ようこそ実力至上主義の教室へ 4.5

〇意外と葛城康平は悩んでいる



 日本人って人種は、宗教に対してかんよう的すぎる部分があると思う。

 もちろん過去はどうあれ現代においては個人が何の宗教を選ぼうとも自由が許されている。信仰する神がないことも問題とされない。

 ただ、そんな日本人も普段宗教に頓着がない割に、誕生日やクリスマスなどイベントに関してはキリスト教の影響を強く受けている。

 もちろん信仰心からも来ていることだろうが、企業の戦略が上手くハマった結果ともいえるんじゃないだろうか。近年ハロウィンが取りざたされるのもその流れの一つだろう。

 何が言いたいか───それはこの学校においても、誕生日はひとつの大イベントだということ。敷地内にあるショッピングモールやコンビニなどには、必ず種々のイベントに向けたコーナーが用意されているのだ。

 事の発端は、ぶきとエレベーターに閉じ込められる事件が起こる1週間前のこと。

 クラスのいやし系であるくしからのひとつのチャットからだった。

『実は来週の水曜日ってがしらさんの誕生日みたいなの。もし良かったらお祝いしてあげない?』

 そんなチャットがオレたちのグループに回ってきたのだ。

 がしらはDクラスの中でもちょっと地味で大人しい女の子でくらとタイプが似ている。

 友達もそれほど多いわけじゃなく、誕生日のイベントを通じて仲良くなろうという話だった。もちろん、そのチャットを受けたいけに断る理由は無い。ならこつなまでにくしに好意を寄せているからだ。このイベントを利用し少しでも櫛田にお近づきになりたいんだろう。

きようちゃんから連絡あったよな。こころちゃんにプレゼント用意してやろうぜ!』

 池は積極的に賛成意見を表明するが、対してやまうちは反応が鈍かった。

『つってもなあ、金ないしな……。来月になればうなるほど入るだろうけど』

 そう、Dクラスの生徒たちは基本的に金がない。先の特別試験では一定の成績を収め、一部の生徒は膨大なプライベートポイントが約束されたが、その振り込みは悲しいかな9月1日だ。

 オレ自身も所持しているポイントは残りわずかだ。

 つまり夏休みの間は今の貧乏生活で乗り切らなければならないのだ。

 そうなると、当然誰かの誕生日に余力を割いている余裕などないことになってしまう。

 というか大前提に、この男たちは個人個人で誕生日プレゼントを用意するつもりなのだろうか。

 仲の良い相手ならともかく、井の頭と仲の良い男子はオレの友達にはいない。

 仮に安物だったとしても、大勢からプレゼントをもらうのは井の頭も気が引けるはずだ。

『男子でポイントを出し合って1つのプレゼントを買えばいいんじゃないか? それなら500ポイントくらいでもちゃんとしたものが買えるだろうし』

 そう提案する。すると山内からも、それならと返事が返ってきたが財布事情はギリギリそうだった。

 本当に切り詰め、こんきゆうした生活をいられているのかも知れない。

 8月頭に支給されたポイントは8700pr。日本円でもそのまま8700円。

 高校生の平均お小遣いから考えれば少々物足りないが、それでも無理しなければ余裕はある。幸いにもこの学校では食事は無料のものが存在するし、飲料水にも困らない。つまり無駄遣いしなければそれこそ1円も使わずに過ごせる。

 だが大抵の生徒は月末が近づくと金欠だ。それは入学時に毎月10万ポイントの支給があったときとなんら変わらない。何が言いたいかというと、結局人はあったらあっただけ使ってしまうということだ。

 結局オレの案に乗っかる形で3人は同意し、後日一緒にプレゼントを買いに行くこととなった。


    1


 うだるような暑さを肌に感じながらオレは額の汗をぬぐった。

「で───なんで肝心のきようちゃんがいないんだよ!! なああやの小路こうじ!」

 会うなり開口一番のいけのセリフはくしの不在についてだった。その説明をオレに求めないで欲しい。ほりきたも櫛田も、スケジュールをオレが管理しているわけじゃない。単純にオレ相手なら不満をぶつけやすいからだと思うが、いい加減この展開もしよくしよう気味だ。

「冷静になってみれば櫛田が同行するとは言ってなかったしな。そういうことだろう」

「そんな理由で納得できるかよぉ! 桔梗ちゃんがいなきゃ意味ないだろー!」

 それは言いすぎだ。この集まりを否定するのはやめて欲しい。

 勝手に盛り上がっていた池たちとは別に、櫛田は他の女友達を誘って買い物に出かけてしまったようだった。

「何が悲しくて野郎同士で興味ない誕プレ買いに行かなきゃならないんだよ!!」

 叫ぶ気持ちは分かるが、オレだってむさ苦しい男連中と行動を共にしたいわけじゃない。

 ……とか言いつつ、ちょっと楽しかったりもするが。

 夏休みの学校授業(試験)以外で男連中と会うのは初めてだったりする。他の連中は友達と買い物に行ったり映画を観に行ったりと当たり前のように遊んでいるようだし。

「何が悲しくて野郎3人だけで誕プレを買いにいかなきゃいけないのか。はる、後は任せたぜ。こころちゃんが喜ぶアイテムを選んできてくれ」

「ふざけんなって。お前が言い出したんだろ、言い出しっぺが買いにいけよなー!」

 文句を言いあう二人。対立する池とやまうちの間にオレは割って入った。

「まぁ少し落ち着いたらどうだ。3人で買いにいけばいいだろ、どうの分もポイントは預かってるんだから」

「そうだけどよー。3人で行く必要はない気がすんだよなぁ」

「ここまで来たんだ。さっと買って帰ればいい」

 解散してしまうと少し寂しいので、そう言って丸く収めようとする。

「この炎天下で文句言いあってる方が体力も使うし時間のろうなんじゃないか?」

「あーもう、わーったよ。買って帰ろうぜ。あーつまんね」

 こつにテンションを落とした二人とは裏腹に、オレは少しノリノリで店へと向かった。

 普段一人では立ち入らない店々が並ぶ施設の中でも、特に女子たちが入りびたる店にやって来る。店員がレベルの高い年上系美人。それに加え、店内の内装もピンク一色。男独りじゃまず来れない雰囲気の店だ。

 ぬいぐるみから携帯アクセサリーまでおおよそ学業には不要と思われる物がそろっているようだ。これで生徒からプライベートポイントをさくしゆしているんだろう。

「ま、そのポイントも学校から支給されてるものだから損してるわけじゃないが」

「何ぶつくさ言ってるんだよ。何買うかお前も知恵貸せよな」

 二人もさぞ肩身の狭い思いをしていると思いきや、美人店員を見たり、客である女子を見て一喜一憂している。あれだけ嫌がってたのに素早い切り替えだ。

 それから散開し、おのおの誕生日プレゼントを選ぶために良いものを探して回る。オレは最初からプレゼントを選ぶつもりなどなかった。何を選べばいいのか皆目見当もつかなかったからだ。

「何が喜ばれるんだろうな……さっぱりわからない」

 人に誕生日プレゼントを渡すのは初めてだ。3人で共同購入するので、『初めて』のカテゴリに入れて構わないのかは微妙なラインだが。ともかく経験がない。おまけに知識も浅く、思いつくのは『バラの花束』や『指輪』など一般常識から大きくかけ離れたものだけだ。それはもはや誕生日プレゼントではなくプロポーズか。無難かつ事故の起こらないものを探そう。

 ぐるりと店内を一周して戻ってくるとやまうちと合流する。山内の手には小さめの白い熊のぬいぐるみがあった。一方オレの手には携帯に付けるカバー。それを見つけるなり山内が顔をしかめる。

「おまえさー携帯のカバーとかやめとけって。まず心ちゃん絶対つけてるし、好みの差も激しいから困ると思うぜ」

 そんな指摘を山内から受けた。

「……そうか。じゃあこの保護フィルムは?」

 秘策としてもうひとつ用意しておいたものを取り出す。すると更に山内の表情がしかめっ面になる。

「いやいやいや、それこそいらないって。あやの小路こうじ全くセンスないな」

「ぬいぐるみとか、それこそ邪魔じゃないのか……?」

 もらったって何の役にも立たない。ただのスペースを無駄に使うだけだ。

「そりゃ、確かに邪魔になるかもしんないけどさ、インテリアとして活かせるし、心ちゃんこの白熊シリーズ好きだから喜ぶと思うぜ。つかカバーと保護フィルム選んできた男にぬいぐるみのことを言われたくないぜ」

 山内にそんな風にバカにされると、だろう……リアルにショックだ。

 けど、山内が相手の好みをしっかりとリサーチ済みだったのには素直に感心した。こっちはがしらの顔と名前が何とか一致する程度なだけに、クラスメイトとしてのしんぼくの差をこつに感じる。

「んでかんは?」

「さあ───」

 二人で店内を探していると、キーホルダーコーナーで立ち尽くすいけを見つけた。

 その様子が妙に真剣だったので、声をかけず二人で静かに近づいていった。

 どうやら池はミカンのキャラクターがモチーフになったゆるキャラグッズを手にしている様子。だが池の手には既に別の、まさにやまうちが言っていた白熊と思われるキャラクターが描かれた布が握られている。

「おいかん

「うひゃお!? び、びっくりさせんなよ!」

 耳元で声をかけられ驚いた池が、キーホルダーを落としそうになりながら慌てる。

 そしてかすぐにそれを隠すように陳列棚へと戻す。

「も、もう決めたのか?」

「あぁ、これにしようって思ってさ。白熊のタオル。ハハハ……」

「そうじゃなくってさ。なんでキーホルダーみてたんだよ」

「え? 別に他意なんてねーし? それよか向こうの方も見に行ってみようぜ」

 そう言って話を変えようとする池に対し、山内が怪しむような目を向けた。

「なぁ……確かそのみかんのゆるキャラが好きなのってしのはらじゃなかったっけか?」

 篠原とはまた意外な名前だ。Dクラスの女の子で無人島の試験中、たびたび池とも意見がぶつかり合っていたのを覚えている。

「そ、そうだっけ。いや、俺はきようちゃんにどうかなって思ってさ。そんだけだっつの」

 そうは言うが、池には明らかな動揺が見て取れた。

「おまえ、まさか篠原が気になってるなんてないよな?」

「はああああ!?!? あるわけねーし、あんなブス! 絶対ねーし!」

 確かにくしとかと比べると、というのはあるかも知れないが、十分に可愛かわいい子ではある。

 性格上多少キツイところはあるが、それもその女の子の魅力といえばそれまで。

「ほんとかよ。なんかこつに怪しくね? なああやの小路こうじ

「まぁ……池らしくない反応ではあるかもな」

 ある程度の女の子であれば誰でもウェルカムな癖に、篠原に対しては露骨に嫌がった。

 それはある意味、篠原を気になりだしている証拠な風にも取れたからだ。

 だが池はそれを認める気が無いのか、真っ向から否定する。

「おまえら、勘違いすんなよ! いいか篠原だぜ? あんな態度でかくて可愛くない女と付き合ったら、恥ずかしくて外も出歩けないっつの。完全にきようじゃん!」

「あ───」

 オレと山内が同時にある存在に気づいた。そして慌てて話を変えようと方向転換をはかる。

「わかったわかった。もう十分伝わったからさ。心ちゃんの誕プレ選ぼうぜ」

「いやわかってねーよ。俺がに篠原をブスだと思ってるか。それを聞いてくれ。そもそもアイツは顔だけじゃなくて性格もブスだろ? おまけに身体からだも貧相だし。とにかくブス中のブスって感じでさ───」

「わ、わかったって! もうやめとけかん! だって、その、後ろ───」

「あ? 後ろ?」

 しのはらを嫌っていることを必死に熱弁していたいけが、ゆっくりと振り返る。

 するとそこには、今にも顔から火をふんしゆつしそうなぎようそうをした篠原とその友達がいた。中にはくしの姿もある。当然といえば当然か。がしらの誕生日プレゼントを選びにここに立ち寄っていてもなんら不思議は無い。

