P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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打ち合わせと策略と私

 三大魔法学校対抗試合の代表選手が決まった夜。

 私はダンブルドアを引っ張るような形で大広間を出ると、そのまま校長室に向かった。

 階段を上り廊下を進み、ガーゴイル像に合言葉を言って校長室へと入る。

 そして校長室の重厚な扉を閉めると、そのまま床にへたり込んだ。

 

「──っ、サクヤ、大丈夫か?」

 

 ダンブルドアは私を気遣うように屈み込むと、私の顔を覗き込む。

 きっと私は心底嫌そうな顔をしているだろう。

 私はそんな表現を隠すことなくダンブルドアに言った。

 

「先生、なんで私の名前がゴブレットから出てくるんですか? 私が代表選手は色々まずいですよ!」

 

 ダンブルドアは私のそんな嘆きを聞いて、安心したように微笑んだ。

 

「やはり、お主が仕掛けたことではなかったか」

 

「当たり前じゃないですか! 私は去年殺人鬼とはいえ人を一人殺しているんです。それに孤児院のことや秘密の部屋のことも……私は決して目立っていい人間じゃない。マスコミがそのことを嗅ぎつけたらどんな騒がれ方するか……」

 

「では何故あのような小芝居を? 素直に『私は入れていない』と言えばよかったじゃろうに」

 

 私はダンブルドアのもっともな疑問に対して少し頬を膨らませながら答えた。

 

「そんなの誰も信じないですし、死なば諸共ですよ。そもそもこの件は私に一切の責任はないわけですし、だったら黒幕役をダンブルドア先生に背負ってもらおうかなと。先生もそれを察してあのような芝居を打ってくださったんですよね?」

 

「まあ、そうじゃの。じゃが良いのか? カルカロフあたりはお主のことをわしの懐刀か秘密兵器か何かだと勘違いしておるぞ?」

 

「いいんです。好きに思わせておけば。それに優勝する気はさらさらありませんし。このような異常事態です。先生もそこまで高望みはしていないですよね?」

 

 ダンブルドアは私の問いに対して大きく頷いた。

 

「勿論、お主の安全が優先じゃ。何者がお主の名前をゴブレットに入れたかはわからんが、決して善意ではないじゃろう。課題に備えるのと同時に、その何者かも警戒せねばならん」

 

「あの様子ではカルカロフやマクシームがホグワーツを不利にさせるために私の名前を入れたわけではなさそうでしたもんね」

 

「そうじゃな。あの二人ではないじゃろうな。逆に、お主は犯人の心当たりはあるかの?」

 

 ダンブルドアに言われて、私は少し考え込む。

 今まで因縁を持ってきた相手の殆どは私の手で殺してきたため、そのような小細工が出来るとは思えない。

 だとしたらクィレルやロックハート、ブラックではない。

 考えられるとしたら、一年の時に対峙したヴォルデモートか、三年の時に逃したペティグリューだろう。

 とくにネズミの動物もどきのペティグリューなら城に忍び込んでゴブレットに名前を入れることぐらいは造作もないはずだ。

 

「いえ、全く思いつきません。誰かと喧嘩しているわけでもないですし、上級生に因縁がある人間はいません。そもそも、ゴブレットに他人の名前を入れることは可能なのですか?」

 

「入れるだけなら可能じゃ。じゃが、そのような羊皮紙が選ばれることはない。ゴブレットはランダムに代表選手を選んでいるわけではないからの。入れたものの覚悟や魔法の素質などを見て、総合的に代表選手を決めるのじゃ。故に、不正はできないようになっておる。そのようないたずらもじゃ」

 

「では、何故ゴブレットから私の名前が?」

 

 ダンブルドアは私の問いに対してしばらく考え込む。

 

「うーむ、あくまで予想じゃが、強力な錯乱呪文を用いてゴブレットを錯乱させたのじゃろう。そうでなければ、お主の名前がゴブレットから出てくることはない。問題は、ゴブレットを錯乱させることができるような魔法使いがお主の名前をゴブレットに入れたということじゃ」

