リセット

「神の見えざる手」にも、いろいろあって、今回の「神の手」は、どうやらリセットボタンに向かってのばされた指であるようだ、という話をしようとおもいます。

ははは。なんだか、紙芝居みたいで、primitiveで、面白い出だしですね。

一度、やってみたかった。

ウクライナでの戦争を恐怖と共に眺めているグループのひとつにアメリカの軍事専門家たちがいる。

「空がなくなる」現実を眼前の光景とともに噛みしめている

ドローンが飛び交って戦果をあげているのは、いい。

予想の範囲内で、むしろ想定よりも単独で飛来、あるいは攻撃するドローンは、おおきな被害を与えられなかった。

低速なせいで撃墜できるドローンの数が多かったからです。

でも戦況を見つめる世界中の軍事専門家たちには、少なくとも2030年頃にはやってくる軍事上の「リセット」が現実のものだと判らないわけにはいかなかった。

アメリカ軍の、ここ80年の歴史で初めて、「空が助けてくれない」戦争を戦わなければならないことが明らかになったからです。

あの悲惨なチョシンの戦いでさえ、圧倒的な数で押し寄せる人民解放軍の洪水のなかを逃げ惑って、前にも左右にも後ろにも中国の兵士たちが囲む絶望的な戦場で、なんとか米軍が壊滅しないですんで、秩序だっているとは到底言えないが、はるばる釜山まで敗走することが出来たのは、空軍の優位があったからでした。

対地ロケット弾を叩き込み、ナパームで山腹を焼き尽くして、道路の両側にずらりと並ぶ狙撃兵や、凍てついた大地を裸足で蹴って突撃してくる恐ろしい形相の解放軍兵士を、相手が人間だとはおもえないほど、紙人形からなにかのように一挙に焼き尽くして、ただの炭に変えてしまう空爆がなければ、米軍は、全滅していた。

いまのドローンは、第二次世界大戦でいえばナチのV1で、あのパルスジェットで低高度を飛んで、時速700km以下の水平飛行で目的地まで飛んで、そこから浅角ダイブに入る始原的なミサイルは、タイフーンやスピットファイアで撃墜することが出来た。

V2は、そうはいかなかった。

成層圏を飛んで飛来して、そこから逆落としに落ちて、3000km/hのインパクト速度で1トンのアマトール火薬を爆発させるV2は、迎撃の方法はなくて、結局、最も効果的な「迎撃」方法は、Hague-Wassenaar の発射基地を破壊することでしかなかったが、V2は、ヒットラーのテラー戦略のなかでも、うまくいったほうだったでしょう。

でもね。

だって、ジャイロで最大高度88000mの落下開始地点まで誘導する方式では、もとより「爆撃精度」などは期待のしようもありませんでした。

今度はAIによって自律的に誘導されるところが異なる。

なあんだ、なにかとおもったら、このあいだまで流行っていたAIの話ですかい。

それならそうと、言ってくれれば、読まなかったのに、とおもった、そこのきみ、

甘い。

もう、ほぼ完成しているAIによる自律型ドローンは、そんなにあまちゃんな兵器ではないので、プロダクションやメディアのおっちゃんたちの汚い手で、抑えつけられて、寄ってたかって改名して「のん」にされてしまうようなものではないのです。

例えば、時速6000km/hというような人間の反応時間では制御できるわけがない落下速度でもAIは、ピンポイントでミサイル/ドローンを制御できる。

青天の霹靂、というが、文字通り、暢気に日曜の散歩を楽しんでいた大統領を、脳天一発、ぶち殺してしまうことが出来そうです。

自律AIは、アメリカが支配していた空をすべての国に、あるいは国ですらないテロリストたちに、潜在的に解放してしまったのね。

あるいは、中国人民解放軍が、ずば抜けた技術を持っている「スウォーム」、何千という小型ドローンを連携させて、死角や飛行中の損害をリアルタイムで計算しながら戦術を決めて集団攻撃する技術も、人間の操縦者では、とても手に負えない瞬時の計算と決断を繰り返しながら、最も「効果的」な攻撃を行う技術も、ときどきデモンストレーションをやっているように、すでに初期の完成をはたしている。

