ジューダス・ビショップと最強のイマジナリーフレンド   作:束田せんたっき

24 / 35
ミカの霊圧が……消えた……!?

 全学生が渇望してやまない、クリスマス休暇がやって来た。ホグワーツに残るのも実家に帰るのも思いがままだ。学問に打ち込むも良し、趣味に没頭するのも良し、惰眠をむさぼるのも乙なものだろう。

 果たして無限の時間を得た彼らは、何を思い、何を為すのか……。

 

 ザッザッザッとヤスリで、目の前の木材を削る。透き通るようなクリスマスの朝の空気を吸いながら、俺はミカエラへのプレゼントの最終調整に取り掛かっていた。

 

 ミカエラは昨晩も夜更ししていたらしく、今も空中で爆睡している。俺にとっては好都合だ。

 

 去年は絵画だったから、今年は彫刻に挑戦してみた。肉体を持たないミカエラへの、俺の精一杯の慰めだ。19分の1スケールミカエラ像。気に入ってくれるだろうか。

 

 ヤスリがけが一通り終わったので、あらかじめ用意していた筆と絵の具を取り出す。雪をバケツに詰め、インセンディオで水に変えれば、色を塗る準備は整った。

 

 最初に着色するのは目が相応しいだろう。キラウエア火山の溶岩のようなオレンジ色の瞳は、ミカエラが靄時代からのトレードマークだ。

 

 朝ごはんも忘れて、塗装に熱中する。大体ニ時間程で塗り終わったので、乾くのを待ってニス塗りだ。そんな調子で作業をしていると、お昼前には完成してしまった。

 

 俺は大きく伸びをして、達成の余韻に浸る。

 

「ふぃー。削んのが一番大変だったし、まあこんなものか」

 

 昼ごはんの前に、日課である鶏のトムとの会話をしよう。俺はそう思い立ち、ハグリッドの小屋へ向かった。

 

 

 

「こ、これは…………」

 

 鶏小屋の中は、大量の血で染められていた。たくさんコケコケしていたはずの鶏が一羽も居ない。俺が思わず後退ると、背中で壁のような物体とぶつかった。

 

「ハグリッド、な、何があったの?」

「……殺された」

「えっ?」

「雄鶏がみーんな殺されちまった! しかも一晩で! こんなむごいことがあるか!」

 

 ハグリッドが顔を真っ赤にして吠えた。右手で石弓を振り回し、怒り狂っている。俺はそれに当たらないように、注意を払いながら問いかけた。

 

「トムは!? トムは無事なのか!?」

「あいつは良いやつだった……!」

「おのれヴォルデモート!」

 

 こんなことをするのはヴォルデモート以外考えられない! この世の悪いことは全部ヴォルデモートってやつのせいなんだ!

 打って変わってハグリッドが口を閉ざした。巨体に似合わず、何かに怯えるように言った。

 

「例のあの人のことはちゃんと『例のあの人』って言ってくれねえか?」

「ゆのうふー? ヴォルデモートはヴォルデモートでしょ。何をハグリッドは恐れているの? 去年会ったけど全然怖くなかったよ?」

「ハハハ、面白え冗談だ。とにかく、Vから始まってTで終わる言葉は、金輪際発さないでくれんか。一々ドキッとしてちゃ世話ねえ」

「ハグリッド、それは恋だ」

「別の意味で動悸がしそうだな」

 

 遠い目でハグリッドは言った。哲学的なこと――例えば肉まんとか――を考えていそうなヒゲモジャ顔だ。だんだんハグリッドがソクラテスに見えてきた。

 

 俺は物置小屋からスコップを取り出しながら、口を開いた。

 

「弔うの手伝うよ」

「良いのか? 飯時に」

「食欲なんて吹き飛んだよ」

 

 俺が血染めの鶏小屋を掃除している間に、ハグリッドが外でキャンプファイヤーを組み、その中に燃料をセットした。そして二人がかりで大量の亡骸を運ぶ。ピンクの傘を一瞥して、ハグリッドが言った。

 

「ジューダス、お前さん火を点ける呪文は使えるか?」

「うん、出来るけど、ハグリッドが点けないの?」

「あー、俺はホグワーツを退学しちまってよ。魔法を使う訳にはいかねえんだ」

「そういうことなら……インセンディオ 燃えよ」

 

 轟ッ! と火柱が立ち上がる。熱風が冷涼な空気を押し退けた。火炎が煌々とトムたちを照らす。

 俺たちは無言で、次々と鶏を煉獄に投げ入れる。出来るだけ丁重に投げているつもりだが、鶏は文句をつけているかもしれない。

 

