P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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今作も三年目に突入しました。全体の進捗としては半分ほどですかね。なのであと二年は続くと思います。お付き合いのほどよろしくお願いします。


マグカップと峠と私

 ヴォルデモートに報告を終えた私はホグワーツの制服から普段着に着替え、階段を下りて厨房に戻る。

 するとそこには今にも屋敷を飛び出しそうな様子のフレッドとジョージの姿があった。

 

「もう親父は聖マンゴに運び込まれているんだろう? だったら今すぐにでも行かなきゃ。俺たちは親父の息子だ」

 

 フレッドの言いたいことも分かるが、そういうわけにもいかない。

 もしそれが許されるならダンブルドアは私たちを直接聖マンゴに送り込んでいたはずだ。

 

「フレッド、気持ちはわかるけど今すぐってわけにはいかないわ。ダンブルドア先生が何故聖マンゴでなく騎士団の本部に私たちを送ったかわかる?」

 

「そりゃ……」

 

 フレッドは無言になって考えるが、すぐに答えは出てこない様子だ。

 私はフレッドだけでなく、この場にいる全員に言い聞かせるように言った。

 

「アーサーさんは騎士団の任務中に負傷した。そのことだけでも怪しいのよ。何百キロも離れた位置にいるハリーがそれを知っているというのは怪しいどころの話じゃないわ。私たちが聖マンゴに行くのは、少なくとも今じゃない。せめて聖マンゴからモリーさんに連絡がいくまでは待つべきよ」

 

「そりゃ、そうかもしれないけどよ……」

 

 フレッドは納得がいかないと言わんばかりに椅子に座り込む。

 

「それに、さっき使った移動キーも合法に申請を出して作ったものではないわ。私たちはまだここに居るはずがない人間。そんな私たちがいきなり聖マンゴに現れたら、厄介なことになるのは目に見えてる」

 

「だけど……生きた親父に会えるのはもしかしたら最後になるかもしれないんだぞ?」

 

 ジョージが消え入りそうな声で言う。

 それを聞いてジニーが一層泣きそうな顔になった。

 

「それは……確かに。その可能性は十分ある。でも、アーサーさんはその覚悟を持って任務に就いていたはずよ」

 

「任務がなんだってんだ。くそっ……俺たちはそんな覚悟してねえぞ」

 

 フレッドは力任せにマグカップを机に打ち付けた。

 

「なんにしても、そのうち他の騎士団員がここにやってくるはずよ。私も一応騎士団員ではあるけど、長時間子供たちだけで放置しておくとは思えない」

 

 ダンブルドアのことだから信頼のおける騎士団員をここに向かわせているはずだ。

 私の役割はその騎士団員が到着するまで誰もここから出さないことだろう。

 

 

 

 

 私の予想通り、それから一時間も経たないうちに魔法省勤務のシャックルボルトが厨房に現れた。

 

「全員無事だな?」

 

 シャックルボルトは開口一番にそう言うと、厨房の中を見回す。

 フレッドとジョージはシャックルボルトの姿を見た途端、椅子から立ち上がりシャックルボルトに詰め寄った。

 

「親父は!? 無事なのか?」

 

「待て。私はダンブルドアからの指示で直接ここを訪れている。詳しいことは何一つわからない」

 

 私はクリーチャーに温かい紅茶を淹れるように指示する。

 シャックルボルトは私たちの護衛役としてここにやってきたのだろう。

 

「お早い到着で、シャックルボルトさん。ダンブルドア先生から事情はどこまで?」

 

「アーサーが怪我をしたということと、本部に子供たちがいるということ以外は何の説明も受けていない」

 

「それはそれは、お疲れ様です」

 

 私はシャックルボルトに席を勧めると、その対面に座り今までの経緯をシャックルボルトに話して聞かせる。

 シャックルボルトはクリーチャーの用意した紅茶を一口飲むと、安堵のため息を吐きながら言った。

 

「事情はよくわかった。よく我慢してここに留まってくれたな。アーサーも立派な息子たちを持って鼻が高いだろう」

 

「なんにしても、シャックルボルトさんがくれば一安心ですね。私だけでは不安が残りましたので」

 

 私がそう言うと、シャックルボルトは不敵に笑った。

 

「魔法の実力を買われて不死鳥の騎士団入りした天才少女がよく言うよ。一対一なら誰にも負けない、ぐらいの自信はあるのだろう?」

 

「それはそれ、これはこれです」

 

