評価、感想、誤字脱字報告等ありがとうございますー!
感想欄でご心配していただきました皆様には御礼申し上げます。
気を付けつつ更新頑張りますよー!
「それじゃ、気を付けてな」
「ああ、ヴェルナーもね」
「おいらがいるんだから心配ないって」
また別行動になるため、マゼルとそんなことを話していたところに割り込んで来たフェリの発言にマゼルと顔を見合わせて笑ってしまう。
「ああ、頼んだぜ」
「任された」
ぽんぽんとフェリの頭を叩きながら応じたらどや顔で返された。弟がいたらこんな感じだったんかねえ。その後でルゲンツと短く会話。
「例の件は依頼済みだ。それと、ゲッケから契約は半年間だからまだ続行中、だそうだぜ」
「ありがたい話だ」
ゲッケさんはなんか俺に好意的で助かるなあ。契約していたとはいえ代官じゃなくなったからその場合どうなるんだろうかと思ったが、直接聞きに行くのも気が引けたんでルゲンツ経由で聞いたらこの回答。
今すぐに王都で軍事行動を行う事はないと思うが、いざという時の機動兵力があるというのは打てる手に余裕が持てる。
今度はしばらくリリーと話をしていたラウラがこっちに来た。あ、微妙に機嫌悪そう。
「子爵、この件でもし何かありましたら父や兄の名を出しても構いません。私が何とかいたしますから」
「はは……承りました。そちらもお気を付けください」
いや無理ですから。無茶言わんでくださいとは思うが、
王太子殿下は地位が地位なのもあるだろうが、時として他人を利用することも辞さない。その割にある種の安心感があるのは見捨てることはしないという点を感じられるからだろうな。
一方のラウラは勇者パーティーの一員らしく、問題に対してはなるべく自分たちが前面に立つべきだというスタンスだ。本来なら教会からの申し出に対しても自分たちが前に出るべきだと考えているんだろう。
ただラウラに関しては聖女と言う立場もあるから色々複雑でもある。そのあたりはラウラも理解はしているんだろうが、このぐらいは言っておきたいという所か。
「では子爵、書庫で卿が何か見つけてくれることを期待しておるぞ」
「努力します」
ラウラへの反応に困っていたこのタイミングだったのはありがたいといえなくもないが、ウーヴェ爺さんは相変わらず空気読まんなあ。調べたいことが多いのは確かだし、そういう立場に話を持っていってくれたのは感謝しているが。
そんな話をしていたらこっちの準備も整ったらしい。アネットさんだったかな、あの女性騎士さんが馬車の準備が整ったと伝えに来た。
「妹をお願いします」
「はっ、はい! お任せください!」
アネットさん顔真っ赤だ。マゼルの方が顔がいいのは認めるがあいつ天然なところがあるからなあ。苦笑交じりにリリーに近づくと、リリーも困ったように笑ってた。
「それじゃ行こうか」
「はい」
最後にもう一度マゼルに軽く手を上げてからリリーをエスコートして馬車に乗る。今日リリーが着ているのは貴族風ではないが高級品、というレベルの私服だ。大商人のお嬢様クラスってところか。
ドレス買いに行くのにまさかメイド服ってわけにもいかんし、伯爵家の関係者なのに平民が着るような服ってのも貴族としての面子の問題になる。伯爵家の立場の問題、と言ったらリリーは素直に納得してくれたんだが、納得した途端ティルラさん始め他のメイドさんたちに着せ替え人形状態にされていた、らしい。君子危うきに近寄らずという事で俺はその場から逃亡させてもらった。毎回感想を求められたりしたら俺の語彙だと破綻していたのは間違いない。
今着ている服は品のいい感じの服だったんでよく似合うよと言ったら喜んでもらえたんでよしとする。
ちなみに王都には貸し馬車屋がある。男爵とか子爵クラスだと馬どころか馬車の維持費用もきつい支出になることもあるし、叙爵されたばかりの貴族だと馬車は持っていないが、だからといって他の貴族へ挨拶に行くのに徒歩ってわけにもいかないんで一定の需要があるわけだ。
店によって荷物を乗せるような安い物からボックス型まで様々で、大体半日単位で金額が決まっている。ちなみに馬は別料金。いい馬だとやっぱり高い。
御者を借りることもできるが、いい御者は大体貴族のお抱えなんで、秘密保持の期待ができない借りた御者の前では余計な事を言わないのが基本だ。今日は伯爵家の御者なんでその辺は気にしなくてもいい。
もっとも貸し馬車屋の一番の客は、お妾さんの所にこっそり行く上級貴族だという噂もある。事実かどうかは知らないが口止め料込みで代金を払うだろうから上客なのは確かだろうな。
客ならともかく伯爵家の使用人であるリリーを伯爵家の家紋が付いた馬車に乗せるわけにはいかない。かと言って徒歩でふらふらドレスを買いに行くような真似をしたら今度は軽く見られる。というわけで、今日は貸し馬車屋を使う事に。