 肉が焼ける臭いが辺りに満ち、煙が天高く立ち昇った。全ての鶏を投げ入れた俺とハグリッドは、その様子を眺める。

 俺は手を組んで祈りを捧げた。

 

「トム、ヘンゼル、グレーテル、マールヴォロ、アリス、ジャック、リドル、ババール、ゲルダ、カイ…………」

 

 みんなの鳥面が脳裏をよぎっていく。昨日まではあんなに元気だったのに……。自然と涙が零れた。

 

「ちょっと待て、雄鶏にアリスやゲルダはおかしくねえか?」

「ハグリッドだって性別を間違えることはあるでしょ?」

「そんなことは……いや確かにノーバートはそうだったな……」

 

 ノーバート? おそらくハグリッドが昔飼ってた犬かなんかだろう。去年のドラゴンなんて知ーらない。

 火はトムたちを燃やし尽くすと、しばらくして消えてしまった。ハグリッドがしみじみと頷く。

 

「うん、うん、あいつらも満足しちょるだろうよ……」

 

 それから残った灰をかき集め、鶏小屋の片隅に埋めた。お腹を減らして出てきたファングにも手伝ってもらい、三人がかりだ。終わる頃には太陽が山際に隠れかかっていた。冬の日は短い。

 

 俺はハグリッドとファングに振り返る。ハグリットは夕日を背負っていて、表情は見えない。

 

「ジューダス、今日は手伝っとくれてありがとう。今年のクリスマスプレゼントは期待してくれていいぞ」

「うん、正座待機しておくよ」

 

 トムたちが死んでしまったのはショックだが、いつまでも引きずるのは彼らも本意ではないだろう。明るく生きていくのが、彼らへの供養になる。俺はそう自分に言い聞かせながら、ホグワーツ城へ歩いていった。

 

 

 

 大広間では、既に多くの生徒が食事を取り終わっていた。席についている人はまばらで、役目を終えた食器が魔法によってどこかへ消えている。

 俺はグリフィンドールのテーブルに近づいた。二つの赤毛がヒョコヒョコと忙しなく動いている。

 

「ロン、何してるの?」

「スキャバーズがいないんだ! 二週間も! こんなこと初めてだよ!」

 

 パーシーが背筋をピンと伸ばして、歩いてきた。胸には監督生のPのバッチが光っている。

 

「僕はロンの管理が悪くて、逃げちゃったと思うんだけど……」

「そんなはずはないよ! ちゃんと朝昼晩、餌はやってたし、たまにお風呂にも入れてた!」

「たまじゃあ駄目だ。僕は毎日ブラッシングもセットでやってたね」

 

 俺は知っている。ロンが苦手な食べ物をスキャバーズに与えていたことを……。

 

「あれ? でも何でパーシーが探すのを手伝ってるの? 兄だから?」

「スキャバーズは元々僕のペットなんだ。それを譲ったっていうのに、ロンと来たら……」

「これは防ぎようがないよ!」

「だけど、年のはじめに杖も壊してただろ? 流石に二度目は無理があるね。僕は今から、ママの吼えメールが恐ろしいよ」

「グッ……」

「とりあえずスキャバーズを見かけたら、ロンに伝えるよ」

「ありがとうジューダス」

 

 ロンとパーシーはハッフルパフのテーブルの辺りを探しに行った。食いしん坊のスキャバーズなら、食べ物の落ちてる食事終わりに出没するかもな。

 

 俺はロンとスキャバーズの行く末に合掌しつつ、テーブルについた。たちまち金の皿が現れる。そしてその上に載っていたのは……。

 

「うげえ、フライドチキンか」

「フライドチキンの何が嫌なんだァ?」 

 

 いきなり背後からミカエラが話しかけてきた。俺の皿を覗き込んでいる。びっくりするからやめて欲しい。

 

「な、何でもないよ。それよりミカエラ、遅かったね」

「遅えのはお前もだろ。ア、その杏仁豆腐食わねえなら貰うぞ」

「お構いなく……」

 

 クリスマス・イブとあってか、お互いに遅くなった理由は問わずに食べ終わった。そして談話室でネビルやハーマイオニーと人狼ゲームをした後、俺は床に就いた。

 因みに、俺は狂人の役でボロ勝ちした。

 

 

 

 チク、タク、チク、タク…………針が時を刻む音以外、何も聞こえない部屋。オレは前かがみで椅子に座っていた。視線は組んだ指に落とされている。

 何の前触れもなく、気配が一人増えた。

 

