ジューダス・ビショップと最強のイマジナリーフレンド   作:束田せんたっき

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絶体絶命! ハリー退学の危機! 一方その頃ジューダスさんは

 フォーリー邸での夏休みは瞬く間に過ぎ去っていった。俺はミカエラと屋敷を探検したり、魔法薬を醸造しているレインに話しかけて怒られたり、グリムに口笛を教えたりした。

 ネビルからの手紙によると、オーガスタはネビルとトレバーに永久粘着呪文をかける寸前まで怒り狂っていたようだった。それをどうやって切り抜けたのかは永遠の謎である。

 そんなこんなで、ホグワーツ魔法魔術学校に発つ日がやって来た。ホグワーツ特急の出発時刻前に駅につくことができて、俺は内心安堵していた。去年の二の舞いは避けたい。

 

「ホグワーツに着いたらふくろう便を寄越すのだぞ」

 

 グリムのポケットから顔を覗かせたウサギが言う。レインやセバスに止められたのだが、ヘクターは無理を言って見送りに来ていた。

 

「俺ふくろう持ってないんですが」

「レインのチョコミントを借りれば良かろう」

 

 ウサギが見やった先には、若干緊張した面持ちのレインが立っていた。押しているカートの上に、鳥類の入った籠が置かれている。濡羽色の体に、シャープなフォルム。どこからどう見てもカラスだった。

 

「これカラスだよね? ふくろうじゃないよね?」

 

 憤慨してレインが口を開いた。

 

「チョコミントはふくろうです。だから、誰がなんと言おうがふくろうなんです」

「暴論過ぎる」

 

 A=A理論はやめて欲しい。普段はIQ高めなんだから尚更だ。

 ミカエラは空中で腰をかがめて、カラスを見下しながら言った。

 

「チョコミントアイス食ってるようなやつは、蛙チョコと冷やした歯磨き粉でも食ってれば良いのに」

 

 全チョコミントアイス好きを敵に回すような発言をするんじゃない。聞こえてるのは俺だけなのが救いか。

 

 ホグワーツ特急の汽笛が鳴る。もう時間のようだ。俺たちはホームと汽車の間の、数センチの溝を越え汽車に乗り込む。

 ウキウキと心を踊らせつつ、俺は通路を歩く。逐一コンパートメントを覗き込んでいると、何者かに弱い力で引っ張られた。レインが俺をトイレに連れ込み、下から睨めつける。

 

「何しちゃってるんです!?」

「挨拶」

「知らない人のコンパートメントを笑いながら凝視して、目があったら笑みを深めることが!? 控えめに言って頭大丈夫ですか!?」

「大丈夫だ、問題ない。あれやると俺のこと覚えててくれるんだよね」

「悪い意味でな」

 

 ミカエラがウォッシュレットのボタンを押しながら言った。駆動音が鳴った後に、勢いよく温水が飛び出す。水は放物線を描いてレインにかかった。

 

「キャッ!? ちょっ、何ですか急に! 止めてください!」

 

 俺はポチッとウォッシュレットを停止させた。非難がましくミカエラを見る。

 ミカエラは悪びれずに肩をすくめ、魔法でトイレットペーパーの端を隠蔽した。いたずらにしては凶悪過ぎる。

 

「…………を貶して良いのはオレだけだ」

 

 トイレを貶す? 用もないのに神聖なるトイレに入ることは、TOILETに対する冒涜だとでも?

 

「あーもう、全身ビショビショです。何なんですかこの機械!」

「最近マグルが発明したウォッシュレットだな。ホグワーツ特急にも導入されたのか。誤作動に関しては……こ、故障でもしてたんじゃないか?」

「導入してすぐに故障なんてとんだ欠陥品ですね! ……はぁー、入学式までに乾くといいんですが」

 

 しょんぼりと項垂れるレイン。入学前にびしょ濡れとは、心中お察しである。後でミカエラにはきっちり問いたださねばなるまい。

 しっかし、このびしょ濡レインをどうしたものか。ミカエラは何もする気はないようだし、生憎と俺も乾かす手段がない。

 その時、ガチャリとドアが開いた。ハーマイオニーが、一歩目で俺を認識し、ニ歩目でずぶ濡れのレインを見やり、三歩目で杖を抜いた。

 

「ジューダス、何か弁解はあるかしら?」

「待ってくれ! 俺は無実オブ無罪だ! だからインセンディオはやめてくれ!」

「いきなり燃やしはしないわ。私、去年で学習したの。コミュニケーションは大事だって」

 

 じゃあなんでにじり寄って来てるんですかね。状況証拠的に俺が黒なのはわかるんですけども。

 だが意外にも、ハーマイオニーを止めたのはレインだった。

 

