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ちょっと季節の変わり目で体調崩しまして

昨日はお休み、今日も短めです、ごめんなさい

王都にて(2)~過去と現在~
――155――

 ひとまず王太子殿下との話を終えて午前中は執務室での書類整理。アンハイムの書類はサインするだけで済むレベルになってはいるがきっちり目は通しておく。

 伯爵家の代官を見直ししたのも、もとはと言えば作業が形骸化していないかの問題確認だったんだ。それを指導した俺がいい加減に作業をするわけにもいかないんできっちり確認はする。


 「閣下、面会希望のヴァッケンローダー子爵がお見えになりました」

 「解った。応接室にお通ししてくれ」


 誤算と言うか計算外なのはなんか面会者が多いことだ。借金を肩代わりしてやろうとか言う奴もいる一方、今後の友好関係をとかいう人もいるんで無下にもできない。副爵の頃は父が面倒なところを処理してくれていたんだなと実感。

 一名、借金を肩代わりする代わりに娘を嫁にしないかなどと言ってきたのがいたんで丁重にお断りした。


 とりあえず午前中はそんな雑務をこなして昼前には退勤。お昼を一緒にとか面倒くさいお誘いがある前に逃亡だ。現在の俺は独立子爵で領地もないし、役職も浮いているんでそういう意味ではいい身分だと言えなくもないのか。



 ツェアフェルト邸に戻るといくつか手配していた件の確認。今日は事後処理だけのつもりだったからノイラート、シュンツェル、フレンセンの全員に休みを出してしまったんで、代理の護衛とかの配置だ。

 二人を休ませたから人がいないというほど伯爵家の人員は少なくはないが、急な仕事ではあるからローテーションをノルベルトと相談。それと以前ご迷惑をおかけした女性騎士さんに今回も同行してもらえることになった。

 主目的はリリーの買い物だが、今回は俺が借金から逃げて引き籠っているわけじゃない、という一面を見せる必要があるんで、伯爵家に来いと呼びつけるのではなくこっちから店に行くことになる。さすがに女性の買い物中、俺がずっと傍にいるわけにはいかんからな。


 話を聞くとリリーもまとまった休みを取ったことはほとんどなかったらしい。真面目だなあ。

 働いた分の給与はほとんど貯金で、ハンカチと刺繍の糸だけはティルラさんとよいのを買いに行ったらしい。勉強用の筆記用具とかは伯爵家で準備しているとはいえ、もうちょっと自分のために使ってもよさそうなもんなんだけど。

 今日はそういう意味では王都観光でもいいか。護衛付きになっちゃうのは我慢してもらおう。


 「解った、これでいい。配置を頼む」

 「かしこまりました」


 一通り確認して一休み。マゼルたちも午後にラウラとウーヴェ爺さんと合流してから出発するから、マゼルやリリーには家族での時間を取ってもらっている。

 俺も飯は軽く済ませる予定。軍務が長いと美食でなくても気にならなくなるなあ。貴族としてはどうなんだろうか。贅沢しないからいいかと思っておく。


 「お疲れ様です、ツェアフェルト子爵」

 「エリッヒ殿、お疲れ様です」


 気を抜きつつ廊下を歩いていたらエリッヒに呼び止められた。そのまま二つ三つ話をする。神殿の方に関する礼をしておくとあの程度なら苦労でもありませんので、と笑って応じられた。この人もイケメンだねえ。


 「我々は午後には出発する予定ですが、子爵にはご迷惑をおかけいたしました」

 「いえ、こちらこそ」


 何というかエリッヒが相手だと自然と敬語が出るんだよなあ。まあ困らないからいいけど。


 「子爵は午後から買い物とか」

 「どんな顔していいのか悩んではいますけどね」


 フェリがあそこまでぶっちゃけてくれたんで悩むというか困るというか。可愛い子に好かれて悪い気はしないけど表情の選択には困るんだよ。


 「あまり難しく考える必要はないと思いますよ」

 「そうですかね」


 難しく考えているつもりはないんだけどな、と思っていたらエリッヒに意外な事を言われた。


 「お互い様のはずですから」

 「はい?」

 「リリー嬢は子爵を貴族としてではなく、ヴェルナー卿個人として見ています。子爵はいかがですか」


 そう言われてすとんと腑に落ちた。なるほど、リリーも“勇者の妹”と言う肩書で見られていたのか。多分だがアーレア村の頃から。いつぞやのビットヘフト伯爵や引き抜きにきた教会、もっと言えば国でさえそうだ。(マゼル)の付属物としての価値しか見られていないのは辛い所もあるだろう。

 俺はどうだろうか。マゼルの妹という意識はあるが、少なくとも権力とか見返りの有無とかそういう目では見ていない。伯爵家の息子という観点で持ち込まれている婚約を無視し続けていた俺と立場的には似た者同士だったとさえ言える。いやまあ貴族としての義務という意味では俺の方がより悪いんだが。


 「それって好意なんですかね」

 「どの水準かはともかく好意であることは確かでしょう」

 「そう思っておきます」


 苦笑が浮かんだ。うん、まあそこまでの納得はした。年少者を見る聖職者の顔をしているエリッヒから目を逸らす。


 「とりあえず向き合う時間をちゃんと取りますよ」

 「ええ、その方がよろしいかと思います」


 とりあえず今日は余計なことを考えずにちゃんと付き合う事にしよう。

 それにしても何というか、父やセイファート将爵とは別の意味でこの人(エリッヒ)には勝てん気がする。

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