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【聖剣魔術学園豆知識】

生徒会 

 会長、副会長、書記、会計、庶務からなる。

各学年から男女二人ずつが選出される(計6人。会長がサラ・バーネット、副会長がニック・マスキュラー。1年生の生徒会役員はまだ未定。

第1章 双星と聖剣魔術学園〜入学編〜
13話(2) お兄ちゃん 〜とある女子寮の一日(1)〜



 話題が変わって今度は違う場所を殴られた感じ。突然過ぎるエイドの爆弾発言に、シトラの大声が女子寮内に響き渡った。こうして冒頭の展開へと繋がる......というわけだ。



「おっ、お兄ちゃんなんて呼べるわけないです!! そんな、、そんな恥ずかしいことなんて......」


「えぇ〜? でも、兄妹なのに名前呼びもおかしいと思うよ?」


「うっ、うぅー……でも、確かにそうなのですよね。これまで会った他の兄弟姉妹は皆独自の呼び方をしていました。かと言って、今さら変ですよ......。それにきっと、アザミだって恥ずかしいと思いますし……」


 エイドの正論を受けて、シトラはあわわわと落ち着きを無くしていた。矢継ぎ早に言葉を繰り出し、その細長い指で恥ずかしそうに顔を覆っていた。エイドの全力ストレートに小出しのジャブで抵抗している……そんな感じだろうか。だが、エイドもエイドで引き下がらなかった。ここまで恥ずかしがられると、なんだか悪戯心をくすぐられるのだ。


「そうかなぁ? だって、教室で堂々と言ってたよ、アザミさん。『俺の妹に手を出すな―――』って!」


 ニヤニヤとエイドが昼間のアザミを再現した。声色、調子......案外似ていたせいでシトラの脳裏を鮮明に今日の光景が思い起こされる。


「――ッッ!! あっ、あいつはどうしてこう恥ずかしいことをサラッと言えるんですかぁっ、、、」


 シトラはもう限界だった。まるでお風呂あがりかのように顔を真っ赤にしてフラフラとしていた。本当の風呂上りのエイドが普通に見えるように。どちらが風呂上りでしょう、とクイズを出したら『どっちも』と引掛けを疑われるほどに、その白い肌はほんのりとピンクに染まっていた。氷の人形、とも呼ばれたかつての勇者もこう火照ってしまったら二つ名も返上ものだ。

 しかし、シトラもタダでは終われなかった。やられっぱなしはやはり癪だった。シトラにも多少のプライドはあるのだ。


「で、でも......、そう言うエイドこそ、グリム君とはどのような関係なのですか? その口ぶりといい、代わりに謝るといい怪しいです。……ふふっ、もしかして恋人とかなんじゃないですか―――?」


「私がアイツと恋人? えっ、まさかぁ~。私とグリムはただの幼なじみだよ。同じ村出身で家も隣同士なだけで―――」


「―――いやいや、そんなこと言いながら実は好きだというパターンもありえますよ」


 勝ち誇った顔でエイドを追求し、なんとか残された気力を振り絞ってシトラは攻勢に出ようと抗う。だが、エイドは「無い無い」と笑って、シトラ目掛けて凄まじい破壊力の爆弾を投げ込んできた。そう、


「あー、だって私、“もう婚約者いるから”―――」


「……んっ、、、んんん!?」


 エイドの口から飛び出した衝撃の言葉にシトラは言葉を失った。何も言い返せないし、用意していた反撃の手札も全て吹き飛ばされた。……完全にシトラの敗北だった。ギュッと小さな胸を押さえ、バタンとベッドへ崩れ落ちる。


* * * * *


「……結局の所、シトラちゃんはアザミさんのことを“お兄ちゃん”って呼ぶのが恥ずかしいんでしょ? じゃあいっそ他の呼び方にしたらいいんじゃないかなぁ?」


「……と言いますと?」


「つまりね、恥ずかしくない呼び方を考えるの。例えば、“兄上”とか」


「なんか古典的ですね。あと、私のキャラとは違う気がします……」


「じゃ、じゃあ“あんちゃん”はどうかな!?」


「うーん、やはり変だと思います。アザミは洗濯が出来る方ではないので、、、」


「洗濯? 何の話? ……気を取り直して、じゃあ……“兄貴”というのはどう?」


「……あれが兄貴と呼ばれるガラでしょうか?」


 エイドが次々と口に出した候補を片っ端からシトラが否定していく。だがそれが案外的を得ているので、エイドも強く推せない。あー、もうっ! と頭を抱え、ビシッと否定してばかりのシトラを指差した。


「じゃあシトラちゃんも考えてよ〜! どんな呼び方がいいの? あ、『アザミ』以外ね!」


 シトラは“ア”に開いた口をごまかすように閉じ、珍しく真剣に「うーん」と熟考した。確かに名前呼びは変だと思うし、他の呼び方をするのが怪しまれないとは分かっていたからだ。そして熟考し、シトラは「あっ!」と一つの答えにたどり着いた。


