P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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王者と代理と私

 十一月も終わりに差し掛かってくる頃、今年度のクィディッチのシーズンがやってきた。

 シーズン最初の試合はグリフィンドール対スリザリン。

 見どころはやっぱりハリーとマルフォイのシーカー対決だろう。

 センスと箒はハリーの方が随分と勝っているが、クィディッチの知識やテクニックにおいてはマルフォイの方が秀でている。

 真っ向勝負ではマルフォイに勝機はないが、からめ手を使えばマルフォイにもチャンスがあるだろう。

 

「で、貴方はどうしてそんなに青ざめているのよ」

 

 私はオートミールすら喉を通らない様子のロンの肩を叩く。

 

「どうしてって……緊張しないほうが無理があるよ。ああ、なんでキーパーなんていう重大ポジションに就いちゃったんだろう。ビーターとかに立候補すればよかった」

 

「何言ってるのよ。クィディッチで重要じゃないポジションなんてないわ。それにフレッドとジョージの二人ほどビーターにはまり役の双子もいないでしょう?」

 

 そう、今年に入ってロンがグリフィンドールのクィディッチチームに立候補し、キーパーとして採用されたのだ。

 だが、ハリー曰くキーパーとしてのロンは極度のあがり症で、緊張すると普段の実力の半分も発揮できないらしい。

 そして、相手チームのスリザリンはそのことをグリフィンドール以上によくわかっているようだった。

 私は大きなパイの皿を一人で抱えながらスリザリンのテーブルの方を見る。

 そこにはバッジのようなものをやり取りしながらこちらを盗み見てニヤニヤと笑みを浮かべているスリザリン生の姿があった。

 

「それに、どうやら貴方のファンは沢山いるみたいよ」

 

「スリザリンの、だろ」

 

 ロンは大きなため息をつくと、スプーンを机に置く。

 まあ、下手に食べて戻すぐらいなら、何も食べないほうがマシだろう。

 

「気楽に行きましょう、ロン。百五十点入れられなければあとはハリーが何とかしてくれるわ」

 

「そうだぞロン。それにこの前のシュートは凄かったじゃないか」

 

 私を挟んでロンの反対側で朝食を取っていたハリーがベーコンをかじりながら言う。

 だが、ロンは静かに首を振った。

 

「あれは偶然だったんだ。箒から落ちそうになって、何とか戻ろうとしたら足にクアッフルが当たって……それが反対側のゴールにたまたま入っただけ」

 

「だったら、あと二、三回そんな偶然を起こせばいい。簡単な話だよ」

 

 私はハリーにロンを任せると、一足先に大広間を後にした。

 

 

 

 

 

『さあ、今年もついにこの時がやってきました! シーズン初めの試合はグリフィンドール対スリザリン! アンジェリーナ率いるグリフィンドールチームはキーパーに新たにロナルド・ウィーズリーを起用。対するスリザリンチーム、新たにモンタギューをキャプテンに、クラッブ、ゴイルをビーターとして起用しています。そして今年の見どころですが、やはりシーカーの──』

 

 解説のリー・ジョーダンの声がスタジアムに響き渡る。

 私はグリフィンドールの観客席からグラウンドに集う選手たちを見下ろしていた。

 選手たちは審判を担当するフーチを中心に大きな円を作っている。

 中心にいるフーチは手にクアッフルを抱えており、両チームのキャプテンに最後の確認を行なっていた。

 

「総合力で見たらグリフィンドールだけど、スリザリンには何か策があるみたいね」

 

 私は隣にいるハーマイオニーに話しかける。

 

「策と言っても卑劣な策よ。ほら、アレを見て」

 

 そう言ってハーマイオニーはスリザリンの観客席を指差した。

 そこにはスリザリンの旗と共に、赤と黄で彩られたもう一つの旗があった。

 旗には大きく『ウィーズリーこそ我が王者』と書かれている。

 

「スリザリンにはロンのファンが多いのね」

 

「それ本気で言ってる?」

 

 勿論、アレがロンに対する煽りなのは理解している。

 だがやり方はどうであれ、アレがロンに対して効果的なのは確かだ。

 

「アレがただの嫌がらせならいいけど」

 

 フーチが高らかに笛を吹き、選手達が次々とグラウンドを蹴ってスタジアムを飛び回り始める。

 それと同時に観客席にいたスリザリン生が大きな声で歌い出した。

 

