P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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代表選手と消えた炎と私

 一九九四年、十月三十一日、ハロウィンの夜。

 私はハロウィンパーティーのご馳走に舌鼓を打っていた。

 昨日は外国の料理が多く並んでいたが、今日の料理は普段のホグワーツらしいハロウィン料理だ。

 私は色々なご馳走をかぼちゃジュースで流し込むと、ダンブルドアの方に視線を向ける。

 ダンブルドアの前には、先程まで玄関ホールに設置されていた炎のゴブレットが置かれていた。

 結局、フレッドとジョージは年齢線を越えることは出来なかった。

 二人は老け薬を数滴飲んでから年齢線を跨いだが、次の瞬間には口周りに見事な髭を生やした状態で吹き飛ばされた。

 やはりあの双子よりもダンブルドアの方が一枚上手だったようだ。

 

「アンジェリーナだったらいいな」

 

 テーブルの向かい側でフレッドが楽しそうにリーに話しているのが聞こえてくる。

 どうやら二人の中ではもう既に笑い話になっているらしい。

 

 あらかた料理が食べつくされると、金の皿の上が綺麗さっぱり元の状態に戻る。

 そして、それを合図にするようにダンブルドアが立ち上がった。

 

「さて、どうやらゴブレットは代表選手の選出を終えたようじゃ。名前を呼ばれた者は大広間の一番前を通って隣の部屋に進むように。そこで最初の指示が与えられるであろう」

 

 ダンブルドアが杖を振るって大広間の照明を落とす。

 周囲が暗くなったことで、ゴブレットの青い光がより一層強調された。

 大広間にいる全ての生徒がゴブレットの青い光に向けられる。

 その瞬間だった。

 ゴブレットの炎が赤くなり、周囲に火花が飛び散り始める。

 そしてより一層大きく燃え上がったかと思うと、焦げた羊皮紙が一枚ダンブルドアの手元に落ちてきた。

 ダンブルドアは舞い落ちる羊皮紙を器用にキャッチし、再び青くなったゴブレットの炎の明かりで羊皮紙の内容を読み上げる。

 

「ダームストラングの代表選手は……ビクトール・クラム!」

 

 大広間が大きな拍手で包まれる。

 名前を呼ばれた男子生徒は大きくガッツポーズをするとスリザリンのテーブルから立ち上がり、ダンブルドアの目の前まで歩いてから教職員のテーブルに沿って進み、隣の教室に入っていった。

 

「やっぱりゴブレットはわかってる! ダームストラングの代表選手はクラム以外に考えられないよ!」

 

 私の横でロンがそう叫びながら跳ね回っている。

 確か昨日聞いた話では、クラムという生徒はクィディッチのプロ選手だったはずだ。

 まあ自分の憧れの選手が代表選手に選ばれたとなったら、飛び跳ねずにはいられないだろう。

 だが、クラムに向けられた拍手は長くは続かなかった。

 再びゴブレットが赤く燃え上がったのだ。

 大広間にいる全ての人間が固唾を呑んでゴブレットに集中する。

 

「ボーバトンの代表選手は……フラー・デラクール!」

 

 ダンブルドアは二枚目の羊皮紙を読み上げた。

 レイブンクローに座っていたボーバトンの女子生徒が立ち上がると同時に拍手が沸き起こる。

 ボーバトンの女子生徒はシルバーブロンドの髪を靡かせると、優雅な動きで隣の部屋へと歩いていった。

 

「これで残るはホグワーツだけか……それにしても、さっきの人、サクヤといい勝負できる容姿してたよな」

 

 ロンが興奮を抑えきれない様子でそう言う。

 

「うん、僕もそう思う。ワールドカップで見たヴィーラみたいだよね」

 

 ハリーもロンの言葉に同意するように頷いた。

 まあ、確かにロンとハリーの言うように、代表選手に選ばれた女子生徒は私から見てもかなりの美人と言える容姿をしていた。

 私も自分の容姿には自信があるが、あそこまでの大人の魅力は出せない。

 やっぱりフランスの女性はレベルが高いのかもしれない。

 そんなことを考えていると、またゴブレットが赤く燃え上がる。

 残るはホグワーツだけだ。

 ダンブルドアは舞い落ちてきた羊皮紙をキャッチすると、ゴブレットの青い炎で羊皮紙を照らした。

 

「ホグワーツの代表選手は」

 

 ダンブルドアはそこで一度言葉を切ると、眉を顰めて羊皮紙をもう一度覗き込む。

 そして何度か羊皮紙をひっくり返して名前を確かめると、難しい顔で小さく唸った。

 

「はっはっは、流石に溜めすぎだダンブルドア。どれ、私が代わりに読み上げよう」

 

 明らかに様子がおかしいダンブルドアに気が付いていないのか、ルード・バグマンが笑いながら羊皮紙をひったくる。

 そしてわざとらしく咳払いをすると、大きな声で羊皮紙に書かれた名前を読み上げた。

 

「おほん! 栄えあるホグワーツ代表は……サクヤ・ホワイト!」

 

 

 

 

 は?

