ナチズムは「国民」を優先する思想
第一に、「国家社会主義」という訳語は、「国家主導の社会主義体制」という、まったく別の内容を意味してしまうということだ。
「国家社会主義」という訳語に本来ふさわしいドイツ語は、Staatssozialismusである(Staat国家+Sozialismus社会主義)。これは、ソ連や東ドイツのように、国家権力によって生産手段を国有化する社会主義体制をさす。ナチズムに一定程度「社会主義」的な要素が含まれていたことは事実ではあるが、後で述べるように、ヒトラーやナチの言うところの「社会主義」はかなり特殊な意味合いを帯びていた。ナチズムを「国家社会主義」と訳してしまうと、ナチとは本質的に異なる政治体制を一緒くたにしてしまうことになる。
第二に、「国家社会主義」という訳語は、ナチズムの本質を見誤っているということだ。
これについては、ナチズム研究の第一人者である石田勇治が的確に指摘している。
「ナチズムは国家ではなく、国民・民族を優先する思想です。国家はヒトラーにとって、国民・民族に仕える道具でしかないのです。したがってナチズム、ナチ党の訳語は、国民社会主義、国民社会主義ドイツ労働者党とするのが、原意を正しく表していてよいと思います」(長谷部恭男・石田勇治『ナチスの「手口」と緊急事態条項』集英社新書、2017年、86ページ)。
外国語の概念にどのような訳語を当てるかということは、その概念をどのように理解すべきかという問題と切り離せない。
名は体を表す。
何かの外国語に訳語を当てるとき、「その意味内容を私たちはどのように理解しているのか」がつねに問われているのである。