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魔王の兄と勇者の妹【本編】 ~プロローグ~ 双星の誕生
1話 0歳のまおうとゆうしゃ

「やるではないか。勇者シトラスよ」

 

 魔王シスルは聖剣フィルヒナートを携えた金髪碧眼の少女、勇者シトラスと向かい合っていた。

 

 時は第13次魔界戦争の終局。人界を守る騎士団と人界の支配を目指す魔王軍の戦争もついに終わりの時を迎えつつある。騎士団のエースで“氷剣”の二つ名を持つ勇者シトラスと、“恒久の魔眼”を持ち魔界の絶対的な王である魔王シスルの一騎打ちによってこの戦争は終わる。戦場でバチバチと睨み合う両者。


「魔王シスル。ここまでです―――」


 その言葉とともに先に術式を展開したのはシトラスだった。シトラスのもとに青くまばゆい光が集まり、剣を覆う。


「いきます! 氷花一閃ヒョウカイッセン!」


 クッと剣を引き、シトラスがシスルとの距離を一気に詰める。


「来るがいい! 魔界の守護(ヘルウォール)!」


 シスルはその剣を薙ぎ払うかのように右手を突き出す。途端、その右手から黒い煙が吹き出しシトラスの剣を包み込んだ。


 2つの大魔術がぶつかり、すざまじい爆音と光とともに勝負は決した―――。


* * * * *


「……元気な男の子よ、、」


「……ああ、よく頑張ったね、メアリー! 名前は……そうだな、アザミだ。アザミ・ミラヴァード!」


 その嬉しそうな声で魔王シスルは目を覚ます。だが、目を開けた途端、眩しい光に思わずその瞳をキュッと絞ることになった。先程まで消炎で視界が悪く、暗い中で戦争を行っていたはずなのに、今はシスルの前にはキラキラとした目で自分を見つめる二人の人間がいる。視界も明瞭、外からは鳥のさえずりが聞こえるほどだ。


 しかし人間と評するには二人はあまりにも巨大な姿に写った。


(まさか周りが巨大化した!? ……いや違う、俺が小さくなったのか―――!?)


 突然の出来事に混乱する頭。だが、状況確認のために周りを見渡そうにも、今のシスルでは首すらまともに動かせない。喋ろうとしても口から出てくるのは「あー」「うー」の二音ぐらいだ。


(どういうことだ? 俺はあのとき勇者シトラスと戦って……負けたのか? つまり俺は死んでしまったというころか――?)


 必死に記憶を思い返すシスルの頭に幼少期に聞いた話が蘇る。『死んだものは天国か地獄に行く。でも稀に転生して新しい人生を歩めるものもいるのです』、と言う話。信じてはいなかったがシスルは目の前の状況にそれを思い出すしか無かった。天国に行けるような人生を送ってきたわけでもないし、地獄にしてはそこはのどかすぎたから。だが、その“のどか”もすぐに壊されることになる。


「アザミくん。パパでちゅよ〜」


 まだ状況を飲み込めていないシスルの小さな体を突然髭面の男がひょいと持ち上げ、スリスリと頬ずりをしてきたのだ。シスルは吐き気に近いものを覚える。なんせ、自分と大きく歳の変わらない男がその髭をジョリジョリと擦りつけてくるのだから。気がおかしくなった、としか思えない。


「うーうー!《放せ! 俺を誰だと思ってやがる!》」


 だがやはり、その口からはっきりとした言葉は出てこない。シスルの必死の抵抗も虚しく、男はシスルを抱いて鏡の前に移動し、自分とシスルの姿を見て満足そうにニマニマと笑っていた。


「いやぁ〜......感慨深いね。僕もちゃんとお父さんになったんだな〜」


「もう、ユーゴったらぁ〜!」


(なっ……!?)


 嬉しそうに笑い合う二人をよそに、シスルは鏡に映る自分の姿に愕然とする。もはや初めての子供に有頂天になってる男のことも、自分が抱き上げられているのだということも何もかも忘れていた。


 そこに映っていたのは赤ん坊になった自分だった。赤いメッシュの入った黒い髪や魔眼はどうやらそのままに、そして本当に転生してしまったみたいだ。


(嘘、だろ……? 最強の魔王である俺が、人界に転生したというのか!?)


 未だ愕然として鏡を見つめるシスル。しかしその時、突如視界がぐるんと大きく回り、ベッドに戻される。


「うーあー!《痛いじゃないか! もっと丁重に扱え!》」


 当然言葉になるはずもない。ベッドに横になり不満そうに「うーうー」と言っている息子をユーゴは愛おしそうに見つめる。だがその時、ユーゴの視線がシスルと何かを交互に見比べているかのようにキョロキョロとしていることに気づいた。


「ほら、妹のシトラちゃんだよ! アザミお兄ちゃん!」


 その言葉にシスルは自分の横にもうひとり寝ている赤ん坊がいることに気づいた。

 誰だ? と気になり、寝返りを打とうと試みてみるも、やっぱり首を動かすことすらうまく出来ず苦戦しているシスル。だがそんな愛息子に気がついたユーゴがシスルをころりと転がしてもうひとりの赤ん坊の方へ向ける。そしてシスルはその答えを知った。転生したことよりも、赤ん坊だったことよりもこの日一番の衝撃。そして、人生でこれ以上の衝撃はないだろうという衝撃。ガーン、という音を人生で初めて聞いた気がする。


 そこに寝ていた少女の金色の髪、青い瞳......そしてなにより『シトラ』というどっかで聞いたことのある名前。


(ま、まさか……勇者シトラス!?)


 シスルは横で寝ている妹にちらりと視線をやる。まさかな、人違いだろう、そんなはずが......なんて。この期に及んでアハハ、と楽観的なその予測を裏切るように、


「じーーーーーーー」


(めっちゃ見られてるっ! これ絶対勇者シトラスだろ……! アハハ、まさかあいつも死んで転生したのか......それも俺の妹として、だと!?)


 この世界では兄であるはずのアザミをまるでゴミでも見るかのような蔑む目で見つめるシトラ。それを見てダラダラと汗を流すアザミ。

 だがそんな二人の心中など知るはずもないユーゴとメアリーはお互いに手を握り、しみじみと優しい目で双子を見つめる。


「アザミくん、シトラちゃん。僕たちのところに生まれてきてくれてありがとうっ……!」


 窓から差し込む光はまるでその誕生を祝福しているかのようだった。 



 魔王シスルと勇者シトラスの戦いが相打ちに終わってから300年。

 こうして最強の魔王シスルと最強の勇者シトラスは、アザミ・ミラヴァードとシトラ・ミラヴァードの双子の兄妹として人界に転生してしまった。


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