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第1章 双星と聖剣魔術学園〜入学編〜
17話 新人戦(1) 〜王様は誰?〜

「「探知術式(サーチキャスト)!!」」


 魔術がA、B組の城から同時に放たれた。途端、光が波紋状に広がると、術者の手元の魔方陣に光る点がいくつも表示される。それを見てうなずき合う生徒たち。新人戦が本格的に始まったのだ。


* * * * *


「おぉ、まずは両クラス、探知術式を利用しましたね」


「ま、セオリーだものね。探知術式は魔力に反応して魔方陣上に敵味方の居場所を示す術式。魔術戦闘では定石中の定石だし、ここは両クラスとも基礎がしっかり出来てるってトコじゃないかしら? ……探知術式の欠点は魔力を用いてない相手は見つけられないってとこだけど」


「引っ掛からないのは王様と、伏兵として待機している者ぐらいですからね。あと使用術者は動けないことぐらいでしょうか」



* * * * *


「前衛のみんな、君達の近くに敵は居なさそうだよ」


 ダグラスから城外の皆に通信用呪符を利用して探知の結果が告げられる。つまり、外にいるアザミ達の近くに、少なくとも“動いている”敵は一人も居ないということだ。伏兵の可能性が残るが、60秒で移動できる距離とも思えない。だが、一応は戦地の中なので警戒はしながらアザミ達はもっと奥へと進んでいく。


「了解。そっちも気を付けろよ」


「ダグラステメェ、エイドに傷ひとつ負わせんじゃねぇぞ!」


「……グリムうるさい」


 大声を飛ばすグリムに城塞の方からブチッと一方的に通信が切られる。誰が切ったのかは......明白だろう。時と場合を考えないグリムの発言に「はぁ」、とため息をつくエイド。


「あのバカ……私を王様に推薦したのはグリムなのに今さら心配なんてっ......」


* * * * * *



 それは新人戦一回戦から数日前のことだった。クラス全員が重々しい空気を漂わせる。そう、今日の話し合いの議題は、


「……王様を誰にするか問題について話し合おうか」


 それはクラス全員が目を背けていた問題だった。王様を討ち取られたら敗け、というルールの新人戦において王様は当然一番重要になるポジションだ。誰もやりたくないし、そんな責任誰も負いたくないというのが本音。チラチラと顔を見合わせるだけで誰も立候補するものは居ない。


「アックがいいんじゃないかな? リーダーだし、、」


 と、しびれを切らした誰かが提案する。自分じゃない誰かが王様をしてくれればいい、という思考において最も効率がいいのが他薦だ。だが、それをアックがいやいや、と否定する。


「俺じゃ弱いよ。それに王様と言っても本当に命令する立場じゃないだろ?」


 その言葉にアザミも賛同する。王様はあくまで新人戦の中の一役割に過ぎない。一番偉い必要はもちろんない。


「そもそもアックは前衛だ。王様をやらせるわけにはいかない」


 アザミの言葉に「うーん」、とクラス中が考え込む。それでもやはり、誰も立候補はしようとしない。お前行けよ、いやお前が行けよと心の声がダダ漏れ。だがそんな中、グリムが「ならよォ......」と手を挙げ、ビシッと一人の少女を指差す。


「それならうってつけのやつがいるぜ!」


 グリムに指を差されれたエメラルドグリーンの髪の小柄な少女が「わ、私っ!?」と驚いたように立ち上がる。シトラは「ほほう」とその少女を見つめる。まさか王様だとは思えない、小柄で弱そうな見た目......


