「へぇー次のグリフィンドールの試合、スネイプ教授が審判するんだ!」
「あぁ、偶然聞いてしまってね。グリフィンドールめざまぁみろ」
冬の寒さも和らいで、雪ではなく雨が降ることが多くなった今日この頃。
スリザリン寮のいつものソファで寛ぐ私達のもとに、外の冷たい空気を纏ったままのドラコが混ざった。
朗報だ、とドラコが語るにはつぎのグリフィンドール対ハッフルパフのクィディッチ戦で我らがスリザリンの寮監、スネイプ教授が審判を勤めるとのこと。
……マダム・フーチがよく了解したものだ。
箒の授業のときと、クィディッチの試合への熱の入れ方を見たらなかなか、その大役を変わってくれそうではないのに。
次の試合でグリフィンドールが勝つと、寮対抗ポイントが抜かされるとかで最近のスリザリン上級生達はピリピリしている。
7年連続続いた寮対抗杯(その年の間1番優秀だった寮へと贈られる優勝杯)の栄誉を自分達の代で終わらせられないという、プレッシャーもあるのだろう。
個人的にはあまり興味はないが、私が大手を振って校則を犯さない理由はここにある。
先輩方の頑張りを無駄にしてはいけない。
……前回のピーブスの騒動では、(クレヨンは私のものだが)マクゴナガル教授に呼び止められた際、1本も所持していなかったこと、犯行時刻にきちんと授業をうけていたことから咎められることはなく、減点は免れている。
全部ピーブスに渡しておいて大正解だった。
勿論、授業中に獲得した点数も同学年のスリザリン生の中では、胸を張って1番だといえる。
「サルースも今回は試合を観に行くでしょう?」
「……そうね、観に行こうかしら。ダフネも行くのでしょう?」
「えぇ、雨じゃなければね」
ハリーのデビュー戦以降、久々の観戦だ。
その他の試合では、応援グッズを売り捌くのに忙しくて試合を観るどころではなかったのだ。
普段は試合が始まるまでは、フレッドとジョージも売り子を引き受けてくれているのだが今回は当の本人たちがプレイヤーだ。
今回は前日までの販売の旨を貼り出しておこう。
「サルース~?また商売のこと考えてるでしょ」
「成り上がり貴族って訳でもないのにほんとお金好きねぇ」
「いいじゃないですか、お金がないと私の可愛い魔道具達は作れませんし……何より『サルースの杯』の宣伝に1番手っ取り早いんですもの」
あと、お金が好きな訳じゃないですから!
「はいはい、まぁ確かにサルースの商品は他所と比べても安いものね」
「品質もいいし、何より可愛いのよね」
「クリスマス休暇明けに聞いたんだが、サルースのイタズラグッズはマグルに効かないって噂、ほんとなのか?」
ふと、思い出したといった様子のドラコの言葉にまた注目が集まるのを感じた。
「どなたが試されたのか気になるところですが……物によりますが、マグルには認識されない、もしくはマグル避けがかけてあるものが殆どですわね」
ダフネたちに贈ったリボンのような、他者に影響を及ばさないものにはかけていない。
一方、ハリーに贈ったスノードームも他者に影響は及ぼさないがマグルからの認識阻害はかけてある。
基準は簡単、マグルに魔法の存在がばれる可能性があるか、ないか。
特に未成年の生徒が手に出来る程度の価格帯のものには、全てかけてある。
「なんだそうなのか。夏休み中魔法が使えなくても楽しめそうだと思ったのにな」
「魔法族どうしでのイタズラにご利用くださいませ」
近くに座られていた先輩方の一団から声がかかったので、にっこり笑って返しておく。
「まぁ、マグルが騒ぐと場合によっては『闇祓い局』が動くからなぁ」
「『魔法警察』ならともかくそっちが動くと余計な問題があるからな」
「闇祓いもイカれた連中が多いからなぁ」
私とて『魔法法執行部』にお世話になるのはごめんだ。
「……闇祓いと魔法警察って何が違うんだっけ」
「ちょ、パンジー。あんたそのくらい常識よ?闇祓いが動くことなんて滅多にないけど、あっちが対テロとか警護とかそんなんでしょ?魔法警察は通報したらすぐに飛んでくるやつね」
闇祓いは特殊部隊で、魔法警察が通常の事件を捜査する部門。
私達の実家を警戒しているのは前者ってところが問題なのだけど……まぁ政界にも食い込む巨大犯罪組織のような認識をされているのだから仕方がないことだろう。
私達が生まれる前の話だから、その警戒もいまや名残のようなものだけれど。
ちなみに、『魔法法執行部』は、簡単に言うと裁判所。
『魔法不適正使用取締局』が、未成年の魔法使用でとんでくる部署だ。
私の場合は、この『不正使用局』と『マグル製品不正使用局』の2つに気を付けて製品を作っている状態だ。
認可を下ろしてもらったり、うちの商品で起きた問題を解決するために動いてもらったりするから日頃からお世話になっている。
「とにかく、認可が下りるように製品を作るのも大変なのですわ」
「「へぇー」」
先輩方とパンジーは、ご理解いただけたか微妙なお返事ですね。
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「最近スネイプに後をつけられてるみたいなんだ」
「スネイプ教授が、ハリーの?」
明くる日の午後、たまたまお互いに1人でいた私とハリーは、クィディッチ練習場までの道程を歩いていた。
相談があるというハリーに付き合う形だ。
「どこにいても出くわすんだよね。魔法薬の授業は地獄だし、僕達が探ってることに気付いたんじゃないかな……」
「ふむ……魔法薬の授業に関しては御愁傷様としか言えませんが、後をつけられているとなると…1人での行動は慎んだ方が良いでしょうね。ハーマイオニーやロンは大丈夫かしら?」
「二人はそういうことはないって、サルースは?」
私も思い当たる節はない、はずだ。
そもそも授業のお手伝いをする上で、材料の準備や道具の管理などで授業前や授業後にご一緒する機会は多い。
なにより調合のお手伝いをさせていただいている以上、圧倒的に他の皆さんよりスネイプ教授とは一緒にいる時間が長いのだから。
「問題ありませんわ。ハリー、前回の試合の二の舞にならないように……安全対策はしっかりと行うべきだわ、だけど相手も同じ手で来るとは思えませんの。むしろ普段の生活でこそ注意するのよ?」
「確かに……そうだよね。分かった、気を付けるよ。練習みていくかい?」
そこまで話したところで、ハリーの目的地へとついてしまった。
さすがに他寮の私が、練習を見学するわけにはいかない。
ハリーは良くても他の先輩方は嫌がるだろう。
「いえ、ありがとうございます。試合を楽しみにしておりますわ」
「うん、じゃあまた」
命を狙われていると思っている相手からストーカーされているのは……心的負担が大きいでしょうね。
まだ悪夢からは解放されていないのか、顔色の優れないハリーが気の毒だった。