ジューダス・ビショップと最強のイマジナリーフレンド   作:束田せんたっき

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イスカリオテ状態

「ウィンガーディアム・レビオーサああああああ!!」

 

 地面スレスレで落下が止まる。覚悟していたとはいえ、紐なしバンジーは流石に肝が冷えた。

 呪文を解くと、思いっきり地面とキスする羽目になった。顔をしかめて立ち上がる。手で払われたローブから砂埃が落ちた。

 

「何これ? 植物?」

 

 周りにはチリチリと焼かれた植物が散乱していた。この見た目は『悪魔の罠』だろうか? なんとなくミカエラが笑顔で焼き払っている場面を想像して笑ってしまう。

 

 俺は悪魔の罠の破片を放った。石造りの小道を進むと、広い部屋に出る。聞こえてくるのは、何かが羽ばたく音。翼の生えた無数の鍵が、縦横無尽に飛び交っていた。

 この中から鍵を探し出すのか……。俺はゲンナリして肩を落とす。しかしその必要はなかった。出口の鍵穴に、羽を毟られたであろう鍵がぶっ刺されていたのだ。セキュリティなんてあったもんじゃない。

 

 まあミカエラの仕業だな。探し出すのに手こずって相当苛ついていたに違いなかった。だが物に八つ当たりはよろしくない。俺は鍵に修理呪文をかけてやり、通る時に解放してあげた。親友の失態は俺の失態だ。

 

 その先の部屋にはショッキングな光景が広がっていた。粉々になった巨大チェスセットに、端っこで倒れ伏すロン。

 さっと血の気が引いた俺は、駆け寄ろうと足を踏み出した。

 

「ロンに近寄らないで!」

 

 突然の大声にたたらを踏む。その声の主は、奥の部屋からやって来たハーマイオニーだった。

 ハーマイオニーは、鋭く目を細めて俺の一挙手一投足を注視していた。その手に握りしめられた杖の先は、しっかりと俺を指す。

 

「そのまま両手を頭の後ろに組むのよ! 早く!」

「おいおい、どうしたんだよハーマイオニー?」

 

 俺はすかさず両手を上げた。精一杯の無害アピールだ。

 それでも尚、ハーマイオニーの表情は緩まない。

 

「ロンの言った通りだわ。あなたは今晩、賢者の石を狙ってここに来た」

「……そ、そんな訳ないだろ! 何でわざわざ俺が欲しがるんだそんな石!」

 

 バレテーラ。でもなぜだ? 俺が奪取を決意したのは小一時間前だ。それまでに怪しいことをした覚えはない。

 

「それはあなたがスネイプ先生のスパイだからよ!」

 

 何だってー!? 俺はスリザリン寮監兼魔法薬学教授のスパイだったのかー! ……いやそんなことあるかあ!

 俺の絶句を受けて、ハーマイオニーは水を得た魚のように推理を語っていった。

 

「まずは年度初めにホグワーツ特急でジューダスがした箒なし飛行。調べたら『例のあの人』が好んで使っていたことがわかったわ」

「ええ!? あれってそうだったの!?」

 

 ミカエラに乗っかってただけ何だけど俺。闇の帝王と被ってたとか初耳過ぎる。

 ハーマイオニーはこちらに疑念の籠もった目を向けたが、話を続けた。

 

「スネイプ先生とあなたのやけに近い距離も根拠ね。ハロウィーンの日は2人で何をしていたのかしら?」

「いやトロールと戦っていたんだって! あの時医務室で言ったじゃん!」

「信用出来ないわ。他にも、ロンはあなたが危険な魔法生物を飼ってるって言ってたけど……」

「証拠はあるのか証拠は! 大体、ハーマイオニーたちの方がヤバいだろ! 何だあのドラゴン!」

 

 そこで初めて、毅然としていたハーマイオニーの瞳が揺れた。突破口はここしかない!

