室に近づく怪しげな男子が入れば即バレするのは避けられない。
腕を組み余裕ぶった池の表情は崩れないが、
「かーっ俺は悲しいぜ。俺がそんなことも考えてない間抜けに見えるのか? こっちは何日も前からこの日に備えて下準備をしてたんだって」
こちらからの質問攻めに池は動じない。動じないどころか余裕の様子だ。
「下準備? じゃあ肝心の覗き方を教えてくれよ」
もったいぶる池に我慢ならない山内が食い気味に問いかける。
「もうネタバレを希望か? いいぜ、これを見てくれ」
池は徹底した下調べをしてきたのか、施設の見取り図を印刷して持ってきていた。その本格さに二人が
「おまえこんなもんまで用意したのかよ!」
オレも驚きだ。何より
だがおかしい。そこに書き込まれた字は池本人のそれとは異なる気がしたのだ。
「見てくれ。この特別水泳施設って普段授業で使うプールの2倍以上広いんだ。部員以外立ち入れないし、お察しの通り監視カメラもついてる」
男女合わせて6つの更衣室を兼ね備えた大型施設。恐らく大会などで使用されることもあるのだろう。男女は当然別の通路の先に更衣室があり、どちらの廊下にもカメラが設置されていることを記すマークが見取り図には手書きで書かれていた。
「こんなん絶対
男湯と女湯のように更衣室への道が分かれている
「もちろん歩いてって更衣室を覗けるとは思ってないぜ。肝心なのはこの線。床に沿った通風孔のルートだ。実はこの通風孔、各男子更衣室と女子更衣室に
分かりやすく言うと、1年生男子の使う更衣室の通風孔から繋がっている反対側の更衣室もまた1年生女子が使用していると言うことだ。そして
しかしいまどき人間が簡単に入れるような通風孔があるだろうか。
「この通風孔のサイズは縦15センチ、横幅40センチだ」
「どう考えても人間が通れる大きさじゃないな」
それにギリギリ人間が通り、
「クックック。それもすべて計算してるんだよ。こっちにはこれがある!」
持ち込んでいた
そこにはアンテナのようなものが一本出ている。
「ラジコンか……!」
ラジコン、つまりラジコンカー。遠隔操作することで自由自在に動かせるおもちゃだ。さらにラジコン本体にカメラが付いている。それはリモコンに搭載された小さなカメラとリンクしているようだ。電源を入れて池が操作するとモニターが映った。高画質とはいえないが、周囲を確認するには十分だろう。言葉通り本当に用意がいい。
「これなら通風孔に入る大きさだ。あとはラジコンに備えたカメラで確認しながら通風孔を進むだけさ。しかもラジコン本体のミニカードに映像も保存出来るのさ!」
池の考えた作戦は
……この男はなんて恐ろしいことを考えるのだろう。
完全に犯罪行為です。ありがとうございました。これは
「おぉ! すげえ! これなら
賛同するんかーい……。もう軽すぎる心のノリで
「だな……なんかドラマみたいな感じじゃねーか」
「どうだー!
確かに、これなら気づかれず目的地にたどり着ける可能性はあるが……。
それにしても用意周到だ。それ故にオレはひとつの仮説を立てる。
「もしかして今回の
「ど、どうしてそれをっ!?」
どうしてもこうしても、用意周到に準備されたラジコンの存在からそのやり口まで池らしくない。それに監視カメラの位置や通風孔の道筋など知識がある人間が調べないと分からないことだ。
「くそ、バレたらしょうがない! そうだよ、博士に聞いたんだよ。ちぇっ、
「それで当日の具体的な作戦は?」
やはり博士に知恵を借りたらしい。仕切りなおしとばかりに池が説明しだした。
「まず覗きたい女の子たちはプールに誘えた。そしたらほぼ同時に更衣室に入るだろ? 俺たちは入ったらすぐに奥にある通風孔の前を陣取る。もし使用者がいたら
話の流れは比較的シンプルなため簡単ではあった。だがやや行き当たりばったりなところはぬぐい切れない。
「俺が脅しで邪魔な
須藤に適任な役目と言える。
「わかったか? このオペレーションデルタの
「け、けどさ
「確かに犯罪さ。厳密にはな。けどお前ら自分の過去を振り返ってみろよ。きっと似たような犯罪をやってるはずなんだぜ?」
