P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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先週本来95話を投稿するところを間違えて一つ飛ばして96話を投稿してしまったので今週に関しては先週間違えて投稿した96話と本来は来週分の97話の二本立てでお送りします。95話、『非行少年とおもちゃの杖と私』をまだ読んでいないという方は前回からお読みください。


鍋と護送と私

 

「ブラウン家にようこそ。何もない家だけどゆっくりしてって頂戴」

 

 私はハリーのトランクをリビングの片隅に置いたあと、ハリーをソファーへと案内する。

 ハリーはソファーへと腰掛けるとキョロキョロと部屋の中を見回していた。

 

「でも、どうしてサクヤがダーズリー家の隣に住んでいるの? それも変装なんかして」

 

 ハリーは当然の疑問を私に投げかけてくる。

 私は紅茶の準備をしながらその問いに答えた。

 

「貴方の護衛のためよ、ハリー」

 

「護衛? 僕の? 何で?」

 

「何でって……だって貴方は選ばれた男の子でしょう?」

 

 選ばれた男の子。

 それを聞いてハリーは眉を顰めた。

 

「でも、だからってサクヤがここにいる理由にはならないだろう? どうしてサクヤなの?」

 

「それは……騎士団員の中では私が一番マグル文化に明るいし。何より未成年の私に出来ることって言ったらそれぐらいだしね」

 

 私はポットの紅茶をティーカップに注ぐと、ハリーの前に差し出す。

 

「騎士団員?」

 

「そう、不死鳥の騎士団。ダンブルドアが組織した秘密同盟」

 

 私は自分のマグカップに紅茶を注ぎ、それを片手にハリーの前のソファーに腰掛けた。

 

「それじゃあ、その不死鳥の騎士団の魔法使いが、この夏ずっと僕を護衛してたってこと? ヴォルデモートから僕を守るために?」

 

「物分かりがいいわね。その通りよ」

 

 ハリーは何が何だかわからないという表情を顔にありありと浮かべる。

 ハリーはこの夏、少しでも情報を集めようと躍起になっていた。

 マグルのテレビニュースや新聞にまでも目を通し、ヴォルデモートの痕跡がないか調べていたのを思い出す。

 

「ほかに、聞きたいことは?」

 

「サクヤは、その、不死鳥の騎士団のメンバーなの?」

 

「ええそうよ」

 

「ロンやハーマイオニーも?」

 

「二人は騎士団員じゃないわ。基本的に、ホグワーツを卒業した魔法使いしか騎士団には入れないことになってるから」

 

 私がそう言うと、ハリーは怪訝な顔をする。

 

「でも、サクヤは騎士団員なんだろう?」

 

「私はほら、特別だから」

 

 私はそう言って冗談混じりに胸を張る。

 

「ダンブルドアは私が並の魔法使いよりよっぽど戦えることをよくご存知だわ。だからこそ、こうやって貴方の護衛を任されているのであって」

 

「でも、なら何でもっと早く教えてくれなかったんだい? 隣に越してきたのがサクヤだって知ってたら毎日のように遊びに行ったのに」

 

「貴方ねぇ……少しは私の世間体を大切にして欲しいわ。私はここではマールヴォロカレッジのお嬢様。貴方はセント・ブルータス更生不能非行少年院に通わされている不良少年。そんなあなたが私の家に毎日のように入り浸ったら、ご近所さんから変な目で見られるでしょう? それに、貴方と私が仲良くしていると、私が魔法使いだってことが貴方の叔父たちにバレてしまうわ」

 

「構うもんか」

 

「構うのよ。少なくとも私はね」

 

 その時、バチンという音が鳴り、リビングにマンダンガスが現れる。

 

「バーテンの嬢ちゃん、取り敢えず今本部にいる奴らには話してきたぜ。そこから先どうなるかはダンブルドア次第だな」

 

 マンダンガスはそう言うとキッチンの戸棚からファイアウイスキーを取り出して瓶ごと煽る。

 