ナンバープレートじゃないが、馬車に金属板がついていることを確認する。これは貴族が乗っていますよというマークだ。商人は通れないが貴族は通れる、とかいう道もあるんで借りた馬車でも見た目で分かるようにこういうのがある。
なお昼間の内は人通りの問題もあるんで、日が出ている間の馬車が通れる道は厳密に決まっている。どの道が通れるのかとかは御者でないとまず覚えていないから御者を雇うしかないわけだ。これも代金に見合う専門職と言う事だろうな。
「わ……馬車からだとこう見えるんですね」
なんかリリーがはしゃいでる。自動車に乗った子供がはしゃいでるのに近いかもしれない。リリーはどっちかと言うと小柄だから馬車の高さから町を見るのは物珍しいのか。
「買い物が終わったら大回りしようか」
「はい、ありがとうございます!」
嬉しそうに礼を言ってくれたけどまだだからね。
店の前でも先に降りてリリーが降りるのに手を貸す。先触れが出してあるんで店内にはデザイナーとかも待っているはずだ。御者台にいたアネットさんも降りてきて周辺をさりげなく警戒している。気合の入り方が違うなと思ったのはマゼルに声をかけられたからだろうか。俺はちらっと別方向に視線を向けて問題なしとの合図を確認して終わり。
「ドレスは意外と着疲れするらしいから、着やすさを優先したほうがいいと思うよ」
「わ、わかりました」
店の中に入ったらちょっと気後れしているみたいだったが、そこはさすがに貴族向けの店という事で店員も教育がしっかりしていて、上手く緊張を解きながら誘導している。そういった接客面は心配していないが、ドレスの良しあしとか聞かれても困るだけなんで目の届く距離から様子見していたら、同じように少し離れてみていたアネットさんが声をかけてきた。
「子爵、僭越ながらよろしいでしょうか」
「かまわないけど」
そう応じて顔を向けたらなんというか決意の表情を浮かべて口を開いた。
「子爵の手腕に関しては存じているつもりです。レスラトガ対応などで拝見した手並みに関しては尊敬しておりますが、その、金銭の使い方が荒いのはいかがかと思いまして」
「ああ……」
うーん、浪費子爵の評判はなかなか。苦笑するしかない。騎士が貴族である俺にここまで面と向かって言うのはよほど気にしているんだろう。あるいはマゼルにああいうことを言われたから義務感にでもかられているのかもしれんが。
「解った。忠告感謝する」
リリーに聞かれないように気を使ってくれているようだし、嫌みとかのない忠告だけにそう応じるしかない。とは言えあまりくどくど言われたくもないしなあ。
「とりあえず、リリーの方を」
「お久しぶりでございます、ツェアフェルト子爵」
リリーの方を頼む、と言いかけたら別の人物の声。あんまり会いたくない人物の声だ。どうやら待ち伏せされていたか。
「久しぶりだ、ビアステッド」
「先の商隊の一件以来でございますな。遅ればせながらご出世おめでとうございます」
「ありがとう」
ギルドや商会経由で出世祝いの物とかは贈られてきていたが、顔を合わせるのは久しぶりだ。どっちかと言うと色々持ち込まれていた提案書とかを全部スルーしていた俺の方が面倒なんで会いたくなかったんだよなあ。
「もう夜会の評判は広まっているのか」
「一部のご令嬢がさっそく商人を呼びつけておりますれば。あちらのお嬢様が子爵のお連れ様ですな」
「ああ」
解ってて聞いている確認だから口数は多くなくてもいいだろう。軽々しく名前を口にしないあたりはさすがだな。
「なるほどなるほど。あのご様子では派手な物よりは落ち着いたものの方がよろしいでしょうな。その分、質の良い物をご用意させていただきましょう」
「それは助かる」
冗談を言っていい相手なら浪費子爵に気を使う必要はないぞ、とでも応じるところだが、商人相手には冗談でも言ってはいけないセリフだ。
前世には金銭だけで判断する貴族もいた。ある貴族は靴が安すぎて気に入らないと召使を怒鳴りつけて新しい物を買いに行かせたが、召使が現在より安い靴を買ってきて、嘘をついて大金を支払ったと言ったら貴族は満足してその安い靴を履いた、なんて笑い話がある。
これだけ聞いたらただの笑い話だが、その貴族が“公”と呼ばれる御仁だったと聞くと笑いが苦笑に変わるのは避けられないだろうなあ。貴族と言ってもいろいろな人がいるという例かもしれない。
まあ俺が口を出すより目の肥えた商人が薦める品の方が確実だろう。そう思っていたが意外な事を言ってきた。
「お連れ様もご一緒に、奥にお願いできませんかな。お時間は取らせません」
私の創作ではないのが何とも反応に困ります<靴の逸話
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