『ウィーズリーは守れない♪ 万に一つと守れやしない♪ だから歌うぞスリザリン♪ ウィーズリーこそ我が王者♪』

 

 スリザリンの大合唱がスタジアムに響く。

 その大合唱にグリフィンドールから大ブーイングが起こるが、スリザリンはそこまで含めて作戦だと言わんばかりに歌う声を大きくした。

 私はその歌を聞きながらスタジアムを飛び回るチェイサーたちに目を向ける。

 今はスリザリンがクアッフルを持っているようで、キャプテンのモンタギューが一直線にゴールポストへ向けて突っ込んでいった。

 

『さあモンタギューとキーパーとの一騎打ちです! モンタギューがクアッフルを振りかぶり──っとフェイントでワリントンにパス! ああ! ロン、右だ!』

 

 ワリントンの投げたクアッフルはロンの守りを易々と抜けてゴールのリングに吸い込まれていく。

 それを見てスリザリンから大きな歓声が上がった。

 

「いいぞウィーズリー! ナイスキーパー!」

 

「お前がいればスリザリンは常勝だ!」

 

 先制点を決めたことでスリザリンは勢いづき、さらにチェイサーの動きが良くなる。

 チェイサー同士の点の取り合いではスリザリンに流れがあると言えるだろう。

 グリフィンドールのチェイサーも果敢に攻めるが、スリザリンのビーターのクラッブ、ゴイルが二人がかりで妨害をするため中々点が入らない。

 どうやらスリザリンはシーカーに対する守りや攻めを捨て、完全にチェイサーで点数を稼ぐ作戦に出たようだ。

 

「なるほど、上手いわね」

 

「感心してる場合じゃないわ! ハリー! 急いで!」

 

 私の横でハーマイオニーが叫ぶ。

 だが、ハリーの横にはピッタリとマルフォイがついており、ハリーの進路を何度も妨害していた。

 そうしている間にもスリザリンとグリフィンドールの点差がどんどん開いていく。

 三十分、一時間と試合時間が過ぎていき、遂にスリザリンとグリフィンドールの点差が百五十点まで開いた。

 その瞬間だった。

 今までしつこくハリーの妨害を行なっていたマルフォイが不意にハリーから離れたかと思うと、箒を真下に向けて急降下していく。

 ハリーも慌てて急降下を始めマルフォイを追いかけるが、あと少しで追いつけるというタイミングでマルフォイは一気に方向転換し今度は急上昇を始めた。

 

『どうやら両チームのシーカーがスニッチを再度見つけたようです。グリフィンドールのポッター選手は今まで何度もスニッチを見つけたようでしたが、そのことごとくをマルフォイに妨害され見失っています』

 

 急上昇を始めたマルフォイをハリーが必死になって追いかける。

 マルフォイの持つニンバス2001とファイアボルトでは最高速が違うためハリーはすぐにマルフォイに追いついたが、ハリーはマルフォイの真横につけたまま次の行動が取れないでいた。

 マルフォイとハリーの目の前にはスニッチが飛んでいる。

 マルフォイはハリーの方を見てニヤリと笑うと、スニッチを譲るかのような仕草をした。

 だが、ハリーにはスニッチを取ることができない。

 グリフィンドールとスリザリンの点差は百五十、いや、今またシュートを決められて百六十点になった。

 今のままではたとえスニッチを取ってもスリザリンの勝ちになってしまう。

 

「ハリー! スニッチを取って!」

 

 キャプテンのアンジェリーナがスタジアムの上空で叫ぶが、少し遅い。

 その時にはスニッチは余裕の笑みで前に出たマルフォイの手の中に収まっていた。

 

『試合終了ーッ! 四百十対百でスリザリンの勝利です。……クソ!』

 

 ガン、と実況席を殴る音がスタジアムに響く。

 スリザリンの観客席からは『ウィーズリーこそ我が王者』の大合唱が起こっていた。

 隣にいるハーマイオニーは何が起こっているのか理解できない様子でワナワナと唇を震わせている。

 私はグラウンドに降り立ちスニッチを掲げているマルフォイを見ながら先程の試合を振り返った。

 スリザリンは初めからこれを狙って行動していたのだ。

 ロンの上がり症という弱点を上手く突き、チーム総出でクアッフルによる得点に集中する。

 その間マルフォイがハリーを妨害し、出来るだけ試合を長引かせる。

 そして、点差が百五十以上開いたのを見計らってマルフォイが動き、スニッチを取る。

 これは点差を縮めるための策ではない。

 圧倒的な点差を作るための作戦だ。

 