 

 

 

 

 ルード・バグマンが名前を読み上げた瞬間、大広間は大きな拍手に包まれる。

 だが、それと同時に怪訝な視線が私の体を四方八方から貫いた。

 

「……いや、え?」

 

 私はまったく状況が呑み込めず、席に座ったまま呆然としてしまう。

 冗談にしては笑えない。

 冗談じゃないとしたらもっと笑えない。

 

「サクヤ・ホワイト! いないのか? いや、いないということないだろう。恥ずかしがらずに出ておいで!」

 

 バグマンが楽しそうに教職員テーブルで叫んでいる。

 だが、後ろから近づいてきたマクゴナガルに事情を聴いたのか、眉を顰めて言った。

 

「え? まだ十三歳?」

 

 バグマンのその声は決して大きくはなかったが、大広間にいる全員の耳に届いてしまったらしい。

 拍手はピタリと止み、代わりに囁き声が周囲に満ちた。

 

「サクヤ、いつの間に立候補していたんだい?」

 

 ロンが目を丸くして私に聞く。

 私は呆然としながらも、ロンの問いに反射的に答えていた。

 

「いや、入れてない。私は立候補してないわ」

 

「サクヤ・ホワイト! ……とにかく隣の部屋に来なさい」

 

 ダンブルドアは大きな声で私の名前を呼ぶ。

 どうしてこんなことになってしまっているかはわからないが、とにかく今はダンブルドアの言うことに従うほうがいいだろう。

 私は覚悟を決めると、椅子から立ち上がりダンブルドアの元へと向かう。

 そしてダンブルドアの前で曲がり、誰とも視線を合わせないようにしながら隣の部屋へと急いだ。

 私は部屋へと続く扉を押し開け、大広間の隣の部屋に入る。

 部屋の中には沢山の魔法使いの肖像画が並んでおり、壁に埋め込まれた暖炉がパチパチと音を立てている。

 そして暖炉の近くにダームストラング代表のクラムと、ボーバトン代表のフラーが立っていた。

 

「おー、よろしくおねがいしまーす!」

 

 フラーは少し屈みながら私に対して微笑みかける。

 私はそんなフラーに対して曖昧に笑顔を返すと、大きなため息をついた。

 

「ええ、よろしく……」

 

「どうしたのでーす? 代表選手に選ばれたのに、あまりうれしそうじゃないでーすねー」

 

「まあ、えっと……できれば今すぐロンドンに帰りたいというか──」

 

 私は困惑した表情でフラーの顔を見上げる。

 フラーもクラムもかなりの高身長なためか、知らない人が見たらまるで親子のような身長差だ。

 その瞬間、各校の校長とクラウチ、バグマン、それにマクゴナガルが部屋の中に入ってくる。

 

「いやはや、大したものですな! まさかあのダンブルドアが一本取られるとは! いやはや、面白くなってきた!」

 

 バグマンは一人楽しそうに拍手すると、私の肩をバンバンと叩く。

 

「実は私は年齢制限なんて反対だったんだ。チャンスは皆平等にあるべきだ。そうだろう? そうだとも。ゴブレットはよくわかってる」

 

「いや、私は別に──」

 

 私が口を開きかけたと同時にバグマンを押しのけてマクゴナガルが私に迫ってきた。

 

「サクヤ・ホワイト! これは一体全体どういうことですか! 何故貴方の名前がゴブレットから出てくるのです!?」

 

 マクゴナガルは私の肩をがっちりと掴むと前後に強く揺さぶる。

 私は大きく頭を揺らしながら訴えた。

 

「いや、私も、なにが、なんだか、よく、わから、なくて……」

 

「マクゴナガル先生、そんなに力強く揺すってはサクヤの首が取れてしまう。それに、ろくに会話も成り立たんのでな」

 

 ダンブルドアがそう言ってくれたおかげで、私はようやくマクゴナガルから解放される。

 私は左手で首を摩りながら全員と少し距離を取った。

 

「どういうことですか? 何かあったのですか?」

 

 様子がおかしいことを察したのか、暖炉の近くにいたクラムがこちらに近づいてくる。

 それに対して、ダンブルドアの後ろにいたカルカロフが答えた。

 