「……エイドが王様、ですか?」


「むー、、、。グリム、勝手に決めないでよぅ......」


 嫌そうにエイドが頬を膨らます。周りの視線が自分に集中しているこの状況に顔を赤らめ、涙で目をうるうるさせている。だが、グリムは「いや、エイドはいいぜ!」と自信たっぷりな姿勢を崩さない。そこまで言われると、無視はできない。


「……だがどうしてエイドさんなんだ?」


「フンッ、エイドが得意にしているのは治癒魔術なんだぜ。それも天才級のなァ。自分だろうが他人だろうが、こいつは魔術で一瞬で治しちまうんだぜ」


「やめてよぉ、グリム……」


 まるで自分のことのように自慢するグリムを恥ずかしそうに見るエイド。アザミは「なるほどな」とグリムの言葉に頷く。確かに王様と相性は良さそうだ。


「エイドさんの力は分かった。でも、ちょっと気になったんだが、そんなに有能な治癒魔術師なら選抜されるんじゃないのか?」


「まあ、それは俺が普通科だから一緒に来たって―――」


「そんなわけないでしょ!」


「ひべしっ!?」


 エイドがジャンプしてグリムの頭をポカッと叩く。だがエイドがさっきよりもっと顔を赤くさせているところを見るに、果たしてグリムの言葉が「そんなわけない」のかは疑問だ、とアザミは苦笑する。


(あー、ジャンプしないと届かないんですね……)


 そんな中、全く別の観点からエイドを見つめてクスッと笑うシトラ。エイドは理由こそ違うとは言え、双子に笑われて恥ずかしそうに目をそらすとボソボソと小声で言葉をこぼした。


「……私は、治癒魔術しか使えないんだよ。だから自分の身も守れないし、攻撃も出来ないの......」


 そう言って少しうつむく。治癒魔術しか使えないことが恥ずかしい、そう言っているかのように。だがアザミはそんなエイドに首を傾げた。


「……別にいいんじゃないか?」


「え?」


 その言葉に驚いたようにエイドが顔を上げてアザミの方を見る。残念だ、せめて少しくらい他のことが出来れば......と笑われたり失望されたことは多いが、認められるなんてめったにない経験だったから。


「治癒術式しか使えないのなんて欠点じゃない。戦闘において回復は時に剣よりも魔術よりも真価を発揮するからね。治癒魔術師なんてその時点で十分な戦力だ。自信を持っていい、エイドさんは強いよ」


「……アザミさん―――!」


「ただ、自分の身が守れないってなると誰か守ってくれるやつが必要になるな......」


「それなら守るのは後衛の皆に頼むぜ。もし傷ついたらこいつが治してくれるし、多少怪我しても自分で治しちまう。それに攻撃できねえからエイドは後衛確定だしな!」


 グリムが頼んだぞ、とエイドに笑顔をむける。そこまで褒められた上に、クラス中からの期待の眼差し......もはやエイドに断るという選択肢は残されていなかった。


* * * * *

 

「ダグラス君、ちゃんと守ってくださいね......?」


「うん、任せておいてよ!」


 不安そうに震えるエイドを見てダグラスが霊装をグッと握りしめる。そんな城塞から遠く離れた森の中、アザミ達はバラバラに分かれて森の中に各自潜んでB組の城塞を目指していた。


「さて、いつ仕掛けてくる?」


 アザミは木の上に登り、あたりを見渡して警戒する。

 ステージはかなり広く、両クラス合わせて60名ほどの生徒がいるにも関わらず、まだ誰も戦闘をしていなかった。それは嵐の前の静けさなのだろうか、妙な緊張感が広がる。


(だが俺の読み通りならきっと―――)


 アザミはゴクリとつばを飲む。そのとき、通信用呪符からグリムの声が聞こえてきた。


「……な!? ゴード―」


「おい、グリム! どうした!?」


 呪符を介してアックが呼びかける。だが、グリムからの返事はない。すぐさま呪符の通信先を城塞に切り替えるアック。


「ダグラス、どうなった!!」


「……グリムがやられた!」


 間髪入れずダグラスから通信が入る。その言葉に前衛のアック、アザミ、シトラが一斉に反応した。なぜならその結果次第でこの初戦の結果が大きく変わるから。グリムの死が果たして無駄になるのか、それとも生かされるのか―――アザミの読みが当たっていたなら......


「「「探知術式は!!」」」

                   

「……君の読み通りだよ、アザミ。ゴードン・アクセルは“王様”だ―――」



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