P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

77 / 168
ダークヒロインと決闘の先生と私

 杖調べから一週間もしないうちにスキーターの記事は日刊予言者新聞に掲載された。

 見出しはこうだ。

 『ホグワーツの若き天才サクヤ・ホワイト。名前に反しそのうちに秘めたるは深い闇』

 対抗試合そっちのけで私がメインの記事を書くのはどうかと思ったが、まあそれはこの際いいだろう。

 肝心の内容は、私がスキーターに言ったことが相当脚色して書いてあった。

 どうやら私は第一の課題でクラムの右腕をもぎり、フラーの髪を燃やし尽くすことになっているようだ。

 スキーターは第一の課題が個人競技だった時のことを考えていたのだろうか。

 

「ふん、やつに随分気に入られたもんだな。スキーターは気に入らない相手のことはとことんこき下ろすことで有名だ。記事を読む限り脚色されてはいるが、批判的なことは書かれておらん」

 

 私の目の前で日刊予言者新聞を読んでいたムーディが唸った。

 そう私は今、ムーディの私室にある木箱の上に座っている。

 何故、そんなことになっているのか。

 その理由は実に単純で、大広間で夕食を取っていたら、ムーディにいきなり呼び出されたのである。

 ムーディは新聞を机の上に放り投げると、椅子から立ち上がった。

 

「……さて、いきなり呼び出したのにはモチロン理由がある。至極単純な話だ」

 

 私は近づいてくるムーディの表情をじっと観察する。

 怒っているようには見えない。

 だが、目に優しさは一切なかった。

 

「今年いっぱい、授業の合間にお前を鍛えることにした」

 

「はあ、私を鍛える……鍛える?」

 

 私がつい聞き返すと、ムーディはグイっと顔を近づけて話を続けた。

 

「ダンブルドアから話を聞いたぞ。相当面倒なことに巻き込まれておるようだな。ワシの見立てでは、お前の名前をゴブレットに入れたのは十中八九闇の魔法使いだ」

 

「……でもそんなの誰が何のために? 私を狙う理由も、私を代表選手にする理由もまるで見当がつかないのですが」

 

「何故お前の名前をゴブレットに入れたのか。いくつか理由は思いつくが、断定はできん。だが、お前が狙われた理由はおおよそ予想が付くぞ。ホワイト、お前は三年の学期末にシリウス・ブラックを殺しているそうじゃないか」

 

 まあ、流石にその話は耳に入っているか。

 私は無言で小さく頷いた。

 

「経緯はどうであれ、お前は闇の魔法使い、それも例のあの人に一番近いとされるブラックを殺したわけだ。死喰い人どもは仲間意識が非常に強い。隠れた死喰い人が私怨でお前を狙っている可能性もある」

 

「いや、それはないと思いますけど……私がブラックを殺したという情報は魔法省でも一部の人間しか知らないはずですし」

 

「どうしてそう言い切れる? え? 授業でも言ったことだが、服従の呪文で操られていたと主張する魔法使いが、本当に操られていたのか判断するのは非常に困難だと。昔死喰い人であったものが、今ものうのうとお日様の下を歩いておるのだ。魔法省にも、当たり前のように潜伏しているだろうな」

 

「でも、そうだとしても、十年以上アズカバンにいたブラックにそこまで入れ込んでいる人物がいるものでしょうか。シリウス・ブラックが死んだことでブラック家が潰えたと新聞で読みましたが」

 

 そもそも、ブラックの話が本当だったら、ブラックは無実であったということになる。

 そうなれば、ブラックの死を喜ぶ死喰い人はいても、悲しむ死喰い人はいないはずだ。

 

「確かにブラック家最後の男が死んだことによってブラックの姓は完全に潰えた。だが、ブラック家の血を引くものは魔法界には沢山いる。例えばだが、お前が懇意にしているらしいドラコ・マルフォイというスリザリンの生徒がいるだろう。そいつの母親はシリウス・ブラックの従姉で、ルシウス・マルフォイと結婚する前の姓はブラックだ。それに、結婚相手のルシウス・マルフォイは死喰い人であった可能性が非常に高い」

 

 マルフォイの母親がシリウス・ブラックの従姉……、確かに少し考えればわかることだ。

 魔法界で純血とされている一族の数はそこまで多くはない。

 純血同士で結婚を繰り返したら、周囲は親戚だらけになるだろう。

 

