P.S.彼女の世界は硬く冷たいのか?   作:へっくすん165e83

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狭い通路と切り裂かれた肖像画と私

 一九九三年のハロウィーンの昼前。

 私は暴れ柳が風に任せて揺れているのを横目に見ながら日向で読書に耽っていた。

 今読んでいるのは去年ロックハートから半ば貰い受ける形になってしまった魔法の参考書だ。

 何十冊とある本のうち半分ほどには目を通したのだが、逆に残りの半分には全く手を付けていない。

 だが、だいぶ魔法という学問の基礎は身に着けることができたように感じる。

 今なら簡単な魔法なら自分で作り出せそうだ。

 ちなみに今読んでいる本はパチュリー・ノーレッジ著の『魔法が神秘の術から学問へと至るまで』という魔法の歴史書だ。

 魔法という学問が成立していなかった時代から、どのように体系化されていったかの歴史と、それに関する考察が淡々と綴られている。

 なお、面白いことは何一つ書いていないので、読んでいて非常に眠たくなってくる。

 

「ん?」

 

 その時だ。

 遠くにオレンジ色の物体が動いているのが視線の端に移る。

 目を凝らしてよく見ると、クルックシャンクスが暴れ柳のほうに近づいていっているようだった。

 

「あら、いつの間に逃げ出したのかしら」

 

 クルックシャンクスは普段女子寮の中で大人しくしているはずだ。

 きっと誰かが扉を開けた隙をついて外に出たに違いない。

 

「って、このままじゃハーマイオニーの飼い猫がネズミの餌になるわ。早く止めないと」

 

 なんにしてもこのままではクルックシャンクスが暴れ柳の枝に殴り殺されてしまう。

 私は急いで本を鞄の中に入れると、クルックシャンクスの後を追って暴れ柳に近づいた。

 

「こーら、ダメでしょクルックシャンクス。その木は危ないんだから」

 

 私がそう言うと、クルックシャンクスは任せていろと言わんばかりにこちらを見て一度鳴き、暴れ柳のほうに駆けていく。

 そして暴れ柳の攻撃を難なく躱すと、根本のコブを前足で踏んだ。

 するとどうだろうか。

 先程まであんなに暴れていた暴れ柳がぴたりと動きを止めた。

 

「へえ、あんなところに弱点が……って、そうじゃなくて」

 

 私はクルックシャンクスに近づくと、根本のコブを踏みつけながらクルックシャンクスを抱き上げる。

 

「ほーら、帰るわよー。貴方が女子寮からいなくなったらハーマイオニーが心配するわ」

 

「ナーゴ」

 

 クルックシャンクスはスルリと私の手から逃れ、暴れ柳のうろに入り込んでしまう。

 私は右足で器用にコブを押しながらうろの中に顔を突っ込んだ。

 

「帰ってきなさーい。って、ナニコレ?」

 

 どうやらうろの下に地底を走る横穴があるようで、クルックシャンクスはその穴を進んでいってしまったらしい。

 私は暴れ柳の枝が下の穴まで届かないことを確認すると、コブから足を離して穴の中に下りた。

 穴の中は真っ暗だった。

 屈んでやっと通れるほどの横穴が奥へ奥へと続いており、タタタタという足音が穴の奥へと走っていくのが聞こえる。

 私は杖明かりを灯すと、クルックシャンクスを追って横穴を進み始めた。

 

「こらー。待ちなさーい。ホグワーツには危ないところいっぱいよー」

 

 屈んだ状態では満足に走ることもできないので歩くぐらいの速度でクルックシャンクスを追っていく。

 横穴自体は分かれ道等はなく、ひたすら奥へ奥へと続いているようだった。

 私は杖明かりを頼りに更に奥へと横穴を進んでいく。

 三十分ほど横穴を進んだだろうか、次第に横穴は上へと勾配していき、やがて通路の奥に光が見え始めた。

 私は杖明かりを消して光源へと近づく。

 どうやら穴の出口のようだ。

 私は恐る恐る穴から顔を出し周囲を見回した。

 

「ここは……」

 

 穴の先は古びた屋敷だった。

 壁紙は剥がれかけており、所々獣が引っ掻いたような跡がついている。

 床はシミと虫食いだらけで、今にも穴が開きそうに見えた。

 私は床に埃が積もっていないことを確認すると、慎重に屋敷の中に降り立つ。

 ホグワーツは基本石造りのため、少なくともここはホグワーツの敷地内ではないだろう。

 

