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アスリートの美学

浅田真央を強くするもの「自分があきらめてしまったら、そこで終わり」

第1回

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平成以降のスポーツ史において最も国民から愛されたヒロインとして、彼女の名前を挙げる人は少なくないだろう。

フィギュアスケーター・浅田真央。なぜ人は浅田真央のスケートを見ると涙が出るのだろうか。なぜ私たちはまるで大切な宝物のように浅田真央を応援したくなるのか。

現役を退いてなお輝きを増す浅田真央に、その強さの根源を聞いた。

いいステップは、音が違う

プロ転向から7年。浅田真央の毎日は、充実の一途にある。

今、浅田が情熱を傾けるのは、自身3作目となるアイスショー『Everlasting33』 。1作目の『浅田真央サンクスツアー』では誰もが気軽に足を運べる低価格帯のショーを実現し、2作目の『BEYOND』では演出・振付からツアーグッズの制作まで総合プロデュースを手がけるなど、従来のアイスショーの常識を塗り替えてきた浅田が、また新たな領域へと踏み出す。

それが、劇場型アイスショーだ。

今回の会場である立川ステージガーデンは、通常、音楽ライブや演劇公演などで用いられる大型ホール。そのステージにアイスリンクを設け、ショーを行う。

「立川には今年の11月に『MAO RINK』をオープンさせていただくこともあって、何度も訪れているのですが、いろんなスポーツ施設や劇場施設があって、知れば知るほど素晴らしい街なんですね。今回お世話になるステージガーデンもご縁があって見学させていただいて。舞台の上に立ったときに思ったんです、ここでアイスショーをやりたいって」

それは、その場に何を感じたからか。そう尋ねると、浅田はあどけなく笑う。

「ビビッと感じたからです。直感です(笑)」

その屈託のない笑顔は、日本中が応援した浅田真央そのものだった。プロスケーターとなった今も、浅田の柔らかな雰囲気は変わらない。だが、芯にあるのは可憐さとは対極の、未知をも恐れぬ勇気だ。

「誰もやったことのないことをやるのが好きだし、やりたいと思ってしまうんです。360度いろんな角度から楽しめるのが従来のアイスショーなら、舞台と客席が向かい合わせの『Everlasting33』はほぼほぼ正面からご覧いただく形になります。今までとは全く違う見え方になると思うし、リンクが客席に張り出す形になっているので、スケーターの滑りを間近で体感できる楽しさも変わらずにお届けできると思います」

さらにリンクのすぐそばにオーケストラピットも設置。総勢30名のオーケストラによる生演奏が、浅田自ら選出した精鋭スケーターの滑りに華を添える。

「これまでのショーでは現役時代の曲をアレンジして使っていたのですが、今回は全演目すべて人生で初めて滑る曲ばかり。このショーのためにつくり上げたプログラムを生演奏に乗せて滑ります。生演奏に合わせて滑るのは私も2度ほどしか経験がなくて。素晴らしく贅沢なショーになるんじゃないかなと私自身も楽しみにしています」

浅田の「誰もやったことのないこと」はこれだけにとどまらない。今回のショーでは、エアリアルやタップダンス、さらにアイスダンスにも挑戦。まだ誰にも見せたことのない浅田真央が、ヴェールを脱いで現れる。

「エアリアルは……結構酔っちゃうので、いつも練習前に梅干しを食べています(笑)」

いつも氷上であんなにも高速で回転をしているのに、空中ではどうやら勝手が違うらしい。

「もともと乗り物酔いするタイプなんですよ。船とかも結構酔っちゃう。エアリアルも高さが高い点は平気なんですけど、変な揺れがするのがちょっと苦手です(笑)」

タップダンスとの出会いは、2019年に放送されたテレビ番組の企画がきっかけ。その後も、地道に練習に取り組んできた。今回は、番組で知り合ったタップダンサー・HideboHをキャストに迎え、スケート靴を脱いだ浅田真央として観客の前に立つ。

「タップダンスを習うようになってから、スケートの足さばきがスムーズになりました。より複雑なステップも踏めるようになったので、そこはタップダンスの練習の成果かもしれません」

浅田といえば一般的にはジャンプの印象が強いかもしれないが、彼女をよく知るファンほど、その真骨頂はステップだと断言する。ラフマニノフの魂を世界に轟かせた『鐘』、グランフェッテを再現したような『白鳥の湖』など、複雑なターンを盛り込みながらもまったく流れが途切れることのないステップは「超絶技巧」と称えられた。

改めて聞く、浅田真央の考える“いいステップ”とは何か。

「できるだけ深いエッジに乗ること。あとは、つま先に乗らないことですね」

浅田は言う。上手なスケーターのステップは音が違うと。

「本来のスケートを滑る音は聴いていてすごく気持ちがいいものなんです。でも、トウに引っかかると、ガーッという変な音が出る。これはすごく聴き心地の悪い音なので、そういう音は絶対に出さないように気をつけています」

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