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「エルドゥアン卿、まずは説明をしてもらえぬかな」
「う、うむ、そうさせていただこう」
当主はエルドゥアンってのか。父が声をかけたところでようやく二人とも頭を上げた。と言うか俺ならまだしも平民のハルティング一家に頭下げたあたりで大体予想はついているが。
そして父上、今の口調だと大体事情は理解してるだろ。わざわざ相手に説明させるあたり強かなことで。
ちなみに座ってるのは父と俺、来客用テーブルを挟んで向かいにエルドゥアン卿とその家の騎士団長。マゼルの家族が立っているのは謝罪される側だけど平民だから。うーんこの何とも言えないもやもや感。
「アーレア村は我がビットヘフト家の領地にあってな。だがかなりの間、代官に任せきりになっておった。結果あのような事になってしまい、子爵やご一家に大変なご迷惑をおかけしたことをお詫びしたい」
エルドゥアン卿が口を開く。いい年したおっさんが汗流しながら弁解してるのは何と言うか反応に困る。しかもれっきとした貴族がだ。マゼルの両親なんか思考停止してないか。
貴族が平民相手にここまで平謝りしてるってことは相当上の方からのお叱りがあったんだろうなー。考えたくないわー。思わず俺まで現実逃避したくなる。平然としてるのは父だけと言う、ある意味奇妙な室内の空気だ。
「ええと、その代官があの一件を?」
「いや……」
俺の問いに口ごもったエルドゥアン卿が視線を向けると、代わってビットヘフト家騎士団長と言う人物が口を開く。年齢はこの部屋にいる中で一番上ぐらいか。精悍な顔つきで何と言うかイメージは騎士と言うより格闘技経験者とか冒険者だな。
ただその顔つきで奇妙に身を縮めているんで何と言うか前世で騒動を起こしたスポーツ選手の謝罪会見を見てるような気になってしまう。
「実は、アーレア村の村長は私の父なのです」
びっくりな発言。ふとマゼルの家族の顔を見るとリリーさんは初見みたいだが、両親の方は見覚えがあるようだな。何と言うか居心地の悪そうな顔をしている。
話を聴いてみるとこのハイナー卿という人物も当然アーレア村の出身で、マゼルの両親であるアリーさんたちとも面識はあったらしい。若い頃にアーレア村を出てビットヘフト家に奉公したんだそうだ。
「自慢をする気はありませんが、多少は武芸に才能もあったようでして。騎士として機会もあり栄達することができました」
多分、なんかのスキル持ちだったんだろうな。とは言え平民出身で貴族家の騎士団長とは異例と言える出世だ。それ自体は努力の賜物と言っていいんだろう。むしろ世間一般から言えば褒められたり羨ましがられたりする話だし。
「ただ、その事が父と代官の関係を微妙にしてしまいました」
と言うかそれは代官が忖度したんだろ。平民出で貴族家騎士団長になるということは、ハイナー卿はエルドゥアン卿か、年齢的にその父親のお気に入りだったに違いない。当主のお気に入りで家騎士団長の父親に強く出られなくなっちゃったわけね。
あるいはハイナー卿も直系ではないにしても当主一族の女性と結婚している可能性もあるな。そこまで他家の内情に首突っ込む気はないけど。
そして父親である村長の方は貴族家直属の代官ですら自分には強く出られないことで完全に勘違いしたと。その結果があれか。
「父……村長も税収を滞らせたりはしなかったので、恥ずかしながらこのような状況になっていたとは気が付きませんでした」
「代官に任せっぱなしだった我らにも非があるのは事実。申し訳ない」
と、揃ってもう一度頭を下げる。大体状況は解った。マゼルの両親の顔を見る限り他にもなんか因縁ありそうだが、少なくとも今ここでは聞かない方がいいだろうな。
「これはご迷惑をおかけしたお詫びになります。お受け取りください」
ハイナー卿が持ってきたらしい箱を机の上で開けると袋と筒状に丸めた紙が入っていた。紙の方を俺に差しだしてくる。
別に品物を用意してないわけじゃなくて、貴族の俺には直接謝罪の品を差し出すなんて下品な真似はしない、という意味。書状の形にすることで謝罪証明書代わりの意味もある。