「池なんて死ねばいい!」

 強烈な一言を残して、篠原は怒り店を出て行ってしまった。後に残された池は返す言葉も出ないのか、ぼうぜんと篠原の背中を見送った。

「な、なんだよ死ねとか。くそ、ブスの癖に。な、なあ?」

 どこかショックを受けながらも平静をよそおった池がそんな風に言った。

 オレたちは強くっ込むことも出来ず、そうだなと話をあわせるので精一杯だった。

「お、おい見ろよあやの小路こうじ! ハゲがいるぞ!」

 話題を変えて明るくしようと思っていたやまうちが、ふとそんなことを言ってグイッと肩をつかんだ。ハゲがいるってなんだ、そう思ったがすぐに納得した。可愛かわいらしい店内に似つかわしくない巨漢の男がこちらに背中を向け商品棚を見つめていた。

 Aクラスのかつらだ。もうれつに険しい顔をして店の中をウロウロしている。

「万引きでもするんじゃないか?」

 いくらなんでもそれはないだろう。だが思わず身を隠して池たちと共にその様子をうかがってしまう。行動が気になってしまうのはヤツのかつこうのせいでもあった。

 この暑い中きっちりと制服に身を包みたたずんでいたのだ。なんでそんな無意味なことを。

 葛城は表情を崩さないながらも、気にしているのか周囲を見回していた。

 確かに、万引きしようとしている人のようにも見える。

 オレは無意識のうちにポケットの携帯を握りしめた。もしも万引きの現場を押さえることが出来たなら、それはこちらにとって大きな武器になるかも知れないからだ。

 だが、と思いとどまる。

「なんでオレがそこまでしなきゃならないんだか」

「え? なんか言ったか? 綾小路」

「何でもない」

 葛城が万引きしようとしまいと、それはオレとは無関係なことだ。

「お、おい。ハゲが何か手に取ったぜ!?」

 まるで万引きGメンのように、目を輝かせながら犯行を待つ池と山内。

 ところが、かつらは手に取った薄い箱を陳列棚に戻す。

 そして別の同じようなものを手にしては戻すという行動を繰り返しだした。

 これはるものを物色しているのではなく、どれを買うか迷っている様子だろう。その違いにいけも気づきげんそうな顔でこちらを見上げる。

「もしかして辺りをキョロキョロしてるのって誰かに買うのを見られたくないとか?」

「多分そうなんだろうな」

 そう考えれば自然と納得がいく。

 葛城は誰かにプレゼントを買おうとここに足を運んだ。そして購入しようとしている。

 周りの目を気にしているのはそのことを悟られたくないからだ。

 やがて一つの箱を選んだ葛城はそれを手にして会計へと向かった。池たちは物陰から飛び出すと葛城が選んだプレゼントの前へと集まる。薄い板のような形をしたものが積み上げられていた。それを池たちは手に取り裏の商品情報に目を通す。

「これって……チョコレート、だな」

 葛城が誰かに送るために買ったと推測されるプレゼント。

 それだけのことのはずだが、池たちはメラメラと何かを募らせるように震えた。

「ま、まさかあのもうハゲ彼女がいるんじゃないだろうな!?」

「まじかよ! これがAクラスの力なんかよ!」

 どうやらそんな下らないことでメラメラとしつ心をあらわにしたようだ。

「別にそうとも限らないんじゃないのか? 単純に友達へのプレゼントとか」

「こんな可愛かわいらしいラッピングしたプレゼントを友達用に渡すか!? 渡すか!? 渡さない!」

「……まぁ」

 確かに可愛らしい小さな箱、包装のリボンは友達に渡すものとしては考えにくいな……。

 少なくとも同性に向けたものだとは思えなかった。となると親しい女の子への贈り物か。

 そう考えていくと、連想して恋人の存在を疑ってしまうのも無理ないかも知れないが。

 いけたちは会計を続けるかつらに再び視線を向け、商品棚の影から情報収集を行う。

「誕生日の贈り物ですか?」

「はい」

「誕生日カードはお付けになりますか?」

「お願いします。誕生日は8月29日になります」

 そう答える。一体誰にプレゼントするのだろうか。ともかくあの商品は誕生日プレゼントということらしい。それを聞き届けた池たちがひそひそ耳打ちをしあう。

「聞いたか? 29日が誕生日の女って誰だ?」

「わ、わかんね……今日が21日の日曜だから……来週の月曜か。あやの小路こうじ知ってるか?」

「さぁ。皆目見当もつかないな」

 女子事情に詳しい二人が知らないのにオレに思い当たることがあろうはずもない。


    2


「なあ……都度都度言ってるからもう諦めてはいるんだけどな。なんでオレのなんだ」

 夜、各自晩御飯を食べたあとかオレの部屋に集まったいつものメンバー。

 池とやまうちはお約束として同席、そこにくしと部活を終えたどうとを交える。

 ここにほりきたそろえばパーフェクトだったな。

きようちゃんって他の子の誕生日とか把握してたりする?」

「うん。聞いた子のは全部メモしてるから大体わかるよ。誰のが知りたいの?」

「それがさ、もしかしたらDクラスじゃないかも知れないんだけど」

「えっと、上級生になると正直ほとんどわからないんだけど1年生だったらわかるかも?」

 この辺りは流石さすが、処世術をマスターする櫛田だ。忘れたりしないようしっかり記録しているらしい。

「じゃあさ、一つ教えてほしいんだけど今月29日が誕生日の女の子って誰がいる?」

「29日が誕生日の子? ちょっと待ってね」

 携帯を取り出したくしは、誕生日リストと思われるものを取り出す。

 それからしばらく画面をスライドさせたりしながら調べていたが、やがて顔をあげる。

「ごめん、私が知ってる中じゃ誰もいないみたい」

「多分Aクラスの子だと思うんだけどさ」

「Aクラス? うーん、もう全員の誕生日は聞いてるんだけどなぁ」

 それでも29日が誕生日の女子は思い当たらないらしい。

「1年生の女子なら全員知ってるつもりなんだけど思い当たらないなぁ」

 圧倒的な櫛田の情報網に引っかからないということは渡す相手は学年が違うのかもしれない。そうなると流石さすがの櫛田もわからないようで、望む答えは得られなかった。

「ってことは上級生の可能性が高いってことかぁ」

 お手上げだといけが万歳して後ろに倒れ込んだ。

「その29日の誕生日の人がどうかしたの?」

 櫛田の素朴な疑問に池はここぞとばかりに含みを持たせて言った。

「それが聞いてくれよ~。Aクラスにかつらってハゲがいるのは知ってるよねー?」

「うん。葛城くんはクラスの皆をまとめてるっていうし有名だから。私はこの間の試験で同じグループだったしね」

「そのハゲがさ、29日に誰かに誕生日プレゼント渡すつもりなんだよ。ハゲのくせにさ」

 池は何度もハゲというキーワードを繰り返す。櫛田はちょっと注意するように───。

「葛城くんは小さい時から全頭無毛症って病気なの。からかっちゃだめだよ」

「う……」

 櫛田に真っ向から正論を言われ、お調子者の池は後ずさりするように黙り込んだ。確かに若くして髪の毛がないのは、オシャレの要素を除けばほぼ病気ということになる。

 病気の人間をからかう行為は恥ずべきことであり、それは池自身百も承知のはず。ただそれが笑いにつながるからと安直に多用してしまい逆に好感度を下げてしまっていた。

「ね? これからはちゃんと名前で呼んであげよう?」

「も、もちろん。ごめんねきようちゃん不快な思いをさせちゃって」

「ううん、分かってくれたらいいんだよ。これから直してくれるならうれしいな」

 その話をいったん区切ると、やはりもう一つ言いたいことがあったのか櫛田は間をけすぎないようにして話し出した。

「それから今日のしのはらさんのことだけど───」

「う……」

 池としては忘れていたかった話だが、櫛田からの話。止めることも出来ない。

「私が言わなくても分かる、よね?」

 あえて内容には触れず、ただそう優しく言った。

「……謝っとく」

「うんっ。そしたらしのはらさんも許してくれると思うよ」

 不服そうにしながらも、いけくしの手前か素直に答えたようだった。ケケケと笑うやまうちを池は無言でにらみつけた。ともあれ櫛田のおかげで、池は今日少し成長できたかも知れないな。

「それでかつらくんが誕生日プレゼントを誰かにあげる話だったよね」

「そうそう。きようちゃんなら思い当たる節とかないかなぁ?」

 櫛田は自分のネットワークを使い頭の中で検索をかけているようだったが、引っかからないのかしばらくして首を左右に振った。

「なんだろ、葛城くんにそんな浮わついたイメージがある感じはしないかなぁ」

 少なくともまだ、と付け加えた。

「上級生なら可能性はあるよな?」

「そうだね、私が知らないだけってことは十分にあると思うよ」

 入学してわずかの間に上級生と付き合う、あるいは誕生日プレゼントを渡す仲になったのだとしたらスゴイことだな。素直にAクラスのリーダーを尊敬したい。

 だが、この段階で上級生に絞り込んでも大丈夫なものだろうか。もっと別の観点から見る必要もありそうだが、場の空気は既に彼女探しをするつもりでいっぱいだった。

「こうなったら意地でも葛城の彼女をき止めてやろうぜ!」

 盛り上がっているところ悪いが、ここは別の可能性があることも指摘しておくべきだろう。

「簡単に上級生の女子だと決め付けていいのか?」

「桔梗ちゃんが29日が誕生日の子がいないって言ったんだからそれ以外にないだろ。それともあれか? もしかのもしかでほりきたさんとか?」

 根拠のない池の発言ではあったが、可能性としては除外しきれないな。

「まぁそれならあり得る話か……」

「は、おまえらふざけんなよ?」

 黙って話を聞いていたどうが、池の胸ぐらをつかみあげながらオレを睨んできた。

「ぐえ! も、もしかしての話、だって!」

「おいあやの小路こうじすずの誕生日はいつなんだよ」

「知らない」

「んだよ使えねーな」

 そう言われても、堀北の誕生日がいつなんて知るはずがない。

「普通に考えたらこの学校の誰も堀北の誕生日は知らないと思うぞ」

 唯一知っているのは、生徒会長でもあり兄でもある堀北まなぶだけだろう。

「そうか。それもそうだな、俺やあやの小路こうじが知らねーのに、あいつが知ってるわけねーか」

「私知ってるよ。ほりきたさんの誕生日は2月15日だから今回の件には全く関係ないと思うな」

「……さすがだなくし

 思わず感心してオレは口にした。よもや堀北の誕生日まで知っているとは。流石さすがの櫛田も堀北やぶきのようなくせものの個人情報は把握していないと思っていた。特に堀北については。オレと当事者同士以外は知らない話だが、櫛田は堀北を嫌っているし堀北も櫛田を嫌っている。とても誕生日を教えあうような間柄とは思えなかったからだ。第三者から聞くにしても堀北は普通人に話したりしない。だからこそ感心してしまう。

「2月15日か。イイこと聞いたぜ」

 どうはニヤリと笑う。その須藤の腕を首を絞められ顔が青ざめていたいけがタップする。

「おーわりぃ忘れてたぜ」

「ぜぇぜぇ、けんはバカ力なんだから気をつけろよ!」

「おまえがまぎらわしいこと言うからだろ」

「だったら綾小路にもしろよな!! なんで俺だけにすんだよ!!」

「一番距離が近いからな」

「単細胞!」

「あぁ?」

 胸ぐらを再度つかもうと手を伸ばす須藤から慌てて距離を取った池。人のでドタバタと暴れまわるのはやめてほしい。多分近いうち苦情が入るぞ。

「話がれたけどオレが言いたいのは少し違う。他にも候補になりうる存在はいるってことだ。教師にケヤキモールの店員ってこともあり得る。今日見たショップの人も美人だっただろ?」