 

 やはり、問題はそこだ。

 

「今すぐ犯人を特定するのは難しいじゃろう。サクヤは第一の課題に専念するのじゃ。普段の授業では昼行灯を演じておるようじゃが、お主が優秀な魔女なのは期末試験の結果が物語っとる。二年生の頃はロックハート先生から手ほどきを受けておったようじゃしな。サクヤ、お主なら第一の課題はなんの問題もなく突破することが出来るじゃろう」

 

 どうやら、ロックハートと私の関係はバレていたらしい。

 まあ週一の頻度で個人授業を受けていたのだ。

 気がつかない方がどうかしているだろう。

 

「では、犯人探しは先生が?」

 

「と言っても、まったく見当がついていない現状、何か動きがあるまではこちらとしても動きようがない。何か少しでも違和感を感じたらマクゴナガル先生を通じてわしに伝えてほしい。ホグワーツの先生方にはわしから真実を伝えておくからの。何か問題が起こったら、すぐに教師を頼るのじゃよ?」

 

 私はダンブルドアの言葉に頷いた。

 

「わかりました。あとそれと、先程打った芝居の詳細を固めておきましょう。認識を合わせておかないと後々面倒なことになるかもしれませんし」

 

「ふむ、それならこういうのはどうじゃろうか。大筋は先程打った小芝居のままで行こうと思う。詳細は──」

 

 ダンブルドアは肘掛け椅子に腰掛けると、嘘の設定の説明を始めた。

 

「お主は対抗試合に向けてわしが選出した特別な生徒だということにしよう。表向きは年齢線をひいてはおったが、わしが選んだお主だけは拒絶されることなく年齢線を越えれるようになっておった。じゃが、勿論ゴブレットの審査は平等じゃ。あくまでホグワーツ優勝の可能性を高めるためであって、他の上級生が選ばれる可能性も十分あった。ゴブレットは他の立候補者とサクヤを比較した結果、サクヤを選んだのじゃ」

 

「なるほど。それなら他のホグワーツの生徒にもあまり角が立ちませんね。不平等感も減りますし」

 

「そして、わしらはこの事実を直接口にするのではなく、匂わせる程度に留める。それと同時に先生方にはこの作り話の噂を流してもらおう。一週間もしないうちに先程の作り話は学校中に広がるはずじゃ」

 

「わかりました。では、そのようにします」

 

 私はダンブルドアが言った作り話を頭に叩き込む。

 私はダンブルドアが推薦した優秀な下級生。

 夜中にこっそり年齢線を越え、ゴブレットに名前を入れたということにしよう。

 

「さて、わしからの話は以上じゃ。サクヤ、お主からわしに聞きたいことがなければ今日は解散とするが……」

 

「勿論、聞きたいことはあります。ぶっちゃけ第一の課題って何が出るんです?」

 

「本当に『ぶっちゃけ』じゃのう。まあ、当然の疑問ではある。そして、あのような小芝居を打った手前、わしがお主に教えていないというのも不自然な話じゃろう。第一の課題はドラゴンじゃ。ドラゴンを出し抜き、金の卵を奪い取る。それが第一の課題じゃよ」

 

 なるほど、ドラゴンか。

 まだ遭遇したことはないが、厄介な魔法生物であることは聞いている。

 だがまあ、殺すならまだしも金の卵を奪い取るだけならいくらでも方法はあるだろう。

 

「……わかりました。準備をしておきます」

 

「何か必要な魔法や呪文があったら先生方を頼るのじゃぞ。ドラゴンは硬い鱗で魔法を弾く上に、口から吐くブレスは鉄をも融かす。並の魔法はまともに掛からないものだと心得るのじゃ」

 

「はい。取り敢えず、聞きたいことはそれだけです」

 

 私はダンブルドアに頭を下げると、螺旋階段に続く扉に手をかける。

 

「では、失礼します」

 

