P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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試験結果と来客と私

 一九九六年、八月。

 私がダンブルドアと共にスラグホーンを説得しに行った次の日、ハーマイオニーが私の家に顔を出した。

 もう少し実家でゆっくりすればいいのにと思ったが、どうにもここに来た理由は私に早く会いたいからというわけではないらしい。

 今朝ここに来てからずっとソワソワしていたハーマイオニーだが、夕食後にフクロウが三羽窓際に舞い降りたのを見て小さく悲鳴を上げた。

 

「もう、どうしたのよハーマイオニー。貴方らしくないわよ」

 

 私は窓を開けてフクロウを家の中に招き入れると右足に括られた羊皮紙を解く。

 そして羊皮紙に書いてある名前に従ってそれぞれに配った。

 きっとこの前受けたOWL試験の結果だろう。

 

「ああ、どうしましょう。きっと全科目落ちたわ!」

 

 ハーマイオニーはヒステリックに叫ぶ。

 それを聞いてロンが肩を竦めた。

 

「もしそれが本当ならうちの学年は全滅だよ。サクヤを除いてね」

 

「あら、私も全科目居眠りしてて落としているかもしれないわよ?」

 

 私は細く折り畳まれた羊皮紙を広げると、中身を確認する。

 するとそこには、予想の斜め上の文章が書かれていた。

 

『OWLの結果だと思った? 残念、私よ。ドキドキしちゃったかしら? それとも、OWLのフクロウのほうが先に届いちゃった? もしそうなら失敗ね。用件は特にないわ。ただ悪戯したかっただけよ。それじゃあね。レミリア・スカーレットより』

 

 私は手紙の内容を三回は読み返すと、他の二人を見る。

 すると二人とも何も書かれていない羊皮紙を見ながら首を傾げていた。

 

「ま、まさか……書けないぐらい悪い結果だったってことじゃ──」

 

 勝手な想像をして顔を青くしているハーマイオニーにレミリアからの手紙を見せる。

 ハーマイオニーは手紙の内容を上から下まで読むと、今度は顔を赤くした。

 

「もう! 信じられない! 悪戯するにしても限度があるわ!」

 

「いや、そこまで悪質でもないだろ」

 

 ロンがハーマイオニーの持っている手紙を引ったくりながら言う。

 そして手紙をひっくり返し、少し眉を顰めた。

 

「ん? サクヤ、これ」

 

 ロンは手紙の裏に書かれた短い文章を指差しながら見せてくる。

 私はロンから手紙を受け取ると、そこに書かれた一文を読んだ。

 

『P.S. 日が沈んだ頃にでも家に伺うわ。騎士団本部も見ておきたいし』

 

「なんですって?」

 

 私はそこに書かれた一文に目を疑う。

 そして慌てて懐中時計で時間を確認した。

 その瞬間、玄関の扉が軽快にノックされる。

 

「……ちょっと対応してくるわ。ハーマイオニーはすぐに厨房に行ってモリーさんにこのことを伝えて頂戴」

 

 私はハーマイオニーの返事を待たずに急いで玄関へと向かうと、扉に向かって声を掛ける。

 

「はい、どなたでしょう?」

 

「私よ」

 

 すると、聞き慣れた声で非常にシンプルな返事が返ってきた。

 間違いない。

 レミリア・スカーレットだ。

 私は扉の鍵を解除すると、慎重に押し開ける。

 するとそこにはいつも通りの薄いピンクの洋服を着たレミリアと、マグルが着るようなスーツ姿の美鈴が立っていた。

 

「はあい。来ちゃった」

 

 レミリアは悪戯っぽい笑みを浮かべて私にヒラヒラと手を振る。

 私は出来るだけ表情を取り繕いながらレミリアに言った。

 

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

 

 私は普段滅多に使うことのない客間へとレミリアたちを案内しようとする。

 だが、レミリアは右手でそれを制止するような仕草をすると、玄関ホールを見回しながら言った。

 

「余計な気遣いは無用よ。客というわけでもないのだし。私は自分の所属している組織の本部がどんなところか見に来ただけなんだから」

 

「そう、ですか? でしたら簡単に屋敷の中をご案内を──」

 

「案内が必要なほど広いわけでもないでしょ? ……でもそうね。ある程度の間取りと、何に使ってるかぐらいは聞こうかしら」

 

「では、こちらです」

 

 私はレミリアと美鈴を引き連れて会議室がわりに使っているダイニングや休憩所がわりの客室などを案内していく。

 レミリアは私の説明に頷きながら、時折美鈴にメモを取らせていた。

 結局十分もしない間に屋敷の案内は終わってしまい、私たちはダイニングへと移動する。

 レミリアは私の淹れた紅茶を一口飲むと、美鈴に取らせたメモを読み返し始めた。

 