「な、なるほど。言われてみればそんなこともあるのか」

 もちろんそんな年上が高校1年生を相手にするかどうかは別だし、条例やモラル上、大きな問題になりかねないからカップルが成立するイメージはほぼ無い。かつらだってその辺は理解しているだろう。しかし可能性として除外するには早すぎるということだ。

 ともかく今気を付けなければならないことは、勝手に上級生だと決め付けること。

 要は相手を絞り込むことは難しい、放っておいてやるのが一番だと分かってもらいたい。

「こっちで勝手に盛り上がって葛城の相手を見つけ出すのはやめたらどうだ?」

「おまえはいいのかよ! あのハゲに年上で包容力のある胸の大きな彼女がいても!」

 仮にそんな理想的彼女がいたとしても、呪い殺すような感情はいてこない。

「Aクラスなら年上にモテても不思議じゃないしな」

 片やこっちはDクラス。多少顔がよかったり性格がよかったりするくらいじゃモテない。

 ……そうでもないか。

 ひらなんかは同級生のみならず上級生にも人気がありそうだ。それに以前こうえんを見た時も上級生からは一定の支持を得ていたな。

 結局のところオレやいけたちには共通する非モテの何かがあるってことだろう。

「俺はあいつに先を越されるのだけは絶対に嫌だ!」

「だからってどうにもできないだろ」

「そんなことねーって。負けそうな相手だからってこっちに勝機がないわけじゃねえ」

 どうはパンと半ズボンからのぞかせた鍛えられた太ももをたたいた。

「バスケは勝利のためなら反則ギリギリのプレイだってする。いや、勝つためだったら必要に応じて反則だってするかもな。それだけ勝利へのしゆうねんは強いし大事なものだ。プレゼントを渡すことで女と距離を詰める可能性があんなら、それを阻止しちまえばいいんだよ」

 何とも強引だ。しかしこれが勝負事だったなら須藤の考えはかんぺきな回答だ。オレもそうする。ただ今回はまっとうな理由じゃなく個人的なしつから来るもの。褒められた行動じゃないな。

 にしてもいつもの須藤とは違い、強い気合が入っているように見えた。

「そういや、もうすぐ大会だっけ」

 やまうちもそれに気づいたのか、須藤を見て言った。

「おう。木曜からな。出番があるかはわかんねーけどいつでも出られる準備は万端だぜ」

 パン、と指を広げた左手に、右こぶしを叩きつけて万全な状態をアピールする。

「よっしゃ、それだ! 妨害するぜ!」

 ちやな須藤の考えにも池はノリで決行することを決める。

くし、なんとか言ってやってくれ」

「妨害するのはダメだよかんくん」

「ええ、そんな……きようちゃんだってかつらの相手が誰か気になるだろー?」

「私だって渡す相手は気になるけど、妨害はダメだよ」

 せっかく妨害することで盛り上がっていたところに水を差されたため、不満そうだ。

「ってことだ」

 櫛田に便乗して妨害工作に及ぼうとするのを止めたことが不服だったのか、それともしのはらとの一件を引きずっているのか池はオレにこんなことを言った。

「ならあやの小路こうじ。おまえが正体をき止めろよ、葛城のプレゼントを渡す相手が誰なのか」

「無理だ」

「無理でもやるんだよ。どうせ暇だろ?」

 その点だけは否定できないが……。そんなに気になるなら自分で調べてもらいたい。

「突き止めるもなにも、同じクラスでもなければ友達でもないからな」

 連絡先も番号も、下の名前すら覚えていない相手のことを調べるのは骨が折れる。

かつらくんの連絡先なら私わかるよ? 教えようか?」

「…………」

 そうだ……今そばにいるのはほりきたの誕生日すら把握する、学年一交友関係の広い美少女だった。葛城の連絡先を知っていてもおかしくはない。

「どうやって連絡先を知ったんだ?」

「この間の特別試験でグループが一緒だったとき。それで教えてもらったの」

 なるほど。ああいう場でもきっちり連絡先を交換できるのはすごいことだな。

「じゃあ教えるね?」

「いや、いい。オレが突然連絡したら葛城だってびっくりするだろ」

 見知らぬ番号からの着信じゃ無視されることだってあり得る。

「おまえが妨害を阻止したんだから責任とれよ」

「責任を取れって言われてもな……」

「俺も気になるから調べてくれよ」

 どうが偉そうに強気に命令してくる。

「自分で調べようとは思わないのか?」

「あ? こっちは木曜の大会まで暇なんかねーっつの。あと数日しか練習できねえんだぜ?」

 部活動を大義名分として振りかざしてくる。こちらが答えずに黙っていると、にらみつけてきた。

「力ずくできかせてやろうか?」

 須藤が腕をぐるんぐるん振り回す。場合によってはこっちにヘッドロックを決めるつもりか。このグループの中でも発言力が一番低いオレがやり玉にあがれば逃れるすべはない。

「……わかった。明日ちょっと張り込んでみる。ただ過度な期待はしないでくれよ、どうなるかわからないんだから」

 ひとまずこの場はこれでしのがせてもらおう。

 あとは後日適当に調べて無理だったと報告すればそれで終わりだ。


    3


「暑い……死ぬほど暑い……」

 翌日のオレは、かつらが出かけるタイミングをうかがうために並木道の中にいた。ここは各学年の寮へ続く道の分岐点でもあるため上級生に接触するなら避けて通れない道だ。

 更にショップなどが並ぶケヤキモールへの道、学校への道なども先にはあるため、葛城がどこに行こうと見逃さない。本当ならロビーで涼みながら待った方がいいのだが、残念なことにほとんど面識のない他クラスの女子たちのお茶会場として制圧されてしまっていた。入りたい店があるのにいてる席がほとんどなくて入店をちゆうちよしてしまうような、そんな感じ。わずかに開いたあのスペースに腰を下ろしてゆったりくつろげるほどオレの心は成熟していなかった。

 時折男子生徒や女子生徒たちが遊びに出掛けるためかあいあいと通り過ぎていく。もちろん生徒たちは全員私服だ。それを見る度に昨日のかつらの制服姿を思い出し疑問を抱く。夏休みに制服を着てはいけないルールは無い。だが制服は熱がこもりやすく非常に暑い。オシャレが面倒だからと言ってそれを着て出かけるには説得力に欠けるのだ。しかし制服も夏服だったならまだ少しは理解できる余地もある。葛城は夏服でもなくながそでをしっかりと着こなしていた。最近気づいたことだが制服にはいくつかのバリエーションがある。常にポイント不足のオレには無縁状態だが、高額な商品として夏服が売られていることを最近知った。クラス内の女子たちはいつか欲しいと願いつつも、我慢している状況が続いているらしい。外へは私服で出かけるのがセオリーの中、あえて制服を着る理由……。

 そんなことを考えていると、不思議なもので同じような人種を吸い寄せる。昨日の葛城といい、どうにも制服を好む連中も少なからずいるらしい。

 上級生が住む寮から男女二人が歩いてくる。オレを見つけると進路を変え近づいて来た。

「久しぶりだな」

くそあつい中制服を着てるのは誰かと思ったら、ほりきたの兄貴か……」

 葛城とは違い二人とも夏服ではあったが、休日の制服姿に違和感を覚える。

「うわ会長、この子『面倒な人に会った!』って顔してますよ」

 分かりやすくそんな顔をしてみせただけだが、堀北兄の隣にいる女子生徒、3年生のたちばな書記が大げさに言った。それにしても女の子の制服はどうしてだろう、男の学生服と違って暑苦しい感じが全くしない。これくらい清涼感があれば文句はないのだが。

「夏休みだってのに生徒会ってところはずいぶんと忙しそうだな」

 橘書記に至ってはノートのようなものを抱えている。

 一瞬もう2学期って始まったか? と勘違いしそうだ。

「今日まで夏休みを利用して生徒会室の改装工事をしていたのでその関係です」

 生徒会長にわずらわせるまでもないと橘書記が説明する。

「そうか、じゃあな」

「うわっ聞いて来たわりに随分と淡白な反応。というか君、もう少し発言には気を付けた方がいいですね。この方をどなたと心得てます? 恐れ多くもこの学校の生徒会長ですよ!」

 それは知っている。そして多分とんでもない権力の持ち主だってこともな。

 最初は敬う気持ちというか敬語であるべきだと思っていたが、なんとなくやめた。堀北の兄貴も敬語を望んでいる節はなさそうだし遠慮しないことにしたのだ。にしてもたちばな書記ってのは思っていた印象と結構違った。もっと真面目まじめな人だと思っていたが、かなりゆるい感じの人だった。

「学校らしくペナルティでも科すか? あいにくとポイントはかつしてるけどな」

 橘書記の言葉に肩をすくませそう答える。ほりきたの兄貴もこんなやつは相手にしないだろうと思ったのに、立ち去るどころか目を細めちやなことを言った。

あやの小路こうじ、これから予定がなければ少し付き合ってもらいたいんだがな」

「か、会長?」

 オレを誘う生徒会長に橘書記が驚く。オレも驚く。だが──

「予定はもうびっしりだな。悪い」

「ええっ!? 断るぅ!?」

 そしてその生徒会長の提案を断るオレにぎもを抜かれる橘書記。

「ならいつ時間が取れる。そっちに合わせても構わない。学校が始まってからでも構わん」

 どうやら、堀北の兄は折れる様子を見せないようだ。

 問題を先延ばしにすると大体の場合ろくなことにはならないからな。それに後日改めてとなるとたっぷり時間を取られる可能性もある。それなら今の方が好都合だ。

「じゃあ今からにしてくれ。次の予定まで少し時間があるから」

「予定びっしりって言ったのに?」

 そんな橘書記のツッコミは全部スルーさせてもらう。

「今からどこへ向かうつもりだった? そっちの予定にあわせても構わない」

「あー……人待ちだ。出来ればここから動きたくはないんだけどな」

「でもここは暑いですよ? 待ち合わせには不向きです」

「それは重々承知だ」

 暑くても罰ゲームのようなことをりちにやるオレは偉い。自画自賛だ。

「たまには立ち話も悪くない。おまえはつらいようなら先に寮に戻っておいても構わない」

「いえっ、この子と会長を二人きりにしたくないと私のアンテナが言ってますので!」

 そう生徒会長に敬礼して、橘書記はまるでボディーガードのように張り付く。

「生徒会に結果の報告が上がってきていた。無人島、そして船上での試験は大変だったか?」

「生徒会ってのはずいぶんと権力があるんだな。結果を教えてもらえるなんて」

「結果と言っても詳細まで知らされるわけじゃない。個人的な活躍度合いなどは不明だ」

「それはよかった」

「よかったですねー。落第ぶりが生徒会長にバレなくて」

 都度都度橘書記から毒を吐かれる。いつの間にか敵視されてしまったらしい。生徒会長相手にタメ口いてれば無理もないか。

「しかし情報とは常にれるもの。おまえが無人島で他クラスを出し抜いたこと、客船で配属された兎グループでDクラスの優待者が逃げ切ったことは把握している」

 不明だとか言いながら、バリバリろうえいしてるようだ。ちやくを疑うなこれは。

「それとほりきたすずの名前が無人島試験終了後に上がって来た。クラスの中心となり他クラスを出し抜いたと。だが俺はその一件、本当にかかわっていたのはおまえだと考えている」

