(他者のブログから引用)
2023.03.16 Thursday
ウエブ連載 231回 成田悠輔の高齢者ヘイト 相模原障害者殺傷事件と発想は同根 
 

「生産性」言説とマイノリティ排除の論理

 

 (今回のブログはにんげん出版編集部による執筆です)

 

 

▼「老害になる前に集団自決」

 

「高齢者の集団自決」発言で批判を浴び、SNS炎上中の成田悠輔氏が、4月に始まる深夜バラエティ番組(テレビ朝日)のMCに起用されるという。

 

成田悠輔は、イェール大学助教、新進の経済学者として、日本のメディアに登場(38歳)。インターネット番組や地上波のテレビに出演してきた。

 

賃金は上がらず税金は上がる一方、高齢者の介護・医療など社会保障費が若者の重荷になっているという主張に、一部の若者の支持を得ている。

少子高齢化がすすむ日本で高齢者はお荷物として「集団自決」発言を繰り返す成田に、以前から批判の声は上がっていたものの、メディアはかれを起用し続けてきた。

 

 

▼『Abemaプライム』での発言

 

ニューヨークタイムズ紙(2023年2月12日付/以下NYT)も、成田の発言をとりあげた。

 

NYTが問題視したのは、少子高齢化がすすむ日本の未来の「解決策」を問われた『Abemaプライム』での発言。

 

「僕はもう(少子高齢社会に対する)唯一の解決策ははっきりしていると思っていて、結局、高齢者の集団自決、集団切腹みたいなものではないかなと。やっぱり人間って引き際が重要だと思うんですよ。別に物理的な切腹だけじゃなくてもよくて、社会的な切腹でもよくて。過去の功績を使って居座り続ける人が、いろいろなレイヤーで多すぎる」

(2021年12月17日配信『Abemaプライム』)

 

 

                                           
 

▼集団自決はメタファーと弁明

 

発言意図はあきらかだろう。

〈働けない高齢者は社会のお荷物。そんな年寄りの年金・医療・介護費のために、若者は税負担にますます苦しむことになる。高齢者に死んでもらうことが唯一の解決策だ〉

 

いっぽう成田は、NYT記事の中で、「集団自決」は「世代交代を表すメタファーだった」と弁明しているが、78年前の沖縄では、「集団自決」として旧日本軍が沖縄住民に自死を強制、実際には集団虐殺にひとしい惨状がくり広げられたのである。

 

メタファー(暗喩)としての「集団自決」が意味するものは、世代交代ではなく、人間集団の抹殺にほかならない。

NYT紙につづき、独シュピーゲル紙も問題として取り上げた。

 

成田の発言は、かつてナチスドイツ時代に行われた、ナチス党の「障害者安楽死計画」における障害者抹殺と発想は同じである。

 



 

 ナチ党宣伝ポスター

 

「遺伝性疾患のこの患者は、生涯にわたって、国に6万マルク(現在の日本円で5千万円)の負担をかけることになる。よく考えよ、ドイツ国民よ、これは皆さんが払う税金なのだ」

 

 

▼少子高齢化問題と高齢者ヘイト

 

少子高齢化問題は、〈口にしてはいけないこと〉ではない。

現状は、若者が多くの高齢者をささえなければならない構造になっている。

誰もがよりよく生きていけるインクルーシブ社会をどう構築していくのか、経済学者であるならば、現状分析と政策課題の提言が急務であることはいうまでもない。

 

※超高齢社会といわれる日本の人口の3割、およそ3人に1人が65 歳以上の高齢者である。また2025年は「団塊の世代」が75 歳以上となり、総人口の18%を75 歳以上が占めると予測されている。

 

 

▼「高齢者を自動的に死なせるシステム」

 

NYTの記事をきっかけに、過去の成田の発言が再び注目を浴びた。

かれの持論に賛同する小学生が、「高齢者を自動的にいなくなるシステムを作るには?」と、成田に問うていたのだ。

 

「日経テレ東大学」(※)のYouTube番組「Re;hack」が2022年5月15日に公開された。

ひろゆきこと西村博之と成田悠輔、20人の小中高校生が会場でトーク。

 

男子生徒

 「成田さんはよく『Re:Hack』内で『老人は自害しろ』とか言っているじゃないですか。老人は実際に退散した方がいいと思います。で、そういう時に、老人が自動でいなくなるシステムを作るとしたら、法律とかでもいいんですけど、どうやって作りますか?」

 

成田悠輔

 「どういう風にやるかっていうと、結構ありえる未来社会像なんじゃないかと思っていて。そういう社会を描いたSF映画(『Theタイム』)があるんです。みんな生まれた時に腕にタイマーが埋め込まれていて、何十年か経つとタイマーが作動して自動的に亡くなるようになっている。みんな等しく、寿命の上限が与えられていて、その時間になったら亡くなるっていうのが埋め込まれている社会が一個」

 

「もう一個それっぽい社会を描いた映画があって。サマーなんとかっていう映画(『ミッドサマー』)、謎の架空の集落を描いた映画なんですよ。その集落では一定の年齢になると、その人が崖の上に上がっていって、飛び降りるのが風習になっている架空の村を描いたもの」

「こういう架空の村みたいなものっていうのは、歴史上だと存在していたらしいんですよね。そんな感じの社会を考えることはできるんじゃないですか。それが良いのかどうかっていうと難しい問題ですよね。もし良いと思うのなら、そういう社会を作るために頑張ってみるのも手なんじゃないかな」

 