「今回はスリザリンの作戦勝ちね。二百六十点差がついてしまったし、グリフィンドールはかなり絶望的な状況じゃないかしら」

 

「こんなのズルよ! それもかなり最低な!」

 

 ハーマイオニーは半分涙目になりながら拳を握りしめている。

 まあ、ハーマイオニーの言いたいこともわからないでもない。

 スリザリンが真っ当にプレーしていれば、ロンはあそこまでミスをしなかっただろう。

 

「でも、相手チームの選手を侮辱しちゃいけないなんてルールはないでしょう? まあ、確かに褒められたやり方じゃないのは確かだけど。今はロンをどうフォローするか考えなきゃ」

 

 スリザリンのやり方は確かに汚いが、ロンがそれを無視してプレーに集中できていればこのような結果にはならなかった。

 しかも今回の試合で『ウィーズリーこそ我が王者』が現実のものになってしまったのだ。

 私は未だに箒に乗ってゴールの前で呆然としているロンを見る。

 落ち込むぐらいで済めばいいが、自暴自棄になって自殺でもしないかが心配だ。

 その時だった。

 突如観客席のどこかで大きな悲鳴が上がる。

 皆ざわざわと騒ぎ立て、グラウンドの中心を指さし始めた。

 私は騒ぎの原因を探すためにグラウンドを見下ろす。

 そこには、二人掛かりでマルフォイに暴行を加えているハリーとフレッドの姿があった。

 

「……あー、うん。なにやってるんだか」

 

 すぐにスリザリンやグリフィンドールの選手総出で止めに掛かり、ハリーとフレッドはマルフォイから引きはがされる。

 マルフォイはよろよろと立ち上がるとそのままニヤリと笑って後ろ向きに倒れた。

 

 

 

 

 その日の夕食の席。

 私は更衣室で呆然としていたロンを無理矢理着替えさせ、大広間に引っ張ってきていた。

 ロンは大人しく椅子には座ったが、フォークを手に取ろうとすらしない。

 

「まあ、貴方の気持ちもわからなくはないけど、何か食べないと餓死するわよ? 貴方、朝も殆ど食べてなかったじゃない」

 

「……お腹すいてない」

 

「なら、かぼちゃジュースだけでも飲みなさい。ほら、注いであげるから」

 

 私はゴブレットにかぼちゃジュースを注ぐと、無理矢理ロンに手渡す。

 そして私は私で自分の食べる分を皿に盛り始めた。

 

「落ち込む気持ちは分かるわ。でも、スリザリンは確実に次もあの方法を使ってくるわよ。それも、他の寮とグリフィンドールの試合で」

 

 ロンはビクっと体を震わせると、ゴブレットを机に置く。

 

「スリザリンと戦うことは今年はもう無いかもしれないけど、グリフィンドールとの点差を広げるために今日みたいな妨害をしてくることは目に見えているわ」

 

「……大丈夫」

 

 ロンは自分の膝を見つめながら呟く。

 

「大丈夫そうには見えないわね」

 

「そうじゃない。僕……チームを抜けるよ。あの時の僕はどうかしてたんだ。僕がグリフィンドールチームに入ったのは間違いだった」

 

「……今チームを抜けるべきじゃないわ」

 

 私はポテトサラダを大きく頬張る。

 

「確かに貴方以外の誰かがキーパーになったら、スリザリンはあの方法を使うことができない。でもね、貴方のためにも今チームを抜けるべきじゃない」

 

「どうして?」

 

「どうしてもこうしても、今チームを抜けたら貴方は一生この名誉を挽回する機会を失うわ。それに、大好きなクィディッチを一生楽しめなくなる。貴方は名誉と同時にクィディッチも失うのよ」

 

 ロンの眉がピクリと動く。

 

「それが嫌だったら、チームに残って結果を残すしかない。貴方が得点を許さず、ハリーがきっちりスニッチをキャッチしたらレイブンクローとハッフルパフに百五十点差で勝利できる。あとは他の寮とスリザリンの結果次第だけど、優勝は無理でも最下位になるってことはないはずよ」

 