 兄貴には絶対なる確信があったらしい。冷静にそうつぶやいた。

「完全に買いかぶりなんだが?」

「リーダーの名前が最終的におまえに変わっていたようだが。それはどう説明する」

「……そんなところまで把握してるのか」

「このことを知っているのは俺と特別試験委員と参加した教師のみ。そして今ここでたちばな書記が耳にしただけ。一般の生徒は知らない情報だ、安心しろ」

 それは全く安心できることじゃないんだが。この男はどれだけ権力を持ってるんだ。普通学校の生徒会なんて権力のないおかざりなものだろう。それが何事だ。

「なんなんだ生徒会ってのは」

「生徒会そのものには何の力もない。その座にく人間の能力次第だ」

「そりゃまた流石さすがな発言だな。前にも聞いたんだが、あんたは本当にAクラスなんだよな?」

 再度確認するまでもないことだと思っていたが、この際なのでもう一度聞いてみる。

「当たり前じゃないですか! 当然の話です!!」

「だが少しに落ちないな。堀北とオレにどれだけの違いがある? むしろデータだけを見てればアイツの方がはるかに優秀だ。Dのオレを気に掛ける理由がわからないな」

「おまえはひとつ勘違いをしている。俺はDクラスの人間が愚かだとは思っていない。この学校はただ能力のひいでたものを順にAクラスから振り分けているわけではないからな」

「あの会長……余計なことだとは思いますが、お話しし過ぎでは?」

「問題ない。この男なら当然それを理解している」

 どこまでオレに対して買いかぶりを続けるつもりなのか。

 妙な初対面をしてから、この生徒会長様はやけにオレにご執心のようだ。

「だったら堀北を否定した理由は? まさにDクラスだったからだろ?」

「環境がどうあれ、妹である以上能力はすべて把握している。あいつはDクラスになるべくしてなった落ちこぼれだ。それ以上でもそれ以下でもない」

 とことん妹に対しては厳しい目線でものをいう男だな。

「全部堀北の案だ。あんたの妹はオレくらいしか友達がいなくてな、必要な役を頼まれた」

「違うな。あいつに思いつくアイデアじゃない」

 兄妹として長年一緒だったからか、本人の思考はかんぺきに把握しているらしい。にしても、やっとてんがいった。この男がオレに目を付けている理由の一つは、ちやばしら先生と同じなんじゃないだろうか。

 オレが入試で見せた全テスト50点という遊びに本質を見抜いたとしたら。履歴書や内申書との差異に気が付いてもおかしくはない。

「ストーカーみたいに個人情報をあさるのはやめてくれ。大人しい学校生活を送りたいんだ」

 そう訴えたが、生徒会長は一度メガネを触った後また突拍子もないことを口にした。

「以前にも一度だけ声をかけたが、生徒会に入らないか」

 ギョッと目を見開いたたちばな書記が慌てる。余程驚きの発言だったらしい。

ずいぶんと悠長な生徒会だな。席はまだ埋まってなかったのか?」

「か、会長? 生徒会は先日1年の女の子を一人取ったじゃないですか。それで終わりでは? 2年生からも新しく受け入れて席は全部埋まりましたよっ」

 だそうだが? と目で伝えるとこの男はとんでもないことを言い出した。

「ひとつだけ空白の席があるだろう」

「ひとつって……ま、まさか!?」

あやの小路こうじ。お前が望むなら俺の権限で副会長にける」

「ちょ、ちょちょ!?」

 ずざっと橘書記が元気に後ずさりする。見ていて面白い人ではあるな。

「前代未聞ですよ! 1年の、それもDクラスで、こんな失礼な男の子がいきなり副会長なんて!」

「何度も言ってるが断る」

「しかもそれを問答無用で断ってるし!!」

 にしても、変だな。冗談で言っているとは思えないが、オレに対する評価とあつかいが尋常じゃない。確かにほりきた兄はある程度情報を持っている。いけやまうち(には悪いが)と比較すればオレを選ぶ理由もわからなくはないが、かつらいちを始め、ひら、能力値だけで言えばこうえんなど高いポテンシャルを持った生徒は数多く存在している。無理にオレを選出する理由には全くならないはず。

 オレでなければならない何かがある、ということだろうか。

「生徒会長の俺が言うことではないかも知れないが、来年からこの学校は大きく変わるだろう。それも望まない方向に。その時に規律を守るため今の段階から対抗できる勢力を作っておかなければならない。既に遅すぎるくらいだがな。日増しにその必要性の強さを感じている」

「会長、それってぐもくんが生徒会長になった場合のお話ですよね……? 私には彼が悪い学校作りをするようには思えませんが……」

 ぐもという名前は1年の中で聞いたことがない。来年から変わると言うことは2年生だろうか。

「通常生徒会には、副会長を二人まで置くことが出来る。例年は一人でやってきているが、ねじ込もうと思えば無理な話ではないだろう」

「い、いやいやいや、会長。それは無理ですよ……。南雲くんが許可するわけないです」

「副会長だか南雲だか知らないけど、オレはやらない。どんな好待遇でもな。あんたは卒業してこの学校を出る、それだけだろ。残された生徒の心配なんてする必要はない。それとも───」

 あえて間を作ることで、次の一言に重みをもたせる。

「妹が心配だから手を貸してくれ、と言うなら相談に乗る余地はあるかも知れないな」

「……そうか」

 その一言を出されては、この男も深く頼み込んでくることは出来ないだろう。事実完全に諦めきったようで、これ以上生徒会について触れてくることはなかった。

「時間を取らせて悪かったな。こちらの用件はそれだけだ。だがいつでも生徒会を訪ねてくればいい、お茶くらいは出そう」

 この学校で確固たる地位を築くあの男にも、不安材料ってやつはあるんだな。

 そんな意外なことを感じながら、オレは帰る───帰れないんだった。帰るにはちょうどいいタイミングだったのに。かつらを待たなければならないとは。


    4


 事態が好転したのは、ほりきた兄との話から30分ほど経過した時だった。昨日と全く同じかつこうで葛城がゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。少し道を外れたところから様子をうかがっていると、手には昨日購入したと思われるショップの袋があった。

「どういうことだ……?」

 29日まではまだ時間がある。普通ならに保管しておくのがじようせきだ。だがそれを持ち歩いているということは、すぐに渡す予定でもあるのだろうか? それに制服姿なのも気がかりだ。正装としては通じるだろうが、この暑い中あの格好でプレゼントを渡す絵は正直あまり見たくない。

 息をひそめ葛城がどこへ向かうのかを確かめる。するとすぐにやって来た分岐点。葛城は上級生の寮に続く道へは進まなかった。まさか、と想定していなかった道の方へ向かう。

 その道の先にあるのは夏休みただなかの学校。気づかれないように後をつける。

「制服なのはそういうことか───」

 好き好んで着ていたわけじゃなく学校内に入るためだったのだ。てんがいく。

 かつらはすっと正面玄関から中へと入って行く。

 だがこうなると葛城の後を追いかけることはできない。

 学校への私服での立ち入りが禁止されている以上オレが立ち入ることは出来ないからだ。

『葛城には会えたか!?』

 携帯が震えると、画面に自室から送っていると思われるのんなチャットが映し出された。

 あえて既読にせず携帯をしまうと、オレは攻める方向を変え、昨日プレゼントを選んだケヤキモールにあるショップへと向かった。それから適当に女の子が好きそうなショップへと入る。他の店にはどんなプレゼントが売ってあるのか気になったからだ。ただ、の店と比べても違いはそんなにわからない。結局昨日葛城が誕生日プレゼントを買ったショップへ出戻る。チョコレートの入った小さな薄い箱が積み上げた場所前にやってきた。上級生だけじゃなく男に渡す可能性も視野に入れていたが、改めて見る限り可能性は高くなさそうだ。ハートマークなど女の子用の装飾がほどこされている。

「きゃはは、だよねー」

 騒がしくなり始めていた店内で、女子生徒がオレの背後を通り過ぎる。

 その時、ドンと背中に軽い衝撃を受けた。

「おっと」

 オレのひじが積み上げられていた商品に軽く触れてしまい、ばらばらと山積みのチョコレートが雪崩なだれのように崩れ落ちた。話に夢中の女子はこちらのさんげきに気付いた様子もなく話しながら立ち去って行った。

「ったく……」

 影が薄めなのは自覚してるが、少しは気を付けてもらいたいもんだ。

「何をしているんだ」

「げ……」

 積み上げていた商品を必死に戻していると後ろから大男に声をかけられた。学校に行ったはずの葛城だった。不思議そうにオレを見下ろしている。

「誕生日プレゼントを……買いに来たんだ」

 突然の遭遇にそう答えるしかなかった。葛城は散らばったプレゼントの箱に目をやると、大きな体を折り曲げ拾い上げた。

「あ、いや。こっちで拾うから」

「気にするな。他の客が見たら不快に思うだろう。早く片づけた方がいい。一人より二人だ」

 そう言って嫌がる様子もなくつだいを申し出てくれた。他の店に足を運んでいたと言っても都合30分ほど。その間に学校での用事を済ませたのだろうか。しかしかつらの手にはこの店の商品袋が握られている。こっそり中をのぞむと、プレゼント用に包装された薄い箱が視界に入った。まだ渡してはいないようだ。

「これでいいだろう」

 二人で取りかかるとあっという間に片付いた。幸い店員や客に見られることもなかった。

「助かった」

 基本的にかつらは良いやつではあると思う。無人島の試験中も、オレたちが発見したトウモロコシを見張ってくれたりと、葛城は妙に善意を見せることがあった。もちろんクラスの対決となればようしやしないだろうが、人格はけして悪いものではなさそうだ。

「彼女への贈り物か?」

「え? いや、彼女ってわけじゃない。クラスメイトだ。買うのはまた今度にする」

 本当に買う目的があるわけではないので、そう言ってコーナーから距離を取った。葛城もそれに合わせるようについてきたので、少し雑談を織り交ぜて情報を引き出してみることにした。

「そっちも誕生日プレゼントか?」

「ん? どうしてそう思った」

「手にこの店の袋を持ってるし、同じコーナーにいたからな」

「なるほど。確かにそうだな、特に考えることでもなかったか」

 納得したのか、うなずいて葛城はオレの目を見てきた。

「目当てのものがなくて困ってたところなんだ。あんたは何を買ったんだ?」

「大したものじゃない。おまえがちょうど倒したチョコレートだ。この店のしなぞろえは悪くないと思うが好みは人それぞれだからな。他の店も見て回るといい」

 誰、とは答えず、誰、とも聞けないまま二人で店を後にする。

「なんで制服なんだ」

 昨日のことは当然触れないが、ここ2日連続葛城は制服を着て行動している。

 それを聞くのは自然なことだろう。

「校内に入るには制服である必要があるからな。それで仕方なくだ」

「ということは学校に?」

 もちろんその姿を見ているため、学校に立ち寄ったことは知っている。

 あとは誰に渡しに行ったのか、だが。葛城の手にはまだ荷物が握られている。

 情報を得られればと思ったが、残念なことにそうではないようだった。

「ああ。色々と私用があってな」

 深くは語らなかったが、葛城は思うことがあったのか一度学校の方角を見た。

「お前は考えたことがあるか? この学校に在校するデメリットについて」

「デメリット?」

「そうだ。それもクラス別ではなく、在校生に等しく降りかかるもの」

 なぞかけのような問いかけにオレは少しだけ頭を悩ませた。これがクラス別であれば当然ケースバイケースで困ることは出て来る。一時のDクラスのようにポイント不足に悩まされることもあるだろうが、Aクラスがそんな事態になることは考えにくい。

