いよいよテストが近づくにつれ、学園内の緊張感も高まってきたこの頃。
ドラコが何やらやらかしたらしい。
それで50点の減点をされたとかで、ご実家からお叱りのお手紙と思われる冊子(程の厚みがある手紙)が送られてきていた。
グリフィンドールからも同じく150点の減点があったようだが(大方あの三人組だろう)、スリザリン的にはよその事は二の次だ。
まずは他人の不幸を囃し立てるより、自分の寮の減点についてどうにかするという流れになった。
ハリーがシーカーとなったクィディッチでは、グリフィンドールの二度の勝利で、寮対抗の点数がスリザリンに迫っており、例の問題が起こるまでは、ほんの数十点の点数差で日々勝ったり負けたりと首位を争っていた。
学期も終わりに近い今、点数に余裕はない。
夜間外出で寮杯を逃したなんて事になったら、来年から部屋の扉に外鍵をつけるなんて先輩方が言い出しかねない。
「ドラコもやっちゃったわねぇ」
「グリフィンドールのバカに関わるからよ」
「まぁまぁ、残りの時間でまだ取り返せる範囲内ですもの。頑張りましょう?」
パンジー達ですらこの調子だ。
ドラコの肩身は言わずもがな、である。
……グリフィンドールの三人、というよりハリーとハーマイオニーも校内で見かけるといつも俯いて、誰とも目を合わせないようにしているようだった。
*******
試験まで残り一週間。
「それで、罰則は何になったのですか?」
「……わからない。集合場所と時間しか聞いてないんだ」
件の事件からしばらく、寮内に居づらい事もあってか、図書館にいることの増えたドラコと自習をすることが日課となっていた。
なんでも今回の事件は、ハグリッドさんの家で、ドラゴンを飼育しているところを目撃し決定的な証拠を抑えるべく企てたものの、いざマクゴナガル教授に言い付けに伺ったら自分も夜間外出で処罰されることになったと。
しかもドラゴンは処理されたあとで、夢でもみたのだろうと信じてもらえなかったとか。
……真夜中の一時に叩き起こされたマクゴナガル教授に同情する。
そして、ドラゴンはそういうことだったのね。
確かにホグワーツの禁じられた森を守るハグリットさんなら、ドラゴンを仕入れられる伝があってもおかしくないのかもしれない。
三頭犬と同様、いや珍しさで言ったら後者が勝るのではないだろうか。
立ち入り禁止の部屋の門番にダンブルドア校長が起用を決められる程、調教された魔法生物。
頭が三つあるということは、従えるための難易度も三倍、それ以上かもしれないがまぁとにかくダンブルドア校長のご指示で、ドラゴンの飼育を行っていたのかもしれない。
……ハリー達が知ってしまった分には隠し通せたがドラコは秘密をマクゴナガル教授にとはいえ話してしまった。
だから様々な危険を考慮して、全員罰則となった……とか?
「大変だったのね、お疲れ様でした。次からは時間も考えて、もっと上手にやること、ね?……ところでドラゴンはどんな種類だったのかしら?」
「サルースは……いや、うん。気を付ける。種類は分からない。けど、赤かったと思う、それから火を吹いてた」
赤くて火を吹く、か。
典型的な危険種って感じだけれどその特徴だけでは絞りきれないわね。
「ドラゴンだなんて信じてくれるのか?」
「え?えぇ。勿論よ?ドラコはそんな嘘言わないでしょう?」
「あ、あぁ。誓って嘘じゃない」
何故そんな唖然とした顔でこっちを見るのか。
「うーん、やっぱりノルウェー種でしょうか。産まれてすぐに火を吹き、噛まれたロンの手が腫れていたのでしょう?となると火山帯の子ではありそうなんですけれど……」
ドラゴンの品種一覧を眺めながら、ハグリットさんの家に卵の破片でも残っていないかと思案する。
産まれた瞬間に殻を食べてしまう事が多いようだから難しいか。
超レア素材なんですけどね。
「流石、サルースはテスト勉強はもう完璧か」
「完璧とは言いませんが……教科書の範囲に対してやれることはやったので、あとは予備知識といったところでしょうか?」
ドラゴンについては、ハリー達から聞いた方が情報が集まりそうね。
*******
ドラコやハリー達の罰則があった翌朝。
「サルース!!!!ちょっと来てくれ!!!」
「お、おはようございますドラコ」
談話室で顔を会わせた途端に寄ってきたドラコに連れられ、大広間へと向かうことになった。
よっぽどなにかあったのか、クラッブ達もダフネ達も置き去りにしてきてしまった。
「ありえない。絶対におかしい。あいつらもあのイカれたジジイも、絶対におかしい……」
ツカツカと足早に私の手を引き歩くドラコは、着いていくので精一杯な私に気づく様子もなく怒り顔で何やらぶつぶつと呟いている。
足がもつれて転ばないようになった私、えらい。