慌てていなくなった三人を見送り、調べものへもどる。
あの三人のお小遣いで買えるような生き物ではないし、ドラゴンは赤ん坊だって危険度はxxxxxを超える。
手にいれるためのルートすらないだろう。
『賢者の石』を護る力になりたいという気持ちは、共感できないけれど理解はできる。
そのためにドラゴンを使おうだなんて、夢があるしハリーもロンも好きそうだ。
……ハーマイオニーならどれだけ危険なことかわかりそうだけれど、正義感が勝ってしまったのかしら。
ま、私はドラゴンと闘う英雄記は読む専門なので。
どうせ自己投影するのなら、助けられるお姫様の方がいい……パンジーとダフネには笑われそうだけど。
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「サルースー?またランチするの忘れてるでしょ?」
「そんなに面白い本を見つけたの?」
パンジーの声に顔をあげる。
どうやらお昼の時間らしい。
「いつもすみません、この16世紀の人体浮遊に関する魔法の研究論文が面白くて……」
「うわ……タイトルからして面白味の欠片も感じられないわ」
魔法薬で使用するホダッグに関する文献を読んだあとは、魔法道具を作るための知識集めをしていた。
箒を使わずに空を飛びたい人々の努力の結晶、面白いと思うのだけど……
「ほら、続きは寮で読んでよね。貸し出し手続きしてきなさい」
「はい!入り口でまた!」
ダフネが手早く纏めてくれた荷物を全てカバンへつっこみ、いくつかの資料をまとめて借りることにした。
箒や絨毯以外に、もっと安全で簡単な空飛ぶ道具なんてあったら面白いと思っている。
箒なんて精密器具は専門の職人さんじゃなければつくれないけれど……そこを何とか考えるのは楽しそうだ。
絨毯は魔法陣やルーン文字なんかを織り込む形で呪文を成り立たせていると聞いたことがある。
やはりルーン文字学は、早いうちにきちんと学んでおかなくては。
浮遊の呪文を物にかけて、浮かべるだけなら簡単なのだけれど……効果がいつまで続くかわからない点や、対象物の構造なんかを理解せずにかけると空中でバラけるなんて事にもなりかねないので基本的に禁止されている。
うーん……空飛ぶ靴なんて神話にも出てくるし、夢があると思うのだけど。
「まーた難しいこと考えてるわね」
「ほら、お昼ご飯にいくわよ」
「あ。お二人ともお待たせ致しました!!ランチでしたわね」
二人が呼びに来てくれていたのを忘れていた。
ほらほら、と両手をひかれて大広間へ向かう。
遅めのランチとなったので、スリザリンの席にはドラコ達はおらず一部の上級生が教科書片手にちらほら座っているだけだ。
「ちょっと、野菜も食べなさい」
ダフネが私の分まで取り分けてくれるマッシュポテトや生野菜をつつく。
個人的には、糖蜜パイと蜂蜜がけの焼きリンゴなんかが最近のお気に入りだ。
スペアリブやミートパイも最近はたまに食べるようになった。
……確実に体が丸くなってきているけれど、もともと平均より小さいので問題ない……はず…成長期も来ていないし……
「パンジーの宿題は終わった?」
「なんとかねー!ほんと、疲れたわよ!!歴代の魔法省大臣の名前なんて書き取りさせて何になるってのよ……使いどころないわー」
「とりあえず今度のテストで使うんだから黙ってやりなさいよ」
「えー……そもそもテストに出ることがおかしいわよ。もっとあるじゃない?なんかこう、ねぇ?」
パンジーは先日の小テストで赤点だった事で、私とダフネより課題が1個多かった。
たしかに使いどころは無さそうだけどね、さすがに一人も書けないのはダメだと思うわ。
それは一般常識の範囲内だもの。
とはいえ、パンジーも課題が終わったなら午後は一緒に遊べるということだ。
「あ、そうだ!ダフネ、サルース!午後はボードゲームみたいなことをしない?こないだ届いた雑誌についてたのよねー」
「ボードゲーム?私はいいけど、サルースは図書館はもういいの?」
「えぇ!今日の調べものは終わっておりますわ」
「なら決まりね!ほらほら二人とも早く食べて行くわよー」
先程までとは打って変わって、ご機嫌な様子のパンジーにせかされ食事を終えた私たちは寮へと戻る道を小走りに戻ることになった。
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「じゃーん!マダム=ラブフォーチュンの『未来の王子様を占う』よ!!!」
「「うわぁ……」」
チカチカと輝くピンクと紫に縁取られたボードゲーム……というよりは心理テストのような冊子を抱えて現れたパンジーに、ダフネと声がかぶってしまった。
胸焼けして吐きそう、みたいな顔をしたダフネ程ではないにしろ私の顔もひきつっていそうだ。
(表情筋もちゃんと仕事をするようになった、と最近よく言われる)
「なによ、二人揃って変な顔しちゃって。ほらほら、さっそくやるわよー」
「まって、待ちなさいパンジー。ボードゲームじゃないわよね?!そもそもマダム=ラブフォーチュンって誰よ……」
「誰かなんて知らないわよ。そ、れ、と、これはちゃんとしたボードゲームなの!ほら見て?サイコロと駒があるでしょ?」
たしかに、賽の目が輝くハートでできたピンクのサイコロと、女の子の形をした小さな駒を見せられた。
ついでに渡されたルールブックを見ると、すごろくのようなものらしい。
進んでいった結果出会った相手が、運命の王子様だというゴールだから占う……と名乗っているらしい。
「いや、駒のスタート位置がプレイヤーの生まれ月によって違う上に年齢でマイナス補正が入ってサイコロ値が変わるって……滅茶苦茶なすごろくね」
「斬新なアイデアですわね。勉強になります。やりましょう」
「ほらほら、サルースもこう言ってるしダフネも諦めなさい!まずはー駒選びね?色によってステータス補正が違うからよく考えないとねー!」
ふむ。
なかなか面白いルールだし、意外とゲーム性も高いようだ。
一回プレイしたらすべてのルートへの行き方が分かってしまいそうだが……まぁサイコロの運次第。
やれやれと、降参のポーズをとったダフネも含めて、いざすごろくである。
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結果からいくと、ダフネが離婚歴のあるグリンゴッツ職員の旦那様と結婚し無難に家庭を築き三人の子供と庭付きの家で暮らしていく事になり、パンジーは芸術家志望の無収入、無才能な男性と借金を背負って自身が働き、生活を立てながら優しい夫の愛に包まれて本人は幸せに暮らしていくという事となった。
私?
呪い破りのトレジャーハンターの旦那様と共に、海底国家の攻略中に食中毒で夫を亡くし、その後マグルの王族と再婚、革命にあい断頭台で生涯を終えた。
「圧倒的にサルースがヤバイことになったわね」
「いや、パンジーも微妙にリアルでヤバイわよ」
「ダフネの結果は一番現実的ですわ」
占い、というよりは完全にすごろくだった。
ある程度マスの選択肢を調整して進むことで方向性は操作できるものの、まさかの最後を迎えてしまいましたわ……
とはいえ、思ったよりも楽しめた事は間違いない。
斬新なすごろくだった。