「って、それどころじゃないわ。他人の家ならなおさらクルックシャンクスを放っておくわけにはいかないわね」

 

 私は周囲に人の気配がないことを確認すると、時間を停止させる。

 そして右側にあった扉を開けて部屋の外に出た。

 

「一軒家にしてはそこそこ大きな屋敷ね。でも、窓に板が打ち付けてあるし、もう廃墟なのかしら」

 

 私はホールに出て周囲を見回す。

 屋敷は二階建てになっているようで、ホールの端から今にも崩れ落ちそうな階段が上へと続いている。

 

「……廃墟にしては少し不自然ね」

 

 私は二階へと続く階段をじっと観察する。

 部屋の隅のほうは厚く埃を被っているが、階段には埃が積もっていない。

 人が全く住んでいないにしては不自然だと言えるだろう。

 私は一階の部屋を隅々まで調べ、クルックシャンクスがいないことを確かめると、崩れそうな階段を慎重に上り二階へと上がる。

 私は床に顔を近づけ猫の足跡を見つけると、足跡を辿って一つの部屋に入った。

 

「見つけた」

 

 部屋の中には大きな天蓋付きのベッドが置かれており、そのベッドの上にクルックシャンクスはちょこんと座っていた。

 クルックシャンクスの前には大きな黒い犬が寝そべっており、顔をクルックシャンクスの方に向けている。

 喧嘩しているようには見えないため、きっとこの二匹は仲がいいんだろう。

 私は部屋の外で時間停止を解除すると、部屋の中に入る。

 私が部屋に入った瞬間、黒い犬はスッと立ち上がり、臨戦態勢に入った。

 

「待って待って。私はこの子を連れ戻しに来ただけよ」

 

 私は手をブンブンと振ると、クルックシャンクスを指し示す。

 

「ニャーン」

 

 クルックシャンクスは私が無害であると訴えるような鳴き声を出した。

 黒い犬はそれを聞いてか、臨戦態勢を解除する。

 だが、じっとこちらを警戒しながらピクリとも動こうとしなかった。

 

「まったく。魔法界の動物はみんな賢いわね。ほーらクルックシャンクス、女子寮に帰りましょうね」

 

 私はクルックシャンクスの脇を掴んで抱き上げる。

 クルックシャンクスはまだ遊びたいのか少し足をバタつかせたが、やがて諦めたように大人しくなった。

 

「じゃ、この子を持って帰るわね。ところで、貴方は野良犬? それとも、ここの飼い犬なのかしら?」

 

 私が黒い犬にそう聞くと、黒い犬はクーンと情けない声を出す。

 この様子じゃ多分野良犬なのだろう。

 

「あ、そうだ」

 

 私は一度クルックシャンクスを床に下ろし、鞄の中に浮いているステーキが載せられた皿を手に取る。

 私が鞄からその皿を取り出した瞬間、ステーキ肉はジュウジュウという脂が弾ける音と共に美味しそうな匂いを放ち始めた。

 

「じゃじゃーん。確か犬って焼いたお肉は大丈夫よね」

 

 私はステーキの載せられた皿を黒い犬の前に差し出す。

 黒い犬はステーキの匂いを何度か嗅いで確かめると、夢中になって食べ始めた。

 

「まあこんなにガリガリだし、ろくに餌も食べれてないんでしょうね。できれば飼ってあげたいけど、ホグワーツは犬をペットとして許可してないし……ハグリッドに預けるのも一つの手かもしれないけど、今のゴタゴタしている間は無理そうね」

 

 私はステーキ肉を食べている黒い犬の頭をそっと撫でる。

 

「ま、たまにクルックシャンクスと様子を見に来てあげるわ。生憎ホグズミードには行けないから、時間はあるしね」

 

 私はもう一度クルックシャンクスを抱え上げると、扉を開けて部屋を出る。

 階段を慎重に降りて壁に穴が開いている部屋に戻ると、穴の中にクルックシャンクスを放した。

 

「じゃ、帰りましょうか。先導よろしくね」

 

 私がそう言うと、クルックシャンクスは私が付いてきているのを確認しながらゆっくり通路を歩き出す。

 本当に賢い猫だ。

 これほど賢いのに、何故ロンのスキャバーズを執拗に狙うのだろう。

 これほどしっかり人の言葉を理解できるのなら、ペットのネズミを食べてはいけないことぐらい分かりそうなものだが。

 

「よほどスキャバーズが美味しそうな匂いを出しているのかしら」

 