「あ? なんだよそれ。俺は犯罪なんてやってねーよ?」
「だったら聞くけどな
「それは……
「あいにくだけど、俺は暴力なんて振るったことはないぜ」
「なら
「うっ……」
何が当てはまったかは知らないが
「もし大人が同じことをしたら? 犯罪だろ!」
「た、確かに」
「つまり
その熱意は間違いなく山内と
「やるか春樹。なんとかなんだろ」
「そ、そうだな。よし
「おまえらいいのか、本当に。犯罪だぞ」
どれだけ
「さっきから言ってるだろ
「まぁ納得できなくもねーな。時代がハイテクになっただけで、実際世の男は大なり小なりそういうことは経験して大人になるわけだしな。小学生の万引きも高校生の万引きも罪の重さはおんなじだ」
もはや女子の着替えが見たいがために、こいつは強引に正当化しようとしていた。
「百歩譲って、今のハイテク時代に合わせた覗きが盗撮だとしよう。けどな、もしそれがバレたとき、逮捕されることはなくても退学になることは十分にあるんだからな?」
「退学が怖くて覗けるか!」
おー! と須藤と山内も腕を掲げる。
「あとはお前だけだぜ綾小路。ここまで聞いたんだ、もちろん協力してくれるよな?」
「……乗り気にはなれないな」
「だからおまえの協力がいるんだよ。3人が壁になってくれれば絶対に見つからないって」
コイツの目は本気だ。ここでオレが抜けても絶対にやって見せると決めている様だ。
「わかった。オレも協力する。けど池ひとつだけ約束してくれ。この作戦には大きいリスクも伴ってる。見つかればタダじゃ済まないからだ。だから成功するにしろ失敗するにしろこれ一回きりにすると誓ってくれ。そうじゃなきゃオレは協力しないし、場合によっちゃ学校に報告する」
厳しい言葉と甘い言葉を織り交ぜながら話す。そうすることで池から
一方的に反対だけすると、
「わかってるって。俺だって何度もこんなことしていいとは思ってないしさ」
「それならいいんだ。お前が学生の青春を
「オレから一つ提案させてくれ。9時にプールが開放されるならそのタイミングに合わせて行った方が確実だ。1番乗りが出来れば更衣室の一番奥を取るのも簡単だしな」
「なるほど! それは採用だな! 男子生徒の青春つったら
これがプール前日に行われていた話し合い、オペレーションデルタの
1
そしてプール当日、一番乗りで更衣室に入ったオレたちは奥を陣取りタオルを広げていた。続々と入って来る男子たちは思い思いに雑談しておりこちらには意識を向けていない。
「早くしろよ池」
ペンライトを搭載したマシンは小さなモニターに薄っすらと道筋を示しながら進んでいく。
「く、くそっ!
ペンライトで照らしただけでは、換気口は暗くモニターの視界が悪くなる。
それでも少しずつ近づいてくる明るい先に向かいラジコンカーは
「よし、もうすぐで視界が開けるぞ───!」
モニター越しに更衣室が移り込んだ。そして画質は荒いが
「う、うひょう!」
池(
モニターを見ていれば、リアルタイムで着替えを拝見することも出来る。
「お、俺にも見せろよ
「バカ野郎俺にもだっ」
「録画は出来てるんだから、無理しない方がいいんじゃないか。そろそろ怪しまれる」
「く、そ、そうだな。とりあえず着替えた方がいいよな……」
舌打ちした山内が悔しそうに顔をしかめる。
そう、たとえモニター越しに
ロッカーに荷物と一緒にコントローラーを押し込み、着替えに集中した。
「な、何分くらい待てばいいかな……」
「20分は置いておきたいよな。少なくともさ……」
早く切り上げすぎて着替えのシーンを押さえられないのも、逆に放置しすぎて回収不能になることも避けなければならない。おまけに着替えに手間取りすぎるとトラブルの
「オレは先に行ってるぞ」
「わ、ちょ待てよ
「そうじゃない。20分も
「う、それもそうか……じゃあ
「わかってる」
ラジコンカーを回収する3人を置いてオレは一足先にプールへと向かったのだった。
2
一方、オレが男子更衣室を出た同時刻。女子更衣室では3バカの望む理想的な光景が繰り広げられようとしていた。いや、実際にカメラは音声と映像をしっかりと
