「スネイプ教授とクィレル教授が密会……ですか?」
「そうなんだよ!!!クィディッチのあと、見ちゃったんだ」
翌日、相変わらず宿題をためているパンジーとそれに付き合う形で読書に勤しむと寮に残ったダフネと別れ図書館へ向かうと待ち構えていたらしい、ハリーとロン、ハーマイオニーにつかまった。
それというのも、昨日のクィディッチのあとハリーは怪しいフードの人物を追いかけ禁じられた森の手前までつけていったらしい。
ちょうど夕食の頃だったとかで、辺りにハリー以外はいなかった。
で、そのフードの人物はスネイプ教授で森の手前で落ち合った相手はクィレル教授だったということだ。
「そこでスネイプが、クィレルにハグリッドのフラッフィー(三頭犬の名前だろうか?)の出し抜き方が分かったか聞いていたんだ。それからクィレルの『怪しげなまやかし』がどうとかって話してた」
「それで僕たち考えたんだ」
「スネイプと、クィレルはグルなんじゃないか……って」
そろそろお馴染みになってきた図書館近くの空き教室を陣取り、彼らの話を聞く。
いよいよきな臭いというか、ハリー達の心配が現実味を帯びてきたらしい。
「そう……まず先に1つ、いいかしら?」
「え、うん」
『賢者の石』を護る仕掛けについて勢い良く考察を話している三人(「城の地下に大迷宮があるんだよ!それを越えた先に宝箱が隠してあるんだぜ!」)を止め、ハリーをつかまえる。
「ねぇハリー?私あなたに命を狙われているのなら、行動を慎めと、いわなかったかしら?」
「あーえっと、相手が同じ作戦で来るとは限らないから、一人で行動するな、普段の生活こそ気を付けろ?だったっけ?」
覚えていてくださったようでなにより。
「もし、それが、ハリーに見られているとわかっていて、森へと誘い出して殺すための相手の作戦だったらどうするつもりだったんですか?大人の、それもホグワーツ教授に、決闘で勝てるおつもりがあったのかしら?」
「あ……。確かに、それは考えてなかったよ」
「ロン?貴方ならハリーを殺すのに、人が行き交う廊下や大広間や授業中の教室を選ぶかしら?」
「ひぇ?!ぼ、ぼく??いや、うん。僕なら人気のない誰にもばれないところでやるかな、うん、たぶん」
情けない悲鳴と共に肩を跳ねさせたロンが、一瞬こちらを見てすぐに顔をそらして答えた。
「ねぇハーマイオニー?禁じられた森ってその条件にぴったりだと思わない?」
「え、えぇ。そうね、確かにそうだわ」
盲点だったと、口に出さずとも伝えてくる表情のハーマイオニー。
にっこりと、笑顔のままハリーへと視線を戻せばばつが悪いを形にした顔で明後日の方向を向いている。
「ハリー?」
「………………はい」
3拍ほど無言で見つめれば、恐る恐るといった様子でこちらへ視線を戻してくる。
「あなたが無事で良かったわ。……くれぐれも、忘れないで、あなたの、安全が、1番よ」
「うん、ごめん。分かった、気を付けるよ」
反省しているようだから、小言はここまででいいでしょう。
ロンとハーマイオニーにも視線を向けると、同じように反省しているようだった。
「それで、スネイプ教授とクィレル教授がグルだって話でしたわね?……確かに、どちらかが味方だと想定するよりもどちらも敵だと考えた方がいい事は間違いないわね」
「う、うん。はじめはクィレルが脅されているんだと思ったんだけど」
「サルースが言ってたことを思い出したのよ……貴女はクィレルを疑ってる、って」
「それでピンと来たね。僕らはどっちも間違ってなかったんだよ!両方敵さ!!!」
ふむ。
両方が敵……盗人だと仮定して、トロールの件、箒の件、それぞれ考えてみると辻褄が合わなくはない。
陽動する者と、その影で目的を果たす者の二者に別れるわけだ。
箒の件に関しては、さすがに衆人環視の元で事を起こすことに躊躇った片方が妨害呪文を唱えた、とか?
多少こじつけのような気もするのだけれど。
まぁ、何事も最悪を想定した方がいい。
とはいえ、この話をどう締め括るのかが問題だ。
ハリー達の話題はまたも石を護る仕掛けについて、教師二人がかりでいつまで持ちこたえるのかという議論になっている。
いくら三頭犬といえど、大人の魔法使い二人相手では部が悪いのではないか、と。
「そうね、フラッフィー?だったかしら。その三頭犬は魔法界でも珍しい種だわ。だからその手懐け方もたくさんの人が知っているわけではないわね……えぇ、一般的ではないし試そうとする人はいないもの」
クリスマス休暇中に改めて調べたが、やはり三頭犬という言葉で有名なのは地獄の門番という逸話だった。
歴史家の考察では、いつぞやの時代のマグルがだれぞの地下宝物庫に迷い混んだのではないかとあった。
そこの持ち主がゴーストになってまで生前の宝を守っており、それを見てしまったのだろう、と。
そしてやはり、私の記憶通り三頭犬は犬としての側面が強いこと、伝承に近いが音楽を愛すると書かれていた。
……とはいえ音楽云々に関しては文献も古く曖昧だった。
それが事実か不明瞭な状態で、獰猛な三つの首を前に、音楽を聴かせたら眠るのか試すなんて愚か者はいないだろう。
だって、もしも効かなかった場合瞬く間にエサにされてしまう。
だが……ここ暫くの間図書館の魔法生物にまつわる書物を調べていたが、三頭犬の記述があるものは一冊もなかった。
上級生に借りた、『幻の動物とその生息地』という魔法生物学の教科書でも取り上げられていない。
マダム・ビンスに資料の取り寄せを頼もうかとも思ったけれど……さすがにピンポイントすぎて先生方に目をつけられそうだからやめた。
「図書館にその犬の事が書かれた本はなかったわ」
「あ、サルースも見つけられなかった?私もなのよね……ダンブルドアが隠したとか?」
「それは考えられるわね」
学内にスパイがいるのならなおさら。
万が一にもハリー達のような探究心の強いものや、禁止されるとやりたくなるどこかの双子のような悪戯好きが三頭犬と出会って、その倒し方を見つけてしまうかもしれないなんてことは、生徒の安全な生活を脅かす。
この城の1番の存在理由は、子供達の教育、だ。
金庫でも、牢屋でもない。