P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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予言者と最悪の選手と私

「ダンブルドアは一九九七年の六月に。貴方は一九九八年の夏に死ぬと予言を受けているではありませんか」

 

 呪いのネックレスの一件を校長室へ報告にいく道中、小悪魔が信じられないことを口にする。

 私はそれを聞き、自分が死の予言を受けていることを思い出した。

 

「ダンブルドアが来年の夏に死ぬ?」

 

「お嬢様が言うには、ですけどね。私は最近お嬢様のもとで働き始めたので昔の話には詳しくないんですよ。でも、お嬢様が死の予言に関して冗談を言うところは見たことがありません。ダンブルドアも予言が当たるという前提で動いているのではないですか?」

 

 小悪魔にそう言われて、私はこの前の校長室での出来事を思い出す。

 確かにダンブルドアは夏までに決着をつけようとしていた。

 

「ですので、来年の夏……貴方に全てを引き継いだとしても再来年の夏には決着をつけないといけないわけですよ。まあ、二人ともあの人に殺された結果が予言の真の内容なのかもしれませんが」

 

「では、ダンブルドアは……ダンブルドアほどの魔法使いですら、予言が当たると、そう考えているわけですね」

 

「まあ、そういうことになりますね。貴方もあと二年無い命です。悔いのないように生きたほうがいいですよ」

 

「レミリア・スカーレットの死の予言とは、そこまで絶対的なものなのですか?」

 

 ふと顔を上げると、いつの間にかガーゴイル像の前まで来ていた。

 私はそこで立ち止まり、小悪魔の顔を見る。

 

「そうですねぇ……基本的には絶対ですよ。結婚して名前が変わった結果死ななかったという例もありますが、それも絶対ではありませんし。どうしても死を逃れたいのなら不老不死の薬でも煎じて飲むしかないでしょうね」

 

 小悪魔は冗談っぽく笑うと、ガーゴイル像に合言葉を言い、奥の螺旋階段へと進んでいった。

 

「不老不死……賢者の石による命の水ですか」

 

 私は小悪魔の後を追う。

 

「いえいえ、そんな紛い物ではなく。本物の不死の薬ですよ。所詮命の水は延命をすることしかできません。分霊箱による不死性も所詮は魂の予備を作るという程度」

 

「本物の不死の薬……そんなものがあるんですか?」

 

「あります」

 

 小悪魔は断言する。

 

「魂を固定し、不滅の肉体を得る薬。その薬を飲めば、死という概念そのものが消え去るため、死の予言は意味を為さなくなる」

 

「そんな薬、一体何処に──」

 

「っと、到着しましたね。失礼しまーす」

 

 小悪魔は軽くドアをノックすると、返事を待つことなく校長室に入っていく。

 私はその後を急いで追った。

 

「校長先生、ダンブルドア先生、いらっしゃいますか?」

 

「君は……スカーレット嬢の」

 

 ダンブルドアは急に入ってきた私たちに少々驚いていたようだったが、すぐに平静を取り戻し椅子から立ち上がる。

 小悪魔はダンブルドアに恭しく礼をすると、ダンブルドアの前に呪いのネックレスを掲げた。

 

「こちらの件で少々お耳に入れたいことが」

 

 小悪魔は先程三本の箒で起こった一連の事件をダンブルドアに報告する。

 ダンブルドアはその報告を黙って聞くと、どっかりと椅子に腰掛けた。

 

「そうか、ロスメルタが何者かに……。その件についてはこちらで騎士団員を使い秘密裏に調査するとしよう」

 

 それに、とダンブルドアは顔を上げる。

 

「サクヤに何事もなくて何よりじゃ」

 

「まさか。この程度でどうにかなる女だとお思いで?」

 

 私はダンブルドアに肩を竦めて見せる。

 ダンブルドアは私に対し微笑むと、真剣な顔つきになった。

 

「それにしても、不思議じゃの。ヴォルデモートがこのように直接的な手を使ってくるとは思えん。やり方としてもお粗末じゃ」

 

 私はダンブルドアの言葉に頷く。

 

「例のあの人の指示ではなさそうですよね。死喰い人の誰かの独断か、例のあの人とは関係ない第三者か」

 

「校長先生、各地で恨みを買ってそうですもんね」

 

 小悪魔はクスリと笑う。

 

「なんにしても、私からの報告は以上です。この件に関してはお嬢様にお伝えしても?」

 

「構わないとも。彼女も狙われる可能性があるからの。それと、そのネックレスじゃが──」

 

「もし処分するなら私が頂いてもよろしいでしょうか?」

 

 小悪魔は呪いのネックレスを指先でくるりと回す。

 

「どうするつもりかね?」

 

「そりゃもちろん……」

 

 小悪魔はネックレスの留め具を外すと、自分の首にネックレスを巻いた。

 

「アクセサリーなので身につけるに決まっているではありませんか。それに、もしホグワーツにマダム・ロスメルタを服従させた犯人がいた場合、このネックレスを見て何か反応を示すかもしれませんし」