 在校生に等しく、という文言からもそれは否定できる。とすれば一体なんだろうか。

 真剣に答えを模索するものの、思い当たる節がなかった。

「わからないか。もちろん人それぞれではあるが『外部と連絡をとれない』ことだ」

「あぁ、なるほどな」

 自分にとってはデメリットではなくメリットだったため思いもしなかったが、確かに普通に考えればそれはデメリットかも知れない。

「おまえは両親や兄弟に連絡を取りたいとは思わないか?」

「どうかな。ただオレはともかく、結構な生徒は同じようなことを言ってる気がするな」

 特に女子は寂しいと口にする子も多い。けど、この学校は情報ろうえいに対して厳しく一切の連絡を許可していない。不用意にやぶれば注意だけでは済まない。

「でも受けてる恩恵は大きいし不満を漏らすほどでもないんじゃ?」

「確かにな。ポイント制度も施設の充実ぶりも普通の学生では享受できないメリットだ」

 更に付け加えればAクラスで卒業するメリットも得られる。

 って、なんでオレ自然とかつらと会話しているんだろうか。しかも何でもない夏休みに。

「おまえはほりきたと仲の良い生徒だったな」

「そんなデマが広がってるのか」

「デマ? 俺と出会った時も一緒に行動していたと記憶しているが?」

「よくある腐れ縁というか、隣の席になった流れから話すようになったってやつだな」

 学校の話で言えばけして珍しいことでもない、と思う。葛城もイメージはしやすかったのかうなずく。

「そういうことか。他クラスのことは意外と知っているようで知らないことが多いからな。気を悪くしたのなら許してくれ。特に他意はないんだ」

「最近よく聞かれるから大丈夫だ。堀北が結構な活躍をしているらしいしな」

「そうだな」

 短く同意したがそれ以上言葉を続けようとはしなかった。

「実を言うとこの店は3軒目だった。一度悩みだすと考え込んでしまう性格でな。たかがプレゼントひとつと言っても受け取る相手の気持ちを考えれば即決することもできん」

 悩んで渡す相手とは、いったい誰なのだろうか。少しだけ探りを入れてみるか。

「こう言っちゃなんだがりちなんだな。誕生日のプレゼントを誰かに買ってやるなんて」

「生誕を祝うことが変に感じるのか?」

 少なくとも巨漢のスキンヘッドであれば違和感は生じる。もちろんそれは完全な偏見で、雨の中高架下で猫を助ける不良も世の中にはいるわけだが。

「ぶっちゃけ、誰に渡すつもりなんだ」

 オレは本丸に斬り込んだ。回りくどい聞き方をしていてもらちが明かない。

「誰に、か」

 その問いは本人に取っても複雑な部分があるのか、戸惑いを見せる。

「個人的なことだ。おまえに聞かせることじゃない」

 仕方ないことだとは思うがはぐらかされてしまった。そう答えられれば、こちらとしても追及できるような立場にはない。唯一無二の親友ならともかくな。

「これで失礼する」

 かつらは一言残し寮へと一足先に帰って行った。制服を着ていたなぞは解けたが更なる謎が生まれる。

 学校に行ったのか。何故再び店に現れたのか。それがハッキリと見えてこなかった。


    5


「おいいけ、葛城の件調べたぞ」

「マジか。やるじゃんあやの小路こうじ! 見直したぜ!」

 そう言って肩をたたきオレを褒める池。

 見直されなければならないようなことをしていただろうか。池の中でかなり低かったと思われるオレの評価にやや疑問を感じながらも状況を報告する。

「残念だが、どこの誰かまでは確定させられなかった」

 そうじゃない。正確には当てはまるような女子の姿を見つけることが出来なかったのだ。どれだけ調べても見えてこない存在。葛城が渡そうとしている相手が出てこないのだ。

 同じ学年には同じ誕生日の存在はいない。だが、他学年にも思い当たる生徒はいない。

 こうなると、考えられる存在は全く別のところにいるんじゃないだろうか。

 やまうちは、ハッとしたように顔をあげる。

「やべぇ俺……分かったんだけど。葛城が誰に向けてプレゼントを用意したのか」

 喜ぶ、楽しむと言うより哀愁漂う表情を見せた山内が、悟ったように語りだす。

「なあかん。中学のときさ、バレンタインって地獄だったと思わないか?」

「な、なんだよ急に。そりゃ、まぁ、つらかったけどさ。それがなんなんだよ」

「要はその延長上っていうか……あいつ、自分のために買ったんじゃないかって思ったんだ」

「まさか──い、いや、あり得る、のか。あのハゲがモテるようには思えないもんな……」

 二人は何やら理解しがたい話で納得しあっている様子だった。

 しかしオレには全く想像もしなかった展開なので疑問が頭に浮かぶ。

「自分の誕生日に自分でプレゼントを買ったってことか?」

「それ以外に何があるって言うんだよあやの小路こうじ

 怒るようににらみつけてくる。

 それ以外も何も、普通自分に誕生日プレゼントを用意するだろうか。

 もちろん、自分へのごほう的なイメージはある程度持てる。しいものを食べたり、欲しかったものを買ったり。だが今回はその例には当てはまらないのではないだろうか。わざわざ女の子が喜ぶようなこんぽうをしたり、ラッピングをしていたし、中身もチョコレートだ。

 無類の甘党であればもっと別の形で買った方がよいものを買えるだろう。

「おまえマジでわからないのかよ」

「……残念ながら」

かつらは誰がどうみたって女子にモテる顔じゃないだろ? でも、仮にもAクラスのリーダーだ」

 その辺についてはコメントを差し控えたい。

「つまりプライドが高い。自分はモテていると周囲に思わせたいはずだ。つまり、自演」

「自分で自分に買ったっていうより、誰かにもらったと見せかけるために買ったってことだよ」

 出た結論には間違いがないと感じたのか、いけやまうちはうんうんとうなずきあった。

「俺もやったぜ、中学のときにさ。学校で一番かわいかった子に貰ったようにみせかけたり」

「こんなことを聞くのも何なんだが、むなしくないのか?」

「虚しいに決まってるだろ? でも貰えない絶望よりは救いがあるんだよ!」

 怒られる。それほどバレンタインや誕生日は池にとって大きなイベントらしい。

「つかはる、おまえも俺と同類だったんだな」

「は? いや、俺は違うし。俺は女の子にモテモテだったぜ?」

うそつけよ。じゃあなんでそんな結論に至ったんだよ。自分と同じだと思ったからだろ?」

「そうじゃないっつの。中学校にもかんみたいな非モテがいたからな。知ってるだけだ」

 明らかにきよせいに見えたが、真実を確かめるすべもつもりもない。

「けどおくそくだろ? それは」

「いいや間違いない! 絶対にそれしかないっての!」

 もはや辿たどいた答えを疑う余地もないのか、二人はこれ以上議論するつもりはないようだった。

「なぁ春樹。俺たちハゲ……葛城のことを勘違いしていたんじゃないか?」

「だな。Aクラスだからって勝手に敵視してたけど、急に身近に感じたっていうか」

「てことは、やっぱおまえも自分でプレゼント用意してた非モテだったんだな」

「違うし。あくまで俺の同級生を思い出してあわれんだだけだ」

 いけのツッコミにもかたくなに否定するやまうち

「ちょっと協力してやるか」

 突如として、そんなことを言い出す。

「協力ってなんだよ」

「あいつに誕生日プレゼントを用意してやるんだよ」

 かつらへの敵視を向けていた状態から一転、池は葛城への同情心を抱いたらしい。

「そりゃ女の子に祝ってもらうのが一番なのはわかる。でもそれは無理だ。だとすればせめて別の誰かから誕生日プレゼントをやるのが心の救いなんじゃないか?」

 その理論はどこかおかしな気もしたが、全てが間違っていると否定もしづらかった。

 自分で自分をすために買うよりは、別の誰かから誕生日を祝ってもらいたいだろう。

 ただ気を付けるべきは、同情心とは意外と厄介で面倒なものであることだ。

 もし本当に葛城が自分のためにプレゼントを用意したのであれば、それを知った池たちに祝ってもらうことを良しとするだろうか。むしろ同情するなと怒らせてしまう可能性の方が高い。池たちは何を買ってやろうかと相談を始めるが、オレは改めてその結論に対して疑問を感じた。

 確かに29日が誕生日である女子はいない。だが、全ての可能性を排除しきったわけでもないのだ。学校の教師や関係者、この敷地内に数多くいる従業員たち。女性に枠を広げればまだまだ候補者は多いのだ。

 それに、自分に買うようなプレゼントであればあんなふうに堂々と購入するだろうか。それも葛城のかつこうは夏休み中では珍しい制服姿だった。目立って仕方がないだろう。

 誰かに見られれば怪しまれるのは容易に想像できるし、普通なら制服で行動しない。

あやの小路こうじ、おまえも少しポイント出せよな。3人で1500くらいあれば何かよさげなもの買ってやれるだろ」

 そんなやり取りを昨日も聞かされたな……。

 つまり支出も倍。1000ポイントの出費は少なくない。

「ってことで綾小路。ちょっと早いけど明日は俺たちで葛城を祝ってやろうぜ」

 もうすっかりスイッチが入ったのか、二人は葛城へのプレゼントを買ってしまうつもりらしい。

「本当に買うのか」

「買うに決まってるだろ。おまえだってモテない男の一人として助けてやろうと思わないのか?」

 まぁもう、段々めんどうくさくなってきたので否定しないでおこう。明日集まることで話し合いは終了しこの日は解散となった。


    6


 そして翌日の午後再度集まると、そこにはくしの姿もあった。

「こんにちはあやの小路こうじくんっ」

「お、おうこんにちは」

 どうしてここに? そんな疑問は次のいけの言葉で解決した。

「いやーそれがさあ、昨日きようちゃんに相談したんだよ。かつらにプレゼントするって話をしたらぜひ協力したいって。それでお願いしたってわけ。ほら、葛城としても男に祝ってもらうより女の子に祝ってもらった方がうれしいだろうしさ」

 ぺラペラといい人ぶって語っているが、要は櫛田と一緒になる機会を作りたかっただけだろう。更には池自身が友達を気遣うイイやつとして見えるだろうしな。

「私としても葛城くんにはお世話になったから。もちろんプレゼント代も出させてね」

 そんな優しい気づかいに、池はトロンとした目で櫛田を見ている。やまうちくらねらいとはいえ、櫛田の魅力は強く感じているのか男だけのときより何倍も楽しそうだ。

「ところで綾小路くん、どうして制服なんて着てるの?」

「ちょっとな」

 流石さすがに暑すぎるので上着は脱いできたが、やはり制服姿は嫌な意味で目立つ。

「早速行こうぜ!」

 櫛田を間に挟み、二人はオレを置いて歩き出す。そしてすぐ雑談に華を咲かせ始めた。

 いついかなるときどんな相手でも話を合わせられる姿を見ると毎度毎度感心する。

 オレは3人の少し後ろを歩いてついていく。

 その途中で珍しい人物が外にいるのを見かけた。

「悪い先に行っててもらえないか? ちょっと寄りたいところが出来た」

「いいけど桔梗ちゃんを待たせないようにしろよな」

「ああ」

 断りを入れ、オレはその人物へと近づいていった。

ずいぶんと悠長ね。4人でのんびりと買い物? りゆうえんくんにあれだけしてやられたのに」

「ま、あれはCクラスがくやったってことだ。今気にしたってしょうがない。だろ?」

「そうね……。でも、納得いかないことは多々あるわ」

「例えば?」

「……別に」

 沢尻エ◯カみたいな口調で顔をそむけて答えようとしなかった。

「今はいつだ?」

「え?」

「今はいつだって聞いてるんだ。オレたちの学年は? 月は?」

「何を言ってるの」

「あのな、一年の1学期が終わったばかりってことだ。慌てる必要はない。多少リードを広げられたからって一喜一憂する必要はないってことだ」

「だとしても手痛い敗戦よ。手立てを考えないと……」

「おまえは自分の足元が見えていないのに、前ばかり見過ぎだ。ほりきたすずって生徒は、学業だけやらせておけばピカイチでも、特異な争い事となったらてんで空回り。それが今のおまえの印象だ」

