イギリスの冬は寒い。
それはもう寒い。
だというのに……
どうしてこのお二人はこんなにも元気なのでしょうか。
「これが今開発中の『忍び足ソックス』で」
「こっちが考案中の『ズル休み』グッズだ」
本日は定期開催(強制)されるウィーズリーツインズとの、商品開発会議……いや、二人からの売り込みの時間をいつもと同じ空き教室で行われている。
いつもどおり『人形の家』の中で並べられる製品や、設計図、材料のリスト等を見るのは私の勉強にもなるし別に構わないのだ、が。
「どうして室内に雪を降らせているのですか…?」
「「その方が楽しいから」」
「男の子って……意味がわかりませんわ」
備え付けの暖炉の前で毛布に埋もれる私と、いつもと同じ姿で作業スペースだけ雪避けの呪文をかけて過ごしている双子。
避けられた雪が、部屋のすみに積もり始めている。
もう、視界がさむい。
「はぁ……この姿で失礼なのは承知ですが、商談を進めますわね。どちらも問題なく製品化したときには、ホグズミード村の私のお店に場所を設けますわ。そこで市場調査といたしましょう」
「あれ?あそこにゾンコ以外の店なんてあったか?」
「いや、覚えがないな」
「この冬からオープンしましたの。クリスマスプレゼントの需要に併せて『サルースの杯』1号店を村の外れに建てたのですわ」
「「まじかよ」」
嘘をつくわけありません。
もともと、一定の顧客と元手が出来たら独立するつもりだったのだ。
ボージン叔父様のお店に私の商品は卸せないし、ゾンコのお店に卸す量も決まっている。
イタズラグッズ以外ならダービッシュ・アンド・バングズ魔法道具店の方でも扱って貰えるけれど、それでも品数は限られるし、制約も多い。
先日ハロウィーンでばらまいたような、お小遣いでも買える商品を扱うために、店舗を構えることにしたのだ。
ダイアゴン横丁ではなく、ホグズミードに出店をしたのは、あの村のほうが生徒達が訪れる頻度が高いためだ。
……あとは横丁では人が多すぎて納品スピードが追い付かないということもある。
「小さなお店ですが、村の外れですからお庭が少し広いのですわ。ですから購入した商品をお試しできるようなスペースになっておりますの。次回の解放日には是非お越しくださいませ」
学校に持ち込むと違反になるものも、そのうち出てくるでしょう。
それなら外で使える場所を設ければ、後ろめたさもなく購入していただけるのでは?と考えたのだ。
……中にはフレッドとジョージのように、城内で思いっきりイタズラグッズを使っている人達もいるけれど。
「絶対いく!!」
「あぁ間違いなくだ!!」
二人揃って強く頷きながら御来店の約束をしてくださった。
ありがたいことだ。
「お二人の商品を置くスペースについては、向こうのスタッフに申し伝えておきます。ついでにグリフィンドール他、皆様への宣伝もお願い致しますわ。……こちらが、契約書になります。場所貸し代は此方に、売上の取り分は此処に、記していますからこちらの契約書を確認して問題なければサインをお願い致しますわ」
よいしょ、と契約用の特殊な呪文のかけられた紙をポーチから取り出し手渡す。
ついでにサイン用の特殊インク羽ペンも出し、2本並べる。
二人揃って契約書を覗き込む姿は本当にそっくりだ。
正直なところ、私には二人のお名前が正しく呼べる自信がないのでそれぞれ名前を書いてもらうことにする。
「おいおい、この支払い金額は……」
「いくら何でも相場より安くないか?」
「これじゃあフェアじゃない」
「完全に俺達ばっかり得になっちまうぞ!」
と、同じ仕草で顔をあげ契約書を指差した二人の視線がこちらへむく。
まぁ、確かに安いだろう。
私のお店というだけでも、それぞれの価格は十倍にしたっておかしくない。
友達の兄だろうが、学校の先輩だろうが、もらうものはもらう。
通常であれば、こういった時の場所貸し代金や契約金は前払いだし、期間的にでも専属契約を結んだりもする。
が、そこら辺はこの二人の宣伝効果とホグワーツ内での知名度で払ってもらったことにした。
年間の場所代については、私の店という事は置いておいて、ホグズミード村の繁忙期の短さを思えば妥当だろう。
売上に対するこちらの取り分に関しては、確かに通常の世の中の相場と比べてもだいぶん少ない。
開発協力費もとってないし、支給制の材料代としても全然利益がでないどころかマイナスだ。
「確かに物凄くお安く設定しておりますわ。宣伝費としたって安すぎるくらいです。けれど、これは私の貴殿方に対する投資ですもの。構いませんわ。私、楽しい魔法道具が大好きですの。自分が作ることは勿論、他人の作品だって同じように愛しておりますわ。だからこれは才能と未来への投資、そのうち出世払いでいただきますわ」
魔法道具の技術者は少ない。
それも実用品ではなく娯楽品となると本当に少ないのだ。
その中でも、発案から発明までできる技術者はほんの一握りだ。
こんな素材が転がっていたら拾うに決まっている。
現状、彼らの製品で稼ぐにはまだ額が知れている。
いつぞや、二人とのここでの会話のなかで起業して自分達の店を持ちたいのだと言っていた。
そのときに、全面的に私がスポンサーになる。と返事をしている。
これはその一貫だ。
「私は貴殿方のスポンサーになりますと、言いましたでしょう?」
「そこまで言うなら、ありがたくこれでやらしてもらうか相棒」
「はぁーサルースへの借りがどんどん貯まっていくなぁ相棒」
「「まぁ期待以上に応えてみせるさ!!」」
しっかりと、返してもらう気でいるので二人には頑張ってもらわなくては。
さぁ、パフォーマーたるお二人の共同研究者としても仕事をしますか。
最近のウィーズリーの双子との定例会の様子でした。