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代官として~統治と軍務~
――115――

 翌日からはぱたっとお茶会の招待状とかは来なくなった。左遷される奴に用はないという事なのか、赴任までの手間を知ってるから遠慮してくれたのかはわからない。正直うるさくなくて有り難い。

 父によると俺がアンハイムに赴任している間、勇者(マゼル)の家族を預かりたいと言い出した馬鹿貴族が釣れたりもしたらしい。対応は父が引き受けてくれたんで後は知らんがそういう奴もいるだろう。王家はそのあたりも狙ってたのかもしれん。

 そして現在、先日のリリーのと言うかバッヘム伯やレスラトガの問題に関する関係者への報告を受けている最中である。もっとも王太子殿下たちは忙しいらしく、俺の執務室に役人が来て個別に報告してくれている格好だ。


 「まずは先日の件でのお働きに関して、子爵にはお褒めのお言葉を預かっております」

 「ありがとうございます」


 形式論かと思ったがどうも違うらしい。この一件でヴァイン王国は外交的に有利になるという事だ。ちなみに相手が役人でも国から説明に来た使者と言う扱いになるんで、向こうは俺の地位に対して、俺の方は相手の役目に対して敬語。

 とは言え公的報告というよりも情報共有のため連絡しておく、という程度なのでそこはお互い軽い礼儀だ。


 「何分、我が国の王都内部に魔物が潜入していたなどというのは外交的に恥でしたが、レスラトガでも同様であることが判明いたしましたので」

 「ああ、なるほど……ってレスラトガでもですか」


 前半に頷いたが後半には驚いた表情を浮かべてしまう。どうしても俺の思考はゲームとしての知識とこの国の貴族としての立場に引きずられるが、他国には他国での動きがいろいろあるんだろうな。


 「レスラトガは現在、内部で第一王子と第二王子が後継者をめぐって抗争中でして」

 「ほう」


 ヴァイン王国(がいこく)でも評判になるほどなのか。うーん。ゲーム中にはそんな話はなかった。と言うか確かあの国、ゲームだと王様しか出てきていなかったんだが王子が二人もいたのか。このあたりゲームに貴族が出てこなかったのと同じなのかな。


 「第二王子の側近であったものが魔族で、本件の裏で糸を引いていたそうです。第一王子派から非公式にですが感謝の意を伝えられました」


 ヴァイン王国に赴任していた大使は第一王子派だったらしい。大使はマゼルの家族が拉致された後の責任を押し付けられるところだったということになるのだろう。

 第二王子とやらは家族を人質にしてマゼルを自分の部下に加えようとでもそそのかされたんだろうか。一発逆転を狙うぐらいに追い詰められているのかもしれないな。その辺詳しく知ってもどうにもならんが。


 しかしヴァイン王国だけでなかったとなると、レスラトガ以外の国でも当然同じように魔族が潜り込んでいるような事態は考えられる。あ、外交的に恥でしたって過去形なのはそういう事か。


 「ヴァイン王国は既に内部の魔族は排除済みだが、貴国ではどうか? と問えるという事ですか」

 「そうなります。大きな声ではありませんでしたが、今までは我が国は王都に魔族の侵入を許したと影で笑われておりました。それがレスラトガでは王族の側近にさえ入り込んでいたことで、魔族の排除手段を提供して差し上げよう、と方法(ノウハウ)を教える側に回れる事になります」


 俺みたいな自国の貴族相手とはいえ、随分露骨な言い方だな。外交に関わる立場が高いか、そういう人と普段から接している印象がある。この人、ただの役人じゃないな。役人でも上の方か、ひょっとすると貴族の側近あたりかもしれない。

 相手の立場が分からないからあまり手の内を見せるのはやめよう。不自然にならない程度に話を少しそらすことにする。


 「ラフェドと名乗った商人も第二王子派ですか」

 「ええ、そうなります。もっとも、魔族が立てた計画だとは知らなかったと泣いて縋りついてきましたが」


 ふむ。第二王子はリリーたちを人質にマゼルを部下に加えようとするつもりだった。ところがそれを計画した魔族は、実は途中でマゼルの家族を搔っ攫おうとしていたという流れになるのか。レスラトガの城壁外にいた魔物はその要員だったわけだな。

 そうなるとこれでライバルが自滅した第一王子が後継者として地歩を固めることになるだろう。一方、第二王子とは言え王族が魔族に踊らされたレスラトガに対し、我が国は外交関係を有利に進められる。関税か何かをネタに交渉していそうだ。それ以外の国との関係もあるだろうし、そりゃ確かに外交担当や王太子殿下は忙しかろう。


