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【聖剣魔術学園豆知識】

エイド・ロッツォ  1年A組の女の子。エメラルドグリーン色の髪と瞳を持つ。ツインテールの髪型と低身長もあってか実年齢よりも幼く見える。グリムとは幼馴染で赤子の頃からの付き合い。婚約者がいるらしい。癒やしキャラのような立ち位置だが、シトラの前では素を出す。


ミーシャ 300年前、シトラと共に勇者を目指した少女。寮で同じ部屋だった。「あんなことがなければ」と言うシトラの言葉から二人の間には何か確執があったらしい。

第1章 双星と聖剣魔術学園〜入学編〜
14話 開戦前夜(1) リーダーの資格

「おはよう」


 いろんな事があった学園生活初日とは対照的に、双子の学園生活二日目はあっさりと幕を開けることとなった。


                  * * * *


「2週間後、クラス対抗新人模擬戦……長いから新人戦って呼ぶことにするけど、それの初戦がある」


 ホームルームでアックがそう切り出した。それによると。この2週間は対策の時間らしい。やることは他クラスの偵察、自分たちの武器の準備、連携の確認......などなど。そして、基本的に教師はそれに介入しない。なのでハイルは教室の後ろの棚に腰掛けて議論を観察していた。


 特段何もせず、各々動くクラスもあるらしいが、双子の所属するA組はひとまず皆で作戦会議をするということとなった。


「そういえば初戦の相手ってどこになったのかな? さっそく昨日抽選があったんだよね?」


 最初に言葉を発したのはダグラスだった。眼鏡はだてじゃないのか、それは聞いておいて損のない、むしろ知っておくべき内容だ。

 昨日の放課後、各クラスの代表が集められてくじ引きによって1回戦の組み合わせが決定された。それはちょうどシトラがジョージと戦っていたころだ。アックはダグラスの指摘にポンッと手を打ち、


「そう、それを話しておかないとな。……結論から言うと、残念ながらシードは逃してしまった。すまない」


 アックの言葉に「あ〜」と落胆の声が響く。しかし、その中にアックを責める言葉は一つとして無かった。すぐに「ドンマイ」「一回戦勝てば良いんだろ?」と、ポジティブに切り替えられるところがこのクラスの良いところなのだろう。そして、たった一日で変わった意識の差、というものか。

 そんな皆の温かな反応にアックもホッと息をつき、ハハッとどこか照れくさそうに笑った。


「ありがとう。……それで、初戦の相手なんだけど......B組に決まったよ」


「マジかよ! そりゃぁ、選抜と当たらなかっただけラッキーだぜ。よくやったアック!」


 アックの言葉にグリムが笑顔でサムズアップ。続いて歓声が上がる。アックもその反応とクラスの盛り上がりに乗っかるように喜びの表情を浮かべつつも、すぐに真剣な顔つきへと戻った。


「―――だが一回戦を突破して決勝に行けたとして、そこで選抜クラスとやることに変わりはないぞ」


「だいじょ〜ぶだってアック。昨日どっかのクラスの選ばれし者さんが普通科の女の子に決闘で負けたって聞くし。こんなんよォ、ぜってー今年の選抜科は大したことねえって! ……多分」

 

 その”選抜科を倒した普通科の女の子”が横の席に座っているとも知らずグリムは軽口を叩く。そのどこか油断しているようなグリムの様子を見てエイドが深いため息をついた。幼馴染であるエイドにしてみれば、グリムのこの反応も慣れたものなのだろう。


 グリムの言葉に若干緩みかけたクラスの空気を、アックが「まあまあ」ととりなすようにして話を続ける。


「……それでも選抜科はやっぱり選抜科だからさ、手強いのに変わりはないだろう」


「まぁ、アックの言う通りだな。だからこそ多く戦うのは避けたいところだ」


「それはその通りだ、アザミ。……ところで、君は何か策とかあるか?」


「……策ってわけじゃないが、とりあえず考えなきゃいけないのは“B組をいかに早く倒すか”、だろうな。優勝するためには決勝よりも目の前の一回戦だ」


「なるほど、決勝戦でのシード権を取りに行くのですね」


 おぉ!、と感嘆の表情を浮かべたシトラに、アザミは「正解!」と右手でOKマークを作った。

 新人戦の決勝は一回戦シードとなったクラスと、一回戦を勝ち抜いた2つのクラスとの合計3クラスのトーナメントで行われる。そして、決勝戦でのシードを得られるのは一回戦の試合時間が短かったクラスだ。