 

「呪いは大丈夫なのですか?」

 

「封印の処置を施してありますから心配には及びません。それに、この程度の呪い、悪魔には効きませんから」

 

 そういうことなら、とダンブルドアは小悪魔にネックレスの処置を一任する。

 小悪魔はネックレスがよく見えるように髪を後ろにかきあげると、私の方を向いた。

 

「似合ってますか?」

 

「……ええ、とてもよくお似合いです」

 

 私と小悪魔は冗談めかして笑い合う。

 ダンブルドアは引き出しから羊皮紙を取り出すと、羽ペンで何かを書き込み、不死鳥のフォークスに持たせた。

 

「報告ご苦労じゃった」

 

「では私は談話室へ戻ります。小悪魔さんは?」

 

「私はこの事をお嬢様に。起こすにはまだ少し早い時間ではありますが」

 

 私はダンブルドアに軽く頭を下げると、小悪魔と共に校長室を後にする。

 談話室にある階へ上がるための階段に向かう途中で、小悪魔が思い出したかのように言った。

 

「あ、そうですそうです。お嬢様がそのうちお茶しに来ないかと仰られておりましたよ」

 

「お茶、ですか?」

 

「はい。お嬢様は貴方のことがかなりのお気に入りのようですから。次の占い学の授業の時にでも返事をしてあげてください」

 

 二年生の頃からの知り合いではあるが、そこまで気に入られる要素があっただろうか?

 私は曖昧に返事をすると、小悪魔と別れて談話室がある八階へと階段を上り始めた。

 

 

 

 

 十一月に入ると談話室や大広間がクィディッチの話題で一色になる。

 そう、クィディッチシーズンの到来だ。

 グリフィンドールと最初に当たるのはスリザリン。

 もともと仲が悪い寮同士ではあるが、試合が近づくごとにグリフィンドール生とスリザリン生の仲が悪くなっていくのを感じる。

 試合当日の朝。私が大広間で山盛りのサンドイッチをお腹の中に詰め込んでいると、死にそうな顔をしたロンがハーマイオニーに介護されながら私の隣に座った。

 

「あらロン。今日は一段と絶好調ね」

 

「ふざけろ、マーリンの髭……もう死にそうだよ。なんで僕今年も立候補しちゃったんだろう」

 

 ロンは大きなため息をつくと今にも吐きそうな顔で机に突っ伏す。

 私は空のゴブレットにかぼちゃジュースを注ぎながら言った。

 

「あら、なんなら今からマクラーゲンとキーパー代わる? 私はそれでも構わないわよ」

 

「サクヤはほんと意地悪だよ」

 

 ロンはかぼちゃジュースをちびちびと飲み始める。

 私はそんなロンの顔を見ながらニヤリと笑った。

 

「そんなに心配なら私が一瞬で試合を終わらせてあげるわ。私はそれができるポジションにいるし」

 

「精々頑張ってよ。僕が打ちのめされる前にさ」

 

 私はロンの肩をバンバンと叩くと、サンドイッチの最後の一切れを口の中に放り込み立ち上がる。

 

「ええ、まかせて」

 

 そして周囲からの歓声を受けながら大広間を後にした。

 

 

 

 

『さあ今年もクィディッチのシーズンがやって参りました。本日行われるのはグリフィンドール対スリザリンの試合です。グリフィンドールはケイティ・ベルがキャプテンを務めます。チェイサーにケイティ・ベル、デメルザ・ロビンズ、ジニー・ウィーズリー。デメルザ・ロビンズは新人ですが、クアッフル捌きに定評があります。ビーターにはジミー・ピークスとリッチー・クートの二人組。そしてキーパーは去年と変わらずロナルド・ウィーズリーです。彼に関しては去年はあまり成績が振るわなかったため、今年は違う選手がキーパーを務めることになると誰もが思っていたところでしょう』

 

 去年まで実況を務めていたリー・ジョーダンに代わり、ザカリアス・スミスというハッフルパフ生の実況がスタジアムに響く。

 私はファイアボルト片手に観客席を見回していた。

 グリフィンドールとスリザリンの観客席はわかりやすいほどに赤と緑に染まっている。

 グリフィンドールの観客席では『サクヤ・ホワイトを魔法大臣に』と書かれた旗が振られているし、対するスリザリンでは『ウィーズリーは我が王者』の大合唱が沸き起こっている。

 私がグリフィンドールの観客席に手を振ると、拡声呪文が掛けられたスミスの実況が聞こえなくなるぐらいの歓声が沸き起こった。

 

『そして忘れてはいけないのがこの選手。シーカーを務めるのはサクヤ・ホワイト選手です。去年からグリフィンドールのクィディッチチームに在籍はしていたものの、試合の出場経験は皆無。実力は未だベールに包まれたままです。ですが、彼女が手にしているファイアボルトは並の箒ではなく、さらに彼女自身も普通の生徒とはとても言えません。どのようなプレイを見せてくれるのか非常に楽しみな選手です。対するスリザリンは──』