 「わが国のバッヘム伯はどのような意図で他国に協力を?」

 「それが何とも」


 苦笑された。微妙に同情交じりなのは何だ。


 「いささか複雑なのですが、バッヘム伯爵はもともと子爵家から婿入りしており、現在の奥方は後妻でして」

 「はあ」

 「先代伯爵の娘であった先妻との関係はとても良かったらしいのですが、先妻が病没後に後妻に入った今の奥方との関係は非常によろしくなく」


 後妻の方はなんと先代伯爵の妹なんだそうだ。それ、奥さんの方がかなり年上になるんじゃ。家付きで年上の奥さんと爵位が下の家から婿入りした年下の旦那。うわ立場弱そう。


 「バッヘム伯の長男が先妻の子、次男が今の奥方との子になるのですが、今の奥方は次期伯爵は自分の子だと主張し、夫にもそれを認めるようにと日々迫っていた様子で」

 「まあ……よくある話ですね」


 こっちもお家騒動絡みか。って言うかその次男、本当に伯爵の実子ですか。この世界、DNA型鑑定とかないからなあ。


 「耐えかねたバッヘム伯は領地を離れ、長男と王都に長期滞在しながら、奥方が“病死”か“事故死”してくれることを望んでいたところで、あのラフェドという男と知り合ったそうです」


 ヴァイン王国内部での協力者を探していたラフェドの方から近づいたんだろうな。奴は商人と名乗っていたらしいが、毒物にも詳しかったようだ。そういえば奴の部下が痺れ薬とか持ってたな。


 「勇者殿の家族をレスラトガに引き渡す代わりに、バッヘム伯の奥方が“病死”する手はずになっていたようですな」


 思わず脱力。理由それかよ。そりゃ陛下も怒るわ。いや伯爵本人は相当奥方殿に追い詰められていたのかもしれんが。案外、奥方に自分と長男の命を狙われたりしていたのかもしれない。貴族家って裏側ドロドロしてることも多いからなあ。

 どっちにしてもこっちを巻き込むなとは言いたいが。


 「陛下には『魔将と互角に戦える勇者は危険な存在で、自分は国の為に勇者を他国に追い出し、かつ相手の国に政争の種をまこうとしていたのです』と弁明しておりました」

 「陛下は何と?」


 うん、ポーカーフェイスもうまくいったと思うし声も平静だったはずだ。やっぱりこういう事を言い出す奴も出てきたか。

 とは言えバッヘム伯の場合はただの言い訳だし、これを受け入れたら王家が勇者をそう見ていますと宣言してしまうようなものだ。国がその言い訳を受け入れるはずもなく、むしろ悪手だろそれ。


 「『卿が勝手に勇者を危険視したことが、他国の人間と組んで我が国の民を拉致する理由になるか』と酷くお怒りになられ、“鼠の穴”に入れるようにと」

 「あー……」


 同情する気はないが何というか哀れには思おう。


 牢獄と言われて連想するのは、広めの部屋サイズで三方が石壁、廊下に面した側が鉄格子になっている奴だろうか。中に多人数ぶち込んでおく程度には広いイメージもあるだろう。実際そういうのが一般的だ。

 一方、貴族が入牢させられる場合、窓とかに鉄格子はあるが、まあほとんど個室と変わらない特別室があったり、一方で壁や床に手枷足枷のついた鎖が埋め込まれていて、終日そこに繋がれるようなきつい牢獄ももちろんある。が、“鼠の穴”は別格。


 あれは特に重罪犯を入れるための場所で、前世のサイズで言うと高さがせいぜい一メートルちょっと、横幅四〇センチ、奥行き六〇センチぐらい。文字通り周囲を石壁に囲まれた横穴で、扉というか厚い板で出入り口をふさがれる。

 サイズから想像できると思うが、大人が入れられた場合、立ち上がるのも無理だし横にもなれない。壁に寄りかかって座ってるしかなく、寝るのも食事もその姿勢。明かりもないんで夜は真っ暗だしついでにトイレもない。

 前世の知識でいえば入れられたら最後、PTSD間違いなしって所だ。貴族がそんなところに放り込まれたら壁に頭打ち付けて“事故死”したりしないかね。


 「長男も別の牢に。また奥方と次男も捕縛のため兵が動いております。バッヘム伯領も王室預かりとなりました」

 「なるほど。状況は理解できました。……ご連絡とご説明ありがとうございます」


 実際事情は分かったし、これ以上は俺がかかわるべきじゃない。法務とかそちらの仕事だ。丁寧にお礼を言ってお帰りいただく事にした。


 その後一息。やはりというかマゼルに関してそういう事を持ち出す奴が出てきたか。

 しかし事情が事情とはいえ国王陛下が公然とマゼルを危険視する考えを否定してくれたのはありがたい。言い方は悪いがこれは利用させてもらえそうな発言だな。

※鼠の穴と呼ばれていた独房は実在します。サイズもほぼ作中の記述通り。

 ファンタジー小説であんまり出てこないのは、救出したら汚物まみれになっていた、

 だと格好がつかないからでしょうか

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