「なに、大したことじゃない。ホグワーツの代表選手が我々の定めた年齢に達していなかっただけだ」

 

「これが大したことじゃないと本当にお思いですかカルカロフ校長」

 

 マクゴナガルが鋭い目つきでカルカロフを睨む。

 カルカロフは小さく肩を竦めて少し後ろに下がった。

 その瞬間、勢いよく部屋の扉が蹴り開けられたかと思うと、ムーディが足早に私に近づき、胸倉を掴んで壁に叩きつける。

 全力で抵抗すれば逃げることもできたかもしれないが、ここは取り敢えず無抵抗で壁に磔にされよう。

 ここにはマクゴナガルもダンブルドアもいる。

 いくらムーディでもここで私に危害を加えることはないだろう。

 

「やってくれたな小娘! いたずらが成功して満足か? え?」

 

「なんのことだか──」

 

「わからないとは言わせんぞ。どうやったかはわからんが、代表選手の選考を滅茶苦茶にしてくれたな! 上級生に服従の呪文を掛けたのか? もしそうだとしたらわしがこの手で貴様をアズカバンに──」

 

 私は壁に磔にされている状態で、改めて今の状況を整理する。

 まず一番大切なのは、私はゴブレットに名前を入れていないし、入れる理由もないということ。

 私が代表選手として対抗試合を戦うなど論外だ。

 だとしたら一体誰が、何の目的で私の名前を入れたのだろうか。

 

「ムーディ先生、その辺にしといてもらおうかの」

 

 ダンブルドアが杖を振るうと、私は壁沿いに宙に浮き、そのまま床の上に着地する。

 助かったと思ったが、それは大きな間違いだった。

 着地した先はダンブルドアの目の前だった。

 ダンブルドアはキラキラとした目で私の顔をじっと見ている。

 怒っている表情ではないが、その顔に優しさは感じなかった。

 

「サクヤ、君は『炎のゴブレット』に名前を入れたのかね?」

 

「──ッ……ぁ」

 

 私は小さく口を開いたが、少し考えそのまま口を閉じる。

 ここで正直に答えて、信じてもらえるだろうか。

 そして、私が正直に答えたとして、得をする人間がいるだろうか。

 先ほどのカルカロフの反応を見る限り、他校からすればホグワーツの代表選手が若すぎることにリスクはない。

 むしろ自分の学校が優勝する可能性が高くなるため、都合がいいとすら思っているだろう。

 魔法省のバグマンはこの状況を面白がっているようだし、クラウチはそもそもこの問題に関心がなさそうだった。

 となると、今回のこの件を問題視しているのは私とホグワーツの教職員のみということになる。

 そもそも、私の無実を証明することは簡単だ。

 私は昨日も今日もずっとハーマイオニーと一緒にいた。

 ゴブレットに名前を入れに行く隙などない。

 だが、今問題なのは私の無実の証明ではないのだ。

 私が名前を入れていないんだとしたら、悪意の第三者が私の名前が書かれた羊皮紙をゴブレットに入れたということになる。

 そうなれば、新たな疑問が生じてくるだろう。

 『悪意の第三者は何故サクヤ・ホワイトの名前をゴブレットの中に入れたのか』

 『何故他の誰かではなく、サクヤ・ホワイトなのか』

 私に何か特別な事情がなければ、このようなことにはならない。

 勘のいい人間なら、そこに疑問を持ち私のことを調べ始めるだろう。

 だとしたら、嘘でも私がやりましたと言った方がいいのだろうか。

 いや、それはそれであまりよくはない。

 私がやったと言ったらそれはつまり、『私はダンブルドアの裏を掻くことができる』と言っているようなものである。

 それに、その方法を白状するまで解放されない可能性もある。

 だとしたら、自分がやったとは言わないほうがいい。

 真実を言っても、嘘を言っても私にとって致命傷になる。

 私の名前をゴブレットに入れた人間が誰かはわからないが、もし私を困らせるのが目的なのだとしたらそれは達成していると言えるだろう。

 だとしたら私はどうするべきか。

 詰んでいる状況に変わりはないが、このまま私を陥れた人間の思惑通りに行くのはあまりにも癪だ。

 なら、私が取るべき行動は──

 

「ダンブルドア校長、貴方がそれを言いますか?」

 

 笑え。

 笑え、笑え、笑え。

 私は全力で胡散臭い笑みを作ると、ダンブルドアに問い返した。

 

「何を──」

 