ネット上のアマチュア軍事専門家や、簡単にいってしまえば軍事オタクを観察すれば判る通り、「無駄に頭がいい人が無駄な知識を貯め込んでいる」のが戦争に関心が高いひとたちの特徴で、歴とした、高級将校たちでも、「海洋をいく巡航艦隊のように運用される戦車群が将来の地上戦の主役になるだろう」と述べたリデル・ハートを、さんざん冷笑して、おまえはバカか、ということにして閑職に追いやってしまって、このリデル・ハートの主張に実務家の軍人として興味をもって、研究して、ドイツのブリッツクリークを組織/実行したグデーリアンに、オラオラオラと追いまくられて、ダンケルクから命からがら逃げのびて、「ドイツ人って、なんて頭がいいんだろう。イギリス人の頭では、到底考えられない作戦だ」とオメデタイことを述べていたひとびとや、日本の例ならば、ボロ負けに負けた戦後になってもなお、大艦巨砲主義なら勝てたと主張して、航空主兵主義の山本五十六たちのせいで負けたのだと、1992年に93歳で死ぬまで、ボロクソにこき下ろし続けた「プロ軍人ちゅうのプロ軍人」黛治夫たちのように、「頭脳明晰で不思議なくらいバカ」なのが通常なので、あんまり言わないほうがよくて、詳細に及ぶことは避けるが、

アメリカの空の優位が失われたことは、世界中、どんな軍事実務者にもすでに理解されている。

DJIの民生ドローンでロシアの新鋭戦車の一群が全滅させられたニュースをおぼえているひともいるでしょう。

あれ、わしも持っているドローンだったが、そんなもので、ロシアの冷酷政府にとっては、二束三文でかき集めてきた戦車兵たちの安価な生命はどうでもいいとして、死ぬほどオカネがかかった新鋭戦車が、あっというまに鉄くずの山になってしまうのは耐えられない損失jだった。

そうやってウクライナでの戦場での戦術はすでに変化してしまっているが、戦術レベルの変化は戦略に及んで、結局は国家レベルの大戦略に影響する。

日本に関係があることでいうと、「島嶼作戦の要としての沖縄」は重要でなくなります。

沖縄の人、よかったですね、と早とちりをする人もいそうだが、いざ戦争となれば雨あられとミサイルが飛んでくるに決まってる兵站拠点を、わざわざ日本以外の場所に移すことに利点はなにもないので、アメリカが沖縄の基地を、というか、基地の沖縄を、手放すわけはない。

日本側から見て、後方兵站だった沖縄が前線基地化する、という戦略上の意義の変化があるだけです。

もっと(多分)重要なのは、同盟国としての日本の意義が低下することで、めんどくさい(←悪い癖ですね)ので長々と説明しないが、絶対制空権を失うことは、それに起因する戦略の変化を考えれば、「日本は要らない」ということに他ならない。

これからの日米同盟は、「日本は要らないが日本人の汗と血がいる」というふうに変化していくはずで、そういう観点からいま太平洋軍と日本政府が共同でやっていることを眺めると、すでに変化への着手は始まっていて、米軍主導どころか、ほぼ無理でも米軍の言いなりにならなければ自国は守れない、と判ってしまった日本政府人たちの投げやりな気持ちが伝わってくるようです。

だいたい2030年頃からと予測されている世界のあらゆる地域、あらゆる領域(経済、外交、政治)で起きる「リセット」のほぼすべてにはAIが密接に関わっている。

AIが核にある、と言い直したほうがいいかも知れません。

経済は、例えばアメリカならば、大統領がトランプになってもバイデンになっても、経済上のリセットはほぼ避けられない、というのが最も多い意見でしょう。

マスメディアが騒ぐほど、どちらが大統領になっても終局の事態は変わらない、とわしも考えている。

よく「なぜアメリカ人は、あんなひどいのを大統領に選ぶのか」というが、それは都市部のアメリカを見すぎるからで、いちど、二三ヶ月、中西部や南部をクルマで旅して、いろいろなひとたちと話してみればいいのですよ、彼らはもう「アメリカ」に耐えられないんです。

