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一つ息をついてクールダウン。防衛戦はともかく、まずその前段階の問題だ。俺ばっかり苦労するのは不公平だからセイファート将爵経由で国に遠慮なく欲しいものをねだらせてもらおう。
「さしあたって人を何人か貸していただきたく」
「人かね」
将爵が面白そうな目を向けてきておられまする。この人ほんとは俺で遊んでないか?
「私には代官としての経験が足りなすぎます。代官としての補佐役が絶対に必要なので」
という表現にしてあるが、本心はもちろん違う。現地の地方役人が、左遷されたようにしか見えず、しかも学校を卒業していない年齢の代官の指示を素直に聞くか、というとまず聞かない。当たり前だ。俺だって逆の立場なら聞く気にならん。
もちろん国所属の代官付き下級役人はついて来るが、そういった人たちだってあんな地域じゃあ、仕事だからしょうがなくついて行くってだけの役人が多いだろう。どう考えたって俺より年上ばっかりで、やる気は微妙な集団になるのは避けられない。
だから俺じゃなくてもっと偉い人が裏でお前たちの働きを監視してますよ、という体裁を作る。俺自身、行政面での経験がほとんどないのは確かだけど。
「それは儂の部下ではない方がよさそうじゃな。よかろう。話を付けておこう」
将爵はあくまでも武門の人だしなあ。確かに、他の人から借りた方が説得力はありそうだ。
「お願いします。それと、現役は引退していても結構なので兵を指導できる教官役を何人かお願いしたいのですが」
「ふむ、なるほどの」
中世と言うかこの世界は中世風だが、ともかく中世ごろだとまだ農業改革も途中だし、靴一つとっても職人の手作業だ。人口も多くないから兵が減ったら補充が大変。装備を整えるのも一苦労。露骨に言えば兵士一人の価値が近代戦とは違う。
この世界、相手を捕まえて身代金を請求するのが普通になったのも人的資源はどの国でも惜しいからだ。対外国戦の場合は命じゃなく金で済ませましょうと、どの国にも暗黙の了解があると言ってもいいのか。下手な和平条約より有効なのかもしれん。
それはともかく、そういう世界だから兵士に求められる水準も異なる。前世の古代から中世にかけて、兵士の件でしばしば例に出されるのはカエサルの軍団がやった逸話だろう。
ある戦いでカエサルと敵軍が距離を取って布陣し、カエサルの突撃命令が出た。カエサル軍は敵に向かって走り出したが、敵軍はその場に留まって動かない。走ってくるカエサル軍を待って隊列が乱れたところで戦おうとしたわけだ。
だがそれを見たカエサル軍の兵士たちは、誰に命じられるまでもなく途中で足を止め、自分たちの判断で隊列と呼吸を整え、万全の状態を作ってから再び突撃を再開し、予想外の事態に動揺している敵軍に突っ込んだという話。
要するに兵士に求められているのは「攻撃という命令を理解」したうえで「現場で最善の方法を自分で選べる」能力ということになる。命令違反は論外として、突撃命令が出たんで突撃だけしました、では軍としては二流。
この場合、カエサル軍を待てと総大将に命じられて、ただ待っていた敵軍の兵士と前線指揮官も二流ということになるな。低い方を見てもしょうがないか。
問題は俺の方がまだ学生で訓練カリキュラムを受ける側だったという事だ。今の俺が直接指導したら二流の兵士を育てる自信すらない。できないことを自分で無理をしたってうまくいくはずもないし、正直そんなことをする余裕もない。
という訳でできそうな人を招聘して丸投げする。防衛戦だから騎士より兵士の訓練の方が重要。そして目の前にいるのは前・王都防衛司令官職と言える地位にいた人物だ。防衛戦の戦力を育成する経験はこの国の誰よりも豊富だろうからな。
「承知した。何人か見繕っておくことにしよう」
「ありがとうございます」
消費物資量の請求とかは現場に行かないとわからんのでここでは何も言わない。むしろ何が足りないかを把握し補佐してくれる人材の方が重要だ。だから人だけ準備してもらう。それと、いくつか話しておかないといけないな。
「それとは別のお願いがありまして」
「何かね」
「一つは王都の防衛体制の強化を」
俺がいない間にも王都の防衛能力を向上させてほしい。実のところ、装備の件もそうだが、道の修繕整備もいざと言う時の市民の避難誘導や城内戦力の円滑な移動の下準備を兼ねて提案していた面がある。
けどむしろある程度説明をしておけば、別の理由を付けて提案するのと違って丸投げできる分、俺がやるより効率的に進められるかもしれない。
「なぜそう思ったのかね」
「まず第一に王都に侵入していた魔族の目的が不明です」
これに関しては本当にそうなんだよな。奴らの