「まず重要になるのは一回戦のシードクラスだ。どこになった、アック」


「それが……S1なんだ」


「チッ、最悪だなおい」


 アザミが眉をひそめ、机をドンッと叩く。ちなみにこの行動からも分かる通り、魔王は相当の負けず嫌いである。そんなアザミが悔しがるということは、この組み合わせ、シードがS1クラスということは初っ端からかなり厳しいということ。


「……ってことは決勝の組み合わせって、、、」


「ああ。おそらくA,BのどちらかとS1、S2だろうね。S2がC組に負けるのは想像できないし……」


「これはなんとしても最短でB組を叩くしかねえじゃねえか、、、」


 その現実に、急に重苦しい空気が教室を漂う。ただ「勝つ」というだけならまだしも、戦力差もよくわからない相手に「できるだけ早く勝つ」という縛りが付与されるのだ。それが増えるだけで与えられるプレッシャー、圧力は決して小さくない。


 アザミは分かっていた。S1は強い、と。魔術無しの純粋な剣技勝負でシトラが苦戦したジョージ・ハミルトン。そしてそれを上回る強さを持つであろう新入生総代のトーチ・キールシュタット。


(S1に勝つには情報が足りなさすぎるッ……。第一に、戦争の基本は情報だ。いかに相手の情報を得ているか、それが戦局を大きく左右する。その出来しだいでは開戦前から結果が見えているということも珍しくない。決勝戦でシードを取れなきゃ情報が圧倒的に不足したままS1と戦うことになる。そうなったら―――)


「……じゃあひとまず皆で動きを合わせてみるか。今から訓練場に移動して―――」


「待て!」「待ってください!」


 アザミの焦りなど知る由もないアックが皆にそう声をかけた。が、それを阻止すべくアザミとシトラは同時に声を上げた。その突然の、そして想定外な言葉に教室中の視線が双子に集中する。


「どうしたんだ? なにか質問でもあるのか?」


「……えっと、ですね......アザミ、どうぞ」 


 大方口下手、説明が難しいと判断したのだろう。シトラはしれっとアザミに話を譲った。それを受けてアザミは軽く咳払いし、話し出す。


「ああ、分かった。お前ら、今から何しようとしていた?」


「何って……練習だろ? 魔術戦なんだからクラスメートの特性とか得意魔術とか知っていた方がいいじゃないか」


 やはりか、と、それを聞いて「はぁ、、、」とアザミがため息をつく。危ないところだった。このままでは、危惧していた通り“開戦前から勝負が決まる”ところだったから。


「―――負けるぞ? お前ら」


 アザミの言葉に「えっ?」と首をかしげるクラスメートたち。その様子に、こいつらは根本を分かってないのな、とアザミは呆れ顔でクラスメートを見渡した。


「……その練習は何にたいしての、いや誰に対してのものだ?」


「……? ――そりゃあ、これから対戦する他クラスに対して、だよ」


 当然のことを聞くね、とアックは躊躇せずにそう答えた。確かに、それは正解だろう。何の備えもなしに戦争に行くなど、死ににいくのと同義だ。練習や味方戦力の確認をするのは悪いことではない。だが、


「俺達にはまだ敵の情報も無いのに、か? まったく、お前たちは情報の大切さを分かってない。例えば、相手に水属性の魔術を得意とするやつがいたとする。今のままでは、俺らは何も知らずに炎属性の魔術の連携をしてしまうこともあるわけだ」


「……それは―――」


「戦争をするならまずは相手をよく知ることだ。どのような武器を持っているのか、どのような魔術を使うのか、何人いるのか―――。相手の情報がないのにする訓練なんて無いよ。そんなのはやるだけ時間の無駄だ。もちろん、時間が無限にあれば想定しうるすべての可能性を検証すればいい。が、残念なことに時間は有限だ。……それに、こっちの連携ぐらい3日もあれば叩き込める。なんせたったの30人しかいないんだからな」


 300年前、実際に魔王として30人の何千倍もの兵を率いていた魔王であるアザミの言葉の重みはレベルが違う。それを知らずとも、その説得力のある言葉に誰も反論できなかった。それを聞いて、「どうすればいい、、、」とアックがアザミに尋ねる。アザミはフンッと軽く笑い、