「なるほどねぇ……なんというか、今までよくやってこれたわね」

 

 レミリアは呆れを通り越して、逆に感心したかのように何度か頷く。

 それを聞き、先ほどまで厨房で夕食の片付けをしていたモリーが顔を出した。

 

「それはつまり……どういった意味でしょう?」

 

「あなたは?」

 

「モリーです。モリー・ウィーズリー」

 

 レミリアは何かを思い出したかのようにハッとすると、椅子から立ち上がりモリーの前へと歩いていった。

 

「ダンブルドアから話は聞いているわ。よろしく……えっと、モリーと呼ばせていただいても?」

 

 レミリアはモリーににこやかに笑いかけながら握手を求める。

 モリーは少々戸惑いながらもレミリアの握手に応えた。

 

「え、ええ。好きに呼んでください。スカーレット嬢」

 

 レミリアはモリーのその対応に満足したのか、先程まで座っていた椅子へと戻ると、モリーの問いに答えた。

 

「いや、だってアレじゃない。本部っぽくないのよここ。一応大勢が集まれる場所と泊まれる場所はあるみたいだけど。秘匿は最低限だし、情報をまとめる場所もなければ団員を管理する役職もない。今現在、そういうのって全部ダンブルドアの頭の中で完結してるんでしょ?」

 

 レミリアは両手を広げて大きくオーバーに肩を竦める。

 

「ダンブルドアが死んだらどうするのよ。全ての情報を抱えたままリドル……ヴォルデモートに敗れたら。誰が騎士団を引き継ぐの? その後の作戦は? それとも、ダンブルドアが死んだ時点で素直に負けを認める?」

 

 私はそんなのゴメンだわ。

 レミリアはそう付け加えた。

 

「では、どうするべきだと思うんです?」

 

 モリーはレミリアの向かい側である私の隣に腰掛ける。

 それに対しレミリアは口を開きかけたが、そのまま口を閉じ廊下へと続く扉を指差した。

 モリーはそんなレミリアの仕草に少し首を傾げると、すぐに何かに思い至りダイニングの扉を開ける。

 するとパンパンに詰め込んだクローゼットの中身が崩れるように、ハーマイオニー、ロン、ジニー、フレッド、ジョージの五人がダイニングの床に転がった。

 

「盗み聞きは感心しないわね」

 

 レミリアはすまし顔で紅茶を飲む。

 モリーはひとしきり子供たちを叱ると、ダイニングの扉に防音呪文を掛けて帰ってきた。

 

「ごめんなさい。どうぞお続けになって?」

 

 モリーは改めてレミリアに話を促す。

 レミリアはメモを片手に私とモリーに対して言った。

 

「本部を移転するべきだわ。もっと秘密に満ちて、なおかつ護りに優れるところに。そう、それこそホグワーツのような」

 

「ホグワーツに本部を移すのは流石に──」

 

「違うわ。ホグワーツの『ような』ところよ。場所は私が提供できる。そこに騎士団の腕利きたちで魔法を施していけばかなり強固な拠点が出来上がると思わない?」

 

 それに……とレミリアは私を見る。

 

「いつまでも一個人の家を占領するべきではないわ。他にどうしようもないならまだしもね」

 

 私は別にどちらでも構わないのだが、ダンブルドアや他の団員は本部の移転に反対しそうだと私は思った。

 大人の団員たちは、ここを本部として使うのは私の護衛も兼ねていると考えているだろう。

 実際、ダンブルドアとしてはその意図もあるはずだ。

 だが、この家が組織の拠点に向いていないのは事実である。

 

「まあ、私のほうからもダンブルドアに話はしておくわ。美鈴、今何時?」

 

 レミリアは用件はそれだけだと言わんばかりに椅子から立ち上がる。

 

「二十二時二十二分です」

 

「そう、ありがと。それじゃあ、そろそろ行くわ」

 

 レミリアはそのままダイニングを歩いていき、廊下に続く扉に手をかける。

 

「ああ、そうそう」

 

 そして今思い出したかのように懐から三枚の封筒を取り出した。

 

「これ、OWLの結果。他の二人にも渡しておいて」

 

「あ、フクロウは本物だったんですね。いつの間に入れ替えたんです?」

 

 私は受け取った封筒をひっくり返しながらレミリアに聞く。

 

「ロンドンの上空で。それじゃあ、また近いうちに」

 

 そう言い残すとレミリアはダイニングから出ていった。

 私は少々ポカンとしつつも、手元にある封筒に目を落とす。

 封筒に押された印を見る限り、こちらは正真正銘魔法試験局からのものだ。

 つまり、飛んでいるフクロウを捕まえて、無理矢理手紙をすり替えたのだろう。

 私は想像以上に手の込んでいたレミリアの悪戯に少々呆れつつも、見送りのためにレミリアの後を追った。

 