「ホッホッホッ、奇遇じゃの、ミス・ビショップ」

「オレに苗字はねえよ、プロフェッサー・ダンブルドー」

 

 視線を上げると、予想通りサンタな笑顔が目に入った。クリスマス・イブにはお誂え向きだな。

 ダンブルドアはゆったりと部屋を見回す。

 

「儂らは示し合わせておらなんだが、今年も同じ場所で落ち合った。不思議じゃのう」

「相変わらずとぼけるのが上手いな。そういうことなら、みぞの鏡でも持ってきたら良かったんじゃねえか?」

「あれはもう君には必要なかろう」

 

 オレはハッとしてダンブルドアを見た。アイスブルーの目が半月メガネ越しにこちらを見返している。内心を見透かされているようで、俺は思わず目をそらした。閉心術はあまり得意じゃねえ。

 

「彼のことじゃが……」

「わかってる」

 

 一番側でジューダスを見ていたのだ。アイツが永くは保たないことも知っている。少なくとも、確実にオレの魔力は、アイツの魂を蝕んでいた。

 ダンブルドアは困ったように眉を下げながら、口を開く。

 

「しかしこのまま彼に黙っておく訳にはいくまいて」

「どの口が言ってる? お前がハリー・ポッターにしているのと何が違うんだ?」

 

 室内に重苦しい沈黙が居座る。それで良い。オレはアイツの命を貪る寄生虫で、駆除されないように不都合なことは隠す臆病者だ。

 

「……人はみな、大切な存在には幸せになって欲しいと願うものじゃ」

 

 唐突にダンブルドアが語り始めた。教育者モードとか面倒くさいからやめろ。

 

「ああそうかよ。まァ人外のオレには関係ねえ話だな」

「ホッホッホッ、面白いことを言う」

「何がおかしい?」

「君は人じゃよ。どうしようもなくのう」

「…………バッカじゃねえの?」

「そうじゃの、儂は大馬鹿者じゃ」

 

 ニコニコとダンブルドアは微笑んだ。傍から見ればただの好々爺だ。オレはその真意を測りかねる。

 ……ダンブルドアは嫌いだ。会話しているだけで、こっちのペースを崩されてしまう。ヴォルなんちゃらが恐れるのも納得だ。

 

「……真実とは、美しいゆえに残酷じゃ。じゃから取り扱いには十分に注意を払わなければならぬ」

「だからお前もオレも、重要なことは何も教えねえんだろ」

「儂はのう、君に後悔して欲しくないのじゃよ。彼は真実に立ち向かう勇気を持った子じゃ」

「勘違いしてるようだからこの際言っておく。アイツはお前やハリー・ポッターみたいに、逆境を乗り越えられる玉じゃねえ。実際、追い詰められてオブスキュラスなんつー化け物を生み出しやがった」

「それは彼にとって必要なことじゃろう? 儂は思えてならぬ。彼がオブスキュリアルになるのは運命じゃったと」

 

 とうとう耄碌したか。運命だの神だのを言い出す輩に、碌なやつはいねえ。

 ダンブルドアは時計をチラリと見て、踵を返した。

 

「儂はこれから、厨房にホットミルクを頼みに行くが、君もどうじゃ?」

「行くと思うか?」

「連れないのう」

 

 ダンブルドアは少し寂しげにそう言うと、去っていった。最後まで白々しい老人だ。

 

 だがヤツの言うことも一理ある。いずれアイツは知ってしまうのだ。自分の短い生の終点と、その元凶を。

 

 オレはダンブルドアとは逆方向の出口から、部屋を後にした。通いなれたグリフィンドール寮を目指し、宙を漂う。

 

 それまでに手を打たなければならねえ。賢者の石はクソ親父の手に落ちたし、作るのは数年じゃ不可能。新しい方法を探す必要がある。

 

 しかも目下のところ、スリザリンの継承者とスキャバーズという、二つの障害もある。コイツらもそろそろ叩き潰さなきゃならん。

 

 一応ドビーとは緩やかな協力関係を築いている。敵の敵は味方ってヤツだ。だがあまり信用できねえ。スキャバーズの件もあるしなァ。

 

「考えれば考える程、問題が山積みだなァ。クソが」

 

 太った婦人までもうすぐだ。今年はアイツ、クリスマスプレゼント何くれるんだろうか。

 オレは曲がり角を曲がる。その瞬間、血のように紅い瞳と目が合った。

 

「大丈夫、君はもう何も考えなくて良いよ」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。