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最初の攻勢を退け、翌日の夜。ある程度の指示を出したうえで仮眠をとっていたヴェルナーは、小さな振動と微かな音に気が付いて目を覚ました。この程度で目が覚めるという事はやはり気が高ぶっているんだろうな、と自分で苦笑しながら鎧を着こむ。
起こしに来たノイラートとシュンツェルと共に槍を片手に領主館の外に出ると、兵の一人が跪いて待っており、すぐ声をかけた。
「どうした」
「北門で魔将が攻撃を。その、とにかく来ていただければ」
「解った」
一瞬ノイラートやシュンツェルと顔を見合わせ、馬の準備をさせていたフレンセンに北門まで使番担当に集まるように伝言を残し、フレンセン自身も起きているように言うと騎乗し北門に向かう。北門に近づくにつれ、得体のしれない音が徐々に大きくなる。
囲壁の上が明るくなっているのは夜間の警戒を任せていたアイクシュテットが明るくしているのだろうと考えたヴェルナーであったが、門扉が巨大な音を立てて揺れたのにはさすがに驚き、急ぎ囲壁の上に上った。
「何があった?」
「閣下、あれを」
言われて外を見たヴェルナーもさすがに驚いた。
こういう攻撃をしてくることは覚悟してはいたが、規模と勢いが違う。衝撃で門扉どころか石壁ですら揺れた。
「一人破城槌かよ。化け物め」
夜闇のせいで遠くが見通せないが、丸太を複数本用意してきてあるようだ。すぐ下に転がった丸太の、綺麗に切ったというよりは力任せに折ったような跡を見、内心で冷や汗を流す。枝ではなく幹を力ずくで折り取って戦場に持ち込んできたのである。さすがに想像の斜め上だ。ヴェルナーが舌打ちしながら周囲を確認する。
ゲザリウスが丸太を投げて来るものの、他の魔物が見られない。時々丸太が激突する音はするがそれだけである。ヴェルナーが怪訝な表情を浮かべ始めた。
「敵は一日のうちにこんな準備をしたのですか」
「今日の昼間攻めてこなかったのはあれを用意していたのかもしれませんね」
アイクシュテットとシュンツェルの驚愕の声に答えずに周囲を黙って確認していたヴェルナーが、アイクシュテットに向けて口を開く。
「アイクシュテット、卿はここで警戒。街の警備隊を増員させる。万一強襲してきたら目潰しで時間を稼げ」
「承知いたしました。
「状況によって許可する。後は任せた。ノイラート、シュンツェル、降りるぞ」
投石ならぬ投木が石作りの囲壁に当たるたびに轟音が響く。打ち合わせもできないのでノイラートらに急ぐよう手で合図をし、囲壁を降りた。門を降りたところに十名ほどの使番が集まっているのを確認するとすぐに声をかける。
「閣下、どうかなさったのですか」
「時間がない。ケステンに今夜警戒分の支援隊を連れて東門の防衛に向かうように伝えてくれ。ホルツデッペには残りの支援隊と西門に向かわせろ。ホルツデッペには代官の歩騎全員を俺の指揮下に入れると伝えてくれ。歩騎全員を叩き起こせ」
問いかけてきた使番に有無を言わせず指示を出すと、全員を町中に送り出す。馬が駆け去ると一度夜空を見た。
「ヴェルナー様、何か……」
「奴はまだ直接町中に投げ込んでこないな」
その発言に少ししてノイラートとシュンツェルが顔を見合わせ口を開く。
「わざと壁に当てている?」
「陽動ですか」
「まさか魔将が自分を囮に使うような真似をしてくるとは思わなかったが」
その途端、門扉が大きく揺れる。
「歩兵一番隊から三番隊まではノイラートの指揮下に、四番から六番まではシュンツェルの指揮下に入れ! 魔軍本体にまだ動きがないという事は時間のかかる地下が怪しい。ノイラートは西、シュンツェルは東壁の水盤を確認して報告。俺はここに残る」
「はっ」
「わかりました。南は」
「ゲッケ卿に任せる。判断を間違えたりはしないだろう」
