P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか? 作:へっくすん165e83
六月最初の月曜の朝、ついに学期末試験が始まった。
初めの試験は変身術だ。
試験の課題はティーポットを陸亀に変えるというもので、今までの授業から見ても難易度が高めだ。
私はマクゴナガルの監視のもと、机の上に置かれたティーポットに向けて杖を振るう。
一昨年の学期末試験では時間を止めて何度も練習したが、去年から魔法の勉強を本格的に始めた私からしたらこの程度の魔法はお遊びのレベルだ。
変身魔法が掛かったティーポットはみるみる形を変え、大きさすら異なる大きな陸亀に姿を変える。
「お見事です。それだけできるのに、どうして授業ではもう少し真面目にできないのです?」
マクゴナガルは私の変身させた陸亀をひっくり返しながら言う。
確かに私は授業中居眠りをしていることも多かった。
「いや、普段から真面目ですよ。ええ。睡魔に勝てないだけで……」
もう少しちゃんと授業を聞こうと胸に刻み、私は変身術の教室を後にした。
「私の変身させた亀、陸亀ってより海亀に見えたわ。減点されたらどうしましょう……」
「陸亀が海亀に見えたところでどうだっていいさ。僕のは尻尾がポットの注ぎ口のままだったんだから……そういえば、僕のネズミを見なかった? 昨日の夜いなくなったんだ」
大広間で昼食を取っている最中、ロンはサンドイッチを口の中に詰め込みながら私たちに聞く。
「言っておきますけど、クルックシャンクスではありませんからね? 昨日は女子寮から出していないもの」
ハーマイオニーはすかさず言う。
「ベッドの下じゃないかなぁ? 僕のカエルは十回のうち三回はベッドの下から見つかるよ」
向かいの席にいたネビルが答えた。
ネビルのカエルはよく自由を求めてネビルの元からいなくなる。
ネビルはその度に半べそになりながらカエルを探しているので、ペット探しに関しては学校で誰よりも経験者だろう。
「そういえば、亀って口から湯気を出すんだっけ?」
ネビルが心配そうにハリーに聞く。
ハリーは悲しそうな顔で首を横に振った。
午後からは呪文学の試験だ。
試験内容は元気の出る呪文で、これはハーマイオニーが予想していた通りの結果だった。
私はペアになったハーマイオニーに元気の出る呪文を掛ける。
ハーマイオニーは少し勉強の疲れが出ていたが、私が呪文を掛けると途端に元気になった。
「凄いわ! 疲れが一気に吹っ飛んじゃった! 今なら四十時間以上連続で走り回れるかも!」
「……先生? この呪文本当に大丈夫なやつですよね?」
私はまるで危ない薬でも決めたように元気になったハーマイオニーを見てフリットウィックに聞く。
フリットウィックはハーマイオニーの顔色を確かめると、小さい声で「多分」と呟いた。
次の日は魔法生物飼育学と魔法薬学、その次の日は魔法史と薬草学の試験、そして試験最終日の午前には闇の魔術に対する防衛術の試験があった。
特に闇の魔術に対する防衛術は今までの試験とはまったくもって形式が異なり、野外での障害物走のような試験だった。
私は水魔のいるプールを渡り、レッドキャップのいる場所を横切り、ヒンキーパンクを突破する。
そして最後にまね妖怪のいるトランクが置かれたテントの中に駆け込んだ。
「そういえば、話には聞いていたけどボガートと対峙するのは初めてね」
まね妖怪ボガートは私がヒッポグリフに襲われて医務室に入院している間に授業でやったらしい。
ボガートは目の前にいる人間のもっとも恐ろしいものに変身し、対象を恐怖に陥れる妖怪だ。
私の怖いものが何かは分からないが、ボガートを退散させる呪文は知っているのできっと何とかなるだろう。
私がトランクの前に立つと、トランクの隙間からもやのようなボガートが飛び出し変身を始める。
うねうねと形を変えたかと思うと、なんとボガートは私自身に変身した。
「私の怖いものって……私自身?」
私は自分自身に杖を向ける。
ボガートが変身した私は、懐から拳銃を取り出して私に向けた。
「リディクラス!」
私は急いで私に向かって呪文を放つ。
するとボガートの私が持っていた拳銃はバナナに変わった。
ボガートの私は手に持っていた拳銃がバナナに変わったことに気が付くと、皮をむいて食べ始める。
私はほっと安堵の笑みを浮かべるとボガートのいるテントを後にした。
「よくやった。上出来だよサクヤ」
外から中の様子を見ていたルーピンがにっこりしながら言う。
「特に最後のボガートの対処は良かった。初めてだったはずだろう?」
「そう思うなら事前に予習させてくださいよ」
私が文句を言うとルーピンは少し困った顔をする。