 

「サクヤ、準備はいい?」

 

 横に立っていたケイティが私の顔を見ながら聞いてくる。

 私はファイアボルトを握る手に力を込めると、ケイティに対して不敵に笑った。

 

「ケイティ、先に謝っておくわ」

 

「何を?」

 

「きっと私は最悪のシーカーとしてホグワーツ史に名前を刻まれるわ」

 

「ちょ、それってどういう──」

 

 ケイティが言い切る前に、審判を務めるフーチが足早にグランドへとやってくる。

 そしてグラウンドの中央まで来ると、両手に抱えていた各種ボールが入った箱の蓋を開け、金のスニッチとブラッジャー二つを解き放った。

 

「両チームとも準備は良いですね?」

 

 フーチが両チームのキャプテンに確認を取る。

 私は空を飛ぶスニッチを目で追いながらマルフォイに話しかけた。

 

「スラグホーン先生の食事会以来かしら。魔法薬授業でも離れて座ることが多いし。元気にやってる?」

 

 マルフォイはまさか私から話しかけられるとは思ってもみなかったのか、少々戸惑いながらも答えた。

 

「ああ、勿論。順調だよ。順調……」

 

「そう。それはなによりね」

 

 その瞬間、フーチが咥えている笛から甲高い音が響く。

 それと同時にフーチが力いっぱいクアッフルを真上へと放り投げた。

 

「ごめんね」

 

「え?」

 

 私はファイアボルトに跨ることなく右手に握ったままスニッチに向けて急加速を行う。

 そして各チームのチェイサーがクアッフルに触れるよりも先に左手でスニッチを握りこんだ。

 

「っと、それじゃあお疲れ、ドラコ」

 

 私は地面に降り立ち、フーチにスニッチを返却するとマルフォイに一声かけてからグリフィンドールチームの更衣室に向けて歩き出す。

 スリザリンの『ウィーズリーは我が王者』の合唱はピタリと止んでおり、全校生徒が集まっているとは思えないほどスタジアムは静まり返っている。

 皆何が起きたのか理解できないといった顔をしていたが、私が更衣室に入ると同時に観客席がザワザワと騒がしくなった。

 私はクィディッチのユニフォームを脱ぐと、ホグワーツの制服に着替える。

 そしてユニフォームとファイアボルトを鞄の中に仕舞い、スタジアムを後にしようとした。

 

「ちょっとサクヤ! さっきのは一体何?」

 

 だが、更衣室を出るために扉を開けようとした瞬間、キャプテンのケイティが更衣室に入ってくる。

 私はドアノブから手を離すと、ケイティの方に振り返った。

 

「何……って?」

 

「さっきのプレイよ。一体何をしたの?」

 

 ケイティはまるで尋問でもするかのように私に詰め寄る。

 私はやれやれと肩を竦めると、ケイティに対して言った。

 

「別に変わったことは何もしてないつもりよ。ただ真っ直ぐ飛んで、スニッチをキャッチしただけ。きっとハリーやクラムにも全く同じことが出来ると思うわよ」

 

「でも、普通はあんなことは出来ないわ。まるでスニッチがどこを飛んでいるか分かってるみたいな──」

 

「あんな金ピカのボール見失うわけないじゃない。それに放たれてからそんなに時間も経ってないし」

 

 まあ、ケイティが言いたいこともわからなくはない。

 先ほどのプレイには何かしらのタネ、それも反則紛いの

何かがあるのではないかと考えているのだろう。

 実際のところ、そんな事実はない。

 私はただ真っ直ぐスニッチを取りに行っただけだ。

 

「……まあ、見栄えのいいプレイではなかったことは認めるわ。スリザリンのみならず、グリフィンドールの生徒からも批判を買いそうなほどには。だから事前に言ったでしょ? 私はシーカーとしては最悪だって。それに、練習でもさっきと同じようにポンポンとスニッチ取ってたじゃない私」

 

「練習と試合は違うわ!」

 

「じゃあ、どうすればいいのよケイティ。試合が白熱するまでスニッチが見つからない振りでもすればいいかしら? でもそれって八百長じゃない? 私はただシーカーとしてベストを尽くしたのよ?」

 

「それは……そうだけど……」

 

「別に、気に入らないなら私をチームから外してもいいわ。

私は別にポジションに執着しないし。そもそもがハリーが選手に復帰するまでの繋ぎのはずだったしね」

 

 私は今度こそ更衣室の扉を開ける。

 ケイティはまだ何か言いたげな表情だったが、ただ黙って私を見送った。




設定や用語解説

クィディッチ選手としてのサクヤ
 クィディッチ選手としての腕だけ見たらサクヤはハリーはクラムには敵わない。だが、動体視力と魔力を感じ取るセンスがずば抜けているためスタジアムのどこをスニッチが飛んでいても見つけることができる。

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活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。

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