サルースの杯   作:雪見だいふく☃️

41 / 54
本日2話目となります。


41

 

 

グリフィンドールのクィディッチ練習がどれだけキツいかという愚痴を一通り溢したハリーは、そもそもの用件を忘れているらしい。

 

 

 

 

 

「ところで、ハリーが私に聞きたかった『みぞの鏡』の事はもういいのかしら?」

 

 

 

「あ、そうだった。クリスマス休暇中に鏡を見つけて以来、夜も昼も鏡の部屋に通って鏡を見ていたんだ。ダンブルドアに移動させるからって止められてからは行ってないけどね…それから、鏡の事を忘れようと思ってるんだけど、毎日緑の光と悲鳴が聞こえる夢を見るんだ。これって鏡の呪いとかかなって」

 

 

 

ふむ、古い魔法道具のほとんどは作られた当初の目的とは違うものになっていることが多々ある。

 

それは呪文が薄れて不完全になってしまったり、あとから誰かが手を加えていたりと様々な理由がある。

 

 

が、『みぞの鏡』といえばやっぱり。

 

 

「道具に魅入られたことで呪いのような働きをする物もあるけれど、『みぞの鏡』の場合、原因は道具ではなく人間の方にあるわ。麻薬の中毒になるのと同じで、自分の幸せが夢と現実で混ざってしまうのね。それで鏡にとりつかれたようになってしまうの。……ただハリーのそれは少し理由が違うわ。勿論毎日通っていたのは魅了されかけていたのが原因だけれど」

 

 

 

ハリーの場合はそうではない。

 

なぜなら、その夢は鏡と出会う前からあったものだから。

 

ホグワーツへと向かう汽車の中でも、彼は同じ夢の内容を口にしていた。

 

 

 

「ハリーの夢はね、『自分の中にある両親の記憶』だと思うの……その、ハリー?鏡には両親の姿を見たのではないかしら?」

 

「うん。父さんと母さん、それから知らない親戚のような人達とかね」

 

 

心から望むものは、家族、もしくは無償の愛か。

 

 

とにかく多くの普通の子供には望むまでもなく当たり前にあるもので、ハリーにとっては特別な心の底からの望み。

 

ロンはピンと来ていないようだけど、ハーマイオニーには伝わったらしい。

 

 

「それは間違いなく悪夢だろうけれど……貴方に残された記憶なの。貴方の心が落ち着いたらまたしばらく見ることはなくなるでしょうけれど、きっと消えることはないわ。あのね、ハリー……私はその記憶も、貴方のお母様の愛の証明でもあると思うの……呪いではないからどうしてあげることも出来ないけれど、悪夢を遠ざける枕だったらすぐに作れるわ。だから今度の週末には届けるから、少し時間をくださる?」

 

 

「……うん。ありがと」

 

 

 

 

 

悪夢を遠ざけるおまじないは、古今東西いろんな国や文化の中にある。

 

それは妖精のイタズラだったり、魔法動物のせいであったり、はたまた呪いだったり、思春期の情緒が見せていたりと様々だけれど。

 

とにかく、悪夢をどうにかしたいという願いは共通なのだ。

 

安眠を得られないのは健康を害するし、行き着く先は死だ。

 

 

私はそこまでの睡眠への悩みを持ったことがないからわからないけれど……

 

マグルの中では、悪夢がとりつくことを悪魔のせいにすることもあるくらいだから、よっぽどなのだろう。

 

 

 

ハリーに渡すのは『悪夢を遠ざける』の中でも『夢を見ないで眠ることができる』タイプのものにしよう。

 

 

心の底から望む家族の存在と、両親との最後の記憶が結び付いている以上……その夢がハリーの奥底では『悪夢』ではない可能性が高いからだ。

 

 

 

さて、ハリーの悩みはこれで解決するだろう。

 

よかったよかったと、ロンと言い合う様子はもう大丈夫そうだ。

男の子は単純で羨ましいときがたまにある。

 

 

ハーマイオニーは少し、複雑な表情のままだがまぁこちらもすぐに切り替えるだろう。

 

 

 

 

 

「では次は私の番ですわね。ハリー!『みぞの鏡』について聞かせてくださいな!」

 

 

 

 

「げ」

 

 

 

 

 

すべて、聞き終えるまでにがしませんわ!

 

 

 

 

*******

 

 

 

 

 

ハリー達と別れ、大広間でパンジー達と合流してからふと思い出した。

 

 

私、休暇前にハリーと喧嘩をしていたのだったわ。

 

 

クリスマスにはカードとプレゼントが届いたし、さっきも普通に話して別れてしまったから忘れていた。

 

 

 

ごめんなさいを、言いそびれてしまったらしい。

 

 

 

 

「ねぇサルースー……お母様からあなたのお店の商品についてすっごい聞かれるんだけど何か新しい情報はない?」

 

「あー…うちもだ。新商品がどうのとか、香水がどうだかで。よくわからない」

 

 

 

 

ぼんやりお皿の上のビーンズ達をつついていたら、パンジーとその向こうのザビニさんから声がかかった。

 

はて、と首をかしげる。

 

 

クリスマス休暇から売れ行きがいいと思ったら…ナルシッサさんの言う通りになったのね。

 

スリザリン寮生のお母様方が顧客になってくださっているようだ。

 

 

 

「ありがとうございます。香水といえば魅了の効果がある香りを使っているんですの。魔法薬とは違うものですから、合法ですが効果はお墨付き……お仕事で成功したい、異性の目を引きたい、痩せたい、いろいろですわ。確かにこれが一番売れ行きがいいですわね」

 

 

 

効果を細分化させて商品化しているので、全種類お買い上げくださる方が多いのだ。

 

マグルで言うところのアロマテラピーなのだが、魔法界ではあまり知られていない。

 

 

心を落ち着ける、集中力をあげる、そんな効能のある色々な植物をはじめとした品物をベースにして作られている。

 

魅了の効果は、これらの持っている力を少し引き上げるように調合を加えて香りを整えるだけで、おまじない、から魔法に変わるのだ。

 

 

ついでに、この香りが必要なときに必要な人にだけ届くような仕掛けの魔法道具として一緒に売っているアロマペンダントも好評だ。

 

嫌いな人には不快な匂いに感じさせる機能もあったりする。

 

 

 

合法的に、これが一番大事なところ。

 

 

 

開店早々に非合法品を扱うわけにはいかないし、そういうものはボージン叔父様のところで買ってくださいね。

 

 

 

「へぇ。それはうちの母が好きそうな品だね」

 

 

「ねぇねぇ新商品は?」

 

 

 

パンジーの催促に次の春商品を思い浮かべる。

 

どうやら、周りの皆さんも興味津々なようで目と耳が集中しているのを感じる。

 

 

 

 

「そうですね、春の新商品はイースターのお庭を彩る庭飾りや、草花をあしらった特別なアクセサリーをお出しする予定ですの。それからバレンタインの品もですわね」

 

「バレンタイン!確かにそろそろ考えないとね。お母様に手紙で送っておくわ」

 

 

 

女性のお客様が多いこともあって、メインの品物はこういった女性ウケするものが多い。

 

とはいえ私の魔法道具たちも勿論たくさん置いてあるのだが……こちらはボチボチといったところか。

 

1点物も多いため、お店に来て見ていただく以外に宣伝をしていないこともあるけど。

 

 

 

とにかく、クリスマス明けの私の日常が賑やかなのは間違いない。

 

 

 

 




おかえりなさいの感想ありがとうございます。
元気をもらったのでさくさく更新していきます。
これからもよろしくお願いします!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。