 私はそんなことを呟いて、クスリと笑う。

 もしそうなら、スキャバーズを囮にして猫トラップを作れそうだ。

 私はそんな馬鹿なことを考えながら狭苦しい通路を通ってホグワーツ城へと帰った。

 

 

 

 

 

 ハロウィンパーティーの時間が近くなってくると、ホグズミードに行っていた生徒たちがホグワーツへと帰ってきた。

 

「ほら、買えるだけ買ってきたんだ」

 

 ロンは談話室の机の上にお菓子を山のように積む。

 ハーマイオニーも私にお菓子の詰まった大袋を渡してきた。

 

「あら、随分いっぱい詰まってるけど、予算オーバーしてないわよね?」

 

 私がそう聞くとハーマイオニーは恥ずかしそうに頬を掻く。

 

「そりゃ、少しはオーバーしてるけど……でも、多分サクヤが思ってるほどオーバーしてないわ。ハニーデュークスのお菓子はダイアゴン横丁で売られているものに比べると随分と安いの」

 

「そうなのね……色々食べ比べてみて気に入ったやつを次も買ってきてもらおうかしら」

 

「ところで、ホグズミードってどんなところだった?」

 

 ハリーが興味ありげに二人に聞く。

 

「そうだな……大体どこの店も回ったよ。魔法用具店に悪戯専門店のゾンコだろ? それに三本の箒で熱いバタービールを引っかけて……」

 

「ハリー、郵便局が凄かったわ。二百羽以上フクロウがいて、配達速度によって色分けされているの」

 

「それに、ハニーデュークスに新商品のヌガーがあって、試食品を配ってたんだ。二人の袋にも入れといたよ。ほら!」

 

 ロンはお菓子の山からカラフルなヌガーをつまみ上げる。

 

「……それで、貴方たちはどうしてたの?」

 

 ハーマイオニーは少し心配そうな顔をしながら私たちに聞いてくる。

 

「私はクルックシャンクスと遊んでたわ。女子寮から逃げ出してたから戻しといたわよ」

 

 私がそう言うと、ロンがハーマイオニーをじろりと見る。

 ハーマイオニーは気まずそうに咳払いを一つした。

 

「ありがとね。もしかして、あの子扉の開け方がわかるのかしら」

 

「ハーマイオニー、あんまり逃げ出すようだったら首輪とリードをつけろよ。それでベッドにでも繋いでおいてくれ」

 

 ロンは機嫌悪そうに言う。

 

「何を言ってるの。クルックシャンクスは猫よ。どこの世界にリードに繋がれた猫がいるの?」

 

「はいそこまで。ロン、クルックシャンクスは私がちゃんと捕まえておいたから大丈夫よ。それに、貴方がちゃんとスキャバーズを守ってればなんの心配もないわ」

 

 このままではまた喧嘩になりそうだと判断した私は、二人の間に割って入る。

 

「そういえば、ハリーとは途中で別行動してたけど、貴方は何をしていたの?」

 

 私は話題を戻すためにハリーに話を振った。

 

「えっと、ルーピンが部屋で紅茶を入れてくれて。あ、でもそれから、部屋にスネイプが来て魔法薬を置いていったんだ」

 

「スネイプが?」

 

 ロンが怪訝な顔をして聞き返す。

 

「うん。ルーピンは定期的にその薬を飲まないといけないって言ってた。調合が複雑だから、スネイプに作ってもらっているって」

 

「で、ルーピンはその薬を飲んだの?」

 

 ロンは目を丸くして答える。

 

「ルーピン先生は病気なのかしらね。確かにいつもどこか体調が悪そうには感じるけど」

 

「いや、それもそうだけど。僕だったらスネイプから渡されたものには絶対に口をつけないけどな。毒とか入ってそうだし。ほら、スネイプは闇の魔術に対する防衛術の教授職を狙ってるだろう?」

 

 まあ確かにスネイプが闇の魔術に対する防衛術の教師をやりたがっているというのは有名な話だ。

 でも、だからといって現職の先生を毒殺してまでその座を欲しているとは思えない。

 

「何馬鹿なこと言ってるのよ。流石に白昼堂々と毒殺はしないでしょ。それに、その場にはハリーも居たわけだし」

 

 私はそう言いながら懐中時計を確認する。

 

「っと、そろそろ大広間に下りたほうがいいわね。パーティーが始まるわ」

 

 私はハーマイオニーから渡されたお菓子の袋を鞄の中に仕舞うと、鞄を小さくしてポケットの中に入れる。

 そして肖像画の穴をよじ登ると、四人で大広間へと向かった。

 