「……分かってるわよ」

「なんだ自覚があったのか。ともかくおまえは落ちるところまで落ちた方がいいな」

「どういう意味?」

 今はとにかく徹底的にたたきつぶされて、そのうえで最終的にがってくればいい。

 堀北はそれだけのポテンシャルは持っていると思っている。

「物事には順序ってものがある。今は焦らずゆっくり行っていいんじゃないか?」

「順序なんて言うけれど、それならどうしてあなたは無人島で仕掛けたの? 矛盾しているわ」

「かもな」

 ちやばしら先生とのやり取りをしらないほりきたにしてみれば不思議がるのも無理はない。

 無人島の時には『能力を見せる』ことを強制されたから仕方なく立ち回っただけのこと。もちろん船上での試験はごまを持たないオレには非常に難解なものだったが、方法はいくつかあった。

 それでも実行しなかったのは、に気張り過ぎるとロクなことにならないからだ。

 オレは別にAクラスだのBクラスだのには基本興味がない。

 事を荒立てず、されど茶柱先生に対しある程度能力を見せていれば時間がかせげる。

 先の試験でもこちらからすれば大成功だ。

「それよりオレのかつこうに疑問点はないのか?」

「暑苦しい格好をしているとは思うけれど、他に感想は無いわね」

 相変わらず、他人に興味のないやつだ。

「今日は何を読んでるんだ」

「あなたには関係ないでしょう」

 そう言って本のタイトルを見せようとしなかった。

「ま、いいけどな。いけたちを待たせてるから行くことにする。お前も来るか?」

「冗談でしょう、お断りするわ」

 そう言われるのを確信していたので、オレは遠慮なく立ち去ることにした。


    7


「なんだお前たち……」

 急に縁もゆかりもない池たちに囲まれ、いつも冷静なかつらも動揺を隠せない。そこで先の試験でも対話に参加し、今回も葛城を呼び出したくしが話しかける。

「急にごめんね葛城くん、ちょっとだけ時間いいかな?」

「櫛田か。これはどういうことだ」

「実は池くんたちから聞いたことがあって。今日って葛城くんの誕生日なんじゃないかな?」

「む……そうだが……よくわかったな」

 誰にも話した記憶がないのか、少し困惑した様子でオレたちを見渡した。

「それでここにいる4人で葛城くんを祝ってあげたいなって思って声をかけてみたの」

「いや、そんな特別なことをしてもらういわれはない。違うか?」

 歓迎するどころか警戒した様子。それもそうだろう。Dクラスからのわなだと思ってもおかしくない。

 それでもすぐに完全な拒絶を示さないのは、恐らくくしの存在が大きいだろう。

「その日は誰かと過ごす予定とかあるのかな?」

「そういうわけじゃないが……」

 それは良かった、と満面の笑みで手をたたき櫛田が喜ぶ。そんながおを見せられれば普通の男なら一発でれてしまうだろう。

 しかしそこはAクラスのリーダー、安易に撃沈されるほど単純ではなさそうだ。

「申し訳ないがおまえたちとは友人というわけでもない。何かねらいがあるのなら言ってくれ」

「狙いなんてないって。俺たちマジでかつらを祝ってやりたいと思ってるんだ」

 いけ真面目まじめな顔でそう伝えた。葛城を心のそこから同情心で祝ってやろうと思っている。

「む……」

 参ったな、と葛城は拒否気味に口を固く結んだ。

 と、オレは葛城の手に昨日と同じ誕生日プレゼントの袋が握られていることに気付く。これを購入したのは2日前のはず、なのにずっと持ち歩いているのはなぜだろうか。池たちはその疑問を感じることもなく(あるいは感じつつも気づかないフリをしているのか)葛城に話しかける。

「悪いが今から学校に行く用事がある。すまないな」

「学校って、そういやここ最近ずっと制服だよな。何してるんだよ」

 何気ない池の疑問だったと思うが、その違和感ある一言を葛城は見逃さなかった。

「……それはどういうことだ?」

 今までの控えめな表情から一転、葛城は戦闘モードに入るように険しい顔立ちになった。

「え? 何がだよ」

 そんな変化に気付くこともなく池はひようひようとしていたが、その顔は直後のセリフで崩れることになる。

俺が、制服で行動していることを知っている?」

 ズズ、と吸い込まれそうな強い瞳に魅入られ、池は思わず息をのんだ。

 無意識のうちにつぶやいた言葉を拾い上げられ都合の悪いことを思い出したのだろう。

「え? いや、だからそれは……」

「昨日葛城と会った後、池たちに合流したんだ。その時に話してしまったんだがかったか?」

 そうフォローすることしかできそうになく、オレは葛城に答えた。

「夏休みにしては珍しいかつこうをしてると思って」

「そうか……そういえばそうだったな」

「そうなんだよ。それそれ」

「何しに学校に?」

 慌てたいけの様子をまだ怪しんではいるようだったが、いったんそこで話を変えることに成功する。

「個人的なことだ、おまえたちには関係ないだろう」

「余計なお世話だと思うが、何か困ってることがあるんじゃないのか?」

そう思った」

「昨日も今日も同じ袋をぶら下げてるだろ。それを持って学校に行ってるのは少し不自然だ。それに昨日店で会った時にはもう袋を持ってたからな。最低でも今日で3回目になるんじゃないのか」

 偶然見てしまったこともあるが、そう推理するのはそれほど難しくない。

「生徒会に用事がある。それだけだ」

 それはまた、予想外のところの名前が出てきたものだ。

「もしかして昨日制服を着てたのは生徒会室に行くためか」

「……そうだ。だが不在だったようだがな」

「確か昨日までは改装工事だかで利用できなかったはずだ」

 少々驚いた様子で、何故知っているのかと聞き返される。

「生徒会長とは少し縁があってな」

「あの生徒会長と知り合いだったのか」

「知り合いというかなんと言うか……ま、そんなところだ」

「ああ、そうか。Dクラスのほりきたは生徒会長の妹だったか……」

 頭の回転が早いかつらはすぐに独自の結論に達して納得する。

「それなら同席してもらった方が好都合かも知れん。時間が許すなら付き合ってもらえないか」

 そう葛城に頼み込まれた。これで葛城が何をねらっていたのかがよくわかりそうだ。

「偶然だな。オレも生徒会にちょっと用事があったんだ」

「それで制服を着ていたわけか」

 もちろん葛城の目的を探るためなのだが、これでふところに潜り込めるだろう。

 うなずくと葛城とオレは3人と別れ、すぐに学校へ、そして生徒会室へと向かった。

「失礼します」

 葛城ははっきりと通る声で生徒会室の扉をたたいた。生徒会長堀北まなぶと書記のたちばなが出迎える。すぐにオレの存在に気付く堀北兄。

「意外な珍客も一緒にいるようだな」

 どうも、と軽く会釈だけしておく。たちばな書記はものすごく嫌そうな顔をしていた。

「今日はお願いがあって参りました。基本的に生徒の要望は生徒会を通すと聞きましたので。メモを残しておいて正解でした」

「昨日一昨日と生徒会を訪ねて来たらしいな。改装工事で不在だった、申し訳ない」

「いえ。今は夏休みです、押しかけた側に問題があることは承知しています。ですが本日お会い出来て良かった。場合によっては直接寮の方までお伺いするしかないと考えていましたから」

 夏休みの中、かつらこの場に立ち寄ったのか。そして何を目的としているのか。それがついに判明する。

「この学校には在籍中許可なく外部との連絡が禁止されています。その件について詳しく伺いたく参りました」

「口ぶりからすれば、当然校則には目を通しているな? やむを得ない理由を除き連絡は認められていない」

 ほりきた兄の言う通りやむを得ない理由とは当然、重大な病気や怪我など必要に迫られた時だけに限定されている。

「はい。しかし、自分が抱えるケースではどのように対処すればよろしいでしょうか。敷地外の家族宛に荷物とメッセージカードを届けたいのです。もちろん家族から返事を受けるつもりはありません」

 つまり一方的な連絡、と言うことか。

「同じことだ。一方的であったとしても許可されていない」

 事務的に葛城に返される言葉。だが葛城とて、それでわかりましたと引き下がるくらいならこの場にやって来ないだろう。

「この外部との連絡をつ話は、荷物の発送にまで厳しく及んでいると聞きます。文字情報を送らなければルールへの抵触はないのではありませんか?」

「ルール上禁止されていることに変わりはない。この学校設立以来変わることのないルールだ。しかし、意味もなく禁止しているわけではない。学校が設立された当初はルールも今ほど厳しくはなかった」

 堀北兄が橘書記を見ると、小さくうなずがおを見せた。

「その通りです。元々は葛城くんの希望する荷物だけの発送は許可されていました。ですが、その約束をやぶる者が数名出てしまいました。荷物の中に無許可で手紙を同封していたんです。そういった経緯もあって、今では全面的に禁止となったわけです」

 そういうことだ、と堀北兄は葛城に完全な拒否をたたきつけた。だが、ここで引き下がる葛城ではない。1年とはいえAクラスのリーダーを務める男はすぐに状況を精査し態勢を立て直す。

「では改めてお願いいたします。店頭で直接発送の申し入れをさせてください。自分は指一本触れず商品と商品の代金だけお支払いいたします。そうすれば不正の余地はありません」

「だとしても規則違反ですから……」

「規則違反? この学校は実力主義、必要とあればポイントでようにも出来ると聞いています。テストの点数を買うことや生徒間の売買など、様々な用途に用いることが出来る。違いますか」

 どうやらかつらにとって、送るべき誕生日プレゼントの価値は大きいらしい。

「そういうことなら話は少し変わって来るな」

 ほりきた兄は冷静に話を聞く用意があると態度を少し変えた。

「具体的なポイントの話をする前に、誰に送りたいのかを聞かせてもらっても?」

「双子の妹です。うちには両親がいないため祝ってやれるのは自分しかおりません」

 恋だの何だのオレたちがな勘ぐりをしていたのとは全く違う真相だった。まさか兄妹とは。

「ひとつ訂正しておくがポイントは万能な制度ではない。確かに、おまえが言った行為は可能だ。しかし、それは『ルールに記載がない』ものだからだ。現在校則として禁止事項に挙げられているものを改変することは容易ではない。学校が許可を出すことはないだろう」

 やや理解が難しい発言ではあったが、似て非なるものだってことだろう。

 例えるならテストの点数。

 オレは以前どうの点数をポイントによって購入した。そこには『不正』はない。あくまでも点数をポイントで買ったという事実があるだけ。だがもし、この須藤が赤点を越える点数を規則違反であるカンニングによって得ていたとしよう。そしてその不正事実が明るみになった場合、カンニングという不正をなかったことにするのは、難しいということだ。

「学校の規則は守るためにある」

「おかしな話ですね。そうするとこの学校の規則は穴だらけです」

「何もおかしくはない。あえて抜け道を用意しているルール作りを学校側がしているだけのこと」

 葛城の疑問に対して、生徒会長は分かりきっていたようにかんはつれず返した。

「…………」

 いくら頭の回転が早い葛城といえど相手が悪い。実力だけならいざ知らず立場が違い過ぎる。この学校で3年間Aクラス、そして生徒会長を務める男にすきは無かった。

「ポイントを使ってもどうにもならないと」

「ならないな。学校が規則に違反する行為をポイントで許すことは絶対にない」

 ほりきた兄の言うように、ポイントは万能ではないということだった。かつらは大枚をはたく覚悟をしていたのだろうが、その唯一の手を封じられてしまえばおしまいだ。

「これで終わりなら出ていけ」

「そうですか……分かりました、自分はこれで失礼いたします」

 葛城は一度だけオレを見たが少し残るとジェスチャーすると、静かに立ち去って行った。

「おまえは帰らないのか?」

「さっきの話、あれは不正が明るみに出た時の話、だよな」

 オレはその中、あえて葛城の援護をするように言った。

「どういう意味だ?」

 堀北兄の視線がオレへと向けられる。

「前にうちのクラスのどうがCクラスの生徒とけん騒動を起こしたことはおぼえてるか?」

 もちろんだと堀北兄はうなずく。大きな出来事になっていたからな。

「その時はCクラスの生徒が学校に訴え一つの事案となったからこそしよばつの審議対象になった。だが、今この瞬間葛城は不正をしているわけじゃない、不正行為にあたる行為を頼みたいと思ってるわけだろ。そして、その事実を知っているのはオレと葛城、そして生徒会の二人だけだ。なら不正を見逃してくれさえすればいい」