「あとそうだ。ここの二階を借りてるぜ。しばらく盗品の鍋を隠しといてくれ」

 

「それは構わないけど、全部はダメだからね。少なくとも、一つはハリーの部屋だから」

 

「一部屋だけだ。それに、すぐに馬鹿のマグリアに売っちまう予定だからさ」

 

「儲かってるなら漏れ鍋にツケの支払いしなさいよ。私が預かっておいてあげましょうか?」

 

 私がそういって手を差し出すと、マンダンガスはとんでもないと言わんばかりに首を横に振った。

 

「まさか! あんたがちょろまかすかもしんねえだろ?」

 

「場所代」

 

「そもそもここは嬢ちゃんの家じゃねえじゃねえか。まあいいや。とにかく、俺はちゃんと本部に伝えたからな」

 

 マンダンガスはそう言うとまたバチンと音を立てて姿をくらませる。

 私は紅茶のおかわりを注ぎながらハリーに言った。

 

「とにかく、ダンブルドアからの返事が来るまではここにいてもらうわ。家の中ならどこにいてもいいけど、外出は禁止。ヘドウィグも帰ってきたら鳥籠の中に入れといて」

 

「サクヤはその間どうするの?」

 

「もちろん、一緒にいるわ。それに、明日にはマンダンガスよりもう少しマシな護衛が本部から姿現ししてくるはず」

 

 私はソファーから立ち上がると冷蔵庫の扉を開ける。

 そういえば今日の夜はダーズリー家で食べる予定だったことをその時思い出した。

 

「あー、ありあわせでいい? というか、お腹は空いてる?」

 

「ペコペコだよ」

 

「そう。それじゃあ、覚悟しなさい」

 

 私はリビングの隅に置きっぱなしにしていた鞄を掴むと、そのままダイニングテーブルへと移動する。

 そして鞄の中からステーキやらサラダやらミートパイやらを次々と取り出し、ダイニングテーブルへと並べた。

 

「さあ召し上がれー。どれもこれも焼きたてよ」

 

 私はナイフとフォークを机に並べ、少し椅子を引く。

 ハリーはダイニングテーブルへ近づいてくると、出来立てアツアツのステーキを見て目を輝かせた。

 

「いつも思うけど、それどうやってるの?」

 

「さて、鞄の中にキッチンでもあるんじゃない? ほら、温かいうちに食べましょう?」

 

 私はハリーの反対側へ周り、椅子に座ってナイフとフォークを握る。

 そしてアツアツのステーキにナイフを突き立てた。

 

 

 

 

 ハリーがうちに来て丸々二日が経過した夜。

 ダーズリー家の隣にある私の家のリビングに数人の魔法使いが集まっていた。

 

「荷造りは……大丈夫ね。って、これもしかしてファイアボルト!?」

 

 トンクスはハリーが抱えている箒を見て手を叩いて喜んでいる。

 その様子を少し離れた位置から見ていたムーディは、気に入らんとばかりに口を開いた。

 

「なんにしてもだ。本部の決定も待たずにハリーと接触し匿うとはな。護衛任務をなんだと思っとるんだ?」

 

「何言ってるんですか。ほら、見てください。ハリーには腕も足も付いてます。護衛の任務は完璧にこなせているでしょう?」

 

 私はやれやれと肩を竦めてみせるが、ムーディの言うことがもっともだということもわかっている。

 

「まあいいじゃないか。予定が少し早まっただけだ。どちらにしろ近いうちに本部へ移送する手筈だったじゃないか」

 

 ルーピンはトンクスの箒にトランクを固定しているハリーを見ながら言う。

 

「それに、私としてはよく家出する前にハリーを引き留めてくれたと褒めたいぐらいなんだがね」

 

「やり方が気に食わんだけだ」

 

 ムーディは鼻を鳴らすと魔法の義眼を忙しなく動かし周囲の様子を探る。

 そして安全を確かめると全員を一箇所に集めた。

 