「おっと、申し訳ありません。これは秘密でしたね。なんにしても、これでホグワーツの代表は私になった。フラーとクラムには悪いですが、これでホグワーツの優勝で決まりです。年齢制限を設けるという話だけが、私を代表選手にする上での障害でしたもんね。本当に、マクシーム校長もカルカロフ校長も揃いも揃って用心が足りない。ただでさえホグワーツの敷地内で競技を行うのに、一番大事な選手選考の一端を競い合う校長の一人に任せるなんて」

 

「なんだと?」

 

 先程まで余裕そうだったカルカロフの表情が途端に表情を曇らせる。

 マクシームもまさかといった表情でダンブルドアを見ていた。

 

「本当に、校長の自校贔屓には困ったものです。どうしても優勝したいからって、私を引っ張り出してこなくてもよかったのに。私が参加したらホグワーツの優勝で決まりじゃないですか」

 

 私はため息交じりに肩を竦めてみせる。

 

「ダンブリドール! どういうことですか!?」

 

 マクシームは上から押し潰すようにダンブルドアに言った。

 ダンブルドアは困惑したような表情で私を見る。

 私はダンブルドアの目を見て、小さく口を動かした。

 

『助けて』

 

 私の声にならない悲鳴は、完璧にダンブルドアに伝わったらしい。

 ダンブルドアは少し目を見開くと、真面目な表情で小さく頷いた。

 

「ふむ、サクヤの言う通りじゃの。お二人とも少々油断のし過ぎではないか? 対抗試合は、何も選手だけが競い合うものではないということは過去の大会を見ても明らかじゃ」

 

「じゃあ何か? この小娘がお前の秘密兵器だと本気で言っているのか?」

 

「何を言っておるのかわからんのう。どうしてサクヤの名前がゴブレットから出てきたのか、ワシニハケントウモツカンナー」

 

「──っ、この狸爺が! バグマン、代表選手の選考のやり直しを求める! ダンブルドアが不正をしているのは明らかだ!」

 

 カルカロフは鬼のような形相でバグマンに訴える。

 だが、バグマンは困った顔で首を横に振った。

 

「そういうわけにもいかない。ゴブレットの炎はもう消えてしまった。この対抗試合が終わり、次の対抗試合が始まらないことには炎が灯ることはないだろう」

 

「そうじゃよカルカロフ校長。それに、何か不満でもおありか? サクヤはまだ十三歳じゃ。十三歳の少女にご自慢のクラムが負けると? よっぽど自信がないようにみえるの」

 

「ぐっ……貴様この……そっちがその気なら、こちらとしても考えがあるぞ。覚えておけよダンブルドア」

 

 カルカロフは悔しそうな表情でダンブルドアを睨む。

 そのような言い方をされたら、カルカロフとしてはこれ以上この件に口出しはできないだろう。

 マクシームも表情は険しいが、この件に関しては何も言うつもりはないらしい。

 私はそれを見て、取り敢えず意図した結果には持ち込めたことを確信した。

 そう、何も泥を被るのは私じゃなくてもいい。

 ゴブレットから私の名前が出てきたのは私の責任ではない。

 どちらかと言うと運営側、それも年齢線を引いたダンブルドアの責任だ。

 ダンブルドアもそれをよくわかっているのだろう。

 だから私の小芝居と『助けて』という言葉で大体の事情を察し、自ら泥を被ってくれたのだ。

 詳しい話はあとで校長室で行えばいい。

 

「さてさて、話もついたところで開始と行きますかな?」

 

 タイミングを見計らっていたバグマンが手を揉みながら話を切り出す。

 

「些かトラブルもあったが……なに、大した問題ではなさそうだ。年齢制限はあくまで安全面からの対策であって、ダンブルドアが推薦する生徒であるならば問題なかろう。バーティ、主催者として代表選手に指示を与えてもらいたい」

 

 バグマンに呼ばれたクラウチは、殆ど表情を変えないまま前に出る。

 その顔は無表情というよりかは体調が悪いのを我慢しているような顔だった。

 

「ふむ、指示ですな。では、選手の諸君、一歩前へ」

 

 クラウチに呼ばれて、私含めた代表選手三人がクラウチに近づく。

 

「最初の課題は君たちの勇気を試すものだ。ここではどういう内容なのかは教えない。未知なものに遭遇し、それを自分一人の力で対処するのだ。競技が行われるのは十一月二十四日。杖のみを頼りに、誰の力も借りずに課題に立ち向かう」

 

「誰の力も借りずね。ふん、怪しいもんだがな」

 

 カルカロフは隠すことなく悪態をつく。

 だが、クラウチは聞こえていないかのように話を続けた。

 