 そして重たい扉を押し開けて校長室を後にした。

 

 

 

 

 

 校長室を後にした私は階段を上りながらこの先のことを考える。

 取り敢えず、ダンブルドアの協力は取り付けることができた。

 主催を務める魔法省としても私が代表選手になることに関しては殆ど問題視していない。

 問題は、生徒からどう見られているかだ。

 殆どの生徒は私が年齢線を掻い潜って自分でゴブレットに名前を入れたと思うだろう。

 それを好意的に受け取る人間が、果たしてどれほどいるだろうか。

 私は八階の廊下を進み、突き当たりにある『太った婦人』の肖像画の前で立ち止まる。

 

「あらあらあら、代表選手のご登場ね。合言葉をどうぞ」

 

「『戯言』」

 

 私が合言葉を言うと、肖像画はパッと開く。

 私はその裏にある穴をよじ登って談話室の中に入った。

 その瞬間、談話室が爆発したかと勘違いするほどの拍手と歓声が沸き起こる。

 談話室内にはグリフィンドール生が勢揃いしており、全員が私に注目していた。

 

「名前を入れたなら教えてくれりゃいいのに!」

 

「髭も生やさずにどうやったんだ? スッゲェな!」

 

 群勢の中心にいたフレッドとジョージが大声で言う。

 どうやら、取り敢えずグリフィンドール生は私が代表選手になったことを歓迎してくれているようだ。

 

「グリフィンドールから代表選手が出るなんて!」

 

「こっちにご馳走が用意してあるよ! 今日は宴だ!」

 

 何人もの手に引っ張られ、私は談話室の中心に引きずられていく。

 私は内心安堵しながら、皆の歓待を受けた。

 

「それで、流石に聞かせてくれるよな? どうやってダンブルドアの年齢線を越えたんだ?」

 

 私にかぼちゃジュースの入ったゴブレットを渡しながらジョージが言う。

 私はかぼちゃジュースを一息で飲み干すと、不敵な笑みを作った。

 

「どうやってもなにも、特に何もしてないわ。普通に踏み越えただけよ」

 

「嘘つけ! その結果俺たちはクリスマスでもないのに見事な髭を口周りに蓄えることになったんだぜ?」

 

 ジョージが冗談交じりに言う。

 私はそんなジョージの疑問に含みを持った返答をした。

 

「まあ、これに関しては詳しいことは言えないんだけど……一つ言えることがあるとすれば、味方につけるべきは誰か、ということよ」

 

 私はその後も何人ものグリフィンドール生の質問に当たり障りのない程度に答えていく。

 取り敢えず、グリフィンドール生は疑問こそあれ私の味方についてくれるようだった。

 

 夜も更け、殆どの生徒が寮へと上がっていき、最終的に談話室には私、ハリー、ロン、ハーマイオニーのいつもの四人になった。

 

「でも意外だったなぁ。まさかサクヤが立候補するなんて。歓迎会のご馳走にしか興味ないみたいな顔してたのに」

 

 ロンが余ったビスケットのカケラに手を伸ばしながら言った。

 私はそんなロンの言葉に大きく肩を竦める。

 

「まあ確かにご馳走は楽しみではあったけど──」

 

「……ねえ、サクヤ。本当は立候補してないんでしょう?」

 

 ハーマイオニーが私の言葉を遮るように言った。

 私はその言葉の真意を探るためにハーマイオニーの顔を見る。

 ハーマイオニーは今にも泣きそうな顔でこちらを見ていた。

 

「……なんで、そう思ったの?」

 

「だって、名前を呼ばれた時の貴方、今にも死にそうな顔をしてたから……自分でゴブレットに名前を入れてたら、驚きこそすれあんな顔はしないでしょう?」

 

「……敵わないわね。その通りよ」

 

「どういうこと?」

 

 ハリーとロンが同時に首を傾げる。

 私はお馬鹿二人組にもわかるように説明を始めた。

 