 まあ、肝心のハリーも今回マルフォイにまんまとやられ、スニッチキャッチを逃している。

 そう上手に事は運ばないだろうが、それはこの際置いておくことにしよう。

 私はもう一度ロンにゴブレットを持たせる。

 ロンはゴブレットに入ったかぼちゃジュースを見つめると、グイっと一気に飲み干した。

 

「……サクヤの言う通りだ。ここで逃げたら一生後悔する。うん、確かにその通りだ」

 

「でしょ? だったらメンタルの強化とキーパーとしての能力の向上、頑張りなさい」

 

「わかってるよ」

 

 ロンはスプーンを手に取ると、シチューの大皿を手元に引き寄せ食べ始める。

 私は小さくため息を吐くと、こっそりロンに開心術を掛けた。

 ロンはまだ心に大きくダメージを受けてはいるようだが、向上心が見て取れる。

 少なくともこのまま落ちるところまで落ちて自殺するといったことにはならなさそうだ。

 私は開心術を解くと、ロンの肩を軽く叩いてから大広間を後にした。

 

 

 

 

「……で、貴方は貴方で一体どうしたのよ。ロンも相当ダメージ受けてたけど、貴方はその比じゃないわね」

 

 私が大広間から談話室に戻ると、暖炉の前のソファーでハリーが項垂れていた。

 その周りにはグリフィンドールのチームメンバーが集まっており、深刻な顔で話し合っている。

 

「何にしても、代わりの選手をどうするか考えないと。アンブリッジに抗議するにしてもそれが叶うかはわからないし」

 

 アンジェリーナの言葉に、チームメンバーはそれしか方法はないと言わんばかりの表情で頷いている。

 私はハリーの横のソファーに座ると、俯いたまま呆然としているハリーの顔を見た。

 俯いているので開心術は掛けられない。

 何が起こったのか知るには本人から直接聞きだすしかないだろう。

 

「で、何があったの? 確か貴方はマルフォイと取っ組み合いをしていたわよね?」

 

 私がマルフォイと言った瞬間、ハリーの肩がピクリと動く。

 

「マルフォイ……代わりの選手……もしかして、クィディッチへの出場停止処分を貰ったとか?」

 

「正解よサクヤ」

 

 ハリーの代わりに近くのソファーに座っていたハーマイオニーが答えた。

 

「……マクゴナガルは減点と罰則だけで済まそうとしていたんだけど、その場にアンブリッジが割り込んできてハリーとフレッド、ジョージの三人を今年いっぱいクィディッチ禁止の処分にしたらしいわ」

 

「そう、アンブリッジが……ねえ」

 

 確かにホグワーツ高等尋問官であるアンブリッジにはその権限が与えられている。

 暴行を振るった選手を出場停止にするというのも妥当な処置ではあるだろう。

 

「そもそも、なんでマルフォイに殴りかかったりしたのよ。確かにスリザリンのやり方は正当じゃなかったし、あんなに大差で負けて悔しかったのはわかるけど──」

 

「あいつは僕とロンの両親を侮辱したんだ!」

 

 ハリーが勢いよく顔を上げて怒鳴る。

 私は怒りに顔を歪めるハリーの目を見ると、開心術を掛けた。

 ハリーの中に渦巻く感情は『怒り』と『後悔』。

 そして今回の処置を理不尽だと思っているようだ。

 

「両親を侮辱されたぐらいで熱くなり過ぎよ」

 

「サクヤは親を知らないからそんなことが言えるんだ」

 

 ハリーはボソリとそう呟いた後、ハッと我に返ったように顔を上げる。

 

「ごめん、そんなつもりじゃ──」

 

「気にしないで。私が両親を知らないのは事実だし」

 

 私とハリーの間に少しの間沈黙が流れる。

 私はそんな沈黙を振り払うように頭を振ると、溜め息交じりに言った。

 

「まあ、マルフォイのあの様子を見るに、わざと煽って殴られにいったように見えたわね。もしかしたら、裏でアンブリッジと打ち合わせをしていたのかもしれない。マルフォイの父親は魔法省に深いコネクションを持っているし、アンブリッジとも知り合いだという可能性も高いわ」

 

 私はハリーの肩に手を置く。

 

「嵌められたのよ。貴方」

 

 ハリーは何度か口を開きかけたが、そのまま口を噤んで俯いてしまう。

 私はソファーから立ち上がるとアンジェリーナのもとへ向かった。

 