「まあ、相手の情報を出来るだけ集めることだな。とりあえず全員偵察に回れ」


「―――分かった。みんないいね?」


 いつの間にか指揮を執るのがアザミに変わっていることに皆は少し釈然としない様子だったが、それでも言い返す言葉もなかったため、「ああ、、」と返事をしてバラバラと教室から出ていった。そんな中、シトラがアザミの隣でボソッと呟く。


「アザミ、このような状況で本当に大丈夫なのでしょうか」


「……大丈夫、とは言えない。まあ戦争なんてやったことがない奴らが大半だろうからな。こういう初歩的なことですら分からなくても無理はないよ。そういうのを教えるのも、この新人戦の狙いだろうしな」


 不安そうなシトラの言葉にアザミは「ふぅ、、」と息を吐いて天井を見上げた。どうやらアザミやシトラが全盛期だった300年前と比べて圧倒的に今の時代は戦火から離れているようだ。

(……平和では決して無いだろうに、な。この先どうなることやら、、、)


 多少なりと未来に不安を覚えたアザミの元へ、ふとアックがやって来た。アックは双子を見て、そしてゆっくりと口を開いた。


「……君たちは......やはり、“戦士(ウォーリアー)”なのか?」


「アック......すまないが、そのウォーリアーってのは何のことだ?」


 アックの言葉に双子は首をかしげた。なんせ、それはまた聞き覚えのない単語だったから。アックは双子の本日何回目かも分からない反応に「そうだった」と頭を抱え、


「君たちは戦いについては詳しいのに、こういう単語は知らないんだな」


「まぁ田舎者なんでね。それで? そのウォーリアーとやらは俺たちとなんか関係があるのか?」


 実際は300年前には無かった言葉、そして戦闘に不要な言葉は後回しにして知識付を行ったため、こういう常識めいた物が欠如しているだけである。つまり、田舎出身であることは無知の理由としてはそこまで大きくないのだが、アックはアザミの言葉を素直に信じたようだ。


戦士(ウォーリアー)、戦争経験者のことをそう呼ぶんだ。この新人戦についての説明の時といい、今の口振りといい、君たちは戦争に慣れすぎていると思ってな……」


「なるほど“戦争経験者”、ね。まあ、そう言えばそうなるな。アックの言う通り、俺とシトラは戦争を経験している、、」


「やっぱりそうだったか。……ハハッ、それなら君達にリーダーをやってもらうべきだったな。俺は昔から自分の意見を押せず、最後はまわりに合わせてしまうんだよ。見てたろ? どうしても自分の意見が持てないんだ......」


 どこか誤魔化すような笑みを浮かべ、アックはハハッと髪を掻いた。そんなアックにアザミは「ふーん」と、息を吐き、


「……俺はアックのことを責任感のある男だと思っていたんだがな。もしかして見込み違いだったか?」


「えっ? 俺のこと、そんな風に思ってくれていたのか?」


「ああ。だからこそ、こんなところで投げ出すな。クラスの皆が認めたリーダーだよ、アックは。……それに人の意見に合わせるってのは皆の意見を取り入れることができるってことだ。それも、大切なリーダーの姿の一つだよ。……そして、それは俺もシトラも苦手としているからな」


「そうですよ、アック。私やアザミがリーダーでは自分の意見を押し付けるだけになってしまいます。さっきみたいにね」


 シトラが笑顔でアックの肩をポンポンと叩いた。アザミもアックの肩に手をかけ、


「だから今、アックに出来ることをするんだ。皆の意見をまとめるのはリーダーの仕事だぜ」


 と言ってニッと笑った。それは本音で、そして勝つためには重要な一手。上がしっかりしていないと戦う以前の問題なのは、共にかつては軍を率いていた者同士理解していたから。そして、


「それじゃ、俺たちも行くか」


「分かりました」


 アックに声をかけたあと、アザミはガラガラッと扉を開け、教室をあとにしようとした。軽く頷き、その後ろにシトラが続く。そんな双子の背中に、アックはすっと手を伸ばした。


「どこへ行くんだ? 今は一応授業中。授業中のクラスメートの動向を把握するのも、リーダーの仕事だからな」


 “リーダー”、その責任を引受け、アックはニヤッといたずらっぽく笑った。アザミはそれを聞いてフンッと振り返り、


「なぁに、ただの実地研修......だよ」


 そう言って笑い返した。


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