「時間までもうすぐだ。キングズリーとディグル、そしてドージは後発。サクヤ、お前はバンスと付き添い姿くらましで直接本部に帰れ。あとの者は計画通り合図と共にここを出る」

 

「全員姿現しじゃダメなの?」

 

 ハリーが不思議そうな顔をしながら言った。

 

「ダメだ。お前さんは本部の場所を知らんし、何より姿現しに慣れとらん。箒で行った方が確実だ」

 

「それに、私箒持ってないしね。ロンの流れ星を借りたらいつ到着するかわからないし」

 

 私はハリーに手を振ると、バンスの手を握る。

 

「それじゃあ、また後で」

 

 その瞬間、姿くらまし特有のヘソから引っ張られるような感覚が私の全身を襲った。

 バチンという音と共に私とバンスは騎士団本部の玄関ホールに姿現しする。

 

「さて、バンスさんはこのあとどうします?」

 

 私はバンスの手を離すと、調子を確かめるように首に手を当ててぐるりと回す。

 

「そうねぇ。私はモリーと少し話をしてくるわ。サクヤちゃんはどうするの?」

 

「ロンとハーマイオニーにハリーがもうすぐくることを伝えてきます。真っ直ぐ飛べば二十分ぐらいで着きますよね」

 

「真っ直ぐ飛べばね。アラスターがいるから倍はみておいたほうがいいわよ」

 

 バンスはそう言うとキッチンの方へと消えていく。

 まあ、確かにバンスの言う通りだ。

 ムーディのことなので途中で追っ手が来ていないか確かめるために引き返す、なんてことも視野に入れておいた方がいいだろう。

 

「クリーチャー」

 

「こちらに」

 

 私が一言呼ぶとすぐにクリーチャーが顔を出す。

 

「ハリーがもうすぐ到着するわ。歓迎の用意をしておいて」

 

「かしこまりました」

 

「それと、それまで私は自分の部屋にいるから、ハリーが到着したら教えて」

 

 私はそれだけ伝えると、階段を上り自分の部屋に入る。

 ここ数週間はプリベット通りで生活していたため、自分の部屋が妙に懐かしく感じた。

 と言っても、全く帰ってきてなかったわけではないのだが。

 私は自分の部屋の椅子に座り、時間を停止させる。

 そして懐から両面鏡を取り出した。

 

「ハリー・ポッターがグリモールド・プレイスへと移動中です。一時間もしないうちに到着すると思います」

 

 私は鏡に向かってそう報告する。

 鏡には何も映っていなかったが、数秒もしないうちにヴォルデモートの顔が映った。

 

「そうか、報告ご苦労。では今日からホグワーツが始まるまでの間はそこにいるんだな?」

 

「はい。そうなります。そちらはどのような状況ですか?」

 

「変わらんよ。ルシウスが魔法省に探りを入れている。成果が出るにはまだ時間がかかるだろうな」

 

 ヴォルデモートは赤い瞳で私の顔を見る。

 

「何か動きがあったら報告しろ。セブルス・スネイプの動向もだ」

 

「かしこまりました。それでは」

 

 私は数秒待ってから両面鏡を懐にしまい直す。

 そして部屋の中に誰もいないことを今一度確かめてから時間停止を解除した。

 

「あ、そうだ」

 

 鏡を見て思い出した。

 もうプリベット通りに帰ることもないだろうし変装を解いてしまっても構わないだろう。

 私は部屋の壁に吊るしてある姿見の前に移動すると、杖を取り出し軽く頭を小突く。

 するとまるで汚れが流れ落ちるように私の髪はみるみるうちに白さを取り戻していった。

 私は髪の色が元に戻ったのを確かめ、鏡に近づき自分の瞳を覗き込む。

 色を失っていた瞳はいつも通り真っ青な輝きを取り戻していた。

 

「よし、これで元通りね。やっぱり私と言ったらこの白い髪に青い瞳だわ」

 

 私は姿見の前でくるりと回ると、ハーマイオニーたちに会うために自分の部屋を出た。

 