 

 

 

 大広間にはハグリッドが用意したのであろう何百というくり抜きかぼちゃに蝋燭が灯され、生きたコウモリの群れが天井近くを飛んでいた。

 また、オレンジ色の様々な飾りがあちこちに付けられており、見ているだけでも楽しい気分になってくる。

 用意されたご馳走も絶品だ。

 かぼちゃ料理を始めとして火の通り加減が完璧なローストビーフに様々な副菜、選ぶだけで楽しいデザートの数々が机の上に並んでいる。

 私は手当たり次第に皿に盛りつけると、順番に口に運び始めた。

 

「サクヤって、僕らの倍は食べるのに全然太らないよな」

 

 ロンは私が食べている様子を見ながら感心したように呟く。

 

「そうかしら。でも、それを言うならハーマイオニーもじゃない? 去年と比べて随分食べる量が増えたように感じるけど」

 

 私がハーマイオニーにそう言うと、ハーマイオニーは分かりやすく目を逸らした。

 

「ほら、私って育ち盛りだから」

 

「じゃあ、私もそう言うことで」

 

 私はハーマイオニーの回答に乗っかると、ポテトサラダをどっさり皿に盛る。

 

「育ち盛りって……」

 

 ハリーは私を見ながら何か言いたげな表情で言う。

 まあ、ハリーの言いたいことは分かる。

 確かに私は同級生と比べると身長が小さい。

 でも多分それはそういう体質だからだろう。

 

「何よ。ちびって言いたいの?」

 

「いや、そういうつもりは……」

 

 ハリーは分かりやすく視線を泳がせる。

 私はため息をつくと、ハリーの皿にベーコンの塊を載せた。

 

「貴方はもう少し肉をつけたほうがいいわね。初めて会った時と比べたら随分マシになったけど、まだまだ細いわ。今年もクィディッチの試合があるんでしょう?」

 

「うん。去年は結局中止になっちゃったし、チームのみんなも今年こそはって張り切ってる」

 

 確かに去年は秘密の部屋の一件のせいでクィディッチどころじゃなかった。

 そもそもハリーも石にされていたのだ。

 グリフィンドールはバランスのいいチームだが、ハリー以外に優秀なシーカーがいない。

 ハリーが出れなければ随分と戦力が落ちてしまうのだ。

 

「まあ、去年みたいに怪我しないようにね」

 

 私がそう言うと、ハリーは苦笑いをした。

 

 

 

 

 

 ハロウィンパーティーはゴーストによる余興で締めくくられ、解散となった。

 私たちは生徒の流れに乗りながら上の階にある談話室を目指す。

 ホグズミードには行けなかったが、今日は取り敢えずこのパーティーで満足しておこう。

 しばらく生徒の流れに乗って廊下を進んでいたが、やがて談話室がある階の廊下で前がすし詰め状態になり進めなくなった。

 

「どうしたんだろう?」

 

 談話室に入るための渋滞にしてはあまりにも動きがなさすぎる。

 

「どうしたの? もしかして先頭はネビル?」

 

「いや、それにしてはざわついてる。何かあったのかも」

 

 四人の中で一番身長が高いロンがつま先立ちで肖像画の方を見る。

 私はというと、前の生徒の背中しか見えなかった。

 

「通してくれ。何をもたもたしてるんだ?」

 

 私たちが様子を伺っていると、後ろからパーシーが生徒をかき分けて前へ前へと歩いてくる。

 そして私たちの前を通り過ぎると、そのまま肖像画の前まで進んでいった。

 

「……誰か、ダンブルドア先生を呼んで。急いで」

 

 パーシーは冷静を装った声で言う。

 だが、次の瞬間には後ろからダンブルドアが歩いてきていた。

 

「近くまで行こう」

 

 ハリーはそう言うと、ダンブルドアの後ろに続くようにして人混みの前に出る。

 私もその流れに乗って人混みの先頭へと出た。

 

「……これは」

 

 そこには、滅多切りにされた肖像画があった。

 幸い肖像画に描かれている太った婦人はどこかへ逃げていったのか、肖像画の中には見当たらない。

 だが、この肖像画の壊され方は異常だ。

 誰かがいたずらでやったにしては度が過ぎている。

 

「婦人を探さねばならんな」

 

 ダンブルドアは深刻そうな顔で振り返ると、後ろからやってきていたマクゴナガル、ルーピン、スネイプに対して言った。

 

「マクゴナガル先生。すぐにフィルチさんのところへ行って城中の絵の中を探すように言ってくだされ」

 

