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早くも夏バテ気味ですが更新頑張りますー!
丘の上に立つ第二の砦の上はごった返していた。各種の荷を運んできた人間が多いのもあるが、仕事の割り振りの関係である。行軍中や戦場での働きはともかく、その準備段階では多数の人間の手が欠かせない。
ヴェルナーの前世で有名なテンプル騎士団は戦場には四〇〇〇人を連れて参加していたこともあるが、テンプル騎士団に所属している騎士の人数は最盛期でも二〇〇人を超える程度しかいない。歩兵もそうだが労働職が多いのが現実なのだ。
そして、軍務には普段慣れない仕事をする場合も多く、一人の人間に複数の業務を与えると逆に完成度が著しく落ちる。そのため、普段は農作業をやっていた農民に与える指示は、とにかく頑丈な柵を作れ、などの単純なものにならざるを得ない。
だが一方でそうするとこの作業のみ、あの作業のみという形で多くの人手が必要になり、結果的にさらに人数が増えてしまう。人数が増えると食料品その他の問題も生じる。そのあたりの兼ね合いも軍を率いる際の計算に入れなければならないのである。
計画を立てるヴェルナーも大変ではあるが、補給品の搬送運搬を手配しているラフェドがいなければヴェルナーは連日徹夜することになっていたかもしれないし、ヴェルナーとは別の場所で多数の労働関係者を運用管理できるアイクシュテットはありがたい存在である。
アイクシュテットという人材を手に入れたことでケステンをアンハイム防衛の任務に集中させることができていることから考えても、ヴェルナーには確かに人間関係の運があったと言えるだろう。
「アイクシュテット卿、手数をかけたな」
「いえ、閣下もご無事で何よりです」
「本格的に危険になるのはここでだけどな」
一番の砦では相手が人間を甘く見ていたからこそ罠が有効に働いたし、最初から罠にかけるつもりで手配をしておくことができた。だがこの二番砦では実際に戦う必要がある。しかもかなりの激戦にならざるを得ない。
「板も含め指示通りに準備は整いましたが、後でご確認をお願いいたします」
「解った。アイクシュテット卿は労働者と護衛、傭兵隊の支援要員を連れてアンハイムに先に戻ってくれ」
「は」
わずかに不満そうなのは魔軍との戦いの場に直接出ることができないためであるだろう。その心情は理解できる。だがこの砦で一番損害が多くなる事が想像できるので、武芸に自信のないアイクシュテットを先に返しておきたかったのだ。
「魔将の首を取るのはここじゃなくアンハイムでだ。卿には一足先に戻って手配の方を任せる」
「……承りました。それにしても、追ってくるでしょうか」
「多分な」
口ではそう言ったが確信に近いものを持っている。だが一方、それゆえに読めない部分が発生したのも事実だ。こうなればよいという想定はしているものの、起きた事態を有効活用するという考え方でやらざるを得ない一面が存在しているのは事実である。とっさの判断力と応用力が高いのはヴェルナーの長所であっただろう。
「少なくとも何もせずトライオットに戻ることはまずない。アンハイムが攻撃されたのであれば別の手がある。そこは任せてもらおう」
「解りました。それでは、第三の砦を確認してから戻ります」
「任せる」
その後すぐにアイクシュテットを送り出したのち、必要な資材が揃っていることを確認してから、ヴェルナーはホルツデッペやゲッケ、ノイラートとシュンツェルらに加え、傭兵を含む兵士全員を集めた。
「よし、全員聴いてくれ。この砦での戦いが肝になる」
一段高い所に乗って全員に声をかける。視界に入るほぼすべての人物が自分より年長である。内心で柄でもないなと思いながらヴェルナーは言葉を継ぐ。
「ここでの戦いは厳しいものになるのは避けられないが、夜までだ。夜まで耐えれば戦況は変わる」