「でも、どうしてジョージも? マルフォイに暴行を振るったのはハリーとフレッドだけよね?」

 

「あのガマガエルには俺ら二人を区別するような高等な脳みそはないのさ」

 

 ジョージはそう言って肩を竦める。

 

「アンブリッジの言い分では、私たちが止めてなければジョージも暴行に加わっていただろうって」

 

「その通りさ。でも、どうせクィディッチができなくなるなら今からでもあのクソイタチの頭をどつきに行こうかな。そっちの方がお得だ」

 

「本当にやめてねジョージ。折角抗議しに行こうと思ってるのに」

 

「冗談だよ。ジョーダン」

 

 ジョージはフンと鼻を鳴らすとフレッドと一緒に男子寮へと上がっていく。

 アンジェリーナはため息交じりに言った。

 

「あの二人、いたずらがエスカレートするんじゃないかしら。ほんと、少しだけでいいから大人しくしていてほしいわ」

 

「なんというか、クィディッチのキャプテンも大変ね。何か力になれることがあれば協力するからいつでも言ってね」

 

 私は社交辞令交じりにアンジェリーナに言う。

 だが、アンジェリーナは私がそう言った瞬間、私の腕をガッチリと掴んだ。

 

「今協力するって言ったわよね?」

 

「え、ええ。言ったけど……」

 

 アンジェリーナは言質を得たと言わんばかりに頬を綻ばせた。

 

「それじゃあ、シーカーお願いね」

 

「……え?」

 

「お願い! サクヤしかいないの!」

 

 アンジェリーナは縋るように私の手を握る。

 

「いや、私箒なんて授業でしか乗ったことないし。どう考えても適任とは思えないわ」

 

「そりゃ出場停止処分が撤回されてハリーが試合に出れるのが一番なんだけど、念のために代理は立てておかないといけないし……それに今のグリフィンドールには英雄が必要なの」

 

 英雄が必要、どこかで聞いた言葉だ。

 

「去年あれだけ大立ち回りしてホグワーツを優勝に導いたサクヤがシーカーを引き受けたってなったら、グリフィンドールの士気は一気に上昇するわ。それに、サクヤならハリーが復活したってなってもポジションに固執することはないでしょ?」

 

 まあ、アンジェリーナの話は理解できる。

 臨時としてチームに入れるには私はピッタリな人材だろう。

 

「でも、シーカーとして仕事ができるかは全くの別じゃない? 経験者を入れた方がいいと思うけど。それに私箒持ってないし」

 

「大丈夫よ。チェイサーやビーターと違ってチームワークが重視されるわけでもないからスニッチを捕まえる練習さえすればある程度まで形になるわ。それと箒は──」

 

「箒は僕のを貸すよ」

 

 アンジェリーナの言葉を遮るようにハリーが言った。

 

「でも、いいの? ファイアボルトはあなたの宝物でしょう?」

 

「こうなったのは僕がマルフォイの挑発に乗ったからだ。シーカーとしてのノウハウやテクニックは僕が教える。試合に出るなとは言われたけど、クィディッチを教えるなとは言われてないしね」

 

 先程まで項垂れていたハリーだが、既にハリーの目には光が戻ってきていた。

 

「まあ、そこまで言うなら引き受けるけど……あんまり期待しないでよ?」

 

 私はそう言って肩をすくめてみせる。

 まあ、ハリーとロン、二人のことを考えるのであればクィディッチチームに入るという選択も間違いではないだろう。

 

「よかった! これで残るはビーターの二人ね」

 

 アンジェリーナは私の手を握ってブンブンと振ると意気揚々と他の生徒に声を掛けにいく。

 私はそんなアンジェリーナにため息をつくと、自分のベッドがある部屋へ向かって歩き出した。




設定や用語解説

サクヤのクィディッチの才能
 ちゃんと練習すれば無駄にすばしっこいクラムが出来上がる。それと、尋常じゃないレベルで動体視力がいいので一度スニッチを見つけたらよっぽどのことがない限り見失わない。でも実は一番得意なポジションはビーター。スタジアムの端っこから反対側にいる選手に的確にブラッジャーを当てたり、ブラッジャー同士をぶつけて、通常ではあり得ない軌道でブラッジャーを打ち込んでくる。
 全く練習しなければ原作で言うところのジニーぐらいの実力。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。

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