2021.03.14
# ナチズム

なぜナチズムは「国家社会主義」ではなく「国民社会主義」と訳すべきなのか

「訳語」はこんなに重要です
小野寺 拓也 プロフィール

こうした包摂と排除のダイナミクスこそが、ナチ体制の本質であった。大規模な軍拡によってたしかに多くの人びとは職を得ることができたが、そうした軍拡は来るべき戦争の準備に他ならなかった。ヒトラーが「民族共同体」の構築を目指したのは、ドイツ人を団結させることで、最終的には革命によって内部から崩壊していった第一次大戦の「失敗」を次の戦争では二度と繰り返さないためであった。

 

ナチズムにおける、独特の「社会主義」

ナチ党が政権を掌握した1933年に出版された『国民社会主義のABC』という小冊子には、次のように書かれている。

「なぜ私たちは自分たちを国民社会主義者と呼ぶのでしょうか?我々の敵は、言葉の片方〔国民〕ともう片方〔社会主義〕は逆の言葉なのだから、この概念はまったくもって馬鹿げている、などと主張しようとしています。ここで、アドルフ・ヒトラーの言葉に耳を傾けてみましょう。社会主義者であることなくして、真のナショナリストであることはできない。他方、ナショナリストであることなくして、真の社会主義者であることもできないのだ、と。ナショナリストであるということは、自分の民族をほかのどの民族よりも強く愛するということであり、他の民族に対して自民族が自己主張できるよう配慮することなのだ。だが、この民族が他に対して自己主張できるようにするためには、〔民族の〕あらゆる構成要素が健全であり、一人一人が、つまり〔民族〕全体が可能な限り順調であることを私は望まなければいけないし、そうなるよう配慮しなければならない。だから私は社会主義者でもあるのだ」。

ヒトラーにとってナショナリスト=国民主義者であるということと、社会主義者であるということはほぼ同義であった。「民族共同体」のために無条件に奉仕すること、そしてあらゆる「ドイツ人の敵」、とくにユダヤ人にたいして狂信的に戦うことが、ドイツ国民には求められたのである。

「民族共同体」によって国民の支持を取り付け、それによって「敵」に対する戦争や暴力を可能にすること。それがヒトラーの目指したものであった。

ナチズムの訳語が「国家社会主義」ではなく「国民(もしくは民族)社会主義」でなければいけない理由が、ここにある。

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