 この奇妙な言い回しを、二人なら当然理解してくれるだろう。

 交通違反を犯してそれを警官にとがめられたとしても、その警官にわいを渡し見逃しが成立すれば、その人間は処罰の対象にもならず違反を許されるということだ。

「それに通常は難しい発送処理も、あんたらなら簡単にできるんじゃないか?」

「なるほど。学校を通さずに全てを片付けろ、ということだな」

 葛城はりちに学校に許可をもらおうとした。それが無理なら学校の耳に入れなければいいだけ。真面目まじめな葛城には思いつかない考えかも知れないな。

「堂々と不正を見逃せって言い出す、怖い不良です!」

 唯一たちばな書記だけは、オレに対してちょっとズレた指摘をしてきたが。

その結論に至った」

「この学校は暴力行為の禁止を校則に記してる。けど、あんたは初対面のオレにようしやする素振りは無かっただろ。それは学校に知られなければどうにでも出来るって証拠だ」

 いくら生徒会長といえど、公の場であれば絶対に手を挙げたりできないだろうしな。

「そうだな、もし外部と連絡をとるならその方法しかない。だが、葛城はその事実に気付けなかった。その時点で唯一の選択を失ってしまったということだ」

「今から助けてやろうとは思わないのか?」

「それはない。あの男のために不正に加担するほどのものではない」

「手厳しいことで」

「そう思うなら、かつらが退室する前に教えてやるべきだった。だがおまえはそうしなかった」

 あー頭のキレるやつは面倒だな。全部お見通しだな。

 葛城に不用意に警戒されるのを避けたこともバレている。

「冷やかしも済んだし、オレは帰る」

「これからたちばなにお茶でも入れさせるが?」

「やめとく。何を入れられるかわかったもんじゃないからな」

「も、ものすごく失礼な1年生!」

 退室しようとすると、か立ち上がったほりきた兄が入口まで見送りに来た。

「今回葛城が持って来た話は聞かなかったことにしよう。おまえがこれから裏で動いたとしても探りを入れるはしない、好きにすることだ」

「何もする気なんてないんだけどな」

「それならそれで構わん。ただ俺が関与しないと公言しただけのことだ」

 ちょっとイラッとするほどに堀北兄の目から情報が読み取れてしまう。要は自分はタッチしないからしてやって見せろ、そう訴えていた。

 その視線から逃げるようにオレは生徒会室を後にする。オレが葛城に対して新たな提案をしようとしていることも見抜いていたってことだろうな。

「食えないな、あの生徒会長は」


    8


「ふう……」

 寮のロビーに戻ると、深いためいきをついた葛が座っていた。

 すぐにこちらへと気づき立ち上がる。

「おまえを待っていた。今日は変なことにつき合わせてしまって悪かったな」

「いや、勝手についていったのはオレだ。何の力にもなれなくて申し訳ないくらいだ」

「そんなことはない。元々無理な話だったんだろう、諦めるしかない」

 何とかして妹へプレゼントを届けようと思っての行動だったが、規則であればどうしようもないと葛城は諦めたようだった。

「もし良ければ仲間内で食べてくれ。俺は甘いものは苦手でな」

 そう言ってプレゼント袋ごと差し出してきた。だが、オレはそれを受け取らない。

「オレには不要だ」

「そうか。そうだな、元々別の人間にやるものをもらってもうれしくはないな」

 そう言って軽く頭を下げに戻ろうとする葛城。

かつら

 オレはその男を呼び止めた。

「どうした」

「もしかしたら力になれるかも知れない。そのプレゼントを妹に届けられる方法を思いついた」

「一番生徒に近い側の生徒会にられた話だ、解決策があるとも思えん」

「それはあんたに校則をやぶる覚悟がないからだろ。そこを度外視すれば可能性はある」

「……俺はリスクのある行動はしない」

 Aクラスのリーダーでもあり、真面目まじめな葛城にとってはありえない話だろう。

 特に下のクラスからの提案ともあれば素直に耳を傾けるとも思えない。

「話だけでも聞く価値はあると思うけどな。そのプレゼントを渡すことが大切なことならなおさら」

 葛城だって、プレゼントを贈る許可を取るために夏休みに繰り返し生徒会室に足を運んだくらいだ。生半可な気持ちでないことは分かりきっている。

「このような場所で立ち話する内容か?」

 葛城は人目、そして監視カメラの存在に目を向けた。

「そうだな。ここで話すのもなんだし、オレのに来るか?」

 どうせ普段から色んな人間が出入りしている、葛城を呼んだところで問題にもならない。

 葛城と二人寮に向かう。

 幸いクラスメイトはおろか一人の学生にも遭遇せず、部屋まで辿たどくことができた。

 自室のドアを開け、部屋の電気をつける。

「あがってくれ」

ずいぶんと片付いている、というよりはモノが無い部屋だな。入寮した日を思い出す」

「よく言われる」

 適当に座らせ冷房のスイッチを入れてから、お茶をコップにそそいだ。

「それで、おまえは校則がどうとかいっていたな」

「例えばこの学校からプレゼントを届けようとした場合、それは容易に行えることじゃない。なら敷地外への配送は原則禁止されている。郵便局も取り合わないだろう」

 敷地内には郵便局が設置されているが、そこは基本的に教師が利用する場所だ。生徒の出入りはまず行われない。頼み込んだところで断られるのがオチ。だから葛城は生徒会を通して送る許可をもらい、手配を頼もうとした。

 しかしそれをねつけられた以上、物理的に持ち出すことが出来ないという結論。

「事実だろう。配送手段がなければどうにもならない。それとも、別に荷物を運び出す方法があるとでも?」

「ある。深く考えず堂々と敷地外へプレゼントを運び出せばいい」

「バカなことを。そんな誰に出来ると? まさか施設の従業員、ではないだろうな」

 唯一敷地の出入りが自由なのは、学校の敷地内の様々な店で働く従業員だけ。

 つまり、その従業員を利用すればプレゼントそのものを運び出すのは簡単だ。

 だが、それには大きなへいがいが付きまとう。

「この学校で働く人間は厳しい規則の下で働いている。俺たち学生の頼みごとを引き受けてリスクを冒す真似はしない。むしろ規則をやぶろうとしたこちら側を訴えるだろう」

 そうなればかつらは厳しいしよばつを受けることになる。

「もちろんそうじゃない。信用できる外部の人間のツテはないからな」

 だろうな、と葛城は目を伏せる。

「まさか学校の敷地から無断で出る、ということじゃないだろうな」

流石さすがにそれはない。許可無く敷地内から出ることが重大な処罰対象なのは知ってる」

 当然出入り口は厳重に管理されているし、万一抜け出せたとしてもバレたら退学だろう。

 校則違反を冒すにしてもリスクが高すぎる。

「確かに従業員は使えない。けど生徒なら話は別だ。信用できるやつは大勢いる」

「生徒だと? それこそ無駄だ。余程の理由でもない限り敷地内からは出られない」

「でも例外もあるだろ。その余程の理由に必然的にかかわってくることが」

「例外……? 敷地の外に出られるとすれば……まさか───」

 頭の回転が速い葛城は、すぐにその結論に至る。

「部活の大会、か」

「そういうことだ」

 いくらこの学校が閉鎖的であろうと避けられないものはある。その代表例が各部活の大会だ。校外で行われるものには必ず敷地を出てその開催地へおもむかなければならない。

「確かにそれなら、敷地外へ物を持ち出すことも可能だ。しかし、その危険性があることは学校も重々承知のはず。必ず荷物検査等は行われるはずだ」

「もちろんな。けどそんなもの抜け道は幾らでもあるだろ? オリンピックのドーピング検査と違って、全身を隅々まで調べられるってこともない」

「それはそうだが……」

 葛城は考える素振りを見せながら、そして先までも同時に見据える。

「持ち出すリスクに加えて、それを実行する生徒の負担など、簡単なことではないな。だがあやの小路こうじの口ぶりからすると、それを任せられる人材がいる……と?」

「そういうことだ。とはいえ説得はあんた自身に赴いてやってもらう必要があるけどな」


    9


 部活から戻ったある男を呼び出したのは、かつらに招き入れてから1時間ほど後の出来事だった。

 大会を明後日に控えた男に事情を話し、協力を要請することにしたのだ。

「あ? おいふざけんなよ。誰が好き好んでそんなしなきゃなんねーんだよ」

 葛城からの提案を受けるなり、どうは吐き捨てるように拒絶反応を見せた。それはそうだろう、もしも違反行為が見つかればどんなペナルティを食らうか分からない。

「そもそもこのハゲの頼みを聞いてやる義理がねーっつの」

「らしいが?」

 葛城も須藤を信用してはいないし、そもそもまだこのプランにはかいてきだ。

「話を受ける受けないは別として須藤に聞きたい。学校はどんな検査をするんだ?」

「どんなつってもな」

 いまいち状況に納得のいっていない須藤は真剣に答えようとしない。

「場合によっては葛城も、それ相応のほうしゆうをくれる可能性はあるぞ」

「報酬だと?」

「……そうだな。当然支払う必要があると考えている」

 それを聞いてやる気のなかなかった須藤が少しだけ真面目まじめに考え出した。

「まず朝、大会に向かうためのバスに乗る前に簡単な荷物検査だな。それから携帯を没収される。んで開催地についたらそのまま着替えて試合にってとこだな。飯は大会が終わった後、現地で食うことになってる。詳細はわかんね」

「着替える場所や荷物の管理は?」

「普通に更衣室のロッカーん中だな。着替えてる時は流石さすがに教師はいねーけど、監視は厳しいぜ。トイレも俺らだけ別の場所を使わされて、他の学校連中とは口もかねえ」

 話を聞いていた葛城は、冷静に状況をシミュレーションする。

「やはり厳しそうだな。そもそも荷物の持込が容易ではなさそうだ」

「食事は持参してもいいのか?」

「あぁ、それは自由だな。少数だけどよ、持ってくヤツもいる」

「だとすれば持ち込むのは比較的簡単そうだ」

 オレは立ち上がり、棚に仕舞ってある弁当箱と水筒を持って戻ってくる。これは元々学校が生徒のために最初から用意していた備品の一部だ。全ての生徒の部屋に1つずつ用意されている。

「弁当箱の中に贈り物の箱を入れておく。サイズ的にもギリギリ入るだろう。それから袋に関しては丸めて水筒に入れる。こうすればまず見つかることはない」

 いくら教師がチェック、検査するといっても中身までは見たりしない。

「待てよ。それで持ち出せたとしてもどうやって送んだよ。送る方法も金もねーぞ」

「お金に関しては心配ない。これを使うだけだからな」

 オレは郵便局に行き入手してきた着払い伝票を取り出した。

「あとはこれを当日、すきをついて完成させてポストにとうかんするだけだ」

「簡単に言ってくれるぜ。結局そこが一番大変なんじゃねーか」

「……確かに、考えられる手段としては現実的だが、危険も高いな……」

 それは自分自身が校則違反にかかわることと、どうのような他クラスを巻き込んだものでもあるからだ。普通ならかつらもすぐに引き下がりそうなものだが、まだ須藤に対し引かない姿勢を見せた。