 

「ほら、そもそも俺がスネイプのスパイだって証拠は何一つないじゃないか。むしろ君たちの方が不味いんじゃない? 下手すりゃ退学かもね」

 

 口の端を吊り上げ、さも俺が有利なように歩を進める。実際は早く先に行きたい俺の方が切羽詰まっているのだが。

 徐々に俺とハーマイオニーの距離が縮んでいく。

 

「ノ、ノーバートのことは関係ないでしょう! う、動かないで!」

 

 ハーマイオニーが両手で杖を突きつけてきたので足を止めた。俺は胸をかきむしりたい程の焦燥感に苛まれている。彼我の距離は5メートル程度になっていた。張り詰めた緊張の糸が、切れようとしていた。

 

「ハーマイオニー、通してくれないか。ちょっとその先に野暮用があってさ」

「ハリーの元には絶対に行かせないわ! インカーセラス! 縛れ!」

 

 ハーマイオニーの杖から発射された縄が、蛇のごとく空中をうねる。俺はそれを叩き落とすために呪文を唱えた。

 

「ウィンガード・レビオーサ! 爆破せよ!」

 

 俺たちの間に煙が立ち込める。晴れると同時に、ハーマイオニーは杖を振った。

 

「インセンディオ! 燃えよ!」

「アグアメンティ! 水よ! なあハーマイオニー、こんな不毛な争いやめない?」

 

 噴き出された火炎を、俺は呼び出した水で消火した。じゅぅぅと水蒸気が生み出されていく。俺の呼びかけも虚しく、ハーマイオニーは悲壮な表情で二の矢を放った。

 

「インペディメンタ! 妨害せよ!」

 

 赤の閃光を跳んで躱す。着弾した床が、少し焦げた。1年生でこの威力、えげつない。

 チェスボードの隅っこで、今の状況に似つかわしくない間延びした声が上がった。

 

「んあ? 何だ何だ? どうしたのハーマイオニー?」

「どうしたもこうしたもないわよ! ロン! あなたも杖を持って! ジューダスを食い止めるわよ!」

「ッ! わかったよ! ハリーはまだ何だね!?」

「ええ!」

 

 ぬわあああ最悪だあああ。ロンが戦闘音で起きてしまった。これで形勢は2対1だ。

 こうなっては先手必勝の先制攻撃を放つしか道はない。昨日の友は今日の敵、今日の敵は明日の友だ。

 

「ウィンガード・レビオーサ! 爆破ァ!」

「プロテゴ! 守れ! ロン、大丈夫?」

「ハーマイオニーありがとう! タラントアレグラ! 踊れ!」

 

 ロン目がけた爆破攻撃がハーマイオニーに防がれるのは織り込み済みだ。というか防いでもらわなきゃ困る。

 タラントアレグラによってステップを刻みだした足を、フィニートで打ち消す。

 

「フリペンド! 回れ!」

 

 矢庭に繰り出されたハーマイオニーの弾丸が俺に命中した。錐揉み回転しながら吹き飛ばされる。

 

「かはっ!?」

 

 痛む体にムチを打ち、なんとか体勢を直す。歯を食いしばって顔を上げると、ロンとハーマイオニーに囲まれていた。

 

 ああもう、埒が明かない。俺はお返しに、ミカエラがオリバンダーに使っていた『懐柔の術』を模倣することにした。記憶の中のミカエラの動きをなぞらえる。

 

「インペリオ! 懐柔せよ! ……あれ?」

 

 何も起きない。ミカエラがやった時は目がトロンとしたはずだ。まさかこの期に及んで失敗か?