具体的な説明はこの時点では行わない。全体の方向性だけを説明して細部の説明は部隊指揮官にゆだねる。
「勇者殿や聖女様はごく少数で魔軍全体と戦っている。我らは魔軍の一部を相手にしているだけであるが、それでもここでの戦いはあの方々の戦いの助けとなるだろう!」
こういう時に指揮官に必要なのは演出と自信である。指揮官が妙な顔をしていたり不安がっていては戦う前に瓦解してしまう。それだけに多言はマイナスである。
「卿らはここで勝ち残れ! そして愛する家族の元に戻って誇るといい! 戦場は違っても、勇者殿と共に魔軍と戦ったのだ、と! 勝利は我らの側にある!」
内心でダシに使った
緊張した表情でホルツデッペとゲッケがその場を立ち去った後、ヴェルナーが胃痛を堪える表情になったのはノイラートとシュンツェルだけが目撃していた。
それに対して砦の方からも迎撃が飛ぶ。丘の上という地の利があり、射程の面から言えば砦の側が圧倒的に有利だが、距離があるので命中精度はそれほど高くはない。が、正面に飛んできたそれを腕で打ち払い、砕けた内容物を顔面で受け止める格好になった
驚いて足を止める
これは陶器の壺に香辛料や毒草などを配合した目潰しを入れ、それを
更に、飛んでくるそれを、避けるよりも反射的に受け止め、腕で弾き落としてしまう魔物相手には意外なほど効果があった。魔物の腕力で殴ると壺が砕けて粉がその場で飛び散り、自分からそこに突っ込んでしまう者が出るためである。魔物は己の防御力に自信がありすぎるのかもしれない。
もともと走るという行為自体、個体差が出て列が伸びる。目と鼻の激痛にのたうち回る者が出て魔物の集団が乱れた所に、続いて砦から投げられたそれが低い音を立てて降り注いだ。
矢より長く重く威力のある槍が魔物の毛皮と皮膚を貫き、血と苦痛の声がその場に噴き出し、時に反対側から穂先をのぞかせる。魔軍に命中せず地面に深く突き刺さった槍が移動も阻害した。
ただし速射性は低く、投擲用の槍を多数用意する必要があるという意味でも実用的とは言い難い。ヴェルナーもローマ軍が最初に投げ槍を使うという基本戦法を用いていたから使用したという面の方が強く、最初の一投を命じるとすぐに白兵戦武器への持ち換えを指示した。
だが重たい槍の殺傷力は確かに有効であり、直撃を被った
「来るぞ! 一対一になるなよ!」
「おうっ!」
丘の下からばらばらに駆け上がってくる魔軍に対し、ヴェルナーやホルツデッペの指揮下で王国軍側は集団戦を展開する。喊声と裂帛の声がそこかしこから上がり、血飛沫と打撃音が交差し、怒りと嫌悪の声がそれらを圧すると、人の声と獣の声が重なり合って相手を圧倒させるように響く。
使い慣れている方の槍でヴェルナーが目の前の一体を突き倒し、ノイラートとその従卒がとどめを刺した直後、巨大な影がヴェルナーの上にある日の光を遮った。
「散れ!」
ヴェルナーが周囲の兵を一喝すると同時に自分も後方に跳び退る。その直後、その巨体が着地すると同時にヴェルナーを掬い上げるように巨大な腕が振るわれた。それも冷静に見て取りながら躱し、やはりなという表情で槍を構え直す。
獅子の顔をした相手の巨大な姿を見ると、外面だけでも不敵な笑みを見せてヴェルナーが話しかけた。
「お前がゲザリウスか」
『そうだ、ヴェルナーの小僧。色々やってくれたな』
「まあ黙ってやられるわけにもいかなくてな」
軽く肩をすくめてからにやりと笑う。第一の砦で強襲を仕掛けてこなかった理由も、こうやってわざわざ魔将自らが姿を現した理由もほぼ予想通りだろうと考え、槍を構え直し皮肉っぽい口調を作り語り掛ける。
「お前が来るのは予想通りだ。マゼルの前に出るのなら俺の姿の方がいいだろうからな」
(8/30:追記)
空とぶ猫目くじら様、ご連絡コメントありがとうございます(感謝)
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