「まあ、ナルシッサ・マルフォイがホグワーツに侵入してゴブレットに名前を入れたとは考えられんがな。だが、死喰い人の繋がりを利用してゴブレットに名前を入れた可能性は十分ある。ハロウィンの夜……いや、今現在も死喰い人はホグワーツ内に侵入しておるのだ。しかも、そやつは人目を気にすることなく校内を歩き回れる立場にある」

 

 私は少し考え、驚きのあまり口に手を当てた。

 

「ま、まさかマダム・マクシームが死喰い人だったなんて……」

 

「おい小娘、本当にそうだと考えているのか? もしその言葉が本気なら、わしはお前の昨年の成績を大いに疑うことになる」

 

「流石に冗談ですよ。ダームストラングの校長ですよね?」

 

 ああ、とムーディは頷く。

 

「そうだ。イゴール・カルカロフ。死喰い人だったカルカロフは潜伏している仲間を売ることでアズカバン送りを免れた」

 

「裏切者もいいところじゃないですか」

 

「だからこそ、奴は昔の仲間に強い負い目がある。ルシウス・マルフォイあたりから脅されたら、ゴブレットにお前の名前を入れるぐらいのことは平然と行うだろうな」

 

 確かに、その可能性はある。

 だが、そうだとしたらあの時見せた焦りや怒りは全部演技だったということになる。

 

「まあ、逆に言えばカルカロフはそれ以上のことは頼まれておらんだろう。死喰い人も裏切者のカルカロフを利用こそしても信用はしない。たとえカルカロフを絞めたとしても、大した情報は吐かんだろう」

 

 もし本当にカルカロフが私の名前を入れたのだとしても、それ以上の情報を持っていない可能性が高いということか。

 確かにそれならば、半信半疑の状態で客人であるカルカロフを尋問することはできないだろう。

 

「話が長くなったが、つまりだ。お前が死喰い人から狙われている可能性は十分あるということだ」

 

「だから、ムーディ先生が私を鍛えると……」

 

「そうだ。このことはダンブルドアも了承しておる。お前には戦う力と、闇の魔術に対する知識が必要だ」

 

 ……まあ、悪い話ではない。

 前の先生は私が殺してしまったし、そろそろ新しい先生が必要だと思っていたところだ。

 闇の魔法使いと何十年も戦い続けたムーディなら、戦闘に関する良き教師となってくれるだろう。

 それに、つい先日魔法研究の神様みたいな人に著書の隠された秘密を教えてもらったところだ。

 魔法の技術に関しては、それを読み解くことである一定以上の、いや、並の魔法使いを超える技術を得ることもできるかもしれない。

 

「わかりました。よろしくお願いします」

 

「だが一つ言っておく。わしはあくまで闇の魔術に対する防衛術の課外授業を行うに過ぎん。課題に手を貸すことはせんからな」

 

「まあ、それに関してはなんとでもなるので……」

 

 私がそう言うと、ムーディは眉を顰める。

 

「随分余裕じゃないか、え? 第一の課題のことはダンブルドアから聞いておるんだろう?」

 

「はい。ドラゴンですよね? 正直対人戦じゃなくてホッとしてますよ」

 

「ホワイト、お前まさかドラゴンを知らんのか?」

 

 私は肩を竦めながら答えた。

 

「まさか、勿論知っていますよ。それ込みの話をしているつもりです」

 

「ふん、自分自身を過信した結果、命を落とした闇祓いを星の数ほど見てきた。お前がそうならんか見ものだな。なんにしてもだ。特に用事がなければ課外授業は夕食後毎日行う。それでいいな?」

 

「はい。それでお願いします。で、課外授業は今日から?」

 

「ああ」

 

 ムーディは杖を引き抜くと、棚に向かって杖を振るう。

 すると棚が横に滑り、隠されていた扉が姿を現した。

 

「ついてこい」

 

 ムーディは義足を引きずりながら扉を開けて隠し部屋の中に消えていく。

 私は木箱から立ち上がると、ムーディの後を追って部屋の中に入った。

 部屋の中には家具は一切なく、教室ほどの空間が広がっている。

 そして、壁や床は石材で出来ており、窓の類は一切なかった。

 

「この部屋隠しておく必要あります?」

 

「監禁部屋だ」

 

 ああ、なるほど。

 確かにこの部屋から杖なしで脱出するのは困難だろう。

 唯一の出入り口である扉を塞いでしまえば、この部屋は完全に密室になる。

 

「まあ、使う機会はまずないだろうがな。何にしても課外授業をするのにこれほど都合がいい部屋は他にあるまい」

 