あいにくと俺のクラスにこのような行為を頼める人材はいない。もしお願いできるのであればやってもらえないだろうか」

 頭を下げて葛城は頼み込んだ。妹がに葛城にとって大切な存在かがよくわかる。

「須藤。確かに普通なら絶対に引き受けない話だと思う。けど、これは逆に須藤にとっても大きなメリットがあるだろ」

「メリットだと? さっきのほうしゆうってヤツか?」

 葛城にくばせすると、分かっているとうなずいて見せた。

「成功報酬として10万ポイント払おう」

 一度目の提示にして、とてつもない額を葛城は放り込んできた。

 その瞬間に須藤が固まる。日々を1000、2000ポイントでやりくりしている身からすれば、とてつもない額だ。

「そこまでして荷物を送りたい理由はなんだよ」

 高額すぎるポイントに、須藤は逆に警戒心を強めたのかそう問いただした。

「……俺には双子の妹がいる。ここまではあやの小路こうじにも話したな」

 生徒会室でも口にしていたこと。だが、ただの妹にしてはずいぶんと特別あつかいしている。

 仲の良い兄妹は山ほどいるが、規則違反をしてまで祝いたいと思うのは少々疑問だ。

「妹は病弱でな。付け加えて俺の両親と祖父母は他界していて今は親戚に預けられている。俺は親代わりなのだ。その俺が誕生日に祝ってやれないで、誰が妹を祝ってやれる」

 何かあるかもとは思っていたが、想定していたことよりずっと重たい事実が隠れていた。

「この学校の規則は、入学前の段階で分かっていたつもりだ。しかし荷物ひとつすら送れないとまでは考えが及んでいなかった。その点は俺のミスであることを認める。認めたうえで、どうしても妹に対し兄からの贈り物をしたい」

 まぁオレも校則を一通り確かめてみたが、具体的にそこまでは触れていなかった。あくまでも在籍中は許可無く敷地外に出られない。連絡を取り合えないなどしか書かれていなかった。もちろんそこには手紙のやり取りが出来ないことは含まれているだろうが、荷物を送ってはいけない決まりにまで言及が及んでいないのも事実だ。

「それで俺んとこにきたってことか」

 グイッとオレの肩をつかむと、どうかつらにもわざと聞こえる程度の小声でささやいた。

「つか、もしこっちが裏切られたらどうすんだよ。前のCクラスん時みたいなのはごめんだぜ?」

 以前わなめられ、バスケ部を追い出される危機にまでなったからな。

「その心配は無い。向こうだってこっちがそう思うことは計算済みのはずだ」

 恐らく提案があるだろう。葛城は当然だとうなずいた。

「前金として2万ポイント先に振り込ませてもらう。後は成功ほうしゆうとして残りの8万を払う」

 そうすることで必然的に共犯関係の証拠も残る。どちらかが裏切れば足がつくという話だ。

「前金で2万か……けどな……」

 大金でも、須藤がしりみをする理由は分かる。こいつはバスケ命に考えている。

 もしそのバスケの部活中に校則違反が発覚すれば部活動禁止まであり得る。

 その危険性を持つことを恐れているんだろう。

「万全の策は考える。それに、これが罠である可能性も考えているだろうが、発覚した場合、俺自身が大きな打撃を受けることは明白だ」

 もし表になれば、須藤と同等かそれ以上に葛はダメージを負うだろう。

 その覚悟を持っていなければ成立しない話。

 だがもちろん葛だって考えている。こちらに対価であるポイントを支払うことで互いに裏切らない、裏切れない制約をかける。

「後は単純にバレた時ってわけか……」

 その責任は葛も取ってはくれないだろう。つまり実質須藤一人がかぶることになる。

 高い対価とてんびんにかけ、どう判断するだろうか。

 チラッとオレを見た須藤は、ある程度てんが言ったのか納得した表情を見せる。

「わーったよ。引き受けりゃいいんだろ? 確かに俺くらいなもんだしな。そんな危ねえことを引き受けるのはよ」

「いいのか……?」

 説得に臨んだ葛ではあったが、実際に引き受けてもらえる可能性が高くないことは理解していたはずだ。多額のポイントがもらえるとしてもだ。

 あるいはもっと高額のポイントを要求し、話がたんする。そんなイメージだっただろう。

 そういう意味では須藤という男の存在は葛にとって想定外であり、救世主でもあった。

「病弱な妹なんていわれたら、断りにくいだろ」

 情に厚い面を見せたどうあきれながら頭をかいた。

「…………」

 しかし慎重なかつらは、そんな須藤の存在に素直に喜ぶ気にはなれなかった。難しい顔をしながら無言で思案するように両腕を組んだ。

「なんだよ。引き受けるっつーのに、まだなんかあるのかよ」

「疑ってるんだろ。こっちが裏切らないかどうか」

「んだよそれ。頼んどいて疑うってのかよ」

 守り重視の葛らしい。相手が強気な姿勢になった途端、けんに回った。

 とんとん拍子に話が進む時ほど疑ってかかる性分なんだろう。

 もっとも、そんなことはオレにも分かっている。残念だが今回に限ってはゆう。須藤には表も裏もない。ついでに言えばオレもそうだ。今回のことで葛をわなにハメようなどとは全く考えていなかった。いて言うなら、ここで貸しを作っておくことと、葛個人からプライベートポイントを引き出すことに価値がある。

 それに万が一葛が裏切り行為を働けば自爆覚悟で巻き込むことも出来る。ことこの一件に関して言えば、初手に弱みを出している葛には基本的に優位は無い。

 このプレゼントそのものがブラフ、ということも状況から見て無い。

 そこまでの結論をもつてして、須藤を仲介役として紹介した。いくらのポイント提示をするかは不明だったが、それが10万ならしい取引と言えるだろう。

「念のために送金先は須藤ではなくあやの小路こうじにさせてもらう。綾小路には悪いが、須藤が成功した後にポイントを振り込んでもらう形を頼みたい」

「なんでそんな手間かけんだよ」

「保険ってことだな」

 もし須藤が持ち出しや発送に気づかれた時、高額ポイントのやり取りが残っていれば学校側に疑いの目を向けられる。しかし送金先を別の者にしておけば葛までは辿たどりつけない寸法だ。

 須藤は多少不満もあるようだったが、しっかりと後で渡すと念を押されしようだくした。

「そしてもうひとつ、おまえがうそかないように確実な証拠が欲しい」

「あぁ? んだよ嘘って」

 葛が心配する部分が残っていることは分かっていた。

 それは須藤が『プレゼントをポストにとうかんした』と嘘をついてやり過ごすことだ。もし嘘をついたとしても葛には確かめるすべがない。家族から連絡を受け取ることが出来ない以上、届いたかどうかを判断するには2年以上先、卒業してからのことになる。それでは後の祭りだろう。

 オレはいくつかの『証拠』を用意する方法を思いつく。そして一番簡単で確実な手段として、携帯を使って証拠映像を送るものが最適だと判断した。

 だがそれを言葉にするのははばかられた。かつらの注目を浴びたくない。

「おまえが本当に送ってくれたのかどうか、こっちには確かめるすべがないからな」

「んなもん、うそつくわけねーだろ。バカかよ」

「もちろん信じたい。だが信じるだけの信頼関係はまだ築けていないはずだ」

 やや不服そうなどうを前に、葛は少し考えるように腕を組んだ。

「携帯を使おう。当日ポストにとうかんする瞬間を動画に保存し俺に送ってもらいたい。そうすればしんぴようせいはグッと高まるだろう」

 どうやら葛はく、手段のひとつに辿たどいてくれたようだ。

「おまえ俺の話聞いてたのかよ。携帯は没収されんだっての」

「無論分かっている。そこであやの小路こうじ。おまえに協力してもらいたい」

「と言うと?」

「この水筒にはまだ十分なスペースがある。ここに電源をオフにしたおまえの携帯を入れておく。そうすれば気づかれることなく外に持ち出すことが可能なはずだ」

 携帯は原則として1人1台。持ち物検査で須藤は自分の携帯を預けるだけだから怪しまれない。

「もちろん携帯の提供をしてくれるのなら、おまえにもほうしゆうは払うつもりだ」

 そう言って1万ポイント支払うことを提示してきた。悪い条件じゃない。

「分かった。協力する」

「いいのかよ綾小路」

「オレにも協力できることがあったってことだしな。葛の言い分もよくわかる。それにポイントがもらえるならこっちとしても助かるからな」

「ではよろしく頼む」

 深々と頭を下げた葛は、一足先にを出て帰って行った。

「……なんか余計なことで緊張してきたぜ」

「大丈夫か須藤」

「大会に参加すんのは2回目だからな。一応流れは分かってるつもりだけどよ……」

 それでも悪いことをする自覚はあるのか多少の抵抗があるのも分かる話だ。しかし元々不良で貫いて来た須藤だからこそ、この件にも比較的かんような姿勢を見せている。

「んで携帯はいつ預かればいいんだ?」

「そうだな───出来ればもう一工夫しておきたいところだな。オレの携帯を預けると、高額ポイントのやり取りも残るし万一の時に足がつきやすい。出来れば第三者の携帯を使いたいところだ」

 いけやまうちなどこの件に全くかかわっていない人間から、携帯を入手するのがベストだろう。

「携帯なんか貸してくんねーだろ」

「5000ポイント払うと言ったら喜んで貸してくれるさ」

「……おまえ意外と悪いやつだな」

 そうしてかつらからの依頼を受けたオレとどうは後日発送するために行動を起こした。

 余談だが、須藤はく学校側の目を盗み荷物のとうかんに無事成功した。その瞬間の動画撮影もきっちりと行い、データの移行と削除もきっちりと行った。それが葛の妹に無事届いたかは分からないがきっと上手く行ったと思っている。

 特にトラブルが起こることもなく終えることが出来たのは須藤が上手く立ち回ったからだとは思うが、もしかしたらほりきたの兄貴が関係していたのかもと思うことがある。オレたちが何らかの行動を起こそうとしていたことは把握していたはずなので、あの男なら根回しすることも出来たはずだ。逆に須藤に目をつけ校則違反する瞬間を見張っておくこともできただろう。

 オレの勝手な想像だし、その真実を確かめるつもりもない。

 本当にそうであるならばいずれ、聞かずとも真相が分かる気がしたからだ。


    10


 あやの小路こうじを出た葛はエレベーターで自身の部屋のフロアまで戻ってきた。

 するとか部屋の前に二人の男子生徒が待ち伏せるように立っていた。

「人の部屋の前で何をしている」

「おー! やっと戻って来たか葛! 遅いぞこの野郎!」

「む……おまえたちは、先程の? Dクラスの生徒、だな?」

 どことなく見覚えのある二人に、疑問を抱きながら葛が聞き返す。

「そんなことはどうでもいいからよ、とにかくおめでとさん!」

 そう言われた直後、パン! とクラッカーが破裂し葛を襲う。

「な、何事だ!?」

「何事って、もうすぐおまえの誕生日だろ!? だから先行して祝ってやりに来たんだよ!」

「あれは本気だったのか……。Dクラスのおまえたちが、何故? 理由がないだろう」

「理由はあるさ。童貞同士これからも仲良くやろうぜ。な?」

 下品な言葉に葛は後退しつつ、池から強引に誕生日プレゼントを渡される。

「これ食ってくれよ。俺らのアイドルくしきようちゃんが選んだバースデーケーキだ!」

「う、受け取るわけには───」

「いいからいいから」

 ぐいぐいと箱を押し付けられる。

「じゃあな!」

 そしてさつそうと立ち去って行くDクラスの男子生徒。

 後に残されたのは、の前に散らかったクラッカーのクズとケーキだけ。

「ケーキと言うわりにずいぶん温かいが……」

 おそるおそるかつらが箱を開けると、常温になりどろどろになったチョコレートケーキ。

「……これは、新手の嫌がらせか……?」

 そう思わずにはいられない葛だった。

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