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夕刻になってひとまず俺の仕事は一段落。俺にできることがないかを確認して城から下ることにする。今日は荷物持ちをやってもらった関係で朝から一緒だったノイラートとシュンツェルもだ。
ちなみに大臣である父は家紋入りの馬車だが俺は徒歩。俺はそのほうが気楽だというのもあるが、貴族の馬車ってのは意外と頑丈にできているんで、前世の装甲安全車両的な役割を持っている。大臣である父には必須。
前世でも壁面に丈夫な樫の木の板を使ってたりしたが、この世界だと魔物の素材まで使っていたりしているんで更に丈夫だ。窓ガラスは高価さのアピールだが、雨戸を下ろせば下手な弓矢ぐらいじゃ中に貫通しなくなる。窓がない奴も多いけど。
逆に完全に儀典用の奴は雨戸は初めからついてないが、そういうのを使う時は周囲に警備の騎士とかが付いているから基本的には問題ない。この世界、銃はないしな。
余談だが前世だと帝政ローマの頃には既にバネを使った馬車があってそれは乗り心地もよかったんだが、中世暗黒時代にそれらの技術はばっさり途絶えた。
まあそれは大体暗黒時代の教会関係者が「苦労(努力ではない)する事こそが神の御心に従うことだ」とか言い出したのとそれを真に受けた当時の支配者層が悪い。そのせいで医学まで停滞・後退したんだから人類史上で言えばとんだ迷惑であるとさえ言える。権力者が間違えると怖いな。
そんなことを考えつつ歩いていたら向こうから見覚えのある顔が近づいて来た。たしか難民対策の際に雇った
「お久しぶりですね、子爵」
「おう、元気そうで何より」
何事もないと言うかごくありふれた挨拶で応じる。だがわざわざ声をかけるぐらいだ、何かあるんだろ、と問いかける表情を浮かべると、その男が口を開いて小声で言ってきた。
「ベルトの爺さんから伝言ですぜ」
「……お前さんもそうだったのか」
あれ、ひょっとしてあの
「飲みながら聞こうか。奢るぞ」
「遠慮なくいただきましょう」
ノイラートやシュンツェルもついて来るように合図をすると、手近な酒場に入る。少しチップをはずんで奥まった席を用意してもらい、全員分の酒と肴を注文した。
「手慣れてますねえ」
「学生時代はよく脱走して飲んだからな」
反射的にそう応じたけど、あれ俺現役の学生じゃなかったっけ。悲しくなるからその辺考えるのやめよう。酒が出たんでとりあえず格好だけ乾杯。豆モドキを口に放り込む。これも確か植物系魔物から取れる素材だと聞いた気がする。見た目はピーナッツなのに味はコーンに近いという頭の中身が混乱しそうな代物だ。もっともそれはそういう記憶のある俺だけだろうけど。
「それで?」
豆モドキをかみ砕いて酒を一口だけ飲み、流し込んでから問いかけたら意外な言葉が返ってきた。
「お探しの男、死体が見つかりましたぜ」
「……ピュックラーの死体だと?」
さすがに小声になりつつ確認のために名前まで上げたらノイラートとシュンツェルがぎょっとした顔を見合わせた。あの時、口では死体でもいいとは言ったが、実際に死体が見つかったとなると想定外だ。
「詳しく教えてくれ」
「もちろんでさあ」
その死体は服と言うより襤褸布だけを纏い、ほぼ全身傷だらけだったのだという。
「変な傷も多かったそうですがね。治りかけていたりとか」
「ふーむ」
内心で文句言っているうちにも説明は続いている。裸足だったり何も持っていなかったりとある意味で行き倒れに見えるような姿だったらしいが、致命傷と言えるのは胸元を抉り出したような穴であったそうだ。
「あな?」
「ええ、しかもその傷がどうにも不自然でしてね」
思わず棒読みで繰り返すと、さらに説明が加えられた。まるで自分から何かを抉り出したように手に流血の跡が続いていたのだという。まさか。
「その手には何か握っていたりしたのか?」
「いいえ、何にも。もっとも死体の状況からすると死後直後って感じでもなかったそうですんで、何か持っていたとしても誰かが持ち逃げしたかもしれやせんね」
自分であの黒い宝石を抉り出したのか。そして死体を発見した誰かがあの黒い宝石に魅入られたと考えていいのだろう。そうやって肉体を取り換えたのか。そんな真似までできるとは思わなかった。ちょっと見通しが甘かったかもしれん。
しかしそうなるともう跡を追うのは難しいだろう。まだどこかに潜んでいるのか、それとも新しい肉体で既に城外に逃亡したのか。ダメだ可能性が広すぎる。
「ヴェルナー様、これは」
「ああ、そうだな。シュンツェル。悪いが今から父に」
とまで言ったところで男が声をかけてきた。
「子爵様、ちょっとお待ちを。もう一つ話があるんですがね」
「よし、聞こう」
手だけでシュンツェルを留めて躊躇なくそう言ったせいか、相手に妙な顔をされた。いや呼び止めたのそっちだろうが。
「疑わないんですかい」
「このタイミングでガセネタ持ち込むとは思わねぇよ」
そういう疑問かと納得したんでそれには意図的に荒い口調で応じる。貴族らしさよりこっちのほうがいいだろうという判断だ。男が苦笑した。
「まあ、確かにそうですがね。そんじゃあ話しますが……」
男の話す内容を聞いて、思わず憮然とした顔を浮かべてしまった。なるほど、そうきたわけね。こりゃすぐにでも各所に相談する内容だな。だがひとまずは。
「シュンツェル、悪いがここまでの話を父に伝えてきてくれ」
「承知いたしました」
「ノイラートは先にツェアフェルト邸に行って父の執事であるノルベルトに今の事を伝えてほしい。もしノルベルトがいなければフレンセンに伝言だ」
「はっ。ヴェルナー様は」
「俺は冒険者ギルドと傭兵ギルドに寄ってから戻る。戻ったら父たちを交えて打合せをするが、二人には明日内容を伝える」
「解りました」
この忙しいときにやること増やしてくれやがって。とりあえず相手に遠慮してやる義理はないよな。
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