 

 

 

 レミリアが屋敷から帰ったあと、私は改めてOWLの結果をロンとハーマイオニーと一緒に確認した。

 結果としてはロンは一部の苦手科目以外はそこそこいい評価で、ハーマイオニーは闇の魔術に対する防衛術以外の教科が最も良い結果の『O(優)』だった。

 ハーマイオニーはその結果に満足しているのかいないのか、私の成績が書かれた紙をチラチラと見ながら唸り声を上げている。

 

「何をそんなに唸ってるのよ。ハーマイオニーも凄い良い結果じゃない」

 

「全部Oが取れてる親友が横にいなければこんなに唸ってないわ。そりゃ、私もそこそこいい結果だったのは確かだけど……」

 

「そこそこ? ハーマイオニー、Oより上は無いんだぜ? ハーマイオニーがそこそこだったら、僕の結果は鼻くそだよ」

 

 ロンがやってられないと言わんばかりに自分のフクロウの結果を放り投げる。

 

「でも、ロンも得意教科はしっかり『E(良)』が取れてるわけだし、別に言うほど悪いわけじゃないじゃない」

 

「そこは自分でも意外だと思ってる。特筆すべきは魔法薬学だな。あのスネイプの授業で『E(良)』が取れるなんて。でも、確かスネイプは『O(優)』以上の生徒しかNEWTは教えないんだろう? これでスネイプとはおさらばだ」

 

 ロンの後ろでは床に投げ捨てられたOWLの結果をモリーが拾っている。

 それを読んでいる表情を見る限りでは、モリー基準でもロンはそこまで成績が悪いというわけでもなさそうだ。

 

「あらまあ、よく頑張ったじゃない! 七科目合格だなんて、フレッドとジョージを合わせたより多いわ」

 

「そりゃどうも。お世話様」

 

 丁度厨房に入ってきたフレッドとジョージが少し不機嫌そうな顔でロンのフクロウの結果を覗き見る。

 

「おー、ロニー坊やは我ら側だと思っていたのに、こんなに酷い結果になるとは」

 

「酷い結果ってなんだよ! そんなこと言い出したらサクヤはどうなっちゃうんだ?」

 

 フレッドはモリーのほうから私のほうに移動すると、今度は私の結果を覗き込む。

 

「何言ってんだ? これ以上の良い結果はないだろ?」

 

「いや……もう、いい」

 

 真剣な表情を浮かべるフレッドに、ロンは大きなため息をついた。

 

「というか、フレッドとジョージも他人事じゃないだろ? NEWTの結果は?」

 

「魔法薬学と呪文学が『E(良)』、あとは語るまでも無いな。ジョージも似たようなもんだ」

 

「ああ、合格はその二つだけ。だが、我らにはNEWTより大切なことがあるんでね」

 

 そういえば、フレッドとジョージの二人はホグワーツを卒業したんだったか。

 

「聞いてなかったけど、二人はどこに就職するの?」

 

 私がそう尋ねると、フレッドとジョージは顔を見合わせて笑った。

 

「悪戯用品専門店、『ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ』。今年のクリスマスまでにダイアゴン横丁に店を出す予定だ」

 

「それじゃあ、本当に起業するのね」

 

「何をおっしゃる。もう起業済みさ。店を構えるまでは通信販売が主体になる」

 

 なるほど、その売り上げを使って店の準備を進めていくのだろう。

 何にしても、よくモリーが許したものだ。

 私がモリーに視線を向けると、モリーは諦めたと言わんばかりの顔をした。

 

「それは楽しみだわ。クリスマス休暇は何としても帰ってこないとね」

 

「おっと、通信販売でも買ってくれよ? クリスマスに店を出せるかどうかは売上次第なんだからな」

 

 フレッドとジョージは親指を立てると、また二階へと戻っていく。

 いや、あの様子では姿くらましを用いて隠れ穴へと帰ったのかもしれない。

 なんにしても、私にはあまり関係ないことか。

 私はOWLの結果を丸めてズボンのポケットに入れ、ダイニングを後にした。




設定や用語解説

OWL試験全て優(O)
 全く前例がないわけではなく、クラウチ・ジュニアなどは全科目を履修した上で全科目Oを取っていたりする。サクヤは履修している科目がそもそも少ない。

闇の魔術に対する防衛術だけOを取れないハーマイオニー
 実技が少し悪かった模様。

双子たちの悪戯用品専門店
 原作ではハリーが出資したためこの時点でダイアゴン横丁に店を出していたが、今作ではサクヤがお金にがめついため未だ資金不足で、通信販売に留まっている。

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