「待ってください! 全てはこの『うぉっしゅれっと』が悪いんです!」

「ウォッシュレット?」

「このウォッシュレットがさ、そのー……壊れていて、突然吹き出したんだ」

「本当なの?」

 

 コクリとレインが頷くと、ようやくハーマイオニーは杖を下ろした。

 

「疑って悪かったわ。てっきりあなたが……新入生に、友達教の洗礼を受けさせているのかと」

「ミカエラといい、何でみんな俺がそんな素敵宗教に入信してると思ってるんだ?」

「ミカエル?」

「ああいや、なんでもない」

 

 ハーマイオニーは不思議そうに首をひねったが、話を続けた。やべえ、普段『ミカエラ』と言い過ぎて、うっかり口を滑らせてしまった。

 

「友達教を言い出したのは私じゃないわ。シェーマスがふざけて言っていたのよ」

「何だって! シェーマスめ、知っているなら俺にも教えてくれればいいのに。春休み中に一所懸命探したけど、友達教見つけられなくて困ってたんだ」

「これはシェーマスの自業自得ね……」

 

 そう言って遠い目をしたハーマイオニーは、気を取り直すと、小さく複雑に杖を振る。温風がたちまちレインを乾かした。

 

「遅くなったけど、私はハーマイオニー・グレンジャー。ジューダスと同じグリフィンドールの2年生よ。あなたは……」

「か、乾かしていただきありがとうございます! 私はレイン・フォーリーです!」

 

 レインの目はキラキラと輝いていた。まるで憧れの先輩を見つけたように。おい、俺も一応先輩なんだけど?

 

「良かったなレイン! これでなんの気兼ねもなく友達を作れるな!」

「その……この人はいつもこんな感じなんですか?」

「ええ、こんな感じよ……」

 

 ハーマイオニーは静かに口を閉じた。狭い個室に何とも言えない空気が流れる。だがそれも仕方がないことだろう。こん(フレンドリーでファンタスティック)な感じなのだから。

 ガタンゴトンと部屋が揺れ出す。汽車が出発したようだ。再びガラリと扉が開く。

 

「うえっ!? ……あ、ジューダスとレイン、それにハーマイオニーも! こんな所で何してるの?」

 

 ビビり散らかしていたのはネビルだった。トイレで待っていれば友達と会えるようだ。世紀の大発見である。

 

「ハリーとロンを探してあちこち回っていたら、ここで2人にあったのよ」

「ジューダスとレインが? ハリーとマルフォイが仲良くゴブストーンをするぐらいありえないよ」

 

 レインとネビルは、互いの祖父母が友人だったため、顔見知りだと聞いていた。当然、レインが俺にブチ切れて、その後ズッ友になったことも知っているに違いない。

 レインはネビルを押しのけて個室を出た。

 

「ビショップ先輩が奇行をしていたので、止めていただけですよ」

 

 寄稿をしていた? 確かに俺は日刊預言者新聞に寄稿をしているけど、止められてないぞ?

 

 

 

 レインがよくわからないことを言って去った後、俺、ネビル、ハーマイオニーはとりあえずコンパートメントに腰を落ち着けることにした。幸い、ネビルが荷物で席を取っていてくれたので、さまよわずに済んだ。

 対面に座ったハーマイオニーが物憂げに、移りゆく外の景色を眺めている。

 

「ハリーとロン、大丈夫かしら」

 

 ハーマイオニーによると、ハリーとロンはホグワーツ特急に乗っていないらしい。何かと巻き込まれ体質な2人だ。厄介事に関わっていなければ良いのだが。

 ネビルが思い出し玉を弄びながら言う。当然、玉は赤く光っていた。

 

「もしかしたら箒で来てるのかなあ。ハリー、箒乗るの得意だし」

「確かに。でもそんなこと出来るのか?」

「ホグワーツの歴史によると、ホグワーツ特急が作られる前は箒やポートキー、魔法生物などで生徒は通っていたそうだわ。結構な危険も伴っていたみたいだけど、出来るっちゃ出来るわね」

 

 今日もハーマイオニーは絶好調だった。 

 

「蛙チョコレート〜、蛙チョコレートはいかが〜? カボチャジュースに百味ビーンズもありますよ〜」

 

 車内販売のお婆さんがカートを押して通りかかった。それをミカエラが物欲しげに見ている。隠しているようだがバレバレだ。

 

「すみません、蛙チョコレートを10個、カボチャジュースを2杯ください」

「7シックル3クヌートになります」

 

 金を払って商品を受け取る。それを見ていたネビルが首を傾げた。

 

「なんでカボチャジュースを2杯も買うの?」

「あはは、喉が乾いてさ」

 

 後ろ手にカボチャジュースをミカエラに渡す。ミカエラはそっぽを向きながら言った。

 

「さ、サンキューな」

 

 ハーマイオニーが財布をカバンから取り出した。大量の書物が垣間見える。

 

「私もカボチャジュースを1ついただくわ」

「僕もカボチャジュースと百味ビーンズ買おうかな」

「毎度ありがとうございます」

 

 ミカエラはみなの死角を突いて、一息にカボチャジュースを飲み干した。透明人間はこういう所が不便なのかもしれない。いつか肉体を作ってあげたいものだ。

 車内販売のお婆さんが、チラリと俺を見た気がした。しかしネビルのお釣りを計算していたし、見間違いか?