「まあ、それに関しては忘れていた私が悪い。でも優秀な君なら何の問題もないと私は判断したよ。そしてそれは正しかった」
ルーピンはそれだけ言うと、次の生徒の様子を見るためにスタート地点の方へと走っていく。
私は肩を竦めると、既に試験を終えていたハリーたち三人と城へと戻った。
「それにしてもボガートが変身したマクゴナガルの言うことを真に受けるなんて……」
ロンが口に手を当てて思い出し笑いを押し殺す。
先ほどの試験でハーマイオニーがボガートの対処に失敗したのだ。
「だって仕方がないでしょう? 全科目落第だなんて……悪夢だわ」
「だからって普通それを信じるか?」
「もう、恥ずかしいから言わないで!」
ハーマイオニーは鞄を振り回してロンを追い払おうとする。
ロンは楽しそうに鞄を避けた。
「ねえ、あれってもしかして」
ハリーが急に足を止めてホグワーツの正面玄関を指さす。
ロンとハーマイオニーはあと少しで喧嘩に発展しそうな勢いだったが、ハリーの言葉に釣られて玄関の方を見た。
そこには魔法大臣のコーネリウス・ファッジが立っており、汗を拭いながら校庭の方を見ていた。
「やあ、ハリー。試験を受けてきたのかね?」
ファッジはハリーの存在にすぐに気づき、声を掛けてくる。
「はい」
「そうかそうか。いい成績が残せるといいね」
「ありがとうございます。……大臣はどうして学校へ?」
ハリーがファッジに聞くと、ファッジは深いため息をついて答えた。
「実はあまりうれしくないお役目で来た。危険生物処理委員会が私にヒッポグリフの処刑を立ち会って欲しいというんだ。まあ私もブラック事件の状況確認のためにホグワーツに来る必要があったから別にいいんだが……」
「それじゃあ、もう控訴裁判は終わったということですか?」
後ろの方で様子を窺っていたロンが思わずファッジの前に歩み出る。
「いやいや、それは今日の午後の予定だ」
ファッジはロンのそんな態度に気を悪くした様子もなく、説明してくれた。
「それだったら処刑に立ち会う必要なんかなくなるかもしれないじゃないですか!」
「ああ、私もそちらの方が助かるよ。今はできるだけ仕事を増やしたくない」
ファッジは優しくそう言ったが、明らかにロンから目を逸らした。
あの様子では、ファッジも危険生物処理委員会の裏の顔をよく知っているようだ。
その時、城の扉を開けて中から二人の人間が顔を出す。
一人はよぼよぼな老人で、一人は深くローブのフードを被っていて年齢はおろか性別すらパッと見ただけでは分からなかった。
まるで城の近くを徘徊している吸魂鬼のような容姿だったが、肩には大きな斧を抱えている。
きっと斧を持っている方は委員会が連れてきた死刑執行人だろう。
「やーれやれ、仕事とはいえこんな辺境の地にワシのような老いぼれを呼び出さんで欲しいところじゃわい」
老人は腰を叩きながらファッジの方へ近づく。
斧を抱えた人物も、老人に付き従うようにファッジに近づいた。
「むしろ呼び出されたのは私のほうなのだがね。わざわざヒッポグリフの処刑程度で呼び出さないで欲しいのだが……」
ファッジは大きな斧から少し距離を取りながら文句を言った。
まあ確かにあの大きさの斧では、少し取り落としただけで足の先が無くなる可能性すらある。
「まあ、そう言わないでくださいよ。私も仕事、貴方も仕事。みんなそれで生活してるんですから」
不意に女性の声が聞こえたかと思うと、斧を抱えた人物がフードを脱ぐ。
フードの下からは鮮やかな赤髪が特徴的な美人な女性の顔が現れた。
「……貴方は確か」
私はその姿に物凄く見覚えがある。
一昨年の夏、私が占い用品店に迷い込んだ時にグリンゴッツまで私を送ってくれたレミリア・スカーレットの使用人、紅美鈴だ。
「お、君はあの時の。たしか……ホワイト! サクヤ・ホワイトちゃんでしたね」
美鈴はにっこり笑うと、斧を持っていないほうの手で握手を求めてくる。
私が美鈴の手を握ると、美鈴は握った手をブンブンと振った。
「ヒッポグリフに襲われたんですって? 大変でしたねー。でも、もう安心していいですよ? 悪いヒッポグリフは私がえいっとやっつけちゃいますので」
美鈴はそう言って大きな斧をまるでおもちゃのように軽々振り回す。
私は他の皆には聞こえないように声を潜めて言った。
「ヒッポグリフを引き取るお金持ちって、もしかしてスカーレットさんなんですか?」
美鈴はそれを聞くと、一瞬キョトンとしてから小さく笑う。
「それを知っているとは情報通ですね。ええ、そうですよ。殺し損ねたフリをして、私がヒッポグリフを逃します」
そして、小さな声でそう教えてくれた。
「でも、それ自体が非合法的な闇取引ですので絶対に話を広めちゃダメですよ?」
美鈴はウインクをすると、またフードを深々と被る。
そして老人とファッジに声をかけて、また城の中へと消えていった。