彼らが望むのはリセットのなかでも「破壊」であって、最初期のホワイトハウスの首席戦略官がスティーブン・バノンが任命されたので判るとおり、「すべてを焼き尽くす地獄の業火のなかから再び起ち上がる白人種」のイメージが、彼らの頭から去っていかない。

もう平等にも政治的な正しさの主張にも、完全に倦んで、

その後景に身を潜ませている知にすぐれたひとびとも、例えばアルプスより北の欧州ならば確実に犯罪集団と見なされて大量の逮捕者を出しているはずのウォール街人たちが行った、ビンボ人たちからCDOを手品の中核のタネにして巻きあげて、「アメリカ」を破壊した行為を決して許そうとしていない。ときどき、この人たちはウォール街の人間たちを国中から探し出して処刑するところまで行くのではないかとあるはずのないことを考えるほどの語気です。

トランプという道化が倒れたら、また次の破壊者を立てるだけだ、と言葉にして明言している。

Mercer家のひとびとだけではないのです。

投資家の世界でも、途中から、無理もない理由で口を噤んでしまったが、例えばウォーレン・バフェットのような穏健で聡明と見なされるひとびとも、ちょうど映画でいえば2015年につくられたThe Big Shortの舞台になっている2000年代のウォール街を心から嫌悪してきたが、ついに、それがトランプ大統領となって結実してしまった。

ちょうどリベラルなアメリカ人がトランプサポーターたちを見て茫然とするような気持で、ウォール街で、さんざん悪事を、しかも嬉々として得意気に他人の生活を食い物にして働いておきながら

、いっぱし良心と知性がある人間のようにヒラリー・クリントンを支持してトランプを笑っていた偽善者の群れを、嫌悪と軽蔑で眺めている。

経済上の結果は、多分おなじだが、だから、政治上は、トランプの一期目よりも遙かに露骨な白人至上主義の勃興、アジア人排斥、新孤立主義、どれをとっても日本の人には有り難くない結果になるかもしれません。

当然に、東アジアの緊張も高まる。

それとは別に政治上のリセットが引き起こす最大の変化は、多分、自由主義と民主社会の敗北が決定的になることで、厳格な手続き主義に守られたアメリカの民主制と自由社会が、大統領そのひとが民主制を軽蔑していて、議会に対する叛乱を呼びかけてしまう、という未曾有の、日本の人が好きな表現をわざと使えば「想定外」の事態に陥って、ついにシステムが時代遅れになってしまったことを露呈しているのを世界の人が暗澹たる気持ちで観てきたが、ここからあとに起きることは、状況としては、役者を変え、地域を変えて、1930年代にやや似た所があって、

至るところで民主主義は敗北して、自由主義は縮退し、社会の生産効率から見て「無駄」な人間は、徹底的に抑圧される社会になっていきそうです。

地球上の資源が増大した人口からの需要に応えられなくなる、という背景も、案外、集団意識下ではおおきな役割を果たしているのかも知れません。

どうも、こうやって日本語で書いていても、ろくなことはなさそうな「リセット」の時代だが、

ああだこうだ言っても、まして反対したり抗議したりしても、そりゃまあ、抗議しないよりはしたほうがいいに決まってはいるが、まるで世界がそれ自体、巨大な意志をもって人類の鼻面を引き回すような時代変化は変えることは出来そうもなくて、せめても、善意を失わないようにして、お互いに親切な気持ちで接する、くらいが、社会にとっては最も必要なcureなのでしょう。

そのうち、また、どんな領域でどんな「リセット」が起こりそうなのか、あるいは、もう起きているのか、気が向いたら日本語でも書いて、自分でも考えてみます。

いや、めんどくさがって書かないかな。

最近、どうも自分の「やる気」が信用できない。

自分だけよけりゃいいや、と思っているんじゃないだろうね。

それとも、ついに、人間の「善意」にもリセットがかかってしまったのかしら



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