 車窓を眺めながら、ミカエラがポツリと呟いた。

 

「ん? 何だアレ、車かァ?」

 

 俺もミカエラに倣って外を見てみるが、緑豊かな山が連なっているだけだった。

 

 

 

 汽車の旅を終えた俺たちは、ホグズミード駅からホグワーツまでは、空飛ぶ馬車で移動した。何も牽引するものがないのに、ひとりでに動く姿はどことなく不気味だ。ネビルやハーマイオニーは逆に興奮していたが、俺がおかしいのだろうか?

 ミカエラは魔法で雲をトロールの形にして遊んでいただけだった。

 

 大広間の天井は満天の星が瞬き、帰ってきたホグワーツ生を照らしていた。俺はシェーマスとネビルの隣に座り、組分けが始まるまで待っている。

 余談だが俺は先程シェーマスに『お友達教』について質問した。しかしいつの間にか『芸術的爆発』についての話題にすり替えられてしまい、めぼしい情報は入手できなかった。

 

 やがてゾロゾロとイッチ年生たちが大広間に現れた。その表情は希望、不安、期待など様々だ。

 去年と同じく、マクゴナガル先生がボロい三角帽子を台の上に置いた。固唾をのんで全員が帽子に注目する。静かだ。組分け帽子のシワが裂け、歌い出した。

 

 はじめまして 1年生

 私はただの  組分け帽子

 君が組分け望むなら 被ってみよう 恐れずに

 

 グリフィンドールは勇者の寮

 正義を助け    剛気を敬する

 王道徹する    豪胆さ

 

 レイブンクローは 賢者の寮

 叡智を求め    才気を称える

 学道究める    聡明さ

 

 ハッフルパフは  聖者の寮

 不屈を掲げ    活気を愛する

 獣道臆さぬ    堅忍さ

 

 スリザリンは   覇者の寮

 勝利を図り    英気を歎じる

 邪道も辞さぬ   狡猾さ

 

 選り取り見取り  4つの寮

 偉大な4人の   4つの寮

 さあさあおいで  怖じけずに

 内なる才覚    今ここに

 

 帽子が歌い終えると、大広間は洪水のような拍手で満ち溢れた。俺も痛くなるくらい手を叩く。ミカエラがゆったりと王族のごとく拍手した。

 

「帽子って組分けの時以外はこの歌考えて過ごしてるんじゃねえか? 夏のサンタクロースかよ」

「サンタももうちょっと他にやることあるんじゃない?」

 

 組分け儀式はどんどんと進んでいく。マクゴナガル先生が、アルファベット順に1年生たちを呼んでいった。

 

「クリービー・コリ――「グリフィンドール!」

 

 Fawlyの番は間もなく回ってきた。

 

「フォーリー・レイン!」

 

 灰色の髪がちょこちょこと前に出た。レインは緊張のあまり、同じ側の手足を同時に出して歩いている。クスクスと小さな笑いが起こった。

 レインが組分け帽子をすっぽり被る。グリフィンドールに来れば嬉しいと俺は思った。帽子は何事か語りかけているようだった。

 数十秒とも数分とも思える時間が過ぎて、帽子が叫んだ。

 

「レイブンクロー!!」

 

 レイブンクローのテーブルから歓声が湧き上がった。レインは赤く頬を染めて、輪の中に入っていった。早速、パーバティ・パチルと会話を始めている。出だしは順調、お兄ちゃん嬉しいぞ。

 

「スミス・ザカリアス!」

「…………ハッフルパフ!」

「ラブグッド・ルーナ!」

「レイブンクロー!」

「ウィーズリー・ジネブラ!」

 

 赤毛の女の子が進み出た。名前からして十中十々ロンの妹だろう。というか見たことある。

 ネビルが小声で囁いてきた。

 

「ねえ、ハリーとロンってもう来てる?」

 

 俺はグリフィンドールの長テーブルを見回した。しかし、くしゃくしゃの髪も、目立つ赤毛……は3人程見つけられたが、ロンも見つけられなかった。

 

「グリフィンドール!!」

 

 組分け帽子の声が、どこか遠くで聞こえたような気がした。


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