「実は、私はゴブレットに名前を入れてないの。私の名前はゴブレットから勝手に出てきたのよ。だっておかしいと思わない? 三年生の時あんなことがあったのに、私自ら目立ちに行くなんて」

 

「まあ、確かに不自然かも」

 

 ロンは思いも寄らなかったと言った表情で相槌を打つ。

 

「誰かが私の名前をゴブレットの中に入れたんだと思う。なんの目的かはわからないけど、少なくとも善意でないことは確かよ。だから、ダンブルドアと協力してひと芝居打つことになったわけ。そうすれば少なくともその何者かの思い通りにはならないでしょう?」

 

「やっぱり、味方につけたと言っていたのはダンブルドアのことだったんだね」

 

 ハリーの言葉に、私は頷いた。

 

「ええ、その通りよ。名前を入れた何者かの目的がわからない以上、最大限の警戒をしないといけない。暗にダンブルドアの関与を仄めかすことで、何も知らない人から見たらダンブルドアが裏で手を引いたように見えるし、名前を入れた張本人から見たら私がダンブルドアを味方につけたとわかる。どちらにしても私を下手に攻撃できなくなるってわけ」

 

「確かに。味方につけたらこれ以上心強い人はいないもんな。でも、誰がサクヤの名前をゴブレットに入れたんだろう」

 

「『何のために』っていうのも重要よ」

 

 ロンの疑問にハーマイオニーが言葉を付け足した。

 

「サクヤは心当たりはあるのかい?」

 

 ハリーの問いに私は唸り声を上げる。

 

「うーん、正直見当もつかないんだけど、可能性があるとすればシリウス・ブラックの関係者じゃないかしら。つまり、昔例のあの人の手下だった闇の魔法使いとか」

 

 表向きはブラックはヴォルデモートの一番の手下で、それを私が殺したことになっている。

 それを知った闇の魔法使いや元死喰い人が報復のためにゴブレットに私の名前を入れたのかもしれない。

 

「……いや、考えすぎか」

 

 報復するならもっと賢い方法があったはずだ。

 代表選手に選ばれる程度では、ただの罰ゲームぐらいにしかならない。

 そもそも、ホグワーツに忍び込んでゴブレットに細工をするぐらいなら、直接私を殺しにくるだろう。

 

「何にしても、慎重に動かなくちゃ。誰かが貴方の命を狙っているかもしれないんだもの」

 

「そんなこと、百も承知よ。いい? 三人とも。このことは誰にも話してはダメよ。表向きはダンブルドアの推薦で私が代表選手へ立候補できたことにするから。私の名前を入れた何者かの思惑を崩すためにね」

 

「オーケーわかった」

 

 ロンは任せろと言わんばかりに頷いた。

 話が一段落すると、私たちは男女に分かれてそれぞれの寮へと上がっていく。

 私は螺旋階段を上りながらハーマイオニーの背中に話しかけた。

 

「……ありがとね。貴方が気がついてくれなかったら、きっと私は貴方たちも騙し続けてたわ」

 

 それを聞いて、ハーマイオニーは足を止める。

 

「何年一緒にいると思ってるの? 貴方のことはなんでもお見通しなんだから」

 

 ハーマイオニーはそう言うと、恥ずかしそうに足早に階段を上っていった。

 私はそんな背中を見ながら独り呟く。

 

「でも、本当に私の全てを見通してしまったら、貴方は私をどういう目で見るんでしょうね」

 

 血で濡れた私の手を、貴方は握ってくれるのかしら。




設定や用語解説

ダンブルドアの推薦選手サクヤ
 事情を知らない人から見たら、ダンブルドアがなりふり構わず勝ちにきてるように見える。

サクヤの嘘を見抜くハーマイオニー
 伊達に三年以上同じ部屋で生活していない。サクヤのそれが驚愕なのか混乱なのか見抜くぐらいはできる。

ダンブルドアを味方につけたサクヤ
 ダンブルドアという名前はそれだけでかなりの防波堤になる。

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