「第一の課題を無事突破することができたら、第二の課題についての情報を与える。そして、課題は過酷で準備には時間の掛かるものであるため、選手たちの期末テストは免除される」

 

 クラウチは少し考えるように顔を伏せると、ダンブルドアの方を見る。

 

「アルバス、これで全部で間違いないか?」

 

「わしもそう思う」

 

 ダンブルドアはにこやかに頷いた。

 

「いや、まだだ」

 

 だが、後ろで話を聞いていたバグマンが楽しそうに口を挟む。

 

「先程の件を考慮して、急遽審査員を替えたいと思うのだが、どうだろうか? 今のままでは、各校自分の生徒を贔屓して、他校の生徒に点数をつけない気がするのでな。私の伝手を頼るから、どうしてもイギリス人にはなってしまうが……」

 

「わしは構わんよ。お二人はどうじゃろうか?」

 

 ダンブルドアはバグマンの提案を了承すると、他の二人の校長に呼びかける。

 マクシームは難しい顔で頷いたが、カルカロフだけは不服そうだった。

 

「まあ、今のままよりかはマシかもしれんが……あまりにも偏った人選だったら異を唱えるぞ」

 

「勿論だとも。公正な審査員を選出するよう心がけよう! なに、これでも伝手は多いんだ。さーて、楽しくなってきた。ダンブルドア、今日は泊まっていくと言ったが、前言撤回だ。今すぐ魔法省に戻って審査員の選出を始める」

 

「倒れんようにの」

 

 バグマンはこうしちゃいられないと言わんばかりにローブを羽織って部屋を出て行く。

 クラウチはその様子をぼんやりした目で見ながら言った。

 

「さて、それじゃあ私も帰らせてもらう。部下のウィーザビーくんに仕事を任せっきりにしてあるのでな。多分、わしが戻るまで不眠不休で仕事を続けるだろう」

 

 クラウチはそう言うと、重そうな足取りでバグマンを追っていった。

 

「さて、では今日は解散としますかの。各校、代表選手のお祝いもあるじゃろうし、サクヤに少々聞きたいこともあるのでな」

 

「作戦会議の間違いだろう? 行くぞ、クラム」

 

 カルカロフはそう吐き捨てるとクラムを引き連れて部屋を出て行こうとする。

 私はカルカロフに視線が集まった隙を突いて時間を停止させた。

 

「さて、不服ではあるけど……こういうのはマウントの取り合いよね」

 

 私は時間が止まっているクラムの身体を弄り、ズボンのポケットから杖を引っこ抜く。

 そして、元の場所に戻り時間停止を解除すると、今まさに出て行こうとするカルカロフを呼び止めた。

 

「あ、待ってください」

 

「……なんだ?」

 

 カルカロフは怪訝な表情を私に向ける。

 私はまっすぐクラムに近づくと、ローブの中からクラムの杖を引っこ抜いた。

 

「落としましたよ」

 

 私は笑顔でクラムに杖を差し出す。

 クラムは一瞬固まり、慌ててズボンのポケットを確認すると、気まずそうな顔をした。

 

「あ、ありがとう」

 

「いえいえ」

 

「……クラム、お前は優秀だがどこか抜けているな」

 

 カルカロフは呆れた顔をすると、今度こそ部屋を出て行った。

 まあ、これはジャブみたいなものだ。

 能力がバレることは避けなければならないが、この程度なら問題ないだろう。

 

「さて、私もそろそろ失礼させてもらいましょう。談話室でグリフィンドールの生徒が私の帰りを今か今かと待っているでしょうし。ダンブルドア先生、行きましょう?」

 

 私はダンブルドアの袖を掴むと、優雅な動きで部屋の扉の前まで移動する。

 そして部屋にいる全員に対して一礼してから大広間横の小部屋を出た。




設定や用語解説

フラー・デラクール
 ボーバトンの代表選手。祖母がヴィーラであり絶世の美女。魔法の実力はそこそこ。

フラーにあまり反応しないロン
 サクヤ自体が本から出てきたような美少女なので、割と目が肥えている。

代表選手に選ばれたサクヤ
 ホグワーツ代表はセドリックでもなく、ハリーでもなくサクヤ。四校目の代表選手は存在しない。

ダンブルドアを巻き込むサクヤ
 何者かの思惑にそのまま乗るのは癪だし、かといって自分で入れたとは言いたくないサクヤが思いついた策。ダンブルドアとサクヤが共謀関係で、ダンブルドアの意思でサクヤが代表選手になったと思わせることでサクヤの名前を入れた何者かを混乱させようとした。

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