シャム猫の色、なぜ変わる? 白から黒へ温度が左右
ナショナル ジオグラフィック
シャムネコはクリーム色の体に、黒っぽい顔と足、尾を持ち、輝く青い目が特徴で、最も見分けやすい品種の一つだろう。
これらの特徴は、2005年にシャムネコで発見された「サイアミーズ遺伝子」による(編注:サイアミーズはシャムネコの別称)。この遺伝子は温度が低くなると働き始めるため、シャムネコの毛の色は温度次第で変化する。
子宮の中はネコの平熱である約38℃だが、生まれたとたん、真っ白な子ネコの尻尾や足、耳、顔などの末端が冷え始める。すると、メラニン(人間にもみられる色素)の合成に関わるサイアミーズ遺伝子が働き始めて、体温の低いシャムネコの体の末端が次第に暗い色になっていく。
「色が変わるのは見ていてわかります」と、米ニューヨーク州ロチェスターにあるネコ専門の診療所の獣医師で、10代の頃にシャムネコの繁殖(ブリーディング)を始めたベッツィー・アーノルド氏は言う。
アーノルド氏によると、四肢が黒くなり始めるのが生後2週間頃。生後約1カ月になると、「ポイント」と呼ばれる暗い部分の最終的な色合いが現れる。色合いは「ブルー・ポイント」「ライラック・ポイント」「チョコレート・ポイント」「シール・ポイント」など数種類あり、足、尾、鼻、耳などがポイントの色合いになる。
年をとるにつれても色は変わる
サイアミーズ遺伝子は、メラニンを合成するチロシナーゼ遺伝子が突然変異を起こしたもので、南アジアのイエネコに自然に発生すると、サイアミーズ遺伝子を発見した米ミズーリ大学のネコ遺伝学者であるレスリー・ライオンズ氏は言う。
長い時間をかけて、人間は印象的な淡い色と黒い部分を持つネコを選択的に繁殖させ、シャムやバーマン、ラグドール、バーミーズなどの様々なネコの品種にサイアミーズ遺伝子を受け継がせてきた。この遺伝子は潜性(劣性)のため、サイアミーズ遺伝子を両親のそれぞれから受け継がなければならない。なお、雑種もこの色合いを受け継ぐことがある。
これらのネコの鮮やかな青い目も、目の色素に影響を与えるサイアミーズ遺伝子によるものだ。
サイアミーズ遺伝子のおかげで、シャムネコは年をとるにつれて毛が黒っぽくなっていく。これも体温の影響だ。
ネコの毛に何らかの外傷や変化があると、体の色が変化することもある。例えば、シャムネコが手術を受けた場合、剃られた部分の毛が黒く生え変わることがある。これは影響を受けた部分が冷やされるためだ。アーノルド氏によると、体温が元に戻れば、毛はやがて再び明るい色になるという。
米アラスカ大学のウェブサイトによると、1920年代にロシアのモスクワで、あるシャムネコが肩の毛を剃られた。普段は寒かったのでそのネコの体はかなり黒っぽくなっていたが、毛を剃られた部分が寒かろうとジャケットを着せられた。すると、温められた部分の毛が真っ白に生え変わったという。
健康への影響は?
ライオンズ氏によると、耳や鼻の先が黒くなるヒマラヤンウサギなど他の多くの種もサイアミーズ遺伝子をもっている。
ラットやスナネズミ、アメリカミンクもサイアミーズ遺伝子を持つことがある。2021年2月に学術誌「Gene」に掲載された論文では、サイアミーズ遺伝子によりイヌでは珍しくシャムネコのような毛の色になったダックスフントが報告された。
「それぞれの種が同じ遺伝子に独自の突然変異を持ちながらも、特定の色彩になるように品種改良されてきたのです」とライオンズ氏は説明する。
これらの飼育動物における突然変異には包括的な利点も欠点もないが、目の問題など「健康上の懸念があります」とライオンズ氏。
シャムネコには、目が寄っていたり、位置がズレていたりする斜視が多い。そのせいで、視力が損なわれるだけでなく、奥行きが知覚できなくなる可能性がある。
目の角度が合っていても、眼振(目が揺れること)に悩まされる場合もある。眼振は、眼球が時々左右に何度もわずかに素早く動いてしまう症状で、自分では制御できず、視力障害や平衡感覚障害にまでなってしまうおそれがあると、アーノルド氏は言う。ただし氏は、自身の診療所ではこの症状を見たことがないと付け加えた。
ライオンズ氏とアーノルド氏のどちらも、ペットとしてシャムネコを飼うなら評判の良いブリーダーから買うか、保護団体から迎えることを勧めている。どこから迎えるにせよ、この仮面をかぶったようなネコたちはみんなの心を奪う、と二人の意見は一致している。
文=LIZ LANGLEY/訳=杉元拓斗(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで11月3日公開)
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