けど現状、情報不足で相手の目的が何だったのかまったくわからん。なのでわからないことを理由にする。
「ただ、あそこまでしてでも王都の内側に入り込む策謀を巡らせる理由があるはずです。一度失敗したから諦めるというのも可能性としては低いのではないかと」
「なるほど」
「内側からの攻撃に失敗したので次は外から正攻法、は短絡的すぎるかもしれませんが、もともと魔軍は数と力任せが多いのも事実です」
「ゆえに再度の敵襲の可能性か。確かに、それは考えられるの」
あっさりと納得されたことに少しだけ疑念が生じた。ひょっとして国の上層部、あるいは王周辺は魔軍に狙われる
少なくとも俺には解らないが、再度襲われる可能性があると理解しているように思える。だがそれが国家機密であるとすれば俺がどうこう言う訳にもいかないか。ゲームだと主人公にも伝えない国家機密。下手に首突っ込むのは悪手だな。
知らぬが仏と思って流しておこう。
「それと、マゼルの家族について一層のご配慮をお願いします」
「それも当然じゃな。わかった」
これは俺が言うまでもないけどな。何かあったらそれこそ国の面子もたたんし
「提案書は後日提出しますが、提案以外にも順次ご相談させていただきたいと思いますので」
「うむ。楽しみにしておこう」
楽しむなよと言っていいですかね。こっちは胃が痛いのに。肉が胃もたれしそう。
午前は陛下御臨席での論功行賞、昼は将爵との会食を経て午後は王城の中で済む挨拶回りを済ませる。冒険者ギルド、傭兵ギルド、更にはベルトの爺さんにも挨拶と礼をしなきゃならんがそれは王城での仕事が終わってからだ。体が二つ欲しい。
旧クナープ侯爵領は大きく三つに分割されてそれぞれに代官が置かれることになった。侯爵領内に規模の差はあるが都市が三つあったんで、都市を中心に分けたとも言える。うち一つが俺で、旧トライオットとの国境に最も近い。
残り二つのうち旧クナープ侯爵領の中心都市地域には、ヴェリーザ砦の作戦で顔見知りのグレルマン子爵が配属されている。グレルマン子爵はヴェリーザ砦の時に主将だったシャンデール伯爵の補佐役で、伯爵は王太子殿下の信任厚い側近。
という事は王太子派の人なんで、好意的に見ればこの人は俺のバックアップ要員と考えてもいいんじゃないかなあと思う事にする。監視役と思うと顔に出るから善意に捉える。胃が痛い。
もう一人はツァーベル男爵という人で正直どんな人かは知らん。この二人にも今日のうちに挨拶に行っておかないといけないな。
とりあえず派遣されるアンハイム地方に関する必要書類を見せてもらうことにして重い本を預かる。こういう時は前世の紙が懐かしい。羊皮紙とか魔皮紙とかって重いんだよ。一枚一枚ならそれほどの差はないが、百枚二百枚になると差は無視できない。
ちなみに前世の中世でも同じような形式の時代があったが、この世界でも公文書はその頃と同じ書き方をしている。まずでかい紙、面倒なんで紙という表現に纏めさせてもらうがとにかく大きい紙を用意し、真ん中から折る。
折り目の左右に全く同じ文言を二度書き、左右それぞれに担当者や責任者が署名し、必要なら立会人も両方に名前を書く。そしてこれを真ん中から裁断する。同じ文言が書かれている片方が正本、片方が写しになる。
この際、裁断は直線ではなくわざとギザギザになるように切る。もし裁判などの問題が起きたら、まず正本と写しを合わせるわけだ。裁断面がぴったり合わなかったら書類そのものが偽造されたことになる。割符と発想は同じだ。
これがSLGとかなら移動コマンド一発で現地に移動してすぐ仕事が始まるんだろうが、現実だとそうもいかない。そもそもクナープ侯爵の方が大変だ。移領する際に持って行く資材と残っている資材とかのリストが必要になる。
なにせ王家直轄地になるからごまかしたりするとそれ自体が罪になってしまう。だから某都市に備蓄してある矢が何千本で、そのうち何割を新領に持ち出し、何割は都市に残すとかを記録に残さなきゃならない。
食料品、医薬品、武器、その他備品、例えば館で使う蝋燭の本数とか、城壁工事用の工具とか、ありとあらゆるものを全部確認してリスト化するんだ。移動する側の準備がまず必要。引継ぎも考えると俺の出発も十日近く後になるだろう。
つまり現時点では俺の方も書類を頭に入れるというより、どんな書類が王都に写しとして存在しているかを把握しておく、という程度にならざるを得ない。何が残っているかわからないんだから何が足りないのかもわからない。
何でもうほんとこんな面倒なことになったんだか。
愚痴を言いながら資料を斜め読みしているとふと妙な記録が目にとまった。あれこれ意外と使えるんじゃね。向こうに行くまでに時間もあるし準備しておくか。
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