 数秒身構えるハーマイオニー。しかし何も起きないとわかると、口を開いた。

 

「ブラキアビンド! 腕縛り!」

「うぐっ!」

 

 俺は体を縄で縛られ、その衝撃で膝をついた。圧倒的不覚だ。

 油断なく杖を構えたハーマイオニーが、俺の前まで歩いてきた。

 

「あなたはダンブルドア先生が来るまで、ここで大人しくしてもらうわ」

「そこを何とか出来ない? 見ての通りこちとら急いでるんだ」

「いいえ、駄目よ」

「ハーマイオニー、気をつけて。こいつ魔法生物を隠し持ってるかも」

 

 どうすれば状況を打開出来る? 冷や汗を垂らす。だが、よく知っている気配を感じて俺の強張っていた体が緩む。

 

「わかっ!?」

 

 後ろから飛んできた紅の閃光がハーマイオニーを貫いた。気絶して俺に倒れ込む。縛られているので、俺は肩で支えることしか出来ない。

 

「ハーマイオニー!?」

 

 目を見開いたロンも、同様に気絶させられた。ドサリと仰向けに倒れる。 

 

「何の騒ぎかと戻ってみれば、随分とお楽しみだなァ? ドMくん?」

 

 ハーマイオニーがやって来たのと同じ方向からミカエラが現れる。人差し指から登る白煙をふっと吹き消した。

 

「ミカエラ! 助けに来たよ!」

「助けられてんのはどっちだよ」

 

 何だかんだ言いつつもミカエラは縄を切ってくれた。自由になった俺はハーマイオニーをロンの隣に寝かせる。

 ミカエラが片手を漆黒の髪に差し込みながら、俺を頭から爪先まで眺め回した。

 

「ンで? 何でお前がここにいるんだ?」

 

 なんとなく夢で見たから来たとは言いづらい。そこだけ伏せるか。

 

「ミ、ミカエラの身体創りを手伝いたくてさ!」

「アァ? ……ああわかった。まァ丁度いい所に来た。ついてこい」

 

 ミカエラは「んなこたァ言ったかァ?」と呟きつつも俺を先導していった。ドキリとするからやめてほしい。

 

 チェスの部屋の次には、何もなかった。少々部屋が薄汚れているぐらいで、何の障害も配置されていない。大丈夫か賢者の石。

 

「ここの警備もミカエラが消したの?」

「違えぞ? この汚れ具合からトロールでもいたんじゃねえか?」

「あ、ハロウィーン」

「そういうことだ。誰が逃したんだろうなァ?」

 

 そういえばハロウィーンの日にトロールが現れたのは禁じられた部屋のすぐ外だった。ならば放ったのはクィレルなのだろうか?

 

 この部屋の出口は紫の炎で塞がれていた。メラメラと揺らいで、俺たちを阻んでいる。

 

「ハリー・ポッターが入るとコイツが燃え上がりやがった。魔法の炎のようで、オレでさえ通れねえ」

「じゃあどうするの?」

「ちょっと手ェ貸せ」

 

 差し出すと、ミカエラに手を握られた。柔らかい感触が俺の手を襲う。

 

「念の為に言っておくけど、魔力供給のためだからな!」

「わ、わかってるよ。何か吸われてる感じするし……」

「わかりゃいいんだよ、わかりゃ」

 

 この状態のまま待つ。長いようで短い静かな時間が過ぎた。ミカエラは表情を引き締め、指を火炎に向ける。

 

「今から魔力でコイツをぶち抜く。オレが言ったら飛び込め」

「了解」

「3、2、……今だ!」

 

 黒とオレンジの奔流が火炎に轟音を立てて激突した。2つはバチバチッ! と火花を散らしながら競り合い、靄が押し勝った。僅かな間だけこじ開けられた風穴に、俺とミカエラは飛び込む。

 

「またかよ」

 

 紫色の炎の向こう側は、黒色の炎でした。狭い通路の両端を火柱が挟む形だ。他には魔法薬が並んだテーブルと、看板が置いてあった。

 

「何これ? なぞなぞ?」

「多分あの陰湿教師の試練だろうな。まあオレたちには関係ねえ。力ずくで突っ切るだけだ」

「まさかの正面突破」

 

 さっきと同じ様に魔力を吸われる。ちょっと目眩がしたが、まだ大丈夫だと思う。

 そして俺たちは、黒い炎をゴリ押しで通っていった。


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