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「ヴェルナー、考え事かい?」
「ああ、まあな」
がらがらと音を立てるツェアフェルト邸に向かう馬車の中で、向かいに座るマゼルから話しかけられて思考を中断。いろいろ引っかかる事は多いんだが情報不足。俺のゲーム知識だと思っていた件とか、どうやって調べればいいやら。
とりあえず意識を切り替える。
「それにしても、お互い状況が変わったな」
「だね」
マゼルと顔を見合わせて苦笑い。去年の今頃はそれなりに学園生活を満喫していた学生だからなあ。それが一方は勇者殿で俺の方は腐っても子爵。一年もたたずに変遷が大きすぎだろ。
それにしてもマゼルの方は俺よりも学生に戻るのは難しいだろうな。すっかり有名人だし。そういう意味では魔王の存在そのものが迷惑な話だ。苦笑してから今度はマゼルが考え込むような表情を浮かべているんで声をかける。
「あまり難しく考えるなよ」
「ヴェルナーはそう言うけど、まだ魔王どころか四天王が三体も残っている状況なのに」
そっちかよ。内側でのごたごたが気になるという訳か。解ってたことだが真面目な奴だなあ。やれやれ。
「マゼル。はっきり言っておくが、今日の話は気にするな」
「え、でもわざわざ宰相閣下まで来て」
「あれはあくまでも注意だ。それもお前がそういう沼に落ちないように、という意味でな」
もっともそれはそれで肩を竦めるしかない。普通なら勇者なんて存在を危険視する向きがあってもおかしくないんだが、国はマゼルを排除する気はないと言う意味でもあるからだ。
しかも露骨に言うんじゃなくてさりげなく自分たちは味方だよ、とアピールしているんで、ずるいと言えばずるいがこれも貴族らしいともいえる。まあそれはこの際措いておく。
ぐっ、とマゼルの顔の前に指じゃなく拳を突き出す。マゼルが軽くのけぞった。その状態のマゼルに学生の口調で語り掛ける。
「俺はお前さんに魔王討伐という一番大変な部分を任せるしかないんだ。だからその分、お前の苦手な部分は俺がやる」
きょとんとした表情を浮かべた後でマゼルが苦笑した。
「なんだかヴェルナーに面倒ごとを押し付けてる気がする」
「大変なのがお前で面倒なのが俺。バランス取れていいだろ」
「そう言うことにしておく」
互いに拳をぶつけて笑い合う。短い間だったが久しぶりに気楽な学生のノリに戻れて少し満足してしまった。
「おかえりなさいませ。ご無事のお戻り、おめでとうございます、ヴェルナー様」
「ああ、ただいま」
ツェアフェルト邸に戻ると満面の笑顔でリリーが出迎えてくれた。それ自体は以前もなんだがマゼルが後ろにいる分、何というかちょっと照れる。
「ルゲンツたちは?」
「ラーザー様とクルーガー様は到着されています。殿下とアルムシック様は今日は王宮に泊まられると先ほど使者の方がおいででした」
ルゲンツとエリッヒが到着済みか。フェリは孤児院の方に顔を出しに行ってるんだろう。しかし姓の方で言われると誰だっけといいたくなるな。後ろでノルベルトが頷いているのは合格という事だろうか。
「フレンセンは?」
「ヴェルナー様の執務室でお待ちです」
「解った。マゼル、悪いがちょっとやることがあるんで休んでてくれ」
「解った」
リリーにマゼルの相手を任せてノルベルトに視線でついて来るように合図をする。解ってる男だねえ本当に。廊下を歩きながら簡単に確認しておこう。
「俺がいない間、教会が?」
「はい、リリーを預かりたいと何度か」
「本人は知っているのか」
「一度は本人が断っております。その後は奥方様が対応を」
伯爵家の使用人に関する限り母が人事権を持つ。母が認めない限り無理に引き抜けない。父が直接教会とやり合うと問題もあるが母が矢面に出ている限り使用人の人事という形になるので角を立てにくい。なるほど。なんか母にも余計な負担かけているなあ。
そしてどうやら教会側の担当は割と強引な奴の様子。
「その訪ねてきた教会の人間が誰かわかるか」
「調査済みでございます」
父も調べるように指示出したんだろうがとっくに調査済みか。さすが伯爵家執事。エリッヒにも教会の事を後で聞くことにしよう。
「その辺はあとで聞かせてくれ。父は」
「多少遅くなると。ハルティング様ご一同もお食事に招待したいと」
「フェリもいるから礼儀には目をつむってもらいたいもんだ」
「そのようにお伝えしておきます」
頷いてノルベルトとの話を打ち切り、俺の執務室に入る。フレンセンが立ち上がって出迎えたんで手で合図だけで済ませた。とりあえず以前よりましだがまた書類の山ができているのを見てうんざり。まあこっちはどうでもいい。
「ご苦労さん。アンハイム関係の書類は」
「こちらになります」
ウーヴェ爺さんが無茶ぶりしてくれたんでいろいろ後から書類が追いかけてくる事態になっているから、そのあたりを捲りながら目を通す。一応俺が代官として処理しておかなきゃいけない分があるのは避けられないからな。
いくらシュラム侯爵直属の文官やベーンケ卿が優秀でもどうしたってこういうのは起きるって、ん?
