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恐らく硬直していたんだろう、俺の顔を見てウーヴェ爺さんが口を開く。
「思い出せぬか」
「え、ええ、はい」
「ふむ。では……」
え、いやちょっと待って、流すのかよ。俺の方がむしろ驚いたんだが。そう思ってたら爺さん、俺の方を見て嫌みなほど冷静に言ってくださいました。
「最初からなかったのか、外的要因のせいなのか、単純に卿が忘れておるのかまではワシに判断できぬ」
いや確かに俺がうっかり忘れてる可能性はあるよ。あるけどさ。だからってその態度はないんじゃないか。
「卿が忘れておるだけなら思い出すまでワシにできることなどないからの」
思わず頭を抱えた。そういえば昔の賢者とか隠者ってだいたいこんな感じだったな。興味を失うとこっちがいくら気にしていても無関心。そんなところまで再現しなくてもいいっての。
こうなったら是が非でも情報を聞き出してやる。疲労感で文句を言っている自分の頭を叩き起こす。
「外的要因ってどういうことです?」
「卿は今の世の中をおかしく思ったことはないか」
「何を基準にしておかしいと言うかによると思います」
そう聞き返すとウーヴェ爺さん、少し考えて口を開いた。
「そうじゃな。では逆からいくか。卿はなぜ魔物を斃すと強くなると思う」
なぜ。ゲーム的には敵を倒すと
「表現は何でもよいが、仮に原魔力とでもしておこうか。自然界の動植物、鉱物にさえこの原魔力が存在し、それを吸収することによって力があがると言える」
「鉱物にも?」
「吸収が容易かそうでないかの違いがあるがな。ある種の魔物は金属からの方が吸収しやすい存在もおると言えば理解はできるかの」
なるほど。例えば
「最初は使えぬ大威力の魔法を使えるようになったり、硬くて歯が立たなかった魔物の皮膚を切り裂けるようになったりするのもそれじゃ」
「敵を倒すと吸収できるのですか」
「吸収の一つの方法ではある」
そして吸収すると人間は少しずつ強くなると。あれ、という事はひょっとして。
「騎士団の騎士たちもでしょうか」
「当然同じじゃな」
そうか。装備を整えたから王都で
ひょっとして魔物暴走時の強さのままだったりしたらこれから来るだろう四天王襲撃時には手も足も出ないで負けてたんじゃなかろうか。そんな疑問を感じていたが次の台詞にいきなり思考をひっくり返された。
「だが逆に、ある条件下で頭が悪くなる」
は。え、何それ。
「頭?」
「そもそも頭がよい、という言葉の意味は広いがの。記憶力に優れる、理解力に優れる、判断力に優れる、どれも頭がよいと言えるが」
「それは一応わかります」
「原魔力が大きくなり影響を受けた魔物は人間を恐れず向かってくるようになる。卿も経験はないか」
確かにある。ヴェリーザ砦の時とか、水道橋工事の時とか。魔物が人を恐れないってことを前提に作戦たてたのは俺自身だ。ってちょっと待てよ。
「人間も影響を受けすぎると危険性とか慎重さを考えなくなるのですか」
「冒険者もギリギリの実力で勝てるときは相手の弱点などを考えて戦うが、強くなると力押しになったりするであろう。あれなどわかりやすい例じゃな」
確かにそういうこともあるが。ゲームで自キャラが強くなるととりあえずでかい魔法ぶち込んで終わらせる脳筋プレイまでこの世界では再現されているってのかよ。
いやこの際ゲームはどうでもいい。つまりウーヴェ爺さんが言っていることを要約すると。
「古代王国時代に比べて強くなっているその原魔力の影響を受けて、人間も必要なことをだんだん考えなくなっている、と」
「それも卿の別の記憶にあったのかね」
「いえ」
古代王国時代に天文や建築の技術が発展していたんじゃないかと言う仮説からの想像だ。そのあたりを説明すると珍しく少しは評価したような顔をしてきた。
「ふむ。少しは話ができそうじゃの。一人の人間を一枚の布として例えよう。通常の手段で原魔力を吸収すると色が染まっていく。美しく染まるならそれに越したことはない」
「まあそうですね」
「じゃが、濁った色で染めると布自体を損なう事さえありうる」
濁った色で染まった部分の布は使い物にならなくなる、という事か。つまり。
「原魔力、と言うものが二種類ある?」
「魔王由来の原魔力があるのではないかと思っておるが、今の段階ではワシも仮説だの」
その台詞を聞いて思わず考え込んでしまう。まるでそれだと古代王国時代には魔王由来の原魔力がなかったみたいじゃないか。魔王ってなんなんだ。ますます謎が深まったぞ。
「卿が必要な記憶を損なっているのもその影響を受けている可能性がある」
「そうだとしたら治るんですかそれ」
「知らぬ」
おい爺さん。いやまあ、症例が少ないというかこんなこと迂闊に他人に話せるものでもないのは解るが。根拠や検査方法がない状態でこの情報だけが独り歩きすると、あいつは魔王由来の原魔力に毒されているから排除すべきだと攻撃する口実にさえ使える。
もちろん下手に実験もできない。危険な魔物を生み出そうとしていると見えなくもないし、そうなったらマッドサイエンティスト扱い一直線にされかねない。
「それに、個人差もある。疫病が蔓延したとして、それで死亡するもの、倒れはするが回復できるもの、周りが倒れても平然としてる者がいるようにの」
「物事を考えられる人間もいる、とそういう事ですね」
逆に言えば全体としては物事を単純にしか考えない、あるいは難しいことを学ぶ事を嫌がる人間が増えたから技術がますます衰えている、という仮説が成り立つのか。
まるで脳細胞を破壊する性質の悪いウィルスだな。
「陛下や殿下はご存じなのですか」
「魔王由来の原魔力という仮説までは伝えてある」
一応知ってはいるのか。とは言え確かにこれもうかつに発表できんなあ確かに。
「そのような状況もあったのじゃろう、古代王国末期の魔王襲来後に、失われる前にと知識や記憶を転写する実験をしておった」
「知識や記憶を転写」
そんなことできるのか。いや実験をしていたって言う表現を使ってるという事は。
「成功はしていないのですか」
「成功した記録はない。ワシは卿がその記憶転写の成功した記石を手に入れた可能性も考えておった」
あー、うん、なるほど。って。
「記石?」
「石の形で知識や記憶を転写した物を仮にそう呼んでおる」
え、それって、あの、つまり。
「……魔将の
「その可能性もあるということになる。ワシとてあんなものがあるとは思ってもおらなんだのが悔やまれるわ」
「魔王は古代王国時代の技術を使っている、ということになるんですか」
「同じ技術かどうかまでは解らぬ」
調べてないのなら確かに同じかどうかはわからないだろう。しかしそれって、古代王国を滅ぼした魔王が古代王国の技術を使ってるかもって事になるのか。魔王が古代王国の知識を利用しているから、その技術を応用する形で魔将も素体の記憶を利用できるとも考えられる。
いや待て、なんかどっか矛盾があるような気もするんだが、頭が回らん。いかん思考力の限界が近い。
「結局仮説だらけですね」
「確かにそうじゃ。ふむ、ちょうどよいか」
そう言うと頭痛くなってきてる俺を無視して何やら書き始めた。封もせず俺にその紙を押し付けて来る。
「何ですこれ」
「陛下にそれを渡してもらいたい。卿は適任のようじゃし、王都で古代王国の件に関する調査を頼もう」
……はい?
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