「……“お兄様”、とか?」


「……うん、シトラちゃんとアザミさんでそれはいろいろダメだね」


 何かを察したエイドは、ニコリとシトラのアイデアを即却下する形で封殺した。これで結局、お兄ちゃん以外の変わり種の呼び方は出尽くした感がある。エイドは疲れた様子でドサッとベッドに倒れ込み、むーっ、とシトラを見上げた。


「――もう普通にお兄ちゃんでいいじゃんっ! 一回だけ呼んでみようよ」


「いや、でも……」


 真剣に考えたり、エイドもわりとホンキで考えたのに、それなのにこの期に及んでまだぐだぐだと言っているシトラ。それを見てエイドはハァー、とため息をついた。話すのは苦手だが、“きっかけさえあれば”ガツガツ行ける幼馴染的コミュニケーション力を遺憾なく発揮し、エイドはシトラを「んっ!」と力強く指差した。

                  

「―――明日お兄ちゃんって呼ばなかったらシトラちゃんの裸見せてもらうから」


「……なっ!? 何でそうなるんですか!?!?」


 エイドから飛び出した突然の変態発言に「そんな見た目で中身は痴女なんですか!?」とシトラは全力でツッコむ。いや、ツッコミどころはそこではない気がする。

 なお、施設で育ってきたシトラは恥じらいだとか照れと言った感情が欠如しているがため“見る”ことには一切の抵抗がないのだが、一方で自分を“見られる”ことは死んでも嫌だ!、というかなりたちの悪いタイプだった。裸を見せるのは弱さをさらけ出すことでもあるのだから。

 ということで、完全に酔っているかのような勢いのエイドを前にしてもはやシトラにノーと言う選択肢はなかった。


「うーー……。考えておきます、、」


 こうして、寮生活初日からシトラの人生で一番恥ずかしい夜となった。


(女の子って......怖いですっ!!)


* * * * *


「ふわぁ〜あ……おはよう、シトラ。慣れないところだったが、よく眠れたか?」


 昨晩は一体何があったのか、目の下に真っ黒の隈を作ったアザミが寮の前で待っていた。

 だが、その顔も言葉も今のシトラには全く届いていなかった。バクバクとうるさい心臓の音がアザミという存在をかき消し、必死で抵抗しようとするシトラの背中を無理矢理に押していた。

 

(あーもうっ! 分かりましたよっ!!)


 そのせいで、完全に「成るように成れっ!」精神になったシトラは、真っ赤な顔を隠すように俯きながらアザミの元へと近づいていく。……そして、


「お、おはようございます、、、“お兄、ちゃん”っ......!」


 その言葉にアザミは持っていた鞄をボテッと落とした。先を見通す力に長けている戦略家のアザミでも今のシトラの言葉は完全に想定外だった。フゥー、と深呼吸し、その聡明な頭の中で様々な可能性を演算し始める。


「ちょ、おまっ、大丈夫か!? 顔が赤い……まさか、熱があるんじゃないか? もしくは……さ、さては偽物だなお前!」


 計算結果はめちゃくちゃだった。冷静な思考、というものが完全に吹き飛ばされたせいでアザミは珍しくテンパっていた。あんぐりと口を開け、若干引きながら恐ろしいものを見ているかのようにシトラを見つめていた。


(え、なんだ? ……シトラのやつ、今“お兄ちゃん”って言ったよな? これは……一体どんな心境の変化なんだ!?)

 

 300年前は当然として、アザミは転生して兄妹となってからもシトラに“兄”だなんて呼ばれたことは一度もなかった。それが今、唐突に兄扱いされたのだ。別に誕生日でも記念日でも、特別な日でもないのに。そんな想定の斜め上から急に襲いかかってきた言葉にテンパらないわけがない。

 

 だが一方で、勇気を出し、恥を捨て、本当に血の涙を流すかのような思い出頑張ったのに、それなのに自分を変な子扱いするアザミの反応にシトラは顔を真っ赤にしていた。褒める言葉だとか、まぁ少しくらいは期待していたわけだ。アザミの反応というやつを。それなのに、熱があるのかとか偽物だとか、まるでシトラがおかしくなったかのように扱ってくるアザミに、その内心を示すようにギューッとキツく拳を握りしめた。


「ッッ、、、もういいですっ! 二度と言わないもん!! ―――ということで、行きますよ、ア・ザ・ミッッ!!」


 シトラはまだ混乱しているアザミをグイグイと引っ張って、先程の何もかもを誤魔化すかのように早歩きで学校へと向かう。そんな中、“この件には二度と触れない”―――そう互いに心の中で誓った双子であった。

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