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公認心理師ややリアル事例問題


突然ですが私は地元の消費生活アドバイザーとしてボランティア活動をしています。このnoteも主に「マルチ商法などに騙されない考え方」をテーマに書いています。今回は公認心理師試験に絡めての話題(試験まで2週間切りましたね!)。公認心理師としての基礎であり、倫理や価値を示す基本法である「公認心理師法」。この法律や医療関連の知識を問う事例になりそうな投稿がだいぶ前にTwitterで上がっていました。

こういった勉強になるツイートこそ消されがちなのでコピペでも残しておきますね。

夫は農業の教員なんだけど、オーガニックで野菜を育てて収益を出すなんて無理だと信じてた。でもそれは間違いだって気づいた。私は発達が専門で、発達障害が栄養で改善されるなんて最初は信じてなかった。自分の専門領域の常識こそまず疑わないとダメだと最近学びました。
午前8:46 · 2022年6月19日·Twitter for iPhone

リュイール@臨床心理士|公認心理師|SC@luirecp

以下の文章を事例問題ふうにまとめるとこう。

「公認心理師A。レストランの一席を間借りしてカウンセリング業務を行っており同時にスクールカウンセラーもしている。Aは発達障害を専門とするが、近頃分子栄養法なる食事療法を知り、自らのTwitterでも『発達障害が栄養で改善される』といった発信をしている。Aは公認心理師法のどの部分に抵触しているか。」
(※設問内容は6/22当時にツイート主本人のプロフィールから拾った情報をもとにしています)

  1. 秘密保持義務

  2. 主治医の指示義務

  3. 多職種連携の義務

  4. 資質向上の義務

  5. 信用失墜行為の禁止

正解は……たぶん残念なことに「解なし」です。

先の問題は、こういった情報に詳しい方にはピンとくるかもしれません。TwitterやFacebookなどで集客というか自分のフォロワーを集め、自分の意見に賛同する人たちを囲い込み、特定の政党をアピールしたり自らの商品やサービスを売るタイプのビジネス。こういったスピリチュアルや思想性が強めかつ心身の健康にかかわるビジネスを展開するものについて、ある程度の事情を知っている方なら「どれもどうせアウトなんだろう」と思うでしょう。そこで設問や元ツイートに基づいてもう少し詳しく見ていきましょう。

ここで引っかかるのは「分子栄養学ってなに?」という所と、「発達障害と食事との関連」だと思います。でもここは気にすることはないでしょう。分子栄養学はともかく、分類マニュアルであるDSM-5やICD-11はもちろん、おそらくどのテキストも発達障害(精神、行動、神経発達の疾患)の治療というかコントロールは薬物療法と環境整備などが主とあり、食事については触れられていません。何かしらの研究はされているでしょうが、現時点では教科書的な回答から外れるとダメ。なので「発達障害が栄養で改善される」という公認心理師については試験では×をつけておく必要があります。そもそも、発達障害の治療に言及している分子栄養学も、明確なエビデンスがないからマルチ商法的なやり方で広めているんでしょうが、まあおいといて。

この辺りから考えると、件の公認心理師を以下条件にあてはめた場合、数々の疑問が残ります。

  1. 秘密保持義務→個人のTwitterで「発達障害が栄養で改善した」と言っているあたりで疑問符です。あとレストランの一角でカウンセリングって情報ダダ漏れしそうですよね……

  2. 主治医の指示義務→公認心理師は主に厚生省のガイドラインに準拠した援助をするはずだが、設問の公認心理師は「分子栄養学」というエビデンスに乏しい療法を支持している様子がうかがえる。この時点でいわゆる「標準医療」を行う医師の指示を聞くでしょうか?

  3. 多職種連携の義務→上に同じ。表面上は連携していてもこっそりスタンドプレーの疑いは晴れません。

  4. 資質向上の義務→まあ「お勉強」はしているんでしょうが……トンデモ信仰ありきの理屈付け・理由付けは勉強とは言わないですね、一般的に。

  5. 信用失墜行為の禁止→公認心理師の名称を使い特定の政党をアピールしたり、デマを広めている時点でもうアウトでしょう。

【補足】ちなみに分子栄養法、レストランを間借り云々やスクールカウンセラーのくだりは、上記のツイートからたどれる情報でしたが、2022/06/27現在、ツイート主のプロフィールから自身の経営するカウンセリングルームへのリンクが削除されているので、今後はグーグル検索するしかなさそうです。

それでは内容が重複しますが、このツイートの残念なところとツイートをもとに書き直した設問の回答について少し解説していきます。

まず設問中に(おそらくまともに心理その他を学んだ側からすると)見慣れない用語が出てきます。「分子栄養学」、これは以下の引用をもって解説とします。まあぱっと見悪くなさそうに見えますが、これは決してEBMつまり科学的根拠に基づいた医学とは違ったものであり、所謂「標準医療」とは言えません。また細かいことを言うと、公認心理師は文部科学省及び厚生労働省の管轄のもと「国民の心の健康」の寄与しなくてはなりません。これは法律でも定められていますね。なので、先にも書いたようにこの公認心理師。存在自体が疑問符です。しかし、実際には証拠がありません。

オーソモレキュラー栄養療法(orthomolecular medicine)は、我が国では「栄養療法」「分子栄養学」「分子整合栄養医学」とも称され、栄養素-適切な食事やサプリメント・点滴、糖質コントロール-を用いて、わたしたちの身体を構成する約37兆個の細胞のはたらきを向上させて、様々な病気を治す療法です。

海外では1960年代より、精神疾患領域の治療として応用され始め、今では、その応用範囲はほぼすべての医療分野に及ぶまでになりました。


一般社団法人オーソモレキュラー栄養医学研究所
https://www.orthomolecular.jp/

つまり、レストランの一角でカウンセリングを行っていてもクライアントが納得している、あるいはそこで不祥事が起きたなどの記載は一切ないので「秘密保持義務違反」にも当てはまらず、またその他についても具体的に何かをした・しなかったことで業務に支障をきたしたなど「書いていない」ので簡単に違反している、とは言えないのです。よってこの設問は解なし。悔しいですね……

この設問から学べることは、たとえ倫理的•感覚的になんかおかしいと思っても、具体的な証拠や記載がないかぎり×にできない。といったことをポイントとして押さえる必要がある。そんなところかもしれません。

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座右の銘は「夢に人が絡むと儚くなる」(by岡田あーみん)、使命は社会福祉学、相対性貧困の観点から母原病をはじめとする「母親責任論」の罪を暴くことです。
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