この場にいないが遊撃隊としてのゲッケを信頼し南は放置した。ノイラートとシュンツェルを送り出した直後、東門のケステンから敵の襲撃が開始されたとの使者が走り込んできて声を上げる。だが、集中射撃戦術から逃れるための最善の方法はこちらの弓隊を分散させることにあるはずである。襲撃に西方面がなく東だけであることで、逆に地下が敵の本命だと判断したヴェルナーは落ち着いて頷いた。
「ケステンは何と言っていた」
「当面は耐えられるとのことです」
「解った。卿はすまんがラフェドに目潰しの予備を集めさせて北門に持ってこさせるように伝えてくれ」
駆けつけてきた警備隊のうち半数には囲壁上に上がるように指示を出し、もし強襲が始まったらアイクシュテットの指示を待ち何でもいいから投げ落とせと指示を残す。残り半数を率いて門扉からわずかに離れたところにある物を指さした。
「まず
小型とはいえ
この投石機を門扉に押し付けることで裏側から門扉を支えることができるように準備はしていたのだ。破城槌などを想定していたためやや予想外ではあるが、駆けつけてきた兵を指揮して投石機を動かす。
その間も振動と轟音が繰り返されているが表情は平静に指示を続けた。指揮官が動揺するわけにはいかないという理性で抑え込んでおり、ヴェルナーにとっては内心できつい所だ。
車輪がついているとはいえそれなりに重量があるそれを門扉に押し付けると、車輪に丸太を噛ませて固定させ動かないようにさせる。それが済むと東門に向かいケステンの指揮下に入るよう指示を出した。
その頃には代官の直属兵が全員集まっている。昼勤の兵士たちも既に眠気を飛ばしていることを確認しながらヴェルナーが点呼をし指揮系統を再編していると、兵士の一人が駆け寄ってきた。
「閣下、歩兵一番隊です。ノイラート様が」
「解った。騎兵の一人はシュンツェルに全員ですぐに西門に来るようにと伝えろ」
「はっ」
「そっちの一人は領主館に行ってフレンセンに灯りを用意させて西に運ばせろ。そこの一人はここに残り俺の指示が必要なら西にいると伝えてくれ。残りは続け!」
言うとヴェルナーも騎乗し走り出す。それほど広い街だとは思っていなかったが、こう戦線が散らばると移動だけでも手間が大きい。閉じたままの西門に駆け付けると、門から離れたノイラートのいるあたりに囲壁の上から明かりが照らされているのが確認できた。ホルツデッペの手配によるものだ。対応が的確で助かると思いながらヴェルナーはノイラートに近づく。
「状況を知らせろ」
「はい、こことあそこ、向こうの一つの水面が」
「二か所、いや、三か所か……解った」
通常ならこちらからも地面を掘り返しておくという方法もあるが、今回は時間がない。単純に兵力による迎撃しかない。
相手が人間であればここまで早く囲壁を越えた下まで地下に通路を掘られることもなかっただろう。籠城戦前に冗談めかして言った発言が事実になったかと苦い表情を浮かべると、そこで何かに気が付いたようにヴェルナーが全員を一時下がらせる。兵から疑問の声が上がった。
「閣下、敵が穴から出て来るところを迎撃すれば一対多で攻撃できます」
「俺もそれは考えた。だがそれをすると、奴ら今度はもっと町の奥、中心近くにまで長い穴を掘りだすかもしれん。そうなるともうどこから町中に侵入してくるかわからん」
だから壁を超えた後すぐのここで魔物を侵入させる。そのかわり確実にここで全滅させろ、そうヴェルナーは指示を出した。人間相手ではなく魔物相手だとその先の危険性まで考えての事だ。兵たちも納得し、建物の影などに姿を隠しながら敵が地面を掘りぬくのを待った。
忍耐力の限界を迎えることもなく、三か所の地面に突然大きな穴が開く。そこから
「明かりを付けろ、突撃!」
フレンセンに予め手配させていた魔道ランプに一斉に光がともる。わっと喊声を上げて兵が三か所の
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