 

 

 

 結局それから一時間もしないうちにハリーは無事グリモールド・プレイスにある私の家に到着した。

 私はクリーチャーと共にハリーを出迎え、ベッドが沢山置かれている部屋へハリーを案内する。

 

「ここが寝室兼各人の個人スペース。部屋が沢山有るわけじゃないから少し窮屈なのは我慢して。ベッドは空いてるところを自由に使って頂戴」

 

「えっと、うん。ありがとう」

 

 私はクリーチャーがハリーのトランクを運んでいるのを確認し、ハリーに手を振って一階のダイニングへと戻る。

 ダイニングには既にハリーの護送に携わった魔法使いを含め二十人近い騎士団員が集まっていた。

 

「なんにしてもだ。特に問題なくハリー・ポッターの護送は終わったわけだが、ポッターの所在が変わったことで騎士団の今後の人員の振り分けも変わってくる」

 

 どうやら既に会議は始まっているらしく、ムーディがダイニングにいる騎士団員に向かって言う。

 私は会議の邪魔をしないように静かに空いている席に腰掛けた。

 

「まず、ポッターの護衛は今後必要なくなる。少なくともホグワーツに行くまではな。キングス・クロスまで向かう道中はわしとルーピン、トンクス、そしてモリーが護衛につく」

 

 ムーディは魔法の義眼で私をチラリと見ると、話を続けた。

 

「ホグワーツ特急からの護衛は主にホワイトが担当する。ホグワーツに着いてからも同様だ。それまでの間、各人はダンブルドアから与えられた任務を遂行する。何か質問があるものは?」

 

 ムーディが周囲を見回すと、シャックルボルトが発言した。

 

「今死喰い人たちはどう動いている? 何か情報はあるか?」

 

 ダイニングに数秒の沈黙が流れた後、スネイプが口を開いた。

 

「もしかしてその質問は私にされたのですかな?」

 

 スネイプはキングズリーに問うと、小さく肩を竦める。

 

「少なくとも、表立って動くつもりはないようですな。闇の帝王はルシウス・マルフォイを積極的に魔法省に送り込んでおられるようだ」

 

「やはり例のあの人が復活したということを公表した方がいいのではないか?」

 

 スネイプの報告を聞いて、ドージがそう提案する。

 

「危機が迫っていることを知る権利は誰にでもある。知っていれば、備えることも出来る」

 

「確かに。一理ありますな。ですが、ダンブルドアは今すぐ公表する気は無いようです」

 

 シャックルボルトはドージに向かって言う。

 

「少なくとも魔法省が例のあの人の復活を認めるか、例のあの人自身が自らの存在を世に晒し始めるまでは方針を崩さないと、そのように話し合いで決めたではありませんか」

 

「わかってる、わかっているとも」

 

 ドージは自分に言い聞かせるように何度も頷いた。

 その後もシャックルボルトが進行役になって会議は進んでいく。

 私はその会議を聞きながら、机の隅に座るスネイプに意識を向けた。

 スネイプは今のところヴォルデモートを裏切ってはいないようだ。

 少なくともスネイプは真に隠すべき情報は会議中に答えていない。

 それに、気づいていないだけかもしれないが、私がヴォルデモートのスパイだと言うことも誰にも話してはいないようだ。

 スネイプは本当にヴォルデモートに忠誠を誓っているのだろうか。

 勿論、スネイプが闇の魔術に傾倒しているのは知っている。

 今でもヴォルデモートを崇拝しているのは確かだろう。

 だが、それ以上にダンブルドアがスネイプを信用しているというのが気になる。

 あのダンブルドアがスネイプが絶対に味方であると確信するほどの何か。

 その何かがスネイプとダンブルドアの間にはあるはずだ。

 

 

 ……まあ、信用出来なくなったら殺せばいいだけだが。




設定や用語解説

騎士団内でのサクヤの印象
 優秀な魔法使いであることには違いないが、自分の考えで動きすぎる子供だと認識されている。

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