 ムーディは部屋の真ん中まで歩くと、改めて私と対面する。

 

「とにかく、まずはお前の実力を見極めねばならん。自由に撃ってこい」

 

 ムーディは手に持っていた杖を構える。

 私はローブから杖を引き抜くと同時に武装解除の呪文を放った。

 

「速度は十分、威力もある。まずまずだな」

 

 だが、ムーディは軽く杖を振るうだけで赤い閃光を跳ね除ける。

 

「次はこちらから撃つぞ。防いでみよ」

 

 ムーディはそう言った瞬間武装解除の呪文を放っていた。

 

「プロテゴマキシマ!」

 

 私は急いで杖を振り上げると、盾の呪文を唱える。

 どうやらギリギリ間に合ったようで、ムーディの武装解除の呪文は私の前で花火のように弾け散った。

 

「ほう、最高レベルの盾の呪文を使えるのか。授業では習わんだろう。誰に教わった?」

 

「ロックハート先生です」

 

「ロックハート……まさか、ギルデロイ・ロックハートか? 奴がマトモに呪文が使えるとは思えんが」

 

 ムーディはロックハートの名を聞いて首を傾げる。

 

「最近命を落としたとは聞いていたが、奴はここの教師をやっとったのか?」

 

「教師というか、一時期ダンブルドア先生の代理で校長まで務めてましたよ?」

 

「世も末だな」

 

 隠居していたとは聞いていたが、まさかそこまでとは。

 

「私が知る限りでは、かなり優秀な魔法使いだと思いますよ? バジリスクにやられて死んでしまいましたが」

 

 正確には、『バジリスクの毒にやられて』だが。

 

「奴がバジリスクに勝てるとは思えん。当然の結果と言えよう。まあ、何にしてもだ。防衛術の基礎は十分に備わっておるようだな。そのレベルの魔法が使えるのなら、新しく呪文を覚える必要はあるまい。もっと応用的な、技術的な指導を行うことにしよう」

 

 そう言うとムーディは改めて杖を構える。

 

「決闘だ。武装解除の呪文と盾の呪文のみ。狙うのは杖だけだ。今日はこれを時間いっぱい行う」

 

 私もそれに合わせるように杖を持っている左手に力を込めた。

 時間停止を使えば、私はどんな相手にでも負けることはないだろう。

 だが、時間を操る能力は決して万能ではない。

 いや、実際諸刃の剣もいいところだ。

 時間停止を決闘で使うということは、その場にいる全ての人間を殺さなければならない。

 つまり、相手を殺したくない場合は能力を殆ど使えないということだ。

 

「エクスペリアームス!」

 

 私は早速ムーディの杖目掛けて武装解除の呪文を放つ。

 いい機会だ。

 とことん腕を磨かせてもらおう。

 

 

 

 

 

 ムーディと私の決闘方式の模擬戦は結果的にはムーディの全勝で終わった。

 私自身決闘に慣れているわけでもないし、ムーディが戦闘の達人であることも理解している。

 だが、ここまで歯が立たないとは。

 私は勢い余って吹っ飛ばされた時に打ち付けた腰を摩りながら女子寮の螺旋階段を上る。

 これが毎日続くとなると、結構な負荷になるだろう。

 

「筋トレもした方がいいのかなぁ。ムーディの奴、途中から盾の呪文すら使わずに私の呪文を避けてたし」

 

 もう随分な歳のはずなのに、何故あそこまで軽やかに動けるのだろうか。

 見た目に反し、ムーディの身のこなしには全くの老いを感じなかった。

 私は自分のベッドがある部屋に入ると、中に誰もいないことを確認してから時間を止める。

 取り敢えず、時間を止めたまま一度仮眠を取って、パチュリー・ノーレッジの本の解読に移ろう。

 時間を止めていれば、私の一日は四十八時間にも七十二時間にもなる。

 課題の準備に、課外授業に、身体作りに、暗号解読に。

 一日二十四時間では、全くもって時間が足りない。

 私は少々痛む腰を摩りながらベッドに潜り込み、毛布を頭の上まで引き上げた。

 




設定や用語解説

サクヤの時間停止
 サクヤは時間を止めるという行為そのものには体力を消費するが、あくまで止める瞬間だけで、止め続けることに関しては体力を消費しない。なので、時間を止めて体を休ませたり、睡眠を取ったりすることが可能。勿論、止めている間だけ歳を取る。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。