一方、平民相手には物を出すのに抵抗はない。物と言うかあれ袋一杯の金貨だろうけど。平民はありがたく実物を受け取りたまえ、というわけだ。これはまあこの世界の貴族だから普通と言えば普通か。
「こちらはヴェルナー卿への目録になります。袋はハルティングご一家に」
「村長や代官殿への処罰はどうなっているのです?」
受け取る前に確認する。と言うかそこは確認しないと気が済まん。村長って立場は貴族から見れば小物だと思ってはいるが、だからと言ってなあなあで済ませる気はないぞ、と視線で語ってみせる。答えたのはエルドゥアン卿だ。
「無論厳しく罰する。王室への不敬と取られる発言もあった前村長はマクデア鉱山の労役補助役に転属。代官は厩番に格下げにする。どちらも長期位認定だ。それ以外に暴力を働いた村人にはしばらく安全保持に従事させる」
おやおやそりゃまた。考えようによってはこいつらのやらかしで頭下げる羽目になったんだろうからエルドゥアン卿も相当にお怒りなんだろうが、実父が問題を起こしたハイナー卿の立場よりビットヘフト伯爵家の立場の方を優先しているともいえる。お叱りを受けた以上どんな処罰をしたのか、報告を上げる必要もあるだろうしな。
長期位認定っていうのは最低でも数年間はその職から動かさないという意味になる。特に決まりはないが大体十年ぐらいが平均期間で五年以下って事はまずない。しかもこの場合退職も認められないんで、転属先にもよるが事実上の奴隷扱いに近い。というよりこの世界だと奴隷の方が扱いがいいかもしれん。
鉱山の労役補助役ってのは直接鉱石を掘り出すわけじゃないが、その労働者の身の回りの世話、炊事掃除洗濯その他もろもろをする。一応は下級役人だが、立場で言えばそうだなあ、村長から呼び出されたらすぐ行かなきゃいけないぐらいの立場か。
それにマクデア鉱山って確か山賊とか重犯罪者の送られる先だったような。そこでそういう仕事を最低数年間って、下手すると追放された方が楽なんじゃなかろうか。殺人の前科持ち囚人、もとい労働者から小突き回されるのが目に浮かぶ。あの性格でどこまで耐えられるか、はたまた囚人との関係で“事故死”するのが早いか。
代官から厩番にってのも凄い降格だ。前世で言えば支店長あたりから一般社員への格下げとかに近い。いや扱いとしてはそれよりひどいか。厩番は大体において馬小屋で寝泊まりすることになるし御者の下にまで地位が下がる。代官って付け届けとかの副業的実入りも多いし。
なんとなくエルドゥアン卿の八つ当たりを感じる。前世だったら労働基準監督署が立ち入りしそうな恣意的人事だな。それが許されちゃうのが貴族なんだけどさ。
村民が従事させられる安全保持、というのは言葉だけ聞くと割と微妙な表現だが要するに道の維持とかそういう仕事だ。倒木とかがあったりしたら責任を持って片付けないと処罰される。
けど最大の問題はこの世界、野生動物どころか魔物が歩き回る世界である。その道の安全保持の中には当然と言うか魔物に対する対応さえ含まれてしまう。だが一般人が魔物と戦えるかと言うと王都周辺の最弱な魔物ならともかく……という訳で、下手をすると命さえ落としかねない。
通常、村民に被害が出るのは避けたいから魔物が出たりしたら村で冒険者を雇うわけだが、今回は処罰を兼ねているからどんなもんかね。村じゃなく安全保持従事者が自腹切る事になるか、最悪の場合、危険であっても自力で駆除することになるんじゃなかろうか。言葉の印象と裏腹にかなりの重罰なんだよな。
「また、ハルティング家の皆様に関してだが……」
意味ありげに視線を俺たちの後ろで立っているマゼルの家族に向けると、エルドゥアン卿がにやりとでも表現するしかないような表情で言ってきた。
「アーレア村はビットヘフト家の領地であり、ハルティング一家はアーレア村の住人であることも確かだ。騒動の責任もある。ツェアフェルト伯爵家にご迷惑はおかけできぬ。ご家族が王都にいる間は我がビットヘフト家でお預かりしようと思う」
……そう来たか。
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