 その時、厨房の中央に突然大きな火柱が上がる。

 私は反射的に杖を構えたが、すぐにそれがダンブルドアのペットである不死鳥のフォークスだということが分かった。

 フォークスは羊皮紙を机の上に落とすと、すぐさま燃え上がり厨房から姿を消す。

 私は羊皮紙を拾い上げ、シャックルボルトに手渡した。

 

「ダンブルドアからでしょうか」

 

「いや、ダンブルドアの筆跡ではない。きっとモリーからだ」

 

 シャックルボルトは羊皮紙を机の上に広げる。

 先程までふさぎ込んでいたウィーズリーの子供たちがこぞって羊皮紙を覗き込んだ。

 

『お父様はまだ生きています。母さんはこれから聖マンゴに行くところです。できるだけ早く知らせを送りますのでじっとしているのですよ。ママより』

 

「まだ生きてる……」

 

 ジョージが皆の顔を見回す。

 

「だけど、まるでそれじゃ……」

 

 いつ死んでもおかしくはない。

 誰も口にはしなかったが、誰もがそう理解した。

 

「なんにしても、モリーさんから知らせが来るまではここでじっとしている方がいいわね。シャックルボルトさん、交代で仮眠を取りましょう。貴方は明日も魔法省に出勤しなければならないでしょう?」

 

「こんな状況だからこそ、か。そうだな。子供たちは私が見ているから君は少し寝てくるといい。他の皆も少し寝たほうがいい」

 

 私はポケットの中から懐中時計を取り出し、今の時間を確認する。

 

「そういうことでしたら、二時間ほど仮眠をとってきます。他の皆も、夏休みの時と同じように部屋は空けてあるからベッドは自由に使ってちょうだい」

 

 私はそう言い残すと階段を上り自分のベッドのある部屋に入る。

 あの様子じゃ、子供たちは誰も寝ようとはしないだろう。

 だとしたら護衛の立場である私とシャックルボルトははっきりとした意識を保持したままの方がいい。

 私はしばらくぶりの自分のベッドに潜り込むと、二時間後に目が覚めるように意識しながら眠りについた。

 

 

 

 外が明るくなり始める時間帯になった頃、モリーが厨房の扉を開けて入ってきた。

 みな疲れ切った顔を一斉に上げ椅子から立ち上がろうとしたとき、モリーが力なく微笑む。

 

「大丈夫ですよ。お父さまは無事です。あとでみんなで面会に行きましょう」

 

 皆それを聞いて安心したように表情を緩める。

 モリーは厨房内を見回すと、不思議そうな顔をした。

 

「あら、キングズリーが来ていると聞いていたのだけれど」

 

「ああ、彼なら私と交代で仮眠を取っています。モリーさんが来たので今から起こしに行こうかと思っていたのですが……」

 

「そう、それじゃあお願いするわ」

 

 私はモリーさんの横を通り過ぎ、二階に上がってシャックルボルトの寝ている部屋の扉を叩く。

 すると数秒もしないうちにシャックルボルトが部屋の扉を開けた。

 

「何かあったか?」

 

「モリーさんがこちらへ到着しました。アーサーさんは峠は越えたそうです」

 

 私がそう伝えるとシャックルボルトは深く安堵の息を吐く。

 

「そうか。それは良かった」

 

 私はシャックルボルトと一緒に厨房へと下りる。

 厨房ではクリーチャーがモリーに簡単な朝食を振る舞っているところだった。

 

「モリー、アーサーの容態は?」

 

 シャックルボルトがモリーに聞くと、モリーは落ち着いた様子で答える。

 

「処置が早かったおかげで命に別状はないそうです。でも、発見が遅れたらどうなっていたか……」

 

「そうか、無事なようで何よりだ」

 

「ダンブルドアから伝言を預かっています。お昼にはトンクスとアラスターがこちらに来るそうです。キングズリー、貴方はいつも通り魔法省に出勤するようにと」

 

 モリーの言葉に、シャックルボルトは時計を確認する。

 

「そうか。それなら私は一度自宅に戻ろう」

 

 シャックルボルトはバチンと音を立てて厨房から姿をくらます。

 私はそれを見送ったあと、改めてモリーに声をかけた。

 

「命に別状がないようで何よりです。お見舞いは今日のお昼から?」

 

「ええ、その予定よ。今から行ってもまだ寝てるだろうし。それに、向こうにビルを残しているわ。何かあったらすぐに連絡がくるはず」

 