「サクヤ、さっきの女性とは知り合いなの?」
少し遅れて城の中に入りながらハリーが私に聞く。
「知り合いってほどでもないけど……漏れ鍋で少し話したことがある程度よ」
私は適当に誤魔化して大広間に入る。
なんにしても、これでバックビークの有罪が確定したと同時に、無事も保証されるだろう。
学期末最後の試験は占い学だった。
どうやら占い学の教室で一人ずつ水晶玉占いの試験を行うらしい。
「私どうにも占い学って苦手。今回の試験もまったく対策のしようがなかったし」
ハーマイオニーは占い学の教科書の『未来の霧を晴らす』の水晶玉のページを睨むように読んでいる。
「来年からは選択するのやめようかしら」
「それがいいわ。見てて思うけど、あなた占いを信じるような性格してないもの」
そういう私も、自分が占うことに関してはまったくもって才能がないようだった。
水晶玉の中に何かが見えたことなどないし、手相占いも当たった試しがない。
「まあ試験対策のしようがないってことは、勉強しなくてもいいってことじゃない。楽なことこの上ないわ」
だが、このままでは試験で酷い点数を取ってしまう。
ここは少しインチキさせてもらうことにしよう。
私は自分の順番が来ると、銀色の梯子を上って占い学の教室へと入る。
教室の中はカーテンが閉め切られており、いつも以上に気温も湿度も高くなっていた。
「こんにちは、よくいらっしゃいました」
トレローニーは私の顔を見ると、少し悲し気な表情になる。
「どうぞこちらに座って。水晶玉に何が見えたか、あたくしに教えてくださいまし」
私はトレローニーに促されるままに椅子に腰かけると、水晶の中を覗き込んだ。
「どうかしら? 何か見えて?」
水晶の中には白い靄のようなものが渦巻いているだけで、それに何か意味があるようには見えない。
「これは……教室ですかね。それもこの教室に見えます」
「あら、あたくしの教室ですの? 教室の中には一体どなたが?」
「大きな眼鏡をかけた女性と……白髪の学生。きっと私と先生だと思います。私が占い学の教室で水晶玉を覗いている……」
私はじっと水晶玉に集中しているフリをする。
「急に棚に置いてあるティーカップが床に落ちて、先生が様子を見に行きました」
私はそう言った瞬間に時間を止め、壁際にあるティーカップを魔法で浮かせて棚からずらす。
時間停止を解除した瞬間、壁際のティーカップが床に落ちてカチャンと音を立てた。
トレローニーはびくりと体を震わせると、椅子から立ち上がって音がした方向へ歩いていく。
そして床の上で割れているティーカップを見つけると、修復魔法を掛けて棚へと戻した。
「お見事な予知ですわ。貴方には占いの才能がありそうですわね」
「偶然ですよ。偶然。もういいですか?」
私は椅子から立ち上がると、撥ね扉へと歩いていく。
「お待ちになって。少しお聞きしたいことがありまして」
トレローニーの言葉に、私は撥ね扉の前で立ち止まる。
「まだ何か?」
「死の予言の件ですわ。レミリア・スカーレット嬢の」
私は教室を引き返すと、トレローニーの前に座り直す。
「あたくしの妹から当時のことを聞きましたわ。死の予言をされるまでの経緯と、予言の内容も」
「そういえば、あの店の店主さんもトレローニーさんでしたね」
トレローニーは小さく頷く。
「スカーレット嬢の占いは確かによくあたります。あの方は魔法界でも一二を争うほどのカリスマ的な占い師ですわ。ですが、どうか悲観的にならないで。貴方は確かに死神に取り憑かれているのかもしれません。ですが、未来というものはこの水晶玉の中に見えるように常に霧が掛かっているようなものです。未来に絶対ということはありませんわ」
「でも、レミリア・スカーレットの予言は絶対にあたると聞きました」
「確かに、スカーレット嬢の占いが外れたという話を聞いたことはありません。ですが、占いの裏を掻いて死の運命を回避した者もいます」
トレローニーは珍しく私に対して悪戯っぽい笑みを向けた。
「……ありがとうございます」
私はトレローニーに頭を下げると、今度こそ占い学の教室を後にした。
設定や用語解説
サクヤの怖いもの
ヴォルデモートよりダンブルドアより、サクヤ・ホワイトは自分が怖い。
大きな斧
長さ170cm、重量50kgの超重量武器。サクヤより大きく重い。
未来に絶対はない
絶対当たるレミリア・スカーレットの死の予言だが、名前を変えたりすることで回避できることがある。
Twitter始めました。
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活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。