「日経テレ東大学」は日本経済新聞社とテレビ東京が運営するYouTubeチャンネル。2021年4月スタート。人気バラエティ番組を手がけたテレ東プロデューサーが制作統括を務め、出演者に2ちゃんねる創設者のひろゆき、イェール大学助教の成田悠輔らを抜擢。文春オンラインによれば23年2月にはチャンネル登録者数100万人を突破していたという。
 

 

▼NewsWeek誌の批判

 

藤崎剛人氏はNewsWeek誌に寄稿し、つぎのように批判する。

 

「〈老人が自動でいなくなるシステム〉という少年が発した表現は、まさに20世紀以降の大量虐殺の本質をついている。だからこそ、この言葉は即座に否定されなければならなかった。ナチスのユダヤ人虐殺は、その虐殺という言葉の禍々しさとは裏腹に、工学的に洗練され効率的に人を殺すことができるシステムによって実行されていた。」

(2月22日)

 

成田発言について沈黙を続けたまま、『日経テレ東大学』は終了。

いっぽう、Web上で成田は弁明を続けている(Webサイト「みんなの介護~言ってはいけないことをいう理由」2月28日)。

 

 

▼新自由主義時代にあらわれた生産性言説による排除

 

経済のグローバル化(グローバリゼーション)は、民営化と規制緩和の新自由主義をうながした。

 

それは、ごく少数の「勝ち組」と多数の「負け組」を生みだした。

 

ごく少数の「勝ち組」意識を代表しているのが、成田悠輔の言説だ。

新自由主義が吹き荒れるなか、ことあるごとに出されるキーワードが、「自己責任」と「生産性」である。

 

「LGBTの人びとは子どもを作らない、生産性がないのです」(杉田水脈)

 

「自業自得の人工透析患者なんて全員実費負担にさせよ!無理だと泣くならそのまま殺せ!今のシステムは日本を亡ぼすだけだ!!」(長谷川豊)

 

杉田水脈が寄稿した『新潮45』は廃刊、人工透析患者をターゲットに「殺せ」と吐いた元フジテレビアナウンサー長谷川豊は番組を降板。

両発言は、ヘイトスピーチとして糾弾された。

 

 

 

▼「障害者は死んだ方がいい」――相模原障害者殺傷事件・植松死刑囚の発言

 

「生産性」という物差しで人間の価値を測り、「人間の命より生産性の追求を優先」する。

 

人間の尊厳や生存の意味そのものを否定する「生産性」言説が、肉体の殲滅に至らしめる。

 

戦後最大のヘイトクライムが、2016年に起きた相模原重複障害者殺傷事件だった。

 

植松死刑囚は、犯行をおこす以前から、「障害者は死んだ方がいい」と、くり返し語っていた。

 

犯行の動機についてかれは、「重複障害者がいなくなれば国家の経済的負担が軽くなる」「障

害者は『生産性』がなく、不幸をつくることしかできない」とのべた。

 

植松死刑囚の犯行は、「生産性」という物差しで人間の価値を測り、人間の尊厳や生存の意味そのものを否定する社会が背景にあるのだが、その解明がなされないまま、いまに至っている。(※ウエブ連載第187回 相模原障害者殺傷事件はヘイトクライム参照)


最後にもう一つの事件を振り返って、この項を終わりたい。

 

 

▼渋谷ホームレス女性殺害事件

 

2020年11月、渋谷区幡ヶ谷バス停付近で野宿する60代の女性が、46歳の男性に撲殺された。

 

不安定な派遣の仕事についていた女性は、コロナ禍に仕事と収入を失っていた。いっぽう、女性を謀殺した男は、犯行の動機に「野宿者がいなくなることが社会のため」と述べたという。(※)

 

相模原障害者殺傷事件を起こした植松死刑囚も、渋谷ホームレス殺人の容疑者も、その犯行を正当化する主張は共通している。

すなわち、経済的価値を生まない人間の命は軽い。むしろ(存在を)廃棄することが、「社会のため」だという。

 

成田悠輔の「高齢者の集団自決」発言も、同じ発想に根ざしている。

 

成田の「集団自決」発言を垂れ流したメディアは、謝罪なく、沈黙している。

 

「総合的な判断により成田氏を起用」するテレビ局は、「老人が自動でいなくなるシステムが必要だ」と叫んで、高齢者を殺傷するヘイトクライムが起きたときには、社会的責任を負うことになろう。

 

 

※「老人が自動でいなくなるシステム」という少年が発した表現は、まさに20世紀以降の大量虐殺の本質をついている。だからこそ、この言葉は即座に否定されなければならなかった。ナチスのユダヤ人虐殺は、その虐殺という言葉の禍々しさとは裏腹に、工学的に洗練され効率的に人を殺すことができるシステムによって実行されていた。そのシステムを設計したのは、優秀な科学者やエンジニアであった。アウシュヴィッツ収容所は人間の理性や文明化過程の一つの帰結に他ならないと、ドイツの哲学者アドルノは述べた。(ニューズウィーク・藤崎剛人/2月22日)

 

 

※2021年7月メンタリストDaiGo氏もYouTubeでほぼ同じ発言をして謝罪。「ホームレスの命はどうでもいい」「いないほうがよくない?」「邪魔だしさ、プラスになんないしさ」といった発言を自身のYouTubeチャンネル(登録者数246万人)で繰り返したメンタリストDaiGo氏が、インターネット上で「許されない」との批判の声に、一連の発言が差別的な暴言だったと認め、謝罪。テレビ出演休止。