「それじゃあ、それまでに子供たちはしっかり睡眠を取らせたほうがいいですね。モリーさんも少し休んでください。起きる頃には昼食が出来上がっているようにクリーチャーには指示しておきますので」

 

 私はシャックルボルトと交代で仮眠を取っていたためそこまで眠たくはない。

 そのうちやってくるであろうトンクスとムーディの受け入れは私が行うことにしよう。

 モリーは私に対してお礼を言うと、子供たちを引き連れて二階へと上がっていく。

 私は欠伸を噛み殺すと、台所で洗い物をしているクリーチャーに声をかけた。

 

「いきなりで悪かったわね。昼食の準備も任せたいのだけれど……そもそも食材がないか」

 

 本来私が帰ってくるのはもう少し後だ。

 クリーチャーもそれに合わせて食材の買い出しに出ようとしていたはずである。

 

「あと二時間も経てば店も開き始めます。昼食までには必ず間に合わせます。クリスマスはこちらで過ごされるご予定で?」

 

「ええ。それに、この様子じゃウィーズリー一家とハリー、もしかしたらハーマイオニーもここでクリスマスを過ごすことになるかもしれないわ。お金は渡すから多めに食材を買い込んでおいて頂戴」

 

 私はいつも使っている鞄の中から同じデザインの鞄を引っ張り出す。

 この鞄は二年生の時にロックハートとの個人授業で作ったものだ。

 いつも使っている鞄と違い、こちらの鞄には普通の拡大呪文しか掛かっていない。

 中に広がる空間もせいぜい部屋一つ分程度だ。

 

「この鞄を貴方にあげるわ。自由に使って」

 

 クリーチャーは私から鞄を受け取ると、中を開いて目を丸くする。

 

「こんな上等な魔法のかかったものは受け取れません!」

 

「でも、必要でしょう? それにこの鞄は私が自分で魔法をかけたものだからそんなに良いものでもないわ」

 

 クリーチャーは目をパチクリさせると、屋敷しもべ妖精には少々不釣り合いな大きさの鞄を抱えたまま深くお辞儀をした。

 

「ありがとうございます。お嬢様」

 

「いいのよ。貴方には苦労をかけてるし。それじゃあ、買い出しと昼食をよろしくね。私はトンクスとムーディが来るまで自分の部屋にいるから」

 

 私はクリーチャーにヒラヒラと手を振ると、階段を上り自分の部屋へと入る。

 

「そういえば、私は着替えとか全部鞄の中に入ってるから大丈夫だけど、ハリーやロンは手ぶらで、しかもパジャマよね? 大丈夫なのかしら」

 

 まあその辺は魔法界だ。

 多分そのうちトランクごとこの屋敷に届くだろう。

 私は自分の部屋の椅子に腰掛けると改めて部屋の中を見回す。

 当初は寝室と書斎を別にしていたが、騎士団の本部として使う都合上、今はこの部屋にベッドから何まで置かれている。

 部屋の中には書斎机に肘掛け付きの椅子、本棚に、部屋の隅には調合台が置かれている。

 この調合台は授業で習わないような複雑な魔法薬も調合できる本格的なもので、魔法薬の専門家でなければ使わないような代物だ。

 

「なんというか、これだけ完全にオーバースペックな代物よね。過去にブラック家に魔法薬のスペシャリストでもいたのかしら」

 

 授業で習う範囲なら大鍋が一つあれば十分だ。

 しかも調合台を見るに、相当使い込まれている。

 つまり金持ちが見栄を張って買っただけではないということだ。

 

「まあ、現状こんな高度な調合台を使うような魔法薬を調合する予定はないわけだし。もうしばらく埃を被っててもらいましょうか」

 

 私は椅子に座ったまま大きく伸びをすると、鞄の中から本を取り出し、トンクスとムーディが来るまで読書に耽った。




設定や用語解説

聖マンゴ魔法疾患傷害病院
 イギリス魔法界最大の病院。様々な怪我や病気、呪いによる疾患を治療する技術を有している。

検知不可能拡大呪文が掛けられた鞄
 サクヤが普段使っている無限の空間が広がる鞄ではなく、ただただ中の空間が広いだけの鞄。

サクヤの自室
 残されている家具をそのまま使用しているので使い道のないものもいくつか置かれている。ハイスペックな調合台もそのうちの一つ。一体誰の部屋だったのだろうか……

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活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。

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