「どうかなさいましたか」
「いや、何でもない。それよりフレンセン、今日はもういいぞ。お前は俺たちと違って旅慣れてないだろう」
俺やマゼルたちはもちろん、ノイラートとシュンツェルも騎士だから無理はきくだろうがフレンセンはそうもいかん。倒れられても困るし。もっともノイラートたちにも今日明日と休みを出したけど。
「お気遣いは嬉しく思いますが……」
「いいから休め。命令だ。明日も休んでいい。どうせ事後処理だけだ」
フレンセンを無理に休ませてから頭を抱える。俺がセイファート将爵やファルケンシュタイン宰相から王都に残ることを聞いたのは今日の話だが、ベーンケ卿からの書類は明らかに俺がアンハイムに戻らないことが前提になっている物がある。
ウーヴェ爺さんの無茶ぶりに応じて一時王都に向かったわけじゃないという事をもう知っていて、将爵の部下じゃなかったという事はベーンケ卿は宰相閣下に近い人材だったのか。そりゃ仕事ができる訳だ。将爵もなんて人を引っ張ってきたんだよ。
頭を抱えはしたが今更だ、うん。その辺は目を瞑って書類整理を済ませていく。アンハイムでも思ったが、ベーンケ卿の書類は後からの確認のしやすさとかが参考例になりそうなほど完成度が高い。ひょっとして代官としての教師役だったのかね。
とにかく処理を進めていると部屋をノックする音が聞こえた。
「誰だ?」
「リリーです。ヴェルナー様、お茶をお持ちしました」
「ああ、貰おうかな。入ってくれ」
「失礼します」
ちょうどいいと思って入ってもらうとリリーが茶を淹れてくれる。というか、前より洗練された動きだなあ。
「マゼルは?」
「ラーザー様たちとお話中です……どうぞ」
「ありがとう。それと、アンハイムの件もな」
茶を受け取ってからそう言ったらきょとんとした顔をされてしまった。どうでもいいけどそういう時に三度瞬きをするのはマゼルと共通の癖らしい。さすが兄妹というべきなんだろうか。
「いろいろ気を使ってくれただろ? ありがとう」
「あ、いえ、その、ご無事でしたので、それで」
急に言葉に困りだしたのを見て笑いそうになってしまった。というか変に赤面されたりするとこっちが意識してしまうんで話を進める。
「本当なら早めに返したかったんだが忙しくてね。土産みたいになってしまって悪いんだけど」
木彫りの箱を取り出して渡す。びっくりした表情のままリリーが受け取った。
「あの、開けてもよろしいですか」
「ああ」
日本人的なつまらないものだけど、とは口が裂けても言えない。この世界で貴族がそれを言うと事実ゴミとか言う意味になるんだよなあ。世界観の違いって怖い。
「わぁ……」
事実あんまりいいのがなかったってのもあるんだが、何となく派手なのは苦手そうだったので落ち着いた感じの銀のブローチだ。職人に依頼して花の加工を精巧にしてもらったんでちょっと時間がかかったけど。
王都とかの貴族が住む街ならともかく、地方都市だと手の込んだ宝飾品なんてものはそうそう売っていない。ましてアンハイムはどっちかといえば国境防衛を目的とした都市だし。それこそトライオットが健在なら銀製品を持ってる行商人とかいたんだろうが、ない物ねだりをしても仕方がないしな。
装飾品も細工のないブローチなら上着や
今回はそこまですると時間がかかりすぎるんで基本的なブローチに細工の部分だけ手を入れてもらった。貴族視点だと手抜きだがリリーには喜んでもらえたらしい。
「ありがとうございます、大切にします!」
「喜んでもらえて何より」
礼儀としても女性からもらったら何か返すのが当然ではあるんだが、このぐらい喜ばれるとなんかもうちょっとなかったかなと思ってしまう。まあ機会があれば何か用意しよう。
とりあえず書類仕事に戻る。食事前に目途を付けておかないと。多分食事後は疲れて寝たくなるだろうしなあ。
そんな風に思っていた時期もありました。
両親が同席の夕食はフェリの言動にひやひやしながらだったんで胃が痛い。そして食後、父は俺とマゼル、そしてなぜかリリーにも残るように言うと、ノルベルトに預けておいた封筒を受け取り差し出して来た。
「マゼル君、夜会への招待状だ」
早速ですか。
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