「見つかったらしっかり慰めてやれよ!」

 

 ダンブルドアがマクゴナガルにそう言った瞬間、頭上からからかうような声が聞こえてくる。

 私たちが上を向くと、そこにはポルターガイストのピーブズがプカプカと浮かんでいた。

 

「ピーブズ、どういうことかね?」

 

 ダンブルドアは静かな声でピーブズに聞く。

 ピーブズは流石にダンブルドア相手には強気に出れないのか、少し声を落として言った。

 

「校長閣下、あの女は五階の風景画の中を走っていくのを見ましたよ。ひどく泣き叫びながらね。ああ、可愛そうに」

 

 そう言うピーブズの表情はどこか嬉しそうに感じる。

 どうやらこの惨事が楽しくて仕方がないらしい。

 

「誰がやったか、見たかね?」

 

「はい、勿論ですとも校長閣下。そいつは婦人が入れてやらないんで酷く怒ってましたねぇ」

 

 ピーブズは楽しそうに空中で宙返りをしながら答えた。

 

「あいつは相当な癇癪持ちですよ。あのシリウス・ブラックは」

 

「シリウス……ブラック……」

 

 私の全身から血の気が引いていくのを感じる。

 どす黒い何かが腹の底から湧き出し、全身を支配するように這い回った。

 

「ルーピン先生、急いで生徒たちを大広間へ」

 

「分かりました。さあ、みんな落ち着いて、走らず歩いて大広間に移動するんだ。監督生は新入生を引率するように」

 

 ルーピンにそう言われて、グリフィンドールの生徒たちは混乱しながらも大広間に向けて歩き出す。

 

「サクヤ? ほら、行きましょう?」

 

 私はハーマイオニーに手を引かれるままに歩き、大広間へと戻ってくる。

 十分も経たないうちに他の寮の生徒も大広間に集められ、全校生徒が大広間に集まる形になった。

 

「これから先生方によって城内をくまなく捜索せねばならん。したがって、少々気の毒じゃが生徒の皆は今夜はここに泊まることになろうの。ここの指揮は主席の二人に任せる。監督生は大広間の入り口に立って見張りにつくように」

 

 ダンブルドアは気合十分のパーシーに向かってそう告げる。

 そして杖を一振りして大広間の机を全部片隅に寄せると、何百もの寝袋を出現させ床に敷き詰めた。

 

「では、ぐっすりおやすみ」

 

 ダンブルドアは他の教師を引き連れて大広間を出ていく。

 教師たちがいなくなった瞬間、大広間はガヤガヤと騒がしくなった。

 

「みんな寝袋に入るように!」

 

 主席のパーシーが大声を出す。

 

「さあ、おしゃべりはやめたまえ! 消灯時間まであと十分だ」

 

 生徒たちはそれを聞いて、各々のグループで固まりながら寝袋に入っていく。

 

「行こうぜ」

 

 ロンがそう呼びかけ、私たちも寝袋を掴んで壁の隅の方に引きずっていった。

 

「ブラックはまだ城の中にいるのかしら」

 

「どうだろう。少なくともダンブルドアはそう思っているみたいだけど」

 

 ハーマイオニーの心配そうな呟きに、ロンが寝袋の上に寝ころびながら言う。

 

「そうね……でも、どうやって侵入したのかしら。入り口は全て吸魂鬼が見張っているのに」

 

 ハーマイオニーの言葉を聞いて、私は昼間通った通路を思い出していた。

 少なくとも、あの通路に吸魂鬼はいなかった。

 つまり、学校関係者が誰も知らない秘密の抜け道がまだホグワーツにはいくつもあるのだろう。

 ブラックはそういった抜け道を通ってきたに違いない。

 もしかしたら私が昼間通ったあの抜け道を通って学校の敷地内に入ってきた可能性すらある。

 

「なんにしても……」

 

 私の前に現れたら殺す。

 私は一度深呼吸をし高ぶる気持ちを落ち着かせると、殺意を隠すように寝袋に潜り込んだ。




設定や用語解説

暴れ柳
 ホグワーツの校庭に植えられている暴力的な柳の木。近づくもの皆傷つけるかなり危ない存在だが、植物としては貴重なため暴れ柳が怪我をしたらスプラウト先生がしっかり治療する。

全然太らないし大きくもならないサクヤ
 本人としてはチビなことを割と気にしている。

Twitter始めました。
https://twitter.com/hexen165e83
活動報告や裏設定など、作品に関することや、興味のある事柄を適当に呟きます。

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