「なんか新鮮だよね、授業以外で学校のプールを利用するなんて」
隣で着替える
「そうだねー。なんか市民プールとかに遊びに来た気分」
「一之瀬さんって
「
事実胸のサイズこそ
一方、一之瀬と同等かそれ以上のバストを秘めた
授業と違い救いなのは、上半身をすっぽり隠すことが出来るラッシュガードを着用できる点だろう。佐倉のような恥ずかしがり屋にとっては救世主のようなアイテムだ。
「一之瀬さん、ジロジロ見ないで
一之瀬からの熱視線を受け
「や、ごめんごめん。なんて言うか堀北さんの肌がきれいで透き通るようだなって思ってたら魅入っちゃって。同じ女の子として、やっぱり
「うん、堀北さんは
「…………」
櫛田の一言に
「でも今日はよく来てくれたね。こういうイベントには顔を出さないって思ってた」
「好き好んで出るものじゃないのは確かね。けれど時には自分の意思に関係なく、甘んじて受け入れなければならないときがあるのよ」
「んーと? なかなか難しいことを言うね、堀北さんは」
無論、詳細は誰にも話さない。水筒が腕にはまって抜けなくなったことは恥であり、墓場まで持っていくことだからだ。
「私に話しかけてないで着替えたら?」
堀北に軽くあしらわれた一之瀬は次のターゲットを見
櫛田も堀北もむやみやたらと佐倉には話しかけない。一見すると引っ込み思案で大人しいタイプ。だが一之瀬が分析するに、佐倉は人見知りではあるが仲良くなった相手には心を開き口を開くように感じた。それなら自分にも彼女の友達になるチャンスはあるはずだと思っていた。
「佐倉さんとこうして会うのも久々だよね。クラスが違うとなかなか会えないねー」
「そ、そうですね……」
「
2人の関係に疑問を感じた
「前にちょっとね。ねー?」
「は、はい……」
想定以上に固い佐倉は目を泳がせながら言った。
その恥ずかしがる仕草に
「にしても……」
失礼のない程度に、一之瀬は佐倉の
まるで男の子のような視線で肉体を見てしまう。
守ってあげたくなる系女子の佐倉は、もう少し明るくなれば学年随一の人気者になりそうだ。
「そう言えば帆波ちゃん、
「にゃ? 神崎くんがどうかしたの?」
佐倉との距離感を計っていた一之瀬は、櫛田から話を振られて視線を移す。
それを佐倉は逃げる
「クラスの女の子に神崎くんが気になってる子がいてさ。その辺り事情はどうなのかなって」
「わー意外とモテるねー神崎くん。ウチのクラスにも好きっぽい子いるし。あ、でも今のところ誰とも何もないんじゃないかな?」
「そっか、じゃあ声かけてみたらって話てみるね」
「うんうん。神崎くんも
「多分なんだ」
ざっくりした回答に櫛田が笑う。
「彼って無口と言うか口数が少ないから。それがいいんだろうけど、主張がなさ過ぎてよくわかんないんだよね」
それが同じクラスメイトとしての率直な感想だった。
「そうだねー。確かにわかりづらいかも」
そうこう一部でトークが盛り上がっていると、周囲は既に着替えるべき水着に手を伸ばしていた。
「わっとと、着替えなきゃ」
出遅れた一之瀬が手早く服を脱ぐ。男子の着替えを
ぶるんと胸が揺れる。関心を示さないようにしていた
近年食生活が欧米寄りになったとは言え、同じ高校一年生の
「……あなた、その胸はいつから?」
「ふぇ? いつ、って大きくなりだしたの? 中学3年生になったあたりかな、どんどん育っちゃってさ。どうして?」
「いえ、理解出来たわ。あなたが持て余し気味にしている理由がね」
必ずしもではないが、女の子は自分の変化に対応出来ないタイミングがある。特に胸の発育は本人にも読みきれないのだ。一年足らずで急成長を遂げたなら仕方がない。
「よし、着替え終わり!」
最後尾から追い上げた
「お先いってるねー」
いち早くプールに行きたい衝動を抑え切れないのだろう。ロッカーのキーをもって更衣室を後にした。
「台風みたいな人ね、彼女」
良いも悪いもなく、純粋な気持ちを
けれどそれを少し遠くで聞いていた
「一之瀬さんと一緒にいると、ついつつい
そう答えた。
堀北は横眼だけ一度櫛田にやったが、その言葉に答えることはなかった。
もちろん櫛田もそれで何かを思うことはない。
ただ単純に櫛田は立て続けにこう言った。今度は堀北ではなく新たな来訪者にだ。
「あれ
常に周囲の状況に敏感な櫛田が、更衣室にやって来た軽井沢と二人の女子に目を向ける。
「偶然。あたしらも泳ぎに来たんだ」
「へえ……」
驚きを隠せない櫛田。軽井沢は普段授業では全く泳がないからだ。
軽井沢たちは奥の方のロッカーへと向かっていく。櫛田はそれに少し違和感を覚えながらも着替えをつづけた。
「うわ……マジでやってるし。マジの最低変態ばっかり……」
床下換気口に取り付けられた鉄格子にぴったり張り付くように停車しているラジコンを見つけた。キラリと光るレンズが女子更衣室を見事な角度で
普通なら、この鉄格子は誰にでも取り外せるが、取り外すには相応の手間と時間がかかる。プラスネジで四方を取り付けられていて、それを外さなければならないからだ。だが軽井沢は鉄格子に触れ、難なくそれを後ろに引くことで取り外す。
彼女が特別怪力なわけでも、またドライバー技術に
ただ単に昨日の段階でこの更衣室に足を踏み入れネジを外していたに過ぎない。鉄格子はネジがなくとも、簡易的に固定できるようになっているためだ。
そしてすぐに何もデータが入っていない新しいミニカードを挿入し、床下換気口に戻す。
「これでよし、と」
後は勝手に時間が
「……あいつだけ、ちゃんとしてんだ……」
男子連中のクズっぷりに
「
そう軽井沢の背中から話しかけてきたのは、同じクラスメイトの
「あぁうん、ありがと。もう大丈夫」
一年生の女子が入り乱れている更衣室の中で、一人で床下換気口を見ていると
もちろん換気口の近い奥、その周辺のロッカーは全て『使用済み』に見せかけるため、鍵をかけて使えないようにすることも忘れていない。軽井沢は他人の目を盗みながら、心拍数を上げることなく冷静にその鍵を一つずつ戻していく。
友人である園田と石倉には詳細は説明していない。説明せずとも大人しく従い口外しない確信がある人間……気はけして強くなく、それでいて仲間ハズレを恐れている生徒を人選している。
着替えを終えてDクラスの顔見知りが全員いなくなったのを確認して、軽井沢は二人に対して
「今日は協力してくれてありがと。あたしこの後も少し予定があるんだけど、二人は遊んでくわけ?」
「あ、うん。そうしようかなって。ね?」
二人は互いに
3
くたくたになるまで遊んだプールから帰り、オレは自室の前に戻ってくる。
すると
「遅いぞ
待ちきれない
「綾小路早くしろよ!!」
興奮を抑えきれない男連中に背中を押されるように、オレは自分の部屋を開けさせられた。
家主よりも先に部屋に上がり込むと、勝手にパソコンの電源を立ち上げた。
「な、なぁ
「おまえら待てよ。まずは俺が確認すんだよ、
「落ち着けって二人とも。ここは皆で仲良くみようぜ。ぐへへへへ」
もはやオレのことなど眼中にないのか、パソコンが起動するのを今か今かと待っていた。色々と大変な一日だったオレはそのままベッドに座り込んだ。
「中身を確認したら帰ってくれると助かる」
「んだよ綾小路、おまえ一人だけ大人ぶりやがって。おまえだって見たいだろ?」
「引き返すなら今のうちだと思うけどな」
「あーそうかよ。いい子ぶるなら絶対見るんじゃないぞ。つか見せてやんないからなっ」
池はパソコンの画面の前に立ちふさがるようにして両手を広げ視界を
「女の裸に興味ない野郎なんていねーぞ。素直になれよ」
もう我が家のようにくつろぐ須藤からの言葉は一理あるが、そこまで必死になって裸を見ようとは思わない。少なくとも退学を
「ぬわああ!? なんでなんで、なんで何も映ってないんだよ!!」
「な、ない。データが……」
「そんなわけないだろ? だ、だってちゃんと録画出来てたよな? な?」
3人は慌てふためいて何度もフォルダを開きなおすが、そこには何もない。
当たり前だ。録画していたデータの入ったカードは
一方で本物のデータは既に破壊してしまったため残っていないのだ。
「なんでないんだああああ!!」
こうして